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今さらですが、明けましておめでとうございます。
ノロノロ更新ですが、本年もどうぞ宜しくお願い致します。

さて年明け一発目は、2008の不二誕(古い…)にUPした「モネからのプレゼント」の続きで、
今回は手塚語りです。
不二誕まで待とうとも思ったのですが、忘れてしまいそうな可能性が大きいので今のうちにUP。

最近、塚不二・千神ばかりで、跡宍の神が降りてきません。
跡宍メインサイトとうたっているくせに、困ったものです。

印象・木洩れ日(塚×不二)
 

初めて入る部屋だった。
当たり前だ。俺が日本を出て、積極的に不二との連絡を取らなかった間にも、月日は着実に進んでいるのだ。
リビングに差し込む陽ざしは、マンションの中庭で高く手を伸ばす枝に遮られ、程良く不二の頬を撫でる。揺れる影絵が、その微笑みを不規則に揺らした。
「不二」
呼びかければ
「何?手塚」
ハイトーンの声に、俺は無意識のうちに伸ばした指先を、慌てて握った。
「どうかした?」
「いや。何でもない」
「そう?」
俺を見上げる表情は、あの頃よりも当然大人びていて、それが何故だか気持ちを落ち着かなくさせる。
学生時代よりも少しシャープになった頬のライン。
それでも成人男性にしては柔らかく艶っぽい雰囲気なのは、陶器の様な乳白色に、頬の淡い桜色のためだろうか。
「今、暖房付けたから、暖まるまで少し待ってね」
こんな事なら、ちゃんと掃除をしておくのだった、と。不二は苦笑いをしながらソファの足元に転がるクッションを拾い上げると、胸に抱きしめ、「ね」と、同意を求めるように見上げるのだ。
「綺麗な部屋ではないか」
適度に物が並び生活感のあるリビングは、とても落ち着いた気分にさせる。
アジアンテイストの強すぎないアンティーク家具。オフホワイトとブラウンで統一された空間に、鮮やかな黄緑色のサボテンがアクセントを加える。
「相変わらずなのだな」
窓辺のチェストには様々な大きさの鉢が並び、それぞれが小さな棘を張り巡らせている。
「サボテンは、一般的な物ならば育てるのが楽だからね。不規則な仕事してると、なかなか面倒見られないから」
「確かにな…」
海外を点点としていた俺ほどでは無くても、それなりに多くの土地に足を伸ばしているというのは、美術館からの道すがら聞いた話だった。
カメラを仕事に選んだというのも、実は今日初めて知った話なのだ。

短くないプロ時代の間に、そう、大きな大会で優勝した時など、あの頃の仲間が祝いの連絡をくれる事は何度かあった。
急に思い立ったかのように、時間も気にせず電話を寄こしたのは菊丸だ。そして乾は、彼らしく定期的にメールで近況を尋ねて寄こした。
今思えば、俺は自分の状況を聞かれるがままに答えるばかりで、皆がどのような生活を送っているのか尋ねることは無かったように思う。
菊丸はあの通りだ、自分の言いたい事を告げると慌ただしく電話を切ってしまう事が多い。乾も「返事は必要ない」と、忙しい俺を気にしてか、その心遣いが文章に表れていた。
そう、だから、俺は今まで不二がどのようにこの10年を過ごしてきたのかを全く知らないのだ。
あの頃のメンバーで食事に行ったり、呑みに行ったりもしているのだろうか?
年齢的に家庭を持つ者がいてもおかしくはないだろう。
不二だって、幾つかの恋愛をし、そして別れ、俺の知らない誰かに、沢山の表情を見せてきた事だろう。心を、また身体を、許した相手がいたって当然おかしくはない。ごく、当たり前の事だ。

「手塚、どうぞ座って?紅茶でもいいかな?僕あまりコーヒー飲まないから、インスタントしか置いてないんだよね」
不二はケトルを手に、対面式のキッチンから微笑んで寄こす。
「ああ、紅茶を頂く」
「そう?良かった。茶葉はそう悪くないからさ」
くるくると弾む声が、何だか不思議だった。
不二は、こんな風に良く話をする奴だったろうか?いつも一歩引いて、微笑んでいる印象が強かったから。
いやでも、乾の作る怪しげな飲み物を率先して飲んで、後輩に勧めてからかったり、越前にちょっかいを出してクスクス笑ったり。そう、決して大人しいというタイプではなかったかもしれない。
けれど、どれだけ考えた所で、ここ10年の不二の生活は見えやしない。見ようとも、知ろうともしなかったのは自分なのだから仕方がないのに…。
「不二」
「んー?」
不二は背を向け、冷蔵庫の中を覗きこんでいる。そして、小さくため息をついた。
「あーあ。せっかく外出たんだから、買い物してくれば良かった、これじゃ何も作れないよ」
「不二…」
俺はソファを立ち、キッチンへと回る。
「今は軽くお菓子でもつまんで、夕飯は何か食べに行くかい?英二あたりなら捕まるかもしれないし」
「不二」
俺は、少し躊躇ったが、その気持ちを振り切るようにして歩み寄った。
「え?」
思ったよりも近い声に、不二は顔を上げる。
「不二」
「…手塚?」
俺は、不二の肩を引き寄せると、素早く胸に抱きこんだ。
不二が手にしたクッキー缶が足元に落ち、転がって、キッチンマットで止まる。
「すまん」
そう言いながらも、俺の腕は不二の身体を拘束する。
背中を、腰を、抱き寄せても何だか足りない気がして、強くし過ぎている自覚はある。
けれど、やはり足りない。
「どうしたの?」
不二は少し戸惑うように身じろぎをするけれど、俺は離しはしない。
バカなものだ。
全て自分の所為なのに。
「…俺は、お前の事を何も知らない」
「え?」
「当たり前の話だ。今まで連絡を取ろうとしなかったのは俺だ。それなのに、お前の事を、俺が一番知らないのかと思うと」
悔しいではないか。焦るじゃないか。
今さらながらに、何て長い間離れてしまったのだろう。
「…バカだね、手塚」
不二は小さく笑って、そして、俺の頬をその両手で挟んだ。
「不安なのはよっぽど僕の方だよ。君は世界の手塚だよ?それはこれからだって変わらないんだ」
不二はそう言って、複雑な表情で微笑む。
小さな傷に知らず顔を顰めるような、そんな一瞬を含んだ笑顔。
「不二…」
「それに、今まで待っていた僕を想ってくれるなら、それぐらい耐えてよね?」
今度はおどけて片目を閉じる仕草に、俺は。
俺は、かき抱くように不二の身体を閉じ込め、さらさらと音がしそうな繊細な髪に、唇を寄せた。
「バカなんだから」
消え入るような呟きが、俺の胸元を温める。
何と言われても構わない。
「…今夜泊っていっても、良いだろう?」
我慢しきれずに、俺は言葉にしていた。
約束が欲しい。
一つ一つを確認して安心したいのだ。
まるで子供のように、ガツガツしていると思われるだろうか?
それぐらい、自分の声が熱く濡れているのが分かる。こんな上ずったような声が出せるのかと、恥ずかしいを通り越して感心してしまう位だ。
「もちろん、泊って行ってよ」
しかし、不二はまるで社交辞令の返事のように、あっさりした返事だ。
違う。そんな心積もりでは困るのだ。
俺はきっとお前が思うような、冷静な男ではないのだから。今、初めて、俺自身気づいてしまったのだから。
「お前を、抱きたいと、いう意味でだぞ」
抱きしめる腕が、胸が、火照っている。
こんな事は今までにあったろうか?
つまらない人間だと思われるかもしれない、けれどその通り。俺は、今までにこんな経験はしたことがなかった。
こんな抑えようのない感情は、どこから来るのだろう?
甘いシャンプーの香りを吸い込めば、身体の奥が弾けてしまいそうだ。
不二は、居心地悪そうに俯き、俺の胸に強く額を押しつける。
「…皆まで言うな、照れるだろ」
不二の声は、俺の胸にくぐもって消えた。
「そ、うか」
お互いの熱が一気に上がったのを感じる、二つの鼓動が激しく、交互に鳴り、そして次第に重なっていく。
「…食事は二人でしよう。どこにも出かけずに二人きりで、お前の誕生日を祝おう」
二人で、二人きりで。
4年に一度しか訪れない貴重な「誕生日」を、俺は他の誰にも譲るつもりはないから。
くどい位の俺の言葉に、不二は小さく笑った。
「そうだね。10年を埋めるには、それでも足りないくらいだ」
見上げる不二の頬に、優しいオレンジの木漏れ日が射す。
まるで、温かな光を切り取った、あの絵画のような優しさで、美しさで。
小さく開いた唇に、俺は吸い寄せられる。

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