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新シリーズです。

全13話前後を予定してます。
今回は珍しく「連作」というより「連載」って感じなんで、テンポ良くUPしていきたいと思います。

CPはまあ、いつもの通りですが、今回はちょっと宍戸さんが可哀想な役回りかもしれません。
でも私ハッピーエンド至上主義!ですので。ご安心をv

ではでは、宜しくお付き合い下さい。


いつか穏やかなsquare(跡宍忍岳)

「どうする?」
「…どうすっかな」
跡部家のプレイルームは見るも無残な状態だ。
ビリヤード台には球とキューが放りっぱなし。ダーツも、随分見当はずれな場所に刺さったままだ。
床には後輩達が酔いつぶれ、滝とジローはソファで眠りこけている。
久し振りのメンバーで集まったってのに、結局残ったのは俺達いつものメンバーだけだった。
家主の跡部は呆れたように溜息をつきながら、それでも少し嬉しそうだ。
何だかんだ言ったって、これだけのメンバーが揃ったのは1年振りだから、きっと楽しかったんだろうな。
岳人も忍足も苦笑してる。でもやっぱり嬉しそうだ。
「宍戸はどないする?」
忍足が声を掛けてくる。
「うーん。どうせこいつら朝まで放置だろ?なら俺も便乗して泊めてもらおっかな?」
横目で伺えば、跡部は眉を上げる。
「ったく仕方ねえな。帰れっつったって、その足じゃ無理だろ?」
「…バレてた?」
実は俺も結構酔ってるんだよね。
長太郎とか、相変わらずで可愛いしさ、ジローもいつものハイテンションで、つい同じペースで呑んじまった。
「岳人は?」
話しを振れば、岳人もアルコールで頬をピンクに染めて額を掻いた。
「悪ィ、俺も泊めて。その辺で転がって寝るしさ」
「ああ?布団ぐらい貸すさ。風邪でもひかれたらたまんねェからな」
その会話に、忍足も口を挟む。
「あ、そんなら俺も泊まるわ。みんな泊まるのに一人だけ仲間外れは嫌や」
「その図体で仲間外れとか言うなよ、キモい」
跡部は顔を顰めて吐き捨てる。
「ああ!?なしてキモい!?」
「キモイものはキモイ」

跡部と忍足の会話は続くが、俺は不意に訪れた機会に変な緊張に襲われる。
まさか、忍足と同じ部屋で夜を明かすことになるなんて。
もちろん、メンバー全員が居る訳だから、何がどうなることも無い。でも、部活の合宿以外で一緒の夜を過ごすなんて、やっぱり特別な気がした。
俺は、随分前から忍足が好きだった。
出会った中学生の頃から凄く落ち着いてて、それをカッコつけてるって蔭口叩く奴らもいたけど、俺は純粋にカッコ良いなって思った。だって、別にテニスへの情熱が無いわけでは無かったし、皆の馬鹿騒ぎに呆れたりもせず、ちゃんと一緒に楽しんでるんだ。
いつも、少し後ろから俺達を見守ってて、必要な時にはしっかりと意見を言ってくれる。でもって、ノリも良い。跡部とは違った意味で、忍足も氷帝の中枢だった。

「しかし、エエ歳した男がうじゃうじゃと、何や色気が無いなぁ」
忍足も珍しく酔ってるのかもしれない。可笑しそうに愚痴ると、そのまま床に座り込んだ。手ざわりの良いラグの上だけど、そこだってもう滅茶苦茶で、スナック菓子の空き袋や、空のワインボトルなんかが転がっている。
いつもなら真っ先に片付ける忍足が、気にもせずそれらの隙間に腰を下ろす。
「端から女っ気が無いのなんて分かってただろ?声掛けてないんだからよ」
そう答えた跡部も、相当に酔ってるのかもしれない。忍足の横に転がるボトルをどかして場所を作ると、自分も腰を下ろした。
「岳人?」
岳人は、欠伸をしながら、開いているソファに向かって歩き出す。
何だか一人ぽつんと立ってるのも居心地悪くて、俺は岳人の後に続いた。
本当は忍足の傍に居たかったけど、何だか跡部と囁くように話してて、楽しそうに笑ってるし。ちょっと割りこめる雰囲気じゃない。
「宍戸~。お前も寝る?」
「あ?ああ」
岳人が向かったソファはL字型をしてて、俺も寝ると答えたら、岳人は長さの短いソファに倒れこんだ。
「宍戸ー、毛布くれ」
「あ?俺が知るかよ」
「ちぇ…」
跡部家に限って、寒いだなんてある筈がない。いつだって、どの部屋だって、常に適温に保たれていた。でも掛けるものが欲しいってのは、分からなくない。寝てる間ってどんな顔してるか分かんねえじゃん?変な顔とかしてたら見られたくねえしな。
けれど、文句を言ったのも束の間。すぐに岳人の寝息が聞こえてくる。
「…早ェな」
折角の泊まりだけど、忍足と話せる雰囲気じゃねえし、遊び相手の岳人も寝入ってしまった。
「ちぇ…。寝るか」
仕方なく横になり、背もたれの方を向いて寝に入る。
掛ける物が無いと落ち着かないよな…とか、考える間もなく俺は眠りに落ちてた。

心地よい揺れだ。
電車や車の揺れのよう。
俺は乗り物の揺れが好きで、旅行って言えば、目的地に着くまでの車中が一番好きなくらいだ。
そんな気持ちよさだ。
「…しど」
誰かの囁く声が、するりと耳に滑り込む。
耳触りの良い、穏やかな声だ。
「宍戸…」
「…あ?」
ゆっくりと、体が沈みこむ。
受け止めたのは柔らかな海。沈むはずの体は、丁度いい深さで俺を受け止めた。
頬に触れる柔らかさに、俺は自然と微笑む。
「宍戸?起きたのか?」
「…え?」
肩を揺すられ、俺は薄く目を開ける。
「宍戸?」
「…あ、とべ?」
心地の良い声の正体は、跡部だった。
何だか、癪だな。こいつの声がイイと思うなんて。
「ったく、物凄い速さで寝てやがったな」
「あ?ああ…。ここは?」
俺は目を擦って、辺りを見回した。
心地よい海の正体は、バカでかいベッド。
跡部のだろうか?半端ない大きさだ。軽くマット運動の練習くらい出来そうだ。
「俺の部屋だ。あんな所に寝てたら風邪ひくぞ」
「あァ、悪い。ってか起こしてくれれば自分で歩いたのに」
二十歳にもなろうってのに、恥ずかしいじゃねえか。友達にだっこして貰いました、なんて。
照れくさくて頬が熱くなる。俺は、気づかれないように少し横を向いた。
「と、ところで岳人は?一緒のソファに寝てたんだけど」
照れ隠しに、俺は焦って話を振る。
そんな咄嗟な質問に、跡部は楽しそうに嗤った。
「跡部?」
嫌な感じの笑い方だ。
跡部は良い家柄の御坊ちゃまのくせに、たまにどうしようもないバカをしたりする。むしろ、御坊ちゃまだからなんだろうか?変なパーティ開いて、あっちこっちのテニス部呼んでバカ騒ぎしたり、いきなり変な祭開催したり。まあ、数限りないんだけど、そんな時に見せる笑いに似ていた。
「岳人は、忍足と一緒だ」
「…え?」
跡部の言葉に、俺は一瞬固まる。
何だって?
「ったくアイツも、酔った相手をどうこうだなんて、情けねェよな。そんなんじゃなくたって、散々機会はあったろうに」
「え?何…、どういう事だよ」
「どうって。だから、忍足が客間のベッドに岳人連れ込んで、どうこうしてやろうって腹だろ?あの猿を相手に、よくそんな気になるよなぁ、感心するぜ」

ガツンと、後ろから頭を叩かれたみたいな衝撃だった。
ベッドに横になっていて良かった。でなきゃ、俺はそのまま前に倒れこんだだろう。
心臓が、力いっぱい鳴らされた銅鑼のように激しく震えて、その振動が指の先にまで届く。
― 忍足が、ベッドに、岳人を、連れ込む。
聞き間違えようもない、真実。

「おい、何固まってるんだよ。ここは突っ込み所だろ?」
「っ、」
跡部の笑い声が聞こえてる筈なのに、ちっとも頭に届かなかった。
俺の頭ン中は、ガンガンと金属が叩かれるのに似た音が響いている。
「おい、宍戸?」
その音は、益々大きくなって、胸が内から圧迫される。
「…宍戸?」
「く、っう…」
「宍戸…」
ぼろり、と。涙が溢れた。
泣いていると、一瞬自分でも気付かなかった。それくらい唐突に、叩かれた心臓の反動で、滴は転げ落ちた。
眼尻から、耳に向かって。そして、耳殻を伝って髪の中に消えていく。
良かった、枕など濡らさないで。涙の跡なんて見たら、そのショックを再認識してしまいそうだ。

俺は忍足が好きだった。
でも、忍足は岳人を好きだった。
そして岳人は、俺が忍足を好きな事を知っている。

「…ひっ」
一度零れてしまえば、後は簡単に続いて行く。
ぽろぽろと、俺の意思なんて関係なく涙が溢れてしまう。
「宍戸、お前…」
その声で、ようやく俺は跡部の存在を思い出した。
慌てて、隠す様に腕で顔を覆った。

俺の失恋と、岳人の苦悩と、これからの仲間達の関係に、俺は涙する。
もう、今までの様に過ごせないのは、分かりきった話だ。
さっきの皆の笑い声が、きっと最後になるだろう。
もう、あんな風に全員で笑い合うことはないんだろう。
こんな事なら、帰ってしまえば良かった。
あの時、ふら付きながらでも家に帰っていれば、こんな事にならなかっただろうか?

「宍戸…」
「…ふ、ぅ…っ」
どんなに奥歯を噛みしめても、零れ落ちてしまう。
初恋も、友情も、仲間も。
全てが零れ落ちてしまう。
そんな気がしてならなかった。

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