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もしも手塚が猫だったら…。

不二バージョンの続編を考えていたら、手塚ネタが浮かんだので先にこちらをUP。

if(手塚バージョン)

「周助、またあの子…」
姉さんはそう言って足を止めた。
数歩行きすぎた僕は、つられるようにしてその視線を追う。
「ほら、あの猫」
「ああ、あの猫ね」
困ったような、名残惜しいような。そんな目をして中々立ち去れない姉さんの気持ちが痛いほど分かって、僕は目線を落とした。
だって、本当は姉さんが口にする前から、その姿を視界にとらえていたから。
それでも…。

我が家の玄関を出ると、そこは向かいの家の勝手口だ。
正面玄関は角を曲がった先にあって、腰の曲がった老夫婦はそちらから出入りするのが常だった。昨年、息子さんがバリアフリー対策を施してくれたという、リフォーム済みの正面玄関。
そのため、誰かがそのお宅の勝手口から出入りする姿を、僕はもうしばらく見ていなかった。
そんな、寂しげな勝手口脇の植木の影に、最近その猫は現れるようになったのだ。
真っ白な毛皮の背中から、ゆっくりと濃い墨汁を流したような、鮮やかな白と黒の対比が美しい猫だ。鼻先と足先、それとおそらく腹の毛は真っ白。行儀良く座る前足までからみつく長い尻尾の裏側と先にかけても、白が覗いて見える。
そして、その目はとても涼しげだ。
決して「可哀想に」と手を差し伸べたくなるような寂しげな眼ではない。ただ、凛として動じない冷静さを窺わせる、理知的な瞳なのだ。
だからこそ僕は、そして姉さんも、今までその猫の存在を知りつつも、抱き上げたりはしなかった。
その綺麗な毛並みから、飼い猫だろうと思ったのも一つ。
何より、例え野良猫だとしても、それを憐れむのは人間の傲慢というものだろう。人に飼われる猫が幸せだなどと思うのは、人間の都合の良い解釈だ。
もしかしたら、この猫にとっては「自由」に勝る幸せなどないのではないか?なんて。そう考えさせられる程、その猫は凛々しく見えた。
…のだけれど。

「こう何日も居るとなると、やっぱり野良、だよね…」
答えを求めた訳では無いけれど、僕の呟きに姉さんは「そうね」と相槌をうった。
「この天気だし、ここで死なれても何だしね」
姉さんはそう続けると、天を見上げる。
秋を感じる間もなく、あっという間に冬がやってきた今年。というよりも、夏が異様に長かったというのか。
だから、アスファルトを黒く染め抜いていく大きな雨粒が、酷く寒々しくて。確実に、僕たちの爪先から身体の熱を奪っていく。
低い雲は空という空を埋め尽くし、鼠色の幕を張り巡らせたように世界を狭く感じさせる。
雨の滴が瞼に落ちて、僕は反射的に瞬きをした。
「ほら周助、その猫抱っこする!雨が酷くなりそうだわ」
「え?僕?」
「あたりまえでしょう?レディにそんなことさせるつもり?」
そう言っておどける姉さんは、なるほど上から下までオフホワイトを基調としたコーディネートで纏めている。いくら綺麗な猫とはいっても、足の裏は植え込みの土で濡れ汚れている事だろう。
「まったく、人使い荒いんだから」
僕は、口では文句を言いながらも、いそいそとその猫の傍へ屈み寄った。
「怖くないから、おいで」
そう言って両手を差し出せば、猫は一瞬機械的に僕の手を眺め、そして、今度は僕の目を真っ直ぐに捉えた。まるで「良いのか?」と確認されている気分だ。
僕が勝手にそう感じただけだけど、つい「いいんだよ」と言葉に出して返事をする。
何だかこの猫には通じるような気がして。
すると、その猫は遠慮がちに歩み寄り、反動を付ける事もなく、するりと僕の膝に乗った。
「良い子だね」
決して赤ちゃんをあやす様な、そんなタイプの言葉ではなかった。本当に、頭が良い猫だなって思ったから。
立ち上がり胸で抱き直すと、僕は初めてその小さな身体が震えている事に気付いた。
「良かった、手遅れにならなくて」
本当は、もうずっと何日も前から、この猫を連れ帰ってしまいたかったのだ。
凍えた耳先に頬を擦り寄せれば、前を歩く姉さんが背中で笑っているのに気がついた。
「なんだよ、もう。感じが悪いんだから…」
聞こえているのか聞こえてないのか分からないけど、姉さんは家に入るまでずっと笑いを堪えるように肩を震わせていた。

「そういう訳でね、今日から猫を飼う事になったんだよ。裕太も早く見に帰っておいで」
偶然かかってきた電話を取ると、それは寮生活をしている裕太からの電話で、僕はさっきの顛末を話して聞かせたのだ。
裕太は相変わらず迷惑そうに、でも絶対に途中で切る事はなく話を聞いてくれる。
そして、つまらなそうな声を作りつつも興味を隠しきれなかったのだろう。
「名前は?」と聞いてきた。
「ああ、名前ねェ」
考えていなかった。
だってつい1時間前に拾って、まずは温かいシャワーで身体を洗ってやり、ドライヤーで美しい毛並みを乾かし終えたばかりなのだ。
そんな事はすっかり忘れていた。
「まだなのかよ?じゃあさ俺が決めてもいい?あのな…」
裕太は断られるなんて思ってもいないのか、電話の先で「うーん」と唸りだす。
そういう所が末っ子だよなァ…って思うんだけど、あえて口にはしない。
ただでも煩がられているのに、そんなことを口にしたら、今度こそ電話を切られてしまうから。お兄ちゃんはこれでも少しは気を使っているのだ。
「そうだな~」
「あんまり難しい名前はやめてよ?」
長ったらしい横文字なんて、この美しい猫には似合わない。
きっと、綺麗な響きの日本名が良い。
賢さを感じさせるような、少々堅めの名前など良いかもしれない。
電話口で暫く考え込んでいた裕太だが、数分経って漸く口を開く。
「決めた!」
明るいその声は、どんな素敵な名前だろうと期待させる響きだ。
「どんな名前だい?」
問いかける僕に、事の流れに興味を持った姉さんが歩み寄り、揃って受話器に耳を寄せる。
二人して息を潜めて、裕太の答えを待った。
「てづか!」
そう言いきる裕太に、僕と姉さんは顔を見合わせる。
「てづか」とは?
「おい!聞いてるのかよ!」
僕たちの反応に、裕太はイラっとしたような声を上げる。
「あ、ああ聞いてるけど…『てづか』って?」
何語?ひらがな?カタカナ?
色々な可能性を考えるけれども、やはり日本語、漢字の「手塚」しか浮かばない。
「そうだよ。漢字で『手塚』。いいだろ?」
いいだろ?とは、それでも良いか?という意味ではなく、おそらく「格好良いだろ?」の「いいだろ」なのだという事は想像に難くない。裕太の声は至極ご機嫌だ。
「裕太。普通それって名字じゃなくって?」
反論出来ずにいる僕を押遣り、姉さんは受話器を奪い取る。
僕と裕太の関係性を知っていれば、当然の判断だろう。なるほど僕は反論しかねていた。
「だってさ、良く考えたら性別も聞いてなかったから、どっちにでも使えるようにって思って」
僕らの弟は、気が利いているのか、いないのか。
「性別くらい聞けばいいじゃない。ちなみにオスよ」
姉さんが答えるが、裕太的にはこの話題は終了らしい。
「次の休みには帰るから、手塚によろしくね!裕太って兄さんがいるんですよ~って教えこんどいてくれよな」
言いたい事だけ言うと、電話は一方的に切れてしまったようだ。
「…これだから末っ子って」
物言わない受話器を睨みつけて、姉さんはぶつぶつと文句を言う。
かくして、我が家の美しい猫は「手塚」という妙ちくりんな名前に決定してしまった。
病院に通う際は「不二手塚くん」とでも呼ばれるのだろうか。
「困ったねェ」
振り向けば、ソファに乗せた「手塚」は丸くなったりせず、相変らず背筋を伸ばして座っている。まるで「気をつけ!」の号令を受けたみたいに。
その姿を見れば、こんな名前もまあ合っているのかもしれないと思えてきた。
「よろしくね、手塚」
僕の言葉に、手塚はゆっくり瞬きで返した。
 

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