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お久しぶりの千×神です。

何だか突然、私の中に「大人&黒千石」ブームが到来。
近々もう1本ほどUPする予定です。


あなたの名前を呼ぶ時(千×神)

もう、あれから何年が経ったのだろう。
千石さんと初めて戦ったシングルス。結局あれが最初で最後になってしまった。
遊びでは当然何度も試合したけれども、あれ以来、公式試合で対戦することはなかった。
その後、高校卒業を期に千石さんはテニスをやめて、俺も大学のサークル活動を最後にテニスから離れた生活を送っている。
でも、相変わらず隣には千石さんが居る。
「あの時が14歳?あれ13?ってことは…」
「もう10年以上、だね」
指折り数える俺を遮るように、千石さんが呟いた。
「そ、か。そんなかァ」
もうひと昔も前の話になるんだ。
「どうしたの?急にそんなこと」
千石さんは、昔ほどではないけれど、それでも明るい前髪をかき上げて、寝そべったまま俺の表情を覗きこむ。
あの頃のオレンジ色はかなり奇抜だったけれど、地毛も相当明るい色をしていると知ったのは高校に入ってからだった。
あの試合以来、驚くほど自然に千石さんは俺のテリトリーに入ってきた。
明るくて懐っこくて、気づけばそこに居る事に戸惑う間もなく、俺は千石さんという存在に慣らされていった。
「巧いね」って、深司が言ってたのを思い出す。そういう事だったのだ。
友情も恋愛も、常識も非常識も。
俺の頭が真剣に考え出す前に、絡み捕られて振り回されて。気がつけば、千石さんが居ない生活なんて考えられなくなってた。
千石さんの言葉や仕草に一喜一憂するのが、何だかおかしくないか?と気付いたのも、深司に彼女が出来てから。
あれ?俺のこの気持ちって、まるで千石さんに恋しているみたいじゃないか?ってね。

「ほんと、笑っちゃう」
「何が?」
俺の思い出し笑いに、千石さんは穏やかに目を細める。
「何でもないよ」
俺が誤魔化せば、千石さんは「ケチだなァ~」って微笑む。
目尻に出来た笑い皺が、千石さんの明るさの象徴みたいだ。
確実に年を重ねて、それが本当に素敵に千石さんの表情に表れている。
子供の頃は、ただ能天気に明るいだけのイメージだった千石さんだけど、本当は物凄く努力家で、それをスマートに隠し通してしまう。
周りの雰囲気を繊細に読み気遣いつつも、ここぞという時の押しの強さは、我の強い俺から見ても驚くほどだ。
本当に年々男らしく、魅力的になっていく千石さん。
ああ、まるで惚気てるみたいだ。
まあ、惚気てるんだけどね。

勿論、好きだからずっとこうして二人で居た訳だけど、きっと人よりそういった感情の成長が遅かった俺は、今さら千石さんの格好良さにドキドキしている始末だ。
床に頬杖ついて寝そべり俺を見上げる千石さん。
「どうしたの?」と窺うような表情は、優しく頭を撫でられているように俺をくすぐったくさせる。
大きくて少し骨ばった手。
俺よりも全然指が長くて、甲には太い血管が浮いて見えて。その体温は熱くて、男らしい。
「何だか今日はおかしいね、神尾くん?」
伸ばされたその手が、優しく俺の頬を滑る。
昔よりも低く、少し語尾が擦れるその問い掛けが、俺の背筋に甘く響いた。
ねえ、ずるいよその声。
昔は元気いっぱいだった声が、今では少しハスキーに俺を呼ぶ。
「あー、もうっ」
我慢できなくて。
俺は千石さんの隣にゴロンと横になった。
「だから、どうしたの?」
千石さんは苦笑して、俺を抱き寄せる。
「ばかばかばか!」
本当にもう、取り返しがつかないんだ。
「バカだなんて、随分な言いようだね?」
そう言って、喉の奥で愉しそうに含み笑う千石さんの顎先に、俺はカプリと噛みついた。
今日は休みだから、髭は剃っていない。少しざらつく無精髭さえ。
「もう、ほんとに好きだよぉ~」
俺はその胸に額を押しつけて、少しでも隙間を無くそうと抱きついた。
幼いだけの熱に侵されたような愛情ではなく、込み上げる愛おしさに、最近の俺はどう対応して良いのか自分の感情をもてあまし気味だ。
「俺も、ずーっと好きだよ。もちろんこれからも」
湧いて溢れて、零れそうな感情に戸惑う俺。
そんな俺ごと、全てを掬い取るように抱きとめてくれる千石さん。
「千石さん…」
「すっと、愛してるんだよ」
優しいけど力強い腕に、俺は仰ぐように息をした。
切ない位に千石さんが大好きで、何だか大きく息を吸ったら涙が込み上げそうで。
「俺、追いついた?」
近すぎる眼差しが、俺と同じ感情を湛えているのを確信した。
「俺、千石さんの心に、やっと追い付いたんだね?」
「神尾くん」
千石さんは何だか俺よりも驚いて、少し泣き出しそうな、そんな不思議な顔で笑ってる。
「好き、好き、すき…」
だって他に何て言えばいい?
もう、そればっかりが湧き出して。
千石さんは、きっと随分前からそんな心を隠してたんだよね?
俺がゆっくりと、千石さんの気持ちに追い付くのを待って。
「ようこそ、神尾くん。もう戻れないんだ」
「うん。もう一生離れられないんだね」
ずっと付き合ってきたはずなのに、今までは何だったのだろうって位に、お互いの愛情が重なって溶け合って、一つになるのを感じる。
何の疑問も、不安もない。
「名前で、呼んでもいいかな?アキラって」
そう呟きながら、千石さんの唇が俺の唇を撫でた。
「うん、清純…」
俺の返事を飲み込むように、熱い唇が、舌が、俺の唇を探って奪って。
「ん、ァ…」
ぐるぐると、熱い何かが俺の身体中を駆け巡る。
奪って、侵して、攫って、強く。
千石さんの一部になってしまいたい。もう、それだけ。

とうとう囚われた瞬間。
初めて、名前で呼び合った瞬間。

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