狂おしく（千×神） 2010/11/26 (Fri)

黒千石×おバカ神尾のSSです。

狂おしく（千×神）

－Side神尾－

「ごめんなさい！試すみたいな事…」
千石さんは許してくれたのか、それとも俺の考えなんてお見通しだったのか、もしかしたら全く興味がないのか…。酷く落ち着いた表情で俺に歩み寄る。
「本当だよ。バカだねェ」
淡々とした声に、その本音は掴み捕れない。
俺は壁に追い詰められ、両手首を拘束された。
「っあ、」
当然首筋を隠していた手は剥がされて、俺は千石さんの目前に、千石さんがつけたのではないキスマークを晒す事になる。
「本当に、バカで…」
拘束する千石さんの手に力が籠る。
「…ごめっ」
手首を砕かれても良い。それくらい許されない事を俺は千石さんにしてしまったんだ。
「…本当に、ムカつくくらい可愛いよ」
「千石さ、」
激しく口付けられる。
何度も向きを変えて、今までにない深さ、荒々しさ。
「クソっ」
千石さんはそう吐き捨てて、今度は俺の首に吸いついた。
まだ消えない、汚れたキスマークを消し去るように。強く。
「あァ、千石さん」
場違いな程、甘い溜め息が洩れてしまった。
「…次やったら、只じゃおかないよ」
千石さんの地を這うような擦れ声に、俺は強く目を閉じる。
甘く、狂おしい威迫。
身体の奥がゾクリと悦ぶ。
そう。
俺はきっと、ずっと、それを欲してた。

－Side千石－

俺は、全て分かっていた。
神尾くんの幼く短絡的な仕掛けも、伊武君の涙ぐましい決意も。
そして。
判っているつもりだった、自分の心を。
それはいつの世も恋愛においての常套手段で、時には効果的なスパイスとなるだろう。
自分の愛する人を「試す」なんて、可愛いものじゃないか。
かつての恋愛で、それは、自分の自尊心を満足させるエピソードの一つとして、想い出に刻まれた事もあった。
俺はいつだって、彼女たちを許したさ。
むしろ予想通りの成り行きに、満足気に目を細めたことさえあったはず。
「ああ、君たちは、そんな事をして俺の気持ちを試さずにはいられないくらい、俺を愛しているんだね？」ってな具合でね。

神尾くん。
君は、親友の伊武君の気持ちを知っていて、こんな事を仕出かしたの？
彼は、どんな思いで君のその細い首筋に口付けたのだろう？
ああ、神尾くん。
君は、俺がこんな嵐のような感情に苛まれる事を知っていて、こんな事を仕出かしたの？

本当に、バカで浅はかで。とても可愛いよ。

分かる？
俺は一瞬、本気で君の喉笛を噛み千切りたい衝動に駆られたんだ。
そうすれば、神尾くんは永遠に俺のものかな？

俺は、うっとりと瞳を閉じる神尾くんの残酷なキスマークに、強く歯を立てた。
まるで小悪魔だね。
君の体は、深く躰を繋げた瞬間と同じように、甘く震えたんだ。

狂おしいほどに愛してる、なんて。
言葉にしてしまえばなんて簡単なんだろう。
「狂おしい」
その、美しいばかりでない、どす黒い感情を、お望み通り教えてあげる。

それはきっと、泣いて縋っても終わりのないスパイラル。
でも、扉を開けてしまったのは、神尾くん、君自身なんだ。

「さあ、舌を出して」
耳元で囁けば、神尾くんは素直にその舌を差し出す。
濃いピンクをした、艶やかなそれ。
俺は、そっと、犬歯を立てた。
「…っ」
一瞬息をのんだ神尾くんだけど、それでも俺の言いつけを守る。
従順な舌先が、微かに震えている。
「良い子だね…」

可愛いよ。大好きだよ。腹が立つほどに。
一緒に、狂わせてあげる。