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!!CP注意!!
『置き去りの季節1~4(塚不二)』の乾不二バージョンです。
乾不二を楽しみたい方は(いるのか?)、置き去りの季節1~3を読んだ後、この話をお読みください。
塚不二以外ノーサンキューという方はスルーしてくださいね。


恐らく初めてのCP、乾不二です。
貧乏ったらしく設定使い回しちゃいました☆
好きだったんですけどね、なかなか書く機会がなくて。
今回、塚不二を書きながら、乾不二も楽しそう♪と閃いたら、あっという間に書き上がっちゃいました(笑)。
しばらく忙しくなりそうなので、一気にUPしちゃいます。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、忍不二バージョンも目論んでます。
いつになるか分かりませんが。


置き去りの季節(乾×不二バージョン)

不二を乗せたエレベーターが閉まってしまうと、乾は大きく息を吐いた。
胸に入れた文庫本が、こんな風に役に立つとは思ってもいなかった。
これで不二は何の気兼ねもなく、手塚と語り合えるだろうか?
乾は、ロビーフロアの奥に広がるカフェへと足を向ける。
ブレンドを注文すると、クッションの効いたソファに深く背を預け、見るでも無しに外の庭園に視線を向ける。
まだ陽が高い。咲き誇る花々が美しいと、不二ならば目を細めるだろうか。
しかし、乾の心境はとてもそんな事を楽しめる気分ではない。もちろん先程の本を読む気も更々無かった。
何時までだって不二からの連絡を待つ覚悟なのだ。というよりも、事の次第を確かめず帰宅するなど、到底出来そうもなかった。
自分自身が、不二を手塚の元へと送り届けた。
どのような結果が待っているかなんて、どれだけ想像力をかき集めたところで、パターンはたかが知れている。
そのひとつに、乾にとっては身を切るような選択肢が交ざっていたとしても、仲間としてこの機会を握りつぶす事は出来なかった。
手塚は何を思って、これだけいる仲間のうち自分に連絡を寄こしたのだろうかと思案する。
可能性から言えば、学生で、誰より不二の近くに生活の居を置いているから。そういう事だろう。
きっと比べ物にならない程面倒見の良い大石は、今や他県の人間だ。ましてや医学部の学生となればそう簡単に身動きとれないだろうことは想像に難くない。
河村はどうだ?心根の優しい彼のことだから、手塚のお願いとあれば一も二も無く、自分の生活を犠牲にしてでも叶えた事だろう。それだからこそお願い出来ない気持ちは分からなくもない。
だからって、よりによって自分に白羽の矢を立てなくても…。
「バカバカしい…」
考えたところで今の状況が変わるでもない。
乾はソファに投げ出した自分の掌が、じんわりと汗をかいているのを感じる。

もう何年も、不二の事を想っていた。
不二の隣には手塚が、いや、手塚の隣には不二がいるのが当たり前だったあの頃、乾はいつも一歩下がった場所で二人の背中を見続けていた。
どうしてだろう。
中学時代には当たり前で、何も感じなかったその位置が、いつからか苦しく感じ始めた。
不二が手塚を想う気持ちが、痛いほど感じられるその場所。
相変わらず手塚の感情は読めなかったけれど、そんな事はどうでも良くて、乾にとって重要だったのは不二が手塚を想っているという事実だけだった。
それでも、手塚を疎ましく思うなど一度も無かった。
自分だって、手塚を信じ仲間として愛し、夢を重ねた一人だ。
ただ時々、自分を見上げて微笑む不二を、抱きしめたいという衝動に駆られてしまった。
自分の隣が、不二にとっての一番であればいいのにと望んでしまった。
その気持ちは、結局月日が経った今も消えずに残る。それどころか、離れれば離れるほどに強くなった。
過去の思い出が美しく感じられただけなのかと言えばそうでもなく、数年ぶりに顔を合わせた今、結局のところ何も変わっていない事に気付く。
それなのに、自分の手で不二を手塚の元へ向かわせてしまった。

「知っていたのか知らなかったのか。酷な事をしてくれるな、手塚…」
何も気付いていない事なんて分かっている。
ドイツに発って以来、自分たちは顔を合わせる事も無かったし、それ以前に、そんな事に気付く余裕が手塚にあったとは思えない。
出発の準備に慌ただしく、誰よりも心躍っていたのは手塚のはずだ。
乾の静かな想いなど感じ取れる機微があれば、不二をあんなに悲しませる事も無かったろう。
さあ、不二と手塚が肩を並べて降りてきたら、自分は笑って迎えてあげられるだろうか。
手を取り微笑み合ったなら、自分は何が言えるだろう。
不二の淡い恋心は、チームメートならほとんどが気付いていたはずだ。
想いが報われて遠慮がちに綻ぶ笑顔を、自分は何て言って…。
「無理、だろうな」
きっと笑えない。
赤の他人からは気付かれない自信があるこの想いに、きっと不二は気付いてしまう。そしてとても傷つくだろう。
「帰るべきかな…」
自分の所為で不二を苦しめてしまうのは心外だった。
いままで散々苦しんできた姿を知っているからこそ、自分がその原因になるだなんて、自分の想いを諦めるより辛い事だ。
この程度の文庫本など、いつもなら30分もあれば読み終えてしまう。
そう、だから。ここから去ってしまったって自然なことで、不二は何も傷つく必要はない。
乾は、先程さりげなく出されたコーヒーに、手をつける事も無く腰を上げる。
いつの間にか湯気も消えたそれは、深く深く濃い色をして、まるで乾の心を表しているようだ。
口に含めば、いつも以上に苦く感じるのは目に見えていた。
会計を済ませ、ロビーを立ち去ってしまえば、もう自分の出番は無くなる。
微笑む不二も、涙ぐむ不二も、迎える役目はもう自分ではない。
それが寂しいのか、安堵するのか。もう自分でも分からなかった。
迷いを吹っ切るように、乾は、テーブルの隅にたてられた伝票に手を伸ばす。
しかし、そっとそれを遮られた。
「…え?」
「ああ、間に合ったね」
顔を上げれば、晴れやかな笑顔の不二が、腰を浮かしかけた乾の肩を押し戻す。
「何だか緊張して喉が乾いちゃった。僕も頼んでいい?」
「あ、あ…構わないが」
不二が軽く手を上げると、音も無くウェイターが歩み寄る。メニューも開かずダージリンティーを注文する不二の姿を、乾は馬鹿みたいに呆けてただ眺めるだけだ。
「乾、何て顔してるの?」
「なんて顔、と言われても…」
小さく含み笑う不二は、明らかに先程見送った時とは違う空気感を纏っていた。
その笑顔は中学時代を思い出す。
飄々としていて、どこか食えないその微笑み。
優しいくせにどこか棘のある物言いに、時々ドキッとさせられたものだ。
心の重荷を全て捨て去ったかのように、先程までの憂いは感じられなかった。
「…手塚とは?」
乾の問い掛けに、不二はうんと一つ頷いた。
「有難う。やっとあの頃の蟠りを解消できたよ。手塚もずっと気にしてくれてたみたいでね。まあ、なんでドイツに発つ事を僕にだけ言えなかったのか、今でも良く分かってないみたいだけど」
「それで、不二はすっきり出来たのか?」
結局何の解決にもなっていないように感じた乾は、それが表情に出てしまったのか、不二は可笑しそうに笑う。
「大石も言ってただろ?一番仲が良かったからこそ言えない事もあるのかもってね。ドイツ行きを喜ぶ半面、僕と離れ離れになるのが寂しいって気持が少しでもあったのかと思えば、もう只の想い出話だよ。あの時はお互い不器用だったねって、さ」
「そんなものか」
「そんなもの。散々悲しんだ割に、手塚の『すまなかった』の一言で、全部どうでも良くなっちゃった。僕の数年間をどうしてくれるって言うのも良かったけど…」
「…けど、言わなかったのか?」
乾の問い掛けに、不二は苦笑いを浮かべる。
「何だか女々しいじゃないか。まるで恋を諦められない男みたいで」
…違うのか?とは、流石に口に出せなかった。
あの頃感じた、不二の手塚に寄せる淡い恋心は、あくまで自分らの客観であって、不二自身には尋ねた事がなかったのだ。「不二、手塚が好きなのか?」などと、不二を想う自分がどうして言えよう。
そんな乾の逡巡を知ってか知らずか、不二はゆっくりと続けた。
「確かにね、あの頃の僕の想いは恋だったと思うんだ。皆の想いを背負って戦う手塚はやっぱり格好良かったよ。誰よりも強くて、誰よりも頼れて、誰よりも熱くテニスを愛していた。あの姿に惚れない奴なんていなかったんじゃないかな」
「じゃあ結局は、その想いは憧れだったとでも?」
乾には、それだけとは思えなかった。
不二と手塚の間には、確かに、躊躇いの距離感と熱っぽい眼差しが共存していた。
「それで、良いんじゃないかな」
不二は、運ばれてきた紅茶をストレートのまま口元に運ぶ。
男性のわりに艶っぽく見える唇は、自分の欲目なのだろうか。
「ねえ、乾。せっかく会ったんだ、少し歩かないかい?」
「俺は構わないが、手塚はどうするんだ?」
自分が手塚と久しぶりの再会をしたいという気持ちよりも、数年越しに会えた二人をこんな短時間で引き離していいものかと戸惑う。
「手塚は今日も予定がびっしりみたいだよ。よく僕と会う時間を作れたなって。感謝しなきゃ。そうそう、次来る時は皆で会いたいって。タカさんのお寿司も食べてみたいって言ってたよ」
無理に明るく振舞うのならば、有無を言わさず手塚の元へ引きずって行こうかとも思ったのだが、不二の言葉にそんな雰囲気は感じられなかった。
乾は、自分自身の欲の為ではなくそう解釈し、残ったコーヒーを一息に飲み下す。

漸く日が傾き始めた空の端は、本来なら茜色に染まるところだろう。
高層ビルに囲まれた駅前から見上げる空はとても狭くて、そんな移り変わりを綺麗だと眺めることさえ出来なかった。
不二は乾の前を歩き、迷うことなく歩道橋を昇っていく。
階段を避ける人々の群れは、少し遠回りしてでも横断歩道で信号を待つようだ。人気の少ない歩道橋の下には車が激しく往来する。
「ねえ、乾。乾って免許取ったの?」
階段を登りきったところで、不二が口を開いた。
「あ?ああ。大学字入ってすぐにな。不二は?」
「僕は去年ね。さっそくペーパーだけど」
「ま、都内に住んでいればそんなもんだろ」
「だね」
もう少しすれば、車のヘッドライトが煌めく帯を作って足元を飾るだろう。
眼鏡をはずせば、ぼやけた光は益々幻想的になり、そう、ほんの少しでも現実から自分たちを遠ざけてくれるかもしれない。
乾は、突如湧き上がる想いに、諦め半分で目を閉じる。
「僕たち、車の運転だって出来る年齢なんだね。桃と越前が自転車で二人乗りしていたのが懐かしいや」
「…そうだな」
相槌を打ちながらも、乾の気持ちはもうそこには無かった。
想い出から抜け出した自我は、目の前の、今確かに触れる事の出来る不二へと吸い寄せられる。
ほんの少しの勇気が欲しくて、いや、言い訳が欲しくて、乾は眼鏡を外す。
そう、口付けるのに眼鏡は邪魔だろう。
「…不二」
後ろから肩に触れれば、不二は「何?」と尋ねるような表情で振り向く。
そのまま抱き寄せれば、不二の身体は簡単に乾の胸に転がりこんだ。
眼鏡をポケットに滑り込ませ、空いた手を不二の髪に絡める。
長い事焦がれていた、滑かな髪を優しく梳く。
「乾…?」
見上げる不二は、突然の事に対処しかねているようだ。どちらにしても、乾に止まる気は無い。
「謝らないよ」
そう呟いて、そっと顔を傾ける。
引き寄せた不二の頬は、ほんの少し火照っているようで、何だかそれが嬉しかった。
一度は、軽く合わせるだけで。
少し離した唇が乾の名を呼ぶ前に、今度は深く重ねる。
力を無くした細い身体が縋るのを、巻き起こるマグマのような欲望を抑えて丁寧に抱きとめた。
柔らかな口付けを貪るうち、少しの隙間から呼吸する不二の唇から喘ぐような息が漏れて…。
今度こそ暴くように舌を差し入れた。
舌先が歯列に触れて、熱い粘膜をなぞり、背筋を強烈な快感が走り抜ける。
「…っん」
抱きこむ腕の強さに、とうとう不二が身を捩った。
名残惜しくもようやく唇を離せば、不二は驚いたような少し怒ったような眼で乾を射抜く。眼鏡が無くともそれが判るほどに、二人は近くに居る。
「謝らないよ、不二」
何か言いだす前に、乾はもう一度静かに告げた。
「乾っ」
鋭い声とは裏腹に、不二はその腕から抜け出そうとはしない。
「怒っているか?」
見上げる不二の前髪に軽く口付けてから、乾は漸く眼鏡を取り出す。
レンズ越しに改めて見る不二は、良く見れば、怒っているより拗ねていると言った雰囲気で、乾は更に強く抱き寄せる。
「逃げ出さないんだな」
そう言えば、不二は握った手を軽く乾の肩に押しつけて叩く振りをする。
「…誤魔化さないで、乾」
不二の声は乾のジャケットに吸いこまれて微かにしか届かなかったけれど、乾は喉の奥で小さく笑った。
「そうだな」
そして、低く響く告白に、不二は胸を甘く焦がす。

「ずっと不二が好きだった。もう、ただ見守るだけの役は降ろさせてもらうよ」

「乾…」
不二の本心は分からないけれど、乾にとって、その腕の中に不二が留まっているだけで何よりの幸せだ。
いつか、この場所が一番幸せだと言ってくれる日が来るだろうかと願いながら。

「俺にしないか?誰よりもお前を想っているよ」

いつの間にか街は夕闇に包まれて、ビルの灯と車のライトと、ほんの少しの月明かりが全てだ。
忙しない人々は、目的に向かって一心不乱で、頭上で抱き合う二人など見向きもしない。
何よりも、二人の身長差と自分の風貌では只のカップルに見えるだろうことは不二自身が一番理解していて、だからもう、諦めたように広い背中に腕を回した。
「ねえ、乾。もう遠い昔の恋心なんて、懐かしい想い出でしか無かったんだ」
「…不二?」
呼ぶ声は、抱き合う事で普通に聞くよりも大きく身体中に響き渡る。
甘く低く響く乾の声。
落ち着くその声音に寄り添って、胸の痛みをやり過ごしたあの頃には想像もつかなかった今の自分たち。
それでもあの日々は、やはり二人の始まりだった。

「ずっと見守ってくれて有難う。これからもずっと、甘えてしまうかも…」

まだ「好き」と言うには躊躇うけれど、もう近い将来、この腕はかけがえのない居場所になるだろう。
置き去りの季節を取り戻し、新しい未来に手を引いてくれた乾に、もう不二の心は大きく傾いていた。

「ゆっくりでもいい。いつか、俺の隣が一番幸せだと、そう聞かせて欲しい」

「…バカ」
誰よりクールな表情で、誰よりもストレートにその情熱を説く。
流石の不二も軽く往なせずに、照れくささと愛情でもって、その胸を軽く押しのけた。
歩きだす不二を、乾は慌てて追いかける。
「もう…」
「不二?」
クラクションにかき消された不二の言葉は、数か月後にはその耳元で囁かれる事だろう。

-もう、とっくに、君の隣が一番だ。-
 

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ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
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