いつか穏やかなsquare 9（跡宍忍岳） 2009/03/04 (Wed)

跡部視点。

番外編的短文です。

いつか穏やかなsquare　9

「おい！宍戸はどうした」
「宍戸？帰ったよ」
「っくそ」
俺は肩を落として、引き摺って来た忍足を離した。
「痛いわっ！急に押し掛けてきて散々引き摺り回して！」
「煩い。手前が元凶なんだから仕方ないだろ」
「惜しかったね～。ついさっきまでいたんだけど。岳人と二人で帰ったよ」
ジローは「おつかれさん」と言って、俺の背を叩いた。
「…ジロー、お前どこまで知ってる？」
俺の質問に、ジローは小首を傾げる。
「何も？でも、宍戸のこと泣かせといた」
「…え？」
その言葉に、忍足はその表情を曇らす。
宍戸は泣かないとでも思っていたんだろうか、こいつは。
…でも、良かった。
そうか、宍戸はちゃんと泣けたか。
少しホッとした。
「ありがとうな、ジロー」
「別に～。跡部に礼言われるようなことはしてねえけど。宍戸が辛そうだったからね」
その言葉に、忍足は益々表情を暗くして、照らす街灯の下とうとう俯いてしまう。
「あー、ったく！行くぞ」
「何処に？」
「茶だ、茶！走ったら疲れた」
「やっりィ！跡部の奢りね♪」
「…何でだよ」
俺はむしろ、労われるべき立場だと思うんだけどな。
絡み付いてくるジローを剥がしながら、俺は、傍らでジメジメと落ち込む忍足の背中を引っ叩く。
「ほら、行くぜ」
ったく、それで隠せてる気なのか？下手なポーカーフェイスだ。

「ふーん。そんな事になってたんだ」
ようやく事の次第を知ったジローは、あまり驚かない。
「お前、意外と平然としてるのな」
「え？そう？そうでもないけど。何となく、何かあったのかな～とは思ってたし」
男同士とか、仲間内でとか、ジローにとってはどうでもいい事らしい。
そうすると、気を揉んで走り回ってた自分がバカバカしくなるというか…。
「跡部はさぁ、過保護過ぎだよね」
「…そうか？」
「そうだよ。そんなの、自分たちでどうにかするし、そんなんで俺達はダメになんかならないぜ？俺が許さねェし」
「お前に最初に相談すりゃ、こんな面倒なことにならなかったのかもな」
「別に何も変わらないさ。知ったって知らなくたって。成るようにしかなんねーの！」
そう言って、ジローはゲラゲラと笑った。
この能天気さに、俺たちは一体どれだけ救われたことだろう。
忍足も呆れたような顔をしながらも、どこか安心した雰囲気だ。
あのままでは、岳人と居たって辛いだけだったろうからな。
「それよりさぁ」
ジローは、残り少なくなったジュースの底を攫う様に啜った後、胡乱な者を見るような眼で忍足を捕える。
「…こいつが取り合う様な価値のある男か～？」
「ブフっ！」
忍足は、口にしたコーヒーを吹き出しそうになる。
「それなんだよなぁ。俺もそれが納得いかねえェんだ」
「ジロー！？あ、跡部まで…」
情けない顔をされると、益々もって納得いかない。
ったく、宍戸があそこまで泣く価値があるのか？コイツに。
「俺の方が絶対イイ男だぜ？」
「よっく言うよ！」
ジローはそう言って、俺をも笑い飛ばした。
「俺はね、宍戸と岳人が一等男らしいと思うな♪」
「ジロー…」
そうだな。そうなのかも知れない。
でも宍戸は、もう少し我儘に、自己中になったって文句は言われねえと思うけどな。
「よーし！じゃあ、行こうか！」
ジローはそう言って立ち上がる。
そして、伝票を俺に押し付けた。…まあ、いいけどな。
「行くって、何処へ？」
忍足の言葉に、ジローはニヤリと笑う。
「飯食いに。今度は忍足の奢りだぜ？」
「…お前、今ケーキ食ったばっかだろうが」
「そ、そうや！しかも、何で俺が奢るんや…」
「いや。お前は俺達に奢っても罰は当たらねえぜ？」
「跡部～」
ジローはそんな俺たちを横目に、携帯を取り出した。
「もしもーし！あ、宍戸？ジローくんですよ！今から出れる？」
「おいおい…」
ジローは、さっき別れたばかりの宍戸を呼び出すようだ。
「あ、じゃあ岳人にも宜しく～」
「ジロー！」
流石に忍足が焦れば、ジローは鼻で笑った。
「バーカ。何、日和ってるんだよ」
そして、手を休めずまたどこかへ電話をする。
「ったく、ジローには敵わないな」
「あーもー…」
忍足は天を仰ぐ。
「精々金下ろして準備しとけよ？この調子じゃ、ジローの奴全員声掛けるぜ？」
「勘弁してや～」
情けない声が、夜の街に響いた。