忍者ブログ
★初めてお越しの方は、お手数ですが「はじめに」を必ずお読みください。★
[230]  [229]  [228]  [227]  [226]  [225]  [224]  [223]  [222]  [221]  [220
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

岳人視点。

いつか穏やかなsquare 5

侑士は、震えてた。
あんなカッコつけで、いつだって焦ったとこ見せるのを嫌がるあいつが。
俺の事を抱きしめて震えてた。
だから、抵抗しなかった、っていうのは都合の良い言い訳だよな。

「…ごめんな、岳人」
「ァ、謝る、くらいならっ、す…んな!」
「ごめん」
弄る手は、いつもみたいにひんやりしてなかった。
じっとりと汗をかいて、妙に火照ってた。
キスも、吐息がやたら熱くて、侑士の奴倒れちまうんじゃないかってくらい、必死で。
うん。だから全部許したって訳じゃない。
そんなのやっぱり言い訳で、俺は、単純に気持ちが良かったんだ。
勿論身体も。男だからさ、やっぱり。触れられたらそれなりに感じるさ。
それよりも、心が。
…誰かに好かれるって、こんなに嬉しいんだ。俺、今まで知らなかったよ。
もちろん付き合った女だっていたけどさ、ああいう、ファッションみたいな付き合いとは違うんだ。
― えー、向日彼女居ないの?じゃあ、私とかどう?
あの軽いノリは何だったんだろう?
― マジ?俺本気にするぜ?
本当はドキドキしてたのに、軽い調子でOKしたっけ。
その後、走って宍戸に報告に行ったんだ。

宍戸、宍戸…。
俺、知ってたよ。お前がおどけて打ち明けてくれる前から、お前が侑士を好きだって。
秘密主義ぶってるけど、本当は誰とも付き合ったことないよな、お前。
そりゃ、好奇心から寝た女くらいは居ただろうけど、お前ずっと侑士に一筋だった。
知ってたよ、知ってるよ、そんな事。
なのに…。

「宍戸…」
あの日から、宍戸に会っていない。
ぎこちなく、会話も無く帰る俺達を、跡部は思いつめた顔で見送った。
他のメンバーはもう帰った後で、宍戸は…、分からなかった。
もう帰ったのか、まだ居たのか。
跡部の気だるい姿を見て、何となく、宍戸とそうなったのかな…って思ったけど、聞けなかった。
きっと全てを知ってる跡部に、そんな無神経な事は聞けなかった。

「岳人、真剣に考えて欲しいんや」
十字路で、忍足は俺のコートの肩を掴んだ。
「侑士…」
分かってるさ、何も無かった事になんて出来ない。
「ずっと、連絡待っとるから」
「…ああ」
俺は、侑士に背を向けて歩き出した。
本当は逃げるように走り去ってしまいたかったのを、必死にこらえて。

***

「岳人!」
「…ジロー」
振り向けば、ジローが手を振り近づいてくる。
「何か久し振り~」
「…この前、跡部ん家で会ったろ?」
「ああ?ああ~。俺速攻寝ちまったからな」
ゲラゲラと笑うジローは、携帯を片手で弄ぶ。
何となく目で追ったら、ジローが「そうそう」と思い出したように言った。
「宍戸知らねえ?あれから連絡取れねェんだよ」
「…宍戸」
「岳人に聞けば分かるかと思ったんだけどな」
「ごめん…」
喉が乾いて張り付く。
「珍しいよね?お前らいっつも一緒だったのに」
「そうだな…」
学部が一緒だから、自然と一緒に居た。
宍戸の事は俺に、俺の事は宍戸に、それが暗黙の了解みたいになってた。
「まあ、いいや。会ったら、俺が探してたって伝えといて♪」
「ああ」
ジローの背中が遠ざかる。
あのキラキラした日々まで、遠く消えてしまうみたいな気がして、俺は目を細める。

俺は、宍戸を探しにも、忍足に会いにも行けないでいる。
だって、何も答えが出せないんだ。会った所で言うべき言葉も見つからない。
俺は、隣に誰もいない寒さを初めて知った。
良く考えたら俺、中学・高校は侑士と、大学上がったら宍戸とべったりで、自然と隣り合う人が居ないなんて、そんなこと無かった。
「…寒」
ぐるぐるに巻いたマフラーに、顔の半分を埋める。
宍戸は今、何をしてるんだろう。
きっと、俺が宍戸の気持ちを知ってるのに、それでも侑士を受け入れた事を怒ってるよな。
いや、怒ってはいないかもしれない、ただ、裏切ったって思われた、多分。
こんな気持ちになるんだったら、蹴り上げてでも侑士の下から逃げ出すべきだったか?
でも、あんなに、全てを投げ打って想われるなんて…。
素直に、嬉しかった。
あんなに真剣に、見つめる侑士。
初めての行為だって、あいつだから怖くなかった。
痛くなかったと言ったら嘘になる。でも、あいつはどこまでも優しかった。俺はうっとりと、その優しさに溺れたんだ。
あんなに、誰かに大事にされるのは初めてだった。

― 岳人、がくと…大きく息吸って…。
― あっ、むり!…くっ。
― ダメや、そんな力んだら、ほら。
侑士はいいこいいこをするみたいに、何度も俺の頬を撫でた。
痺れを切らして、無理やり侵入なんてしなかった。
― ああ…エエ子や。ごめんなァ、辛いよなぁ。
― へ、き!
― 岳人、…ありがとな。
ほっとしたように溜息をついて、俺の素肌に頬を寄せたのを忘れない。

愛情なのか、同情なのか。
俺は、酷い。
宍戸にも、それ以上に侑士に対して。
とてもじゃないが、二人に会える訳が無かった。

どこに寄る気もしなくてまっすぐ帰宅したら、扉一枚で繋がった店の入口から母さんが顔を出す。
「あ、岳人!」
「何…」
「何じゃなくて『ただいま』だろ!?」
「ただいま…」
うざったいけど、最近元気がない俺を母さんが心配してるのに気づいてたから、ここは素直に返事をしておく。
「跡部くん、来てるわよ。部屋通しといた」
「…跡部?」
「そう。何時になるか分からないよって言ったんだけどね、待つってさ」
「そ、う」
直接電話すりゃいいのに。
いや、そうしたら俺が逃げだすと思ったのか?
「大丈夫だった?」
母さんが心配そうな顔をする。
「大丈夫。どうせ近くに寄ったからとか、そんなだろ?さんきゅ」
「はいよ」
そう微笑んで、母さんは店の中に戻って行った。
「…跡部」
何の話かなんて、分かり切ってる。

部屋の襖を開けたら、跡部が俺の学習机の椅子に腰かけてた。
「よお、お前の部屋変わらねえな」
「一人部屋になったから、少しは広くなったぜ?」
「その分漫画が増えたみたいだな。ちゃんと勉強してんのか?」
「うるせっ」
跡部は、笑ってた。何だかホッとして、俺も軽口を叩く。
そう言えば、あの日からずっと笑ってなかった気がする。
大して物の入っていない斜め掛けを部屋の隅に放って、コートを脱ぎ捨ててから、俺はベッドにダイブした。
古いスプリングが軋む。
大きく伸びをしてから、ようやく俺は口を開いた。
「…跡部、侑士の事だろ?」
まっすぐ見つめると、跡部は、すっと表情を固くした。
「…ああ。あと、宍戸のな」
「分かってる…」
「悪かったな。結果的に、引っ掻き回した感じになって」
跡部は、そういって声を落とした。
「何で?跡部は別に何もしてないじゃん」
「いや、俺は宍戸を…」
「それは、分かってるけど」
やっぱり、そうなんだ。
跡部は、あの日同じ屋根の下で宍戸を抱いたんだ。
でも、それは別に引っ掻き回した事にはならない。むしろ、宍戸を一人にしないでくれて良かった。俺が言うのも変だけど、ああいう時、一人で居させたくはない。
「その後、忍足とは?」
その質問に、俺は無言で首を振った。
跡部も分かっていたのか特に何も言わず、ただ、脚を組み替えた。
「…宍戸とは?」
俺の言葉に、跡部も小さく首を振る。
「あの日お前らが帰った後、宍戸の奴熱出してな。でも、翌朝には帰ってった。送ると言っても聞かなくてな」
「そう…」
その発熱は、行為の所為なのか精神的なものなのかは分からないけれど、跡部はその原因が自分にあるって思ってるんだろうな。
「お前は、どうするんだ?」
跡部はそう言って、俺を見つめる。
「どうって…」
それは、侑士を受け入れるのか否かって事だろうか?
それなら、余程俺が教えて欲しいくらいだ。そんなすぐに答えが出るのならば、こんな処で跡部と二人話したりしない。
侑士の許なり、宍戸の許なり走ったさ。
「ま、それが分かれば苦労はないか」
「まあな」
跡部も、悩ましげな表情で窓の外を見遣る。
「跡部は?跡部は、宍戸が好きなのか?」
「好き…か。どうだかな」
「抱いたのに?」
「それを言われると辛いけどな。それならお前は、抱かれたのに忍足が好きかどうか分からないのか?」
「そりゃ、」
「…そういうことだ」
男って、厄介だ。気持ちが無くたって、人を抱けてしまう。
ましてや受身なら、相手の所為に出来てしまう。
「なあ、跡部。俺、選べないよ。侑士のこと好きか嫌いかって聞かれたら、勿論好きだけど、それってそういうのと違って」
「ああ」
「ずっと一緒だったろ?中学からだぜ?好きでもない奴とこんな長い間ツルむはずもないじゃん?」
「そうだな」
「だからさ、好きなんだよ…。でもさ」
何が言いたいのか分からない。ただ思いつくことを言い訳のようにつらつらと言葉にするだけ。
でも跡部は、何も言わず聞いてくれる。
「何でさ、今更侑士の奴…」
「…あいつにとっちゃ、『今更』じゃないんだろ?相当思いつめた顔してたぜ?」
「そんな事言ったって…」
俺にはどうにも出来ないじゃないか。
「なあ、岳人。どうせこんな事になってんじゃねえかと思ってな、一言だけ言いに来たんだ」
「跡部…?」
「きっとお前らの事だ、ああでもないこうでもない一人で考えて、…きっと3人とも一人きりで考えて、堂々巡りを繰り返すんだろうなってな」
「あ…」
確かに、その通りだ。
でも、言い争う話でもないし、出口なんて分かりもしない。
「なあ、岳人。俺はな、あの時のメンバーがこれ以上ない拠り所なんだ」
「跡部…」
跡部は、おどけるように笑う。
「この性格だからな、なかなか気持ち許せる奴なんか居ねェよ。あの時一緒に戦ったお前らだけが、唯一『仲間だ』って言い切れるんだ」
そんなの、俺だって同じだ。
高校や大学で、そりゃたくさん友達出来たけど、あの時の仲間とは全然違う。お前たちは、何年後だって何十年後だって仲間だって思えるんだ。久し振りに顔合わせたって、あの頃と同じように笑い合えるはずだぜ、きっと。
「だからな、俺はこんな事でお前らを無くしたくないって思ってる」
「跡部…」
「岳人、余計なことは何も考えるなよ。後のことは自然についてくるさ」
「え?」
跡部は、寝転ぶ俺の許まで歩み寄った。
そして、額を覆った俺の前髪を掻き分けると、まっすぐ見つめる。
「もし宍戸がいなかったら、お前は忍足を受け入れるか?」
「宍戸が、居なかったら…?」
「そうだ。もし、宍戸が忍足を好きだという事実が存在しなかったら、お前は忍足を受け入れたのか?」
「宍戸が、居なければ…」

― 岳人、あったかいなぁ、お前ン中
― っだま、れって
― 堪忍なァ…。でも、言わせて?俺、嬉しいんや…。
侑士、子供みたいに笑ってた。
俺が痛くて顔引き攣ってるのに、嬉しさ隠しきれないって感じで。
― ずっと、な?俺、夢見てたんや…。
― 侑士…。
優しく、俺を撫でた。俺に触れた。
あんな風に、大事にされたこと無かったんだよ。

「…受け入れてた」
「岳人…」
俺は、涙が溢れるのを止められない。
「受け入れてたさ。宍戸が居なかったら、きっと…」
「そうか」
跡部は、一度俺の頭を撫でてから、立ち上がった。
「…あ、とべ?」
涙を拭いて見上げたら、跡部は吹っ切れたように笑ってる。
「受け入れてた、じゃない。これから受け入れればいいんだ」
「跡部?」
「行けよ、岳人。お前らしくないんじゃねェの?人の顔色窺うようなタマかよ、お前が」
「あの、な」
何気に失礼だよな、こいつ。
「宍戸だって、こんな事で潰れるタマじゃねえだろ?」
「跡部…」
「だから、行けよ。忍足の奴、きっと指折り数えて待ってるぜ?」
「…花占いとかしてたら、どうしよう」
思わず呟いたら、ハハハって跡部が腹を抱えた。
「やりかねないぜ、あいつなら」
「だな」
そうだよな。
俺は、弾みを付けて飛び起きる。
「行ってくるよ、跡部」
「ああ」
「宍戸の事を頼む、なんて言わないぜ?あいつも一人で立ち上がる」
「分かってる」
俺は、脱いだばかりのコートを掴んだ。そして、斜め掛けの紐を引っ手繰る様に手に取る。
「サンキュ、跡部」
「ばーか。早く行け」
「おう」
眩しそうな顔して、跡部は笑った。

行って来るよ。跡部、宍戸。
待ってろよ、侑士。

PR
はじめに
ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
■当サイト文書の無断転載はご遠慮ください。
■当サイトはリンク・アンリンクフリーです。管理人PC音痴の為バナーのご用意はございませんので、貴方様に全てを委ねます(面目ない…)。        
   
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
通販申込
現在、通販は行っておりません。申し訳ございません

・その頬は桜色に染まる(跡宍)400円
・社会科準備室(跡宍)500円


※詳しい内容は「カテゴリー」の「発行物」からご確認ください。

◆通販フォームはこちら◆
拍手ボタン
カウンター
お世話様です!サーチ様
ブログ内検索
プロフィール
HN:
戸坂名きゆ実
性別:
女性
自己紹介:
私、戸坂名は大のパソコン音痴でございます。こ洒落た事が出来ない代わりに、ひたすら作品数を増やそうと精進する日々です。宜しくお付き合いください。
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.