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とりあえず一区切りといった感じです。
いつか穏やかなsquare 8
一度避けると、会う切っ掛けがなかなか掴めない。
俺一人が避けたところで、そうそう都合よくいかないだろうから、きっと岳人も俺の事を避けてるんだろうなって思う。
何だろ、自分だって同じ事をしているのに、妙に胸が重苦しい。そんな事で「傷つく」なんて、言えた立場じゃないのに。
先週ジローと会ったら、すごく怒っていた。そして、悲しそうな顔をしていた。
「何度も電話したのに、何で出ないんだよ!」
「…悪い」
そう言えば、しばらく電源を切ってたんだった。切ってたっていうか、充電無くなったのに気づかなかったんだ。でもそんなの、ジローにとっちゃどちらも同じで…。
「お前ら、何あったんだよ?岳人も何だかおかしいぜ?」
「ジロー…」
「喧嘩したならさ、宍戸折れてやってよ?知ってるだろ、岳人そういうの苦手なんだよ。な?」
普段、そんな事言う奴じゃなかった。
大体が、周りが気を揉むのがバカバカしい位呑気に構えてて「何とかなるっしょ!」と俺達の背を叩くタイプなんだ。
そんなジローに、こんな事を言わせた。
きっと事情は知らないんだろうけど、野生の勘っていうの?
その事実に、俺はまた傷つく。
心の中に一つずつ重りが増えて、段々、前に進めなくなる。
岳人、元気か?
忍足と喧嘩してないか?
忍足…。
もう、本当は決めていた。俺は忍足にこの気持ちを打ち明けないって。
全てを言うばかりがケジメじゃないって、俺は思ってる。
最初は、すっぱり言って、すっぱり諦めて…ってのが、自分の今後のためには良いだろうし、あいつらにとっても良いだろうって思ってた。
でも、忍足と岳人はずっと付き合って行くんだ。
実はあの日、跡部が別れ際「忍足だっていつ心変わりするか分からねえぜ?」と呟いたのにも気付いてる。
でも、惚れた奴だからこそ、俺は信じるよ。あいつはずっと岳人を想い続ける。岳人だってきっと同じだ。
だから「幸せに」と一言。その一言で終わらせようって思ってる。
そうは言っても会う機会が無くって、というか自分でその機会を避けてるんだから仕方がないが。
そんな日々の間に、何度か跡部が連絡を寄こした。
そして今も。本当にマメな奴だ。
「元気か?」
「お前ね、先週会ったばっかだろ?」
俺は雑音に負けないよう、携帯を強く耳に押しあてた。
「そうだな…」
心配症だし、すぐ結論出したがるのは昔からだ。まあ、俺も人の事は言えないけどな。
「跡部、俺…」
「どうした」
「岳人に会うよ」
「そうか…」
跡部は、そう言って黙り込む。
受話器の向こうから聞こえる電車の音ばかりがうるさい。
「心配掛けたな」
「いや、俺は別に。それより宍戸、忍足には?」
「…あいつには、別に何も言わない」
「いいのか?」
「あんまり、あいつを追い詰めたくないからな」
「そうか」
忍足が何も考えていないだなんて、俺達は誰も思っちゃいない。誰よりも早く、この感情の綾に気づいたからこそ、きっとすごく悩ませたと思う。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
俺は、大丈夫だ。
「じゃ、切るよ」
努めて明るい声を出せば、電話の向こうで跡部が苦笑したのが分かる。
「何でもいいから、何かあったら連絡寄こせ」
「ああ、分かってる…」
まるで保護者みたいな言い方が、きっと以前の俺なら腹立たしく感じただろう。でも今なら、自然に「ありがとう」と思えた。
「じゃあ…」
言い掛けた俺の視界の隅を、見慣れた色が掠めた。
オフホワイトのダッフル、そして特徴的な紅い髪。
「…岳人」
俺は、反射的に携帯を切っていた。
「岳人…」
今を逃したら、向き合えない気がした。
その姿を見失わないように、俺は人混みを掻き分けていく。
「岳人…!」
視線の先で、岳人は足を止めた。
その場で、辺りを見回している。
放課後のキャンパスは下校する人々が行き交い、互いの姿が遮られてしまう。
「岳人っ」
もう一度叫ぶように呼ぶと、ようやく岳人がこちらを振り返る。
俺を確認した岳人は「まさか、ここで会うなんて」、そんな顔をしている。
声も無く立ち止まり、人を避けながら近づく俺を大きな瞳に捕え…。
「っ、」
崩れるように、アスファルトに座り込んだ。
「岳人!」
自分の体を支えるように両手を付く岳人に驚き、周りの人々は足を止める。けれど、俺が駆け寄るのを見て大丈夫と判断したようだ。
岳人の許に辿り付いた時には、俺達の周りだけ避けるようにして、いつも通りに全てが流れていく。
「…ごめん!」
「岳人…」
俺を見上げた岳人は、顔をくしゃくしゃに歪めた。
「ごめん…、ごめんごめん!」
崩れ落ちるように謝まるその姿は、まるで土下座のようだ。
「…やめろよ!」
そんな姿が見たかったんじゃない。
「ごめん…!」
「やめろ!」
本当は、どんな綺麗ごと言ったって、腹の中では「何でだよ!」って思うのを止められなかった。
俺の気持ち知ってるよな?誰よりも知ってるよな、岳人!
そう思うと、裏切られたみたいな虚しさが、もう抱えきれない位に…。
でも、やっぱり岳人にこんな風に謝られたくない。
「ごめんっ!俺」
「やめろって、起きろよ!」
俺は、岳人の腕を取って、無理やりに引き摺り起した。
その目は、今にも泣きそうに潤んではいるけれど、泣いてはいない。
「宍戸、俺…」
「もういいから、もう」
「…ごめんっ」
「岳人っ」
「ごめん、宍戸。ごめん…。一言だけ言わせて」
「岳人…」
手を離すと、岳人はコートの裾を直す。そして、落ちかけた鞄を肩に掛け直した。
「宍戸。俺、侑士が好きなんだ。お前の気持ち知ってたけど、これだけは」
「…岳人」
真っ直ぐ見詰める瞳は、揺るぎもせず真っ直ぐに俺を見つめる。
けれど、溢れそうな涙を抑える事は出来なかった。
とうとう一粒転がり落ちた涙に、岳人は「くそっ」と悔しそうに舌打ちをする。
泣くべきは自分ではない、そう思ってるのか?
「岳人、分かったから…」
岳人は、コートの袖で乱暴に涙を拭った。
悲しいけど、人を好きになるのって早い者順じゃない。
俺が先に忍足を好きになったからって、だから俺が忍足と両想いになれるなんて、そんな都合のいい話は無いんだ。
仕方がない…。これ以上何が言える?
大丈夫、大丈夫大丈夫。
俺は、大丈夫。
どんなに身を切るほどの、眠れないほどの悲しみも、きっと時が解決するんだ。
きっとだ。
言葉を失った俺たちを、次第に夕闇が包んで行く。
この時期の日没はあっという間で、さっきまで大勢いた学生たちの姿ももう疎らだ。
「…宍、戸?っ岳人…」
見通しの悪くなった景色の中から、俺たちを呼ぶ声がする。
「ジロー?」
現れたのは思ったとおりジローで、随分走り回ったのか、鼻の頭が真っ赤で冷たそうだ。
荒い息が、長いこと俺たちを探してくれてたのを証明していた。
「お前、らがっ…喧嘩してる、て…」
きっと、見知った誰かが慌ててジローに報告したんだろうな。確かに、傍から見たら怒る俺と、土下座する岳人にしか見えなかったはずだ。
「ジロー、そんなんじゃねえから」
俺が微笑むと、ジローはムッとしたように噛みついた。
「宍戸はいつもそうだよ!泣けよ!どうしてそうやって何でも自分一人で解決しようとすんだよ!?」
「ジロー…」
驚いて、岳人も固まる。
ジローがこんな風に怒るのは、初めて見た。
「宍戸は!一度ちゃんと泣くべきなんだよ!」
そう言って、強引に首根っこ引き寄せられる。
「お、おいっ…」
そのまま、ジローの胸に顔を押し付けられた。
ジローの胸は冷気を孕んでいたけれど、俺自身の吐息ですぐに暖かくなる。
俺より背が低いジローの胸に顔を押し付けてるから、どうしても中腰になる。
バランスを崩してその腕に縋ったら、自然と目頭が熱くなった。
「いいんだよ、意味なんて。とりあえず泣け!」
何て命令だろう。
これが他の奴だったら、俺は素直になれただろうか?
日頃、そんな説教じみたこと言わないジローだからこそ、その言葉が胸の奥に抵抗なく納まった。
「…く、うゥ」
あの日、跡部の部屋で全てを流しきったつもりだったのにな。
「ふ、…うゥっ、く…」
噛みしめきれない嗚咽が、もう止まらない。
「フっ、うゥ…」
ジローは、優しく俺の頭を撫でる。
それは、いつもとまるで逆だった。
「…宍戸っ」
岳人の嗚咽も聞こえる。
何でだろう。
ただ人を好きになっただけなのに、こんなに二人して苦しむなんて。馬鹿みたいだ。
「…に、なれ!」
俺は叫んだ。
「宍戸?」
ジローが覗きこむように尋ねる。
俺は、顔を上げられないまま、もう一度叫んだ。
「幸せになれ!岳人!」
「…宍戸ォ」
岳人が泣き崩れた。
くそっ。少しは幸せそうな声聞かせろってんだ。
「青春だねェ~」
俺を抱きしめたジローは、鼻を啜りながらそう呟いた。
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