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シリーズ展開の便宜上、短い話を入れさせて頂きました。
こんなに短いなら2話の終わりに付ければ良かったと、今更後悔☆

同日UPの4話には、今度こそ手塚が出ていますので…!

置き去りの季節3

乾に連れられて来たのは、都内の有名ホテルのロビーだった。
各鉄道が乗り入れる便の良い駅にほど近いここは、仕事で海外の知人を招く際によく利用すると父には聞いていたが、実際不二自身が足を踏み入れたのは初めてだ。
直接ホテル前まで乗り付けたが、最寄りの駅から歩いたところで1分もあれば事足りたことだろう。
「別に電車でも良かったのに…」
タクシーの支払いを拒まれた不二が戸惑いがちに言えば、乾は気にするなと言って、そっと不二の肩に手を置いた。
ここまでの道のりは想像した以上の緊張で、乾の掌の温かさに高ぶった鼓動がほんの少し落ち着いた気がする。
「俺はこのロビーで暫く待っている。そう、この文庫本を読み終えるまでは」
乾はそう言って、ジャケットの内ポケットからごく薄い文庫本を取りだす。
きっと彼の事だから1時間とかからず読み終えてしまうに違いない。
「読み終わればさっさと帰るから時間は気にせずゆっくりして来い。ただし、何かあったら必ず電話をする事。分かったか?」
「ああ、そうするよ」
時間を気にせずと言いながらも、心配そうな素振りが滲んで見える。そんな乾の心遣いが素直に嬉しかった。
「部屋は2503号室だ。一人で大丈夫だな?」
「もちろんだよ。乾」
不二はそう言って、深く頭を下げる。
「不二?」
「有難う、本当に。誰よりも心配してくれて」
「気にするな。勝手にした事だ、ただ」
「…ただ?」
言い淀む乾に、不二は顔を上げる。
するといつもより近い距離に、乾の視線を真っ直ぐ感じる事が出来る。
こうして、こんな近くに見つめ合うのなどいつ以来の事だろうか。その目は、共に学生生活を送った頃よりも、ほんの少し穏やかになった気がする。
「俺は、いや、俺たちはいつでもお前の事を大切に思っている。もちろん手塚の事も、仲間みんなの事をな。だから、これからは遠慮なんてしないでくれ。言いたい事は何でも言って、泣きたい時は泣けばいい。いつだって駆けつけるさ」
「…有難う」
微笑めば、乾も小さく口の端を上げた。
不二はゆっくり背を向け、エレベーターへと向かう。
扉が閉まるその瞬間まで、乾は不二の姿を見送っていた。

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