二年ぶりのアナタは （跡×宍） 2007/01/14 (Sun)

社会人跡宍。
大人な跡部を目指しました。

二年ぶりのアナタは　（跡×宍）

「うわっ！あり得ねーよ！」
「…これはビックリだね」
「跡部カッコE－！」
岳人、滝、ジローが口々に驚きを洩らす。
「…同じ大学生とは思えんわ」
忍足は半分呆れたような声だ。
「宍戸？」
俺は声すら出ない。
確かに二年間離れていたけれど。
毎日電話してたのに。
景吾のヤツ何も言ってなかった。
「自分の彼氏があんまりカッコ良くて声も出ないのか？」
岳人の突っ込みにだって反応してやれない。
黒のトレンチを翻して颯爽と歩いてくるその姿は、まるでモデルのようで。
遠目にも分かるシャープさの増した表情は、男の色気を醸し出している。
「よう。出迎えご苦労」
冗談めかしの声だって、電話越しで聞くよりずっと低音が響いて。
そして何より。
「跡部！どれだけ背伸びてんだよ！」
指差し大声で喚く岳人を止めるヤツは誰もいない。
それが全員の心の代弁だったから。

久しぶりの日本。
空港まで迎えにきた奴らは、それぞれに驚いたような声を出して口をポカンと開けている。
空港のロビーで、大の男たちが揃いも揃って何と間抜けな姿なことか…。
特に亮。
いつもはキツク吊った眼差しが、まるで豆鉄砲をくらった鳩だ。
まだまだ幼いその表情に、俺はホッとするやら嬉しいやら。
「亮。こっちへ来い」
たかだか5メートル程の距離をわざと歩かせる。
俺がお前らの前まで行ったら、きっと揉みくちゃにされちまうから。
亮。
この二年間、声を聞くだけで我慢した俺たちの、やっとの再会なんだ。
少しは時間をもらおうじゃねーか。
「景吾…」
奴らの前でも苗字でなく名前を呼んでくれることに頬が緩む。
ほら、亮。
あいつらが驚いた顔をしている。
今まで人前では『跡部』で通してきたもんな。
二年の間、密かに『景吾』と呼ぶよう仕向けてきた事を、お前は気付いてたか？
「亮。ただいま」
「景吾」
目の前に立つ亮は、まだ呆然と俺を見上げている。
亮は俺がイギリスへ発つ時には既に身長が止まっていたから、その差は俺の身長が伸びた分また拡がった。
「…そんなに伸びたなんて聞いてねーぞ」
「自分では案外気付かないもんだぜ？」
「…うそつき」
悔しそうな表情と、照れくさそうな表情。
どちらとも取れるその表情は、別れた時から変わらず愛らしいままだ。
「言わなかったことを怒ってるのか？」
「そんなんじゃねーよ」
「じゃあ、照れてるだけか？」
すぐに染まる頬もあの日のまま。
やっぱり二年前、旅立つ空港のロビーで初めて唇を奪ったあの日のまま。
「そうか。照れてるだけか」
「…おう」
小さな声で肯定したのは意外だ。
天邪鬼は少しは直ったみたいだな。
「なあ、亮。恋人との久しぶりの逢瀬で言う事は身長のことだけか？肝心の言葉を聞いてないぜ？」
「そ、そうだな」
そんなに照れることでも無いだろうに。
別にここで愛の告白をしろと言ってるわけじゃねーんだ。
「お、おかえり。景吾」
「…亮」
亮の仕草に、らしくもなく頬が熱くなるのを感じる。
『おかえり』と、そっと俺のトレンチの袖口を掴むから。
そんな、控えめに可愛い事をするから。
公衆の面前では我慢しようと思っていたのに。
やっぱり我慢できねぇ。
「亮」
俺は名前を呼ぶと、その体を引き寄せる。
別れたあの日よりも小さく感じるその体。
短かった髪も、お前に惚れたあの頃のように背中まで伸びている。
一つに束ねるのはもう止めたのか？
艶やかに背中に落ちる流れは、お前を随分と色っぽく魅せる。
幼いままの表情と、色気を滲ませる背中。
想像以上の美人になりやがって。
すっぽり腕に収まる体に、俺の心臓は思いもせず高鳴る。
キスするには12センチメートル差が理想なんだって？
お前らがよく部室でそんな話をしてたよな。
なあ、亮。
ここで証明してやろうか。
俺らのキスの相性の良さを。
きっと丁度いい身長差だと思うぜ？
「亮、待たせて悪かったな。…愛してるぜ」
こんなところで言うとは思わなかったか？
驚きに大きくなった瞳を指で優しく閉じさせる。
「こーゆー時は目を瞑るもんだろーが」
そう言って、ゆっくり唇を重ねる。

「…あ、ん」
角度を変えて合わせ直すと、その柔らかな唇が細かく震える。
そして、小さく漏れる声と共に。
涙の雫を唇に感じた。

長く、待たせちまったな。
これからはずっと一緒だ。

重なる唇からこの気持ちは伝わっただろうか。