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お久しぶりの更新です。
ノロノロで申し訳ございません…!


いつか穏やかなsquare 11

すぐに気づいた。
侑士は、俺たちが一緒に暮らすって話を跡部にしたんだ。
何事もない風を装う侑士と跡部だけど、声を潜めたまま深刻そうな顔で何かを囁き合う。

「あ、宍戸!それ俺のグラス!」
「あ?だって飲まねえから要らないのかと思った」
「いるよ、とっといたんだよ!バカ~」
「あー、悪い悪い」
宍戸とジローは、大声で喋って笑い合っている。
どこまで気付いてるんだろう?

俺は侑士からの同居の誘いに、首を縦に振れないでいる。
だって、同居なんて言ったって、仲間はそれを「同棲」と受け止めるだろう。付き合ってるんだからそれは正しいし、隠すつもりもないけれど。
俺は、前に座る宍戸の表情を窺う。
絡みついてくるジローをあやしながら、眼を細める。
眼尻に刻まれる笑い皺が、宍戸の優しさを表しているようだ。
宍戸は外見はキツク見えるし、口も悪いから、初対面の印象は頗る悪い。
でも、こんなに懐のデカイ奴っていないんじゃないかなって思う。
全てにおいて寛容だ。そして義理に篤いから、仲間の事となったらまずは受け入れる事から入るんだ。
もちろん間違っている事ははっきりと指摘してくれるけど、こいつは、例えば俺達誰かが犯罪者になったとしても、最後まで味方でいてくれるんじゃないかな。いつまでだって仲間の帰りを待って、そして帰った仲間を抱きしめるだろう。
絶対的な存在。
そう、母に近いって言ったら怒られるかな?
でも、最後の最期まで、こいつは仲間でいてくれる、そう確信できる奴だ。
そんな宍戸を、俺はどれだけ苦しめたんだろう?
侑士を好きだ。
でも、違った意味で宍戸も好きだ。
どちらを取るかなんて、そんな類の話じゃないのは分かってるのに。
同じ葛藤の中、侑士は俺の手を掴んでくれたのに、俺はまだ二の足を踏む。

「岳人、どうした?」
「…え?」
「さっきからぼーっとしてるけど、何かあった?」
宍戸とジローが心配そうな顔で俺を見つめる。
「あ、別に…」
「そう?」
ジローは身を乗り出して俺の額に手を伸ばす。
「熱とか…?」
前髪を掻き分けて触れたジローの掌は、俺よりよっぽど熱い。
「良く分かんねーや」
情けない顔をするジローに、宍戸は苦笑する。
「ジローは平熱が高いから比較になんねェよ。どれ?」
今度は宍戸の手が伸び、指先から優しく、包み込むように俺の額に触れる。
俺より大きな手のひらは、俺の瞼まで覆ってしまう。
自然と目を閉じて、俺は、少しひんやりとした宍戸の手に自分の手を重ねた。
「熱はなさそうだけど、やっぱ具合悪いか?」
身動きの取れなくなった宍戸は、不安そうに声を掛ける。
俺は、触れたその手のひらをそっと剥がし、自分の両手で包みこむ。目を開ければ、まっすぐ覗き込む宍戸の視線とぶつかった。
「宍戸…」
「ああ、どうした?」
そうだ。俺は怯えている。
宍戸が、いつ俺達の前から去ってしまうかもしれないと、疑心暗鬼に襲われる。
優しいお前は、どこまで俺達を受け入れてくれるだろう?
「宍戸」
「ああ」
「どこにも行くな…」
「は?何言ってるんだ?」
変な奴、と宍戸は吹き出した。
「ずっと、一緒だよな?俺たち」
「岳人?」
真顔の俺に、宍戸はその笑いを止める。そして、困ったように微笑んだ。
「何だよ、急に。俺はずっと居るだろ?どうしたんだよ」
なあ?と話を振れば、ジローは伏し目がちに微笑むだけだ。
「変なの、お前ら」
宍戸は笑い飛ばして、残り少ないボトルを手にとる。
「ほら!飲みが足りないからそんな変な事言うんだよ。飲め!」
「わ、わわっ!」
飲み口を差し出されたジローは、温くなったワインをラッパ飲みし、笑って吹き出した。
「汚ねっ」
「し、宍戸が、悪ィんだろっ!」
ゴホゴホと咽て、ジローが宍戸に飛びついた。
じゃれ合う二人は、そのままソファから転がり落ちる。
「おい、大丈夫かよ」
テーブルの下を覗きこめば、二人は互いの頬を抓って、酷く不細工な顔をしてた。
「ハハっ、変な顔!」
そうだよな、俺達はずっと一緒だ。
こうやって何年もバカやって、大人になっても、爺さんになっても。

帰り道は、珍しく互いに口数が少なかった。
宍戸とジローは跡部の家に泊まるようだ。
俺もそうしようかと思ったけど、自分は帰ると言った侑士が、当然のように俺の手を引いた。
「岳人」
もうすぐアパートが見えるという所で、侑士が小さく言う。
「…ん?」
「俺、跡部に同居の話したで?」
「…ああ」
やっぱり。
俺は、すっかり日の暮れた空を見上げた。
「気づいてたんか?」
「何となくな」
「そうか…」
侑士は握った手に力を込める。俺も、迷うことなく握り返した。
「何で、今言った?俺が同居に躊躇してるの知ってるだろ?」
「ああ、分かってる。だから言った」
「侑士…」
さらに力を込め、侑士は俺の手を握る。
「岳人。自分いつまで苦しむ?俺らはいつまで宍戸に遠慮するんや?」
「侑士っ!」
苦しむだなんて、そんな事を思ってるつもりはない。
遠慮なんて…。
「…してへんか?」
イエス?ノー?
絶対してないなんて言えるか?
じゃあ、俺は何で侑士の誘いにOKしない?
それってやっぱり遠慮してるのか?いや…。
「苦しんでなんて」
「…ああ、そうやな。でも遠慮はしとる」
「…」
そうだよな、断る理由なんて無かった。
親は放任で、反対なんてされないの分かってる。
さすがに恋人同士だとは知らなくても、これだけ仲良くしている侑士とだ、反対する理由もないだろう。
いや、違う。
「…遠慮じゃない」
「じゃあ、何や?」
「…怖い」
「俺との生活がか?」
「違くて」
「ほな、宍戸に嫌われるのが?」
「っ」
結局そういうことなんだ。
去年、泣くほど辛い思いして、侑士を選んだのに。
俺はまた、同じ思いに揺れる。
「随分バカにしたもんやな」
「…侑っ」
感情の読めない冷たい声。
俺は、恐怖に脚が止まった。
侑士を馬鹿にしたつもりはない、軽んじた訳でもない。
一緒に暮らしたくない訳じゃない。暮らしたいさ、暮らしたい!
好きなんだよ。
「アホか。泣きそうな顔すんな。俺やない、宍戸をだ」
「…え?」
侑士は、立ち止まった俺を呆れたように振り返り、強く手を引いた。
「っあ」
俺は、転がる様に侑士の胸に抱きとめられる。
「言ったんやろ?俺を選ぶって決めた時『宍戸は自分で立ち上がる』って。『宍戸を頼むなんて言わない』って」
「あ、…それ」
そうだ、あの時。侑士に想いを伝えに行く時に、跡部に言った言葉だった。
「ほんなら、最後まで信じろや。宍戸の事」
「侑士…」
「なんてな。ホンマは自分ら可愛さだけで、跡部に同居の話したんや」
侑士は苦笑いして話ながら、抱きしめた俺の髪を撫でる。
「自分が宍戸に遠慮して、あいつが離れてくの恐れて踏み出せないでいた事は分かっとるよ。でもな、それでも俺は岳人に笑ってて欲しくて、ただそれだけで、跡部にこの話したんや。酷いなぁ、俺は」
「侑士…」
「跡部も怒っとったよ。昼間の、覚えとるやろ?」
「ああ」
跡部が珍しく大きな声を出して侑士に掴みかかっていた。こいつらがそんな言い合いをするなんて今まで見た事もなかったから、宍戸もジローも驚いてた。
「跡部が、宍戸を好きなのはみんな気づいてる事や。それなら、上手くまとまってくれたら、なんて。俺は酷いことを平気で口にしたんや。跡部、凄い形相で怒っとったよ。宍戸が今までどんな思いでいたと思うって。そうだよなぁ、自分で言うのも何やけど、こうして仲間として付き合ってくのには相当辛い思いさせてたんやろな」
「…宍戸」
「でも、それは岳人も同じや」
「え?」
「お前もそうやって、苦しんどる。宍戸を思ってな」
「別に…」
俺のは、ただ、どちらも無くしたくないというエゴだ。
「でもなァ、散々跡部と話して、気づいたんや。俺ら宍戸の事ナメてないか?って」
「…」
「自分らが楽しそうにしてるの見てな、宍戸はそんな事で俺らの前から去るような奴やないよなって。俺らみんなして、宍戸の事甘く見過ぎとったんや。バカバカしくなるくらい、宍戸は心配そうな顔で自分の事見とったよ。本気で大切に思ってなきゃ、あんな顔は出来へんやろ?」
「そうかな?」
「そうや。だからな?同居はさて置き、俺らがこんなしみったれた顔しとったら、宍戸に申し訳が立たないんや」
「侑士」
「ほら、笑う!」
「わっ」
侑士は、急に俺の体を抱き上げる。
「ちょ、おい!」
お姫様みたいに抱きかかえられて、侑士はそのまま走り出す。
「やめろって!」
身体が激しく揺れて、落とされないようにその首に抱きついた。
侑士は息を切らして、それでも俺を下ろさず、アパートの階段も駆け上がった。
部屋の前まで来て、ようやく俺を下ろす。
「はあっ、はァ…、」
「バカ!腰おかしくするぞ!」
いくら小柄ったって、一応成人男子だ。それなりの重さはあるのに。
「は、ハハ…、流石に辛い、わ」
「当たり前だろ、ばか」
俺は自分のカバンから鍵を出すと、扉を開ける。
そうだよな、もうこんなにもこの部屋に帰ることが当たり前になってる。
先に侑士を入れると、俺は靴を揃えて部屋に入る。
去年は、この部屋に入ると侑士の家の匂いがして、何だか緊張したっけ。
気恥ずかしいって言うのかな。
今では、この匂いで、ああ家に帰ったんだなって自然に思う様になった。
コートを脱ぐ侑士の後姿が、もう俺の生活の一部なんだ。
「侑士」
「…岳人?」
俺は、その背中に後ろから抱きついた。
俺を抱えて走った侑の体は、いつも以上に暖かい。
「一緒に暮らそう?」
「岳人…」
「待たせて悪かったな?」
「岳人」
回した手に、侑士の手が重なった。

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