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ようやく最終話です。

結局完結するのに年単位かかっちゃって、申し訳ございませんでした。
最後は宍戸視点で。

いつか穏やかなsquare13

抱き寄せられて、俺の身体は自然と強張りを解いた。
その胸に身体を預けると、声にならない吐息が零れる。

-お前を抱いたあの夜から、俺はお前が好きだ-

初めて聞く跡部の告白を、俺はずっと前から知っていた気がする。
「宍戸…」
強引に抱き寄せた跡部は、それでもどこか遠慮がちに俺の表情を覗き込む。
「俺が、良いだろう?」
繰り返す声が、すごく優しい。
でも、俺は。
開きかけた口を噤んだ。
「宍戸?」
跡部は、もう一度強く抱きしめる。

もう1年。
まだ1年?
あの身を切られるような失恋から、1年以上の月日が流れた。
並んだ岳人と侑士の背中を見送るのが辛かったのは、いつまでだったろうか?
そりゃ、もちろん。最初のうちは、ちゃんと見送る事が出来なかった。視線だけ落として、仲の良さそうな二人を見ない振りした事もしょっちゅうだった。
けれど、いつからか、俺はあいつ等を自然と見送り、自然と会話をし、そして、その仲を冷やかすことだって出来るようになっていた。
だって、俺ばかりが立ち止まってなんていられないんだ。
岳人や侑士が、俺の視線を感じながらも寄り添い続ける事が、どれだけ大変な事かって考えたら、俺は目を逸らしてばかりいられないじゃないか。
全てを知った上で侑士の手を取った岳人が、俺の前で侑士と恋人同士として付き合うなんて、きっと相当の覚悟と勇気が必要だったんだ。
跡部は「お前はまず自分の心配をしろ」って苦笑するかもしれない。
でもやっぱり、俺は岳人と侑士が辛くないかと、気になって仕方がなかった。
極端かもしれないけど、俺は振られる立場だから良かったんだ。
侑士が選んだのは岳人であって俺じゃない。それは、どれだけ俺が泣こうが喚こうが、変わる事はない。俺が過去に戻れたとしても、変える事は出来ないんだ。
でも、岳人からしてみれば…。
侑士の手を取ったのは岳人の意思であって、例えば、俺たち仲間の関係が上手くいかなくなった時に「ああ、あの時侑士の手を取りさえしなければ」って。そうやって後悔する事が出来てしまうんだ。それってどれだけ苦しいだろう。
自分で選ぶっていう事はそれだけの覚悟が必要で、それを考えたら、岳人に辛い思いなんてさせたくなかった。
後悔の仕様がない俺は、岳人よりも全然辛くなかったはずだ。

でも、唯一後ろめたかったのが跡部との事だった。
あの夜、俺は自分の為だけに跡部に縋った。
跡部が俺らの仲間じゃなくて、そして、もっと嫌な奴なら良かったのに。
俺は、大切な仲間に、やってはいけない事をしてしまったんだ。
いつからか、その事の方が胸につかえて消えなくなっていた。
岳人と侑士を見守る事よりも、よほど俺の胸を苦しく…。
小さかった棘は段々大きく、もうごまかせない所まで成長していた。

それだから、俺は岳人たちの事を受け入れられるようになったのだろうか?
そうだとすれば猶の事、俺は跡部に…。

だって俺は、跡部の気持ちに気づいていた。
誰よりも優しく、温かく、切ない眼差しで、俺を見つめてくれていた事を。
失恋で傷ついている俺を気遣って、そんな気持ちをおくびにも出さない跡部に、俺はもうずっと甘えていたんだ。

この1年間、跡部はどんな気持ちで…。
こんな俺を、跡部は本当に…?

「宍戸、顔を上げろ」
「跡部…」
跡部は指先で俺の顎を取った。
素早く上向かせれば、瞬きする隙もなく跡部の唇が近づく。
「ァ、」
跡部、俺また甘えちゃうよ。
逃げる時間もくれなかったって、跡部のせいにしてまた甘えてしまう。

熱い吐息が交ざり合って、俺は深く唇を奪われた。
「っん…」
そして、その唇は離れないまま角度を変える。
跡部…。
俺は、おずおずと手を回し、跡部の背を抱き締める。

こんな俺でも、跡部は受け入れてくれるだろうか?
いつのまにか、俺の心を占領してしまった跡部。
こんなにズルイ俺を、お前は許すのか?

「宍戸」
唇を離すと、跡部は吐息で囁いた。
「跡部…」
そして、指先で俺の頬をなぞる。
「お前は誰よりも泣いただろう?一人きりで。俺はいつだって受け止めてやったのに」
「…だって、」
どうして都合良く泣きつける?
跡部にだけは出来ないって、しちゃいけないって…。
「大丈夫だ、俺は全部受け止める。頼むから、泣くなら俺の胸で泣いてくれ」
頼むから、なんて…。
どうして、そんなに優しい?
「…跡部っ」
堰を切ったように涙が溢れた。もう枯れ果てたかと思っていたのに…。
岳人と侑士の後姿も、跡部に縋ったあの夜も。
漸く全てが溶けるように、自然と自分の中に吸収された気がした。

「跡部」
「ああ」
囁けば、抱きしめる腕が強くなる。
俺を包む甘い跡部の香り。
あの夜は何も感じなかったのに、今は俺の胸を締め付ける。
「ずっと見守ってくれて、ありがと」
「ああ…」
跡部が俺の髪に頬ずりする。
なあ、あの夜もこんな風にしてくれたのか?

俺、いい加減、自分の足で前に進まなきゃ。
胸を張り続ける岳人と侑士の為にも、そして俺を支えてくれた跡部の為にも。
何より、俺自身の為に。
俺は、少し躊躇してから口を開く。

「本当は、もう侑士の事は吹っ切れてたんだ」
「…宍戸?」
本当か、と。跡部の声が語ってる。
ズルイ奴だなァ、俺って。
でも、言わせてくれ。

「…跡部が、好き」

「宍戸?」
跡部のヤツ、思ってもいなかったって声で。

「好きなんだ」

もう一度呟けば。
「…宍戸。そうか、宍戸」
今度は擦れた声で、噛みしめるように。

「ごめん。…いつの間にか、跡部を好きになってたんだ」
抱きしめた跡部の体温が、上がった気がした。
「何で謝る。もう、あんな風に泣かせやしない。誰より大切にするから」
跡部の声は、どこまでも甘い。
そして、跡部は続ける。
「明日、アイツ等の所に行こう。俺たちは愛し合っているから、前へ進んでいるから、と」
ああ、そうだな、跡部。
「誰より跡部が好きだって、俺、胸張って報告するよ」

明日は、晴れるだろうか?
もうすぐ桜の咲く季節だ。
きっと穏やかな、俺たちの明日。

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