[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
いつか穏やかなsquare 5
侑士は、震えてた。
あんなカッコつけで、いつだって焦ったとこ見せるのを嫌がるあいつが。
俺の事を抱きしめて震えてた。
だから、抵抗しなかった、っていうのは都合の良い言い訳だよな。
「…ごめんな、岳人」
「ァ、謝る、くらいならっ、す…んな!」
「ごめん」
弄る手は、いつもみたいにひんやりしてなかった。
じっとりと汗をかいて、妙に火照ってた。
キスも、吐息がやたら熱くて、侑士の奴倒れちまうんじゃないかってくらい、必死で。
うん。だから全部許したって訳じゃない。
そんなのやっぱり言い訳で、俺は、単純に気持ちが良かったんだ。
勿論身体も。男だからさ、やっぱり。触れられたらそれなりに感じるさ。
それよりも、心が。
…誰かに好かれるって、こんなに嬉しいんだ。俺、今まで知らなかったよ。
もちろん付き合った女だっていたけどさ、ああいう、ファッションみたいな付き合いとは違うんだ。
― えー、向日彼女居ないの?じゃあ、私とかどう?
あの軽いノリは何だったんだろう?
― マジ?俺本気にするぜ?
本当はドキドキしてたのに、軽い調子でOKしたっけ。
その後、走って宍戸に報告に行ったんだ。
宍戸、宍戸…。
俺、知ってたよ。お前がおどけて打ち明けてくれる前から、お前が侑士を好きだって。
秘密主義ぶってるけど、本当は誰とも付き合ったことないよな、お前。
そりゃ、好奇心から寝た女くらいは居ただろうけど、お前ずっと侑士に一筋だった。
知ってたよ、知ってるよ、そんな事。
なのに…。
「宍戸…」
あの日から、宍戸に会っていない。
ぎこちなく、会話も無く帰る俺達を、跡部は思いつめた顔で見送った。
他のメンバーはもう帰った後で、宍戸は…、分からなかった。
もう帰ったのか、まだ居たのか。
跡部の気だるい姿を見て、何となく、宍戸とそうなったのかな…って思ったけど、聞けなかった。
きっと全てを知ってる跡部に、そんな無神経な事は聞けなかった。
「岳人、真剣に考えて欲しいんや」
十字路で、忍足は俺のコートの肩を掴んだ。
「侑士…」
分かってるさ、何も無かった事になんて出来ない。
「ずっと、連絡待っとるから」
「…ああ」
俺は、侑士に背を向けて歩き出した。
本当は逃げるように走り去ってしまいたかったのを、必死にこらえて。
***
「岳人!」
「…ジロー」
振り向けば、ジローが手を振り近づいてくる。
「何か久し振り~」
「…この前、跡部ん家で会ったろ?」
「ああ?ああ~。俺速攻寝ちまったからな」
ゲラゲラと笑うジローは、携帯を片手で弄ぶ。
何となく目で追ったら、ジローが「そうそう」と思い出したように言った。
「宍戸知らねえ?あれから連絡取れねェんだよ」
「…宍戸」
「岳人に聞けば分かるかと思ったんだけどな」
「ごめん…」
喉が乾いて張り付く。
「珍しいよね?お前らいっつも一緒だったのに」
「そうだな…」
学部が一緒だから、自然と一緒に居た。
宍戸の事は俺に、俺の事は宍戸に、それが暗黙の了解みたいになってた。
「まあ、いいや。会ったら、俺が探してたって伝えといて♪」
「ああ」
ジローの背中が遠ざかる。
あのキラキラした日々まで、遠く消えてしまうみたいな気がして、俺は目を細める。
俺は、宍戸を探しにも、忍足に会いにも行けないでいる。
だって、何も答えが出せないんだ。会った所で言うべき言葉も見つからない。
俺は、隣に誰もいない寒さを初めて知った。
良く考えたら俺、中学・高校は侑士と、大学上がったら宍戸とべったりで、自然と隣り合う人が居ないなんて、そんなこと無かった。
「…寒」
ぐるぐるに巻いたマフラーに、顔の半分を埋める。
宍戸は今、何をしてるんだろう。
きっと、俺が宍戸の気持ちを知ってるのに、それでも侑士を受け入れた事を怒ってるよな。
いや、怒ってはいないかもしれない、ただ、裏切ったって思われた、多分。
こんな気持ちになるんだったら、蹴り上げてでも侑士の下から逃げ出すべきだったか?
でも、あんなに、全てを投げ打って想われるなんて…。
素直に、嬉しかった。
あんなに真剣に、見つめる侑士。
初めての行為だって、あいつだから怖くなかった。
痛くなかったと言ったら嘘になる。でも、あいつはどこまでも優しかった。俺はうっとりと、その優しさに溺れたんだ。
あんなに、誰かに大事にされるのは初めてだった。
― 岳人、がくと…大きく息吸って…。
― あっ、むり!…くっ。
― ダメや、そんな力んだら、ほら。
侑士はいいこいいこをするみたいに、何度も俺の頬を撫でた。
痺れを切らして、無理やり侵入なんてしなかった。
― ああ…エエ子や。ごめんなァ、辛いよなぁ。
― へ、き!
― 岳人、…ありがとな。
ほっとしたように溜息をついて、俺の素肌に頬を寄せたのを忘れない。
愛情なのか、同情なのか。
俺は、酷い。
宍戸にも、それ以上に侑士に対して。
とてもじゃないが、二人に会える訳が無かった。
どこに寄る気もしなくてまっすぐ帰宅したら、扉一枚で繋がった店の入口から母さんが顔を出す。
「あ、岳人!」
「何…」
「何じゃなくて『ただいま』だろ!?」
「ただいま…」
うざったいけど、最近元気がない俺を母さんが心配してるのに気づいてたから、ここは素直に返事をしておく。
「跡部くん、来てるわよ。部屋通しといた」
「…跡部?」
「そう。何時になるか分からないよって言ったんだけどね、待つってさ」
「そ、う」
直接電話すりゃいいのに。
いや、そうしたら俺が逃げだすと思ったのか?
「大丈夫だった?」
母さんが心配そうな顔をする。
「大丈夫。どうせ近くに寄ったからとか、そんなだろ?さんきゅ」
「はいよ」
そう微笑んで、母さんは店の中に戻って行った。
「…跡部」
何の話かなんて、分かり切ってる。
部屋の襖を開けたら、跡部が俺の学習机の椅子に腰かけてた。
「よお、お前の部屋変わらねえな」
「一人部屋になったから、少しは広くなったぜ?」
「その分漫画が増えたみたいだな。ちゃんと勉強してんのか?」
「うるせっ」
跡部は、笑ってた。何だかホッとして、俺も軽口を叩く。
そう言えば、あの日からずっと笑ってなかった気がする。
大して物の入っていない斜め掛けを部屋の隅に放って、コートを脱ぎ捨ててから、俺はベッドにダイブした。
古いスプリングが軋む。
大きく伸びをしてから、ようやく俺は口を開いた。
「…跡部、侑士の事だろ?」
まっすぐ見つめると、跡部は、すっと表情を固くした。
「…ああ。あと、宍戸のな」
「分かってる…」
「悪かったな。結果的に、引っ掻き回した感じになって」
跡部は、そういって声を落とした。
「何で?跡部は別に何もしてないじゃん」
「いや、俺は宍戸を…」
「それは、分かってるけど」
やっぱり、そうなんだ。
跡部は、あの日同じ屋根の下で宍戸を抱いたんだ。
でも、それは別に引っ掻き回した事にはならない。むしろ、宍戸を一人にしないでくれて良かった。俺が言うのも変だけど、ああいう時、一人で居させたくはない。
「その後、忍足とは?」
その質問に、俺は無言で首を振った。
跡部も分かっていたのか特に何も言わず、ただ、脚を組み替えた。
「…宍戸とは?」
俺の言葉に、跡部も小さく首を振る。
「あの日お前らが帰った後、宍戸の奴熱出してな。でも、翌朝には帰ってった。送ると言っても聞かなくてな」
「そう…」
その発熱は、行為の所為なのか精神的なものなのかは分からないけれど、跡部はその原因が自分にあるって思ってるんだろうな。
「お前は、どうするんだ?」
跡部はそう言って、俺を見つめる。
「どうって…」
それは、侑士を受け入れるのか否かって事だろうか?
それなら、余程俺が教えて欲しいくらいだ。そんなすぐに答えが出るのならば、こんな処で跡部と二人話したりしない。
侑士の許なり、宍戸の許なり走ったさ。
「ま、それが分かれば苦労はないか」
「まあな」
跡部も、悩ましげな表情で窓の外を見遣る。
「跡部は?跡部は、宍戸が好きなのか?」
「好き…か。どうだかな」
「抱いたのに?」
「それを言われると辛いけどな。それならお前は、抱かれたのに忍足が好きかどうか分からないのか?」
「そりゃ、」
「…そういうことだ」
男って、厄介だ。気持ちが無くたって、人を抱けてしまう。
ましてや受身なら、相手の所為に出来てしまう。
「なあ、跡部。俺、選べないよ。侑士のこと好きか嫌いかって聞かれたら、勿論好きだけど、それってそういうのと違って」
「ああ」
「ずっと一緒だったろ?中学からだぜ?好きでもない奴とこんな長い間ツルむはずもないじゃん?」
「そうだな」
「だからさ、好きなんだよ…。でもさ」
何が言いたいのか分からない。ただ思いつくことを言い訳のようにつらつらと言葉にするだけ。
でも跡部は、何も言わず聞いてくれる。
「何でさ、今更侑士の奴…」
「…あいつにとっちゃ、『今更』じゃないんだろ?相当思いつめた顔してたぜ?」
「そんな事言ったって…」
俺にはどうにも出来ないじゃないか。
「なあ、岳人。どうせこんな事になってんじゃねえかと思ってな、一言だけ言いに来たんだ」
「跡部…?」
「きっとお前らの事だ、ああでもないこうでもない一人で考えて、…きっと3人とも一人きりで考えて、堂々巡りを繰り返すんだろうなってな」
「あ…」
確かに、その通りだ。
でも、言い争う話でもないし、出口なんて分かりもしない。
「なあ、岳人。俺はな、あの時のメンバーがこれ以上ない拠り所なんだ」
「跡部…」
跡部は、おどけるように笑う。
「この性格だからな、なかなか気持ち許せる奴なんか居ねェよ。あの時一緒に戦ったお前らだけが、唯一『仲間だ』って言い切れるんだ」
そんなの、俺だって同じだ。
高校や大学で、そりゃたくさん友達出来たけど、あの時の仲間とは全然違う。お前たちは、何年後だって何十年後だって仲間だって思えるんだ。久し振りに顔合わせたって、あの頃と同じように笑い合えるはずだぜ、きっと。
「だからな、俺はこんな事でお前らを無くしたくないって思ってる」
「跡部…」
「岳人、余計なことは何も考えるなよ。後のことは自然についてくるさ」
「え?」
跡部は、寝転ぶ俺の許まで歩み寄った。
そして、額を覆った俺の前髪を掻き分けると、まっすぐ見つめる。
「もし宍戸がいなかったら、お前は忍足を受け入れるか?」
「宍戸が、居なかったら…?」
「そうだ。もし、宍戸が忍足を好きだという事実が存在しなかったら、お前は忍足を受け入れたのか?」
「宍戸が、居なければ…」
― 岳人、あったかいなぁ、お前ン中
― っだま、れって
― 堪忍なァ…。でも、言わせて?俺、嬉しいんや…。
侑士、子供みたいに笑ってた。
俺が痛くて顔引き攣ってるのに、嬉しさ隠しきれないって感じで。
― ずっと、な?俺、夢見てたんや…。
― 侑士…。
優しく、俺を撫でた。俺に触れた。
あんな風に、大事にされたこと無かったんだよ。
「…受け入れてた」
「岳人…」
俺は、涙が溢れるのを止められない。
「受け入れてたさ。宍戸が居なかったら、きっと…」
「そうか」
跡部は、一度俺の頭を撫でてから、立ち上がった。
「…あ、とべ?」
涙を拭いて見上げたら、跡部は吹っ切れたように笑ってる。
「受け入れてた、じゃない。これから受け入れればいいんだ」
「跡部?」
「行けよ、岳人。お前らしくないんじゃねェの?人の顔色窺うようなタマかよ、お前が」
「あの、な」
何気に失礼だよな、こいつ。
「宍戸だって、こんな事で潰れるタマじゃねえだろ?」
「跡部…」
「だから、行けよ。忍足の奴、きっと指折り数えて待ってるぜ?」
「…花占いとかしてたら、どうしよう」
思わず呟いたら、ハハハって跡部が腹を抱えた。
「やりかねないぜ、あいつなら」
「だな」
そうだよな。
俺は、弾みを付けて飛び起きる。
「行ってくるよ、跡部」
「ああ」
「宍戸の事を頼む、なんて言わないぜ?あいつも一人で立ち上がる」
「分かってる」
俺は、脱いだばかりのコートを掴んだ。そして、斜め掛けの紐を引っ手繰る様に手に取る。
「サンキュ、跡部」
「ばーか。早く行け」
「おう」
眩しそうな顔して、跡部は笑った。
行って来るよ。跡部、宍戸。
待ってろよ、侑士。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
■当サイト文書の無断転載はご遠慮ください。
■当サイトはリンク・アンリンクフリーです。管理人PC音痴の為バナーのご用意はございませんので、貴方様に全てを委ねます(面目ない…)。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
・その頬は桜色に染まる(跡宍)400円
・社会科準備室(跡宍)500円
※詳しい内容は「カテゴリー」の「発行物」からご確認ください。
◆通販フォームはこちら◆