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☆ご連絡☆
大変申し訳ございませんが、諸事情により、更新がゆっくりになってしまいそうです。
必ず完結させますので、どうぞよろしくお付き合いください。
いつか穏やかなsquare 10
こんな穏やかな日々が戻って来るなんて、あの時は想像も出来なかった。
「跡部!これ、飲んでいい?」
「てめェ、どんだけ呑めば気が済むんだ」
親父秘蔵のワインボトルを握りしめ、笑顔で振り返る岳人。
「…ちょ、すげえ高そうだぜ?平気なのかよ」
一緒になって俺の顔色を窺う宍戸も、あんなに泣いた日々があっただなんて思い出さないほどだ。
「飲むのは構わないが、値段聞いたら美味くなくなるかもな」
「え?いくらすんの?」
ジローの質問に俺は笑顔で答える。
「あ?買った時は150万だったか?」
「ひゃくごじゅーまん!?」
ハモった3人は、慌ててボトルを元の棚に戻した。
「しかし、ワインセラーだけで俺の家より広いって、どういうこっちゃ…」
呆れ顔の忍足も、もう思い悩んだような表情を覗かせることはない。昔のままの、クールぶったいけ好かない男に戻った。
あれから、1年以上が過ぎた。
去年の春はまだ少しぎこちなかった3人も、今では普通に笑い合っている。
相変わらず冷めた物言いをする忍足に、宍戸が笑いながら蹴りを入れるなんてやり取りが、もう自然と見られるようになった。
忍足と岳人は、喧嘩を繰り返しながらも仲良くやっている。
皆で過ごす時はそう言った雰囲気をあまり見せないが、帰り際並んだ背中を見れば、確実に昔よりも距離が縮まっていた。
当然のように忍足のアパートに帰って行く二人を、宍戸はいつも笑顔で見送っている。
宍戸は、一体どれくらい苦しんでその笑顔を手に入れたのだろうか?
不器用なコイツが、引き攣ることもなく自然と心から笑えるようになるまで、どんな葛藤があったのだろう。
一度は肌を重ねた俺に対しても、宍戸は少しの弱音も吐かなかった。
本当にあれきり、俺達はあの事実が無かったように過ごしている。
俺にとっては大きな事件だったあの夜も、宍戸にとってみれば、失恋の蔭に隠れた小さく些細な事がらに過ぎなかったようだ。
俺達までぎくしゃくしたんじゃ、それこそ今のような関係は戻って来なかっただろうから、安心している所はある。
けれど、本音で言えば虚しかった。
俺にとっては大きな意味を持ったあの夜が、俺にとって宍戸の存在が大きく変わったあの夜が、宍戸の中には全く何も残していない。気にしない振りを出来るほど器用な奴ではないから、本当に俺との事は二の次だったのだろう。
ワインセラーを物色する宍戸は、大口を開け岳人達と笑い合っている。
「…いい笑顔しやがって」
恨み事を呟けば、忍足が振り返った。
「何か言ったか?」
「…いや」
それでも結局、宍戸の笑顔を失うのが怖くて、俺はこの胸の虚しさを吐き出せずにいる。
俺の部屋で集まるのは、もう好例となりつつある。
今日は滝や後輩組が揃わなかったが、それでもいつものテンションの高さで、グラスを交わす。
「こんな真昼間から、よう飲めるなァ~」
窓際のソファセットで、宍戸、岳人、ジローの3人はもうワインを飲み始めている。
アルコールなら余程俺と忍足の方が強いのだが、何だって弱い奴ほど飲みたがるのか。
「またあいつら酔い潰れるんじゃねえの?」
「そうやろな。岳人おぶって帰るの結構しんどいんやけどなァ」
そう言って、忍足は顔を顰めた。
「良く言うぜ、嬉しいくせに」
思わずそう返したら、忍足は意外そうな顔で俺を見つめる。
「珍しいな、自分がそないな事言うなんて」
「そうか?」
「そうやろ。俺らが付き合ってる事、あんまり触れて来なかったやないか」
「ああ、そうかもな…」
俺は、窓際の3人に目を向けた。
時が過ぎるにつれて、ジローや、宍戸本人も、忍足と岳人の仲を冷やかすことが多くなった。仲間に彼女が出来た時のように、普通に冷やかしては笑い合う。
そんな中、確かに俺だけは、そういうことを口にしなかったかもしれない。
少しでも、宍戸があの日を思い出すのを避けたかった。本人がどんなに楽しそうに笑っていたって、それがどこまで本当かなんて他人には分からないんだからな。
「自分、宍戸が好きなのか?」
忍足は唐突に尋ねる。
俺を見る目は、穏やかでいて、けれどその本音は読めなかった。
俺が答えずにいると、忍足は小さく苦笑を洩らす。
「何で隠すんや?宍戸自身は分からんけど、俺らはみんな気づいとるよ?鳳だって、日吉だって、何で付き合わないのかって不思議がってたで」
そんな会話がされていただなんて、俺は全く気付いていなかった。しかし、よくもまあ簡単に「付き合う」だなんて言ってくれるもんだ。
「…お前らな、肝心なこと忘れてんなよ。あいつが俺を好きかなんて分からないだろ」
「まあ、それはそうなんやけどな…」
本気で惚れた奴を忘れるのには、どのくらいの月日が必要なんだろうか?俺は、そこまで好きになった人もいなければ失恋したこともなかったから、見当もつかない。
アイツに好かれていた事を知っている忍足自身がこんな事を言う位だから、他の人間から見ても、宍戸はもう忍足の事を吹っ切れたと感じるのだろうか。
でも、正直腹立たしい。
忍足が、あれだけ宍戸を泣かせた忍足がこんな事を口にするなんて、少し無神経過ぎるだろう。
俺が不機嫌を隠さず睨みつければ、忍足はそれに気づいていないのか、おどけるように笑って続ける。
「跡部が宍戸と付き合うてくれたら、安心なんやけどな~」
「どういう事だ」
忍足は「いや~」と苦笑して、照れたように前髪をかき上げた。
「近いうちに、岳人と暮らそうかな、と。そろそろ新しい部屋探そうと思ってるんや」
「お前…!」
俺は思わず声を荒らげていた。
二人が暮らすのに反対な訳ではない。今だってほとんどが忍足のアパートで過ごしているし、それは仲間も知っている事だった。もちろん宍戸も。だから、それ自体に腹が立つ訳ではない。
「岳人がなかなか首を縦に振ってくれないんや。でも、自分が宍戸と付き合うたら、岳人も安心してOKしてくれると思うんやけど…」
「ふざけるな!」
俺は反射的に、胸元に掴みかかった。
何て言い草だ。
岳人が同棲をOKしてくれないから、宍戸と付き合ってくれないかだって?
宍戸の気持ちを思えば、岳人が即座に了承できないのは当然だろう。それなのに、こいつは!
「宍戸がどれだけ苦しんだと思ってる…!」
あの涙は、本当に見ていて辛かった。
ぽかりと瞳を開けたまま、泣き叫ぶでもなく涙する姿を、あの宍戸の姿を見ていないからそんな事を言えるんだ。
怒りのあまり、掴んだ手が震える。俺は忍足の胸元を締め上げていた。
けれど忍足は、俺の手を振り払わない。こうなるのが分かっていたかのように、少し辛そうに微笑む。
「俺達は、いつまで宍戸に遠慮すればいい?」
「忍足っ…!」
もう何も言わないで欲しい。そうでないと、このまま殴ってしまいそうだ。
「…岳人は、いつまで苦しめばええんや?」
「忍足…」
「分かっとるよ。自分で言うのも何やけど、宍戸がすごく苦しんだって事は。でもな、同じだけ岳人も苦しんでるんや。俺が抱く度に、俺に好きだと言う度に、岳人も苦しんでるんや」
俺は、掴んでいた手を離していた。
忍足は、怒りもせずただ俯く。
「俺は岳人を悲しませたくない。幸せに笑ってて欲しいんや。冷たい事言うようやけど、岳人の幸せが俺にとっては一番大切なんや…」
「…ああ」
俺は、今の今まで考えもしなかった。
そうだ。岳人だって苦しまない訳がない。
親友が好きな人を結果的に奪った形になって、それでも笑顔で祝福してくれる宍戸に対し、負い目を感じない訳がないんだ。
俺は宍戸の事ばかり考えて、岳人の気持ちを、忍足の気持ちを考えもしなかった。
「…跡部が、宍戸の事そこまで想っててくれて良かった。正直、俺ら二人にとって、ものすごい救いなんや」
「…宍戸の救いになるかは分からねえけどな」
俺は深くため息をついた。
俺はいつのまにか、こんなにも宍戸を想っていた。一度肌を重ねたから、あの涙を見てしまったから、それだけでは片付けられないほど、深く宍戸の事を好きになっている。
「…跡部?」
窓際から、ジローが不安そうに声を掛ける。
「侑士、どうした?」
岳人も、手にしたグラスを置いて腰を浮かせていた。
宍戸は、無言で俺たちを見守る。
「いや、何でもない」
「ああ、少し討論に熱が入っただけやからな?でかい声出して悪かったな」
俺と忍足は、咄嗟に答えると、あいつらを安心させるように微笑んだ。
「そう?ならいいけど。ちょっとビビったよ。跡部があんな声出すの珍しいから」
ジローはほっとしたように笑って、もう宍戸にちょっかいを出し始める。
岳人だけは、どこか不安そうな目で忍足を見つめていた。
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