if （跡部バージョン） 2008/07/21 (Mon)

もしも跡部が猫だったら。

超短編。
明日は宍戸バージョンです。

if　（跡部バージョン）

「わ、えらい気性荒いやっちゃなぁ」
伸ばした指先を引っ掻かれそうになり、忍足は慌てて手を引いた。
「え、そうか？怪我したか？」
大丈夫か？と歩み寄った宍戸は、一定の距離を保ち警戒するように身をかがめる猫を抱きあげる。
「景吾、だめだろ？悪いな、忍足。驚かせて」
すっぽり腕の中に納まった景吾と呼ばれた猫は、飼い主に怒られているのなど気に留めるでもなく、ブルーグレーの体を丸めてもう心地よさそうにしている。
「ロシアンブルーって大人しいし声小さいしで、家で飼うには向いてるっていうけど、宍戸んちのは随分おてんばさんやね」
「オスだからお転婆ってのはあれだけど…、いつもは大人しいんだぜ？なあ、景吾」
そう言って覗きこめば、景吾は小さく舌を出し宍戸の鼻先をぺろりと舐めた。そして、そのまま満足そうに眼を閉じる。
「人見知りすんのかいな？」
先ほどとは違って落ち着ききった猫に、忍足は拗ねたように眉間に皺を寄せる。
「どうだろ。ジローが遊びに来た時は、散々撫でまわされてもじっとしてたのにな。忍足こいつの事苛めたんじゃねーの？」
そう言って、宍戸はからかうように笑った。
「ンな事せえへんよ。っつーか、来たばっかでいきなりアレだったやろ？」
「そういやそうだな」
宍戸はそう言って、景吾を膝に乗せたままソファに腰掛ける。決して広くはないその場所で、景吾はもう一度身を起し心地よい姿勢をとると、そのまま丸くなり瞳を閉じる。
「結構神経質なところもあるから、忍足の何かが癇にさわったのかもな」
「…くー、猫の分際で生意気な」
「そうそう生意気って言えば、コイツって面白いんだぜ？外を散歩した後は、俺が足拭いてやらなきゃ家の中入らねえの」
「ええ子やん」
半分外飼いにすると困るのがその点だ。それを自ら気をつけるなんて随分頭の良い猫だと忍足は感心する。
「えー？俺、別に気にしねえもん。こんな小さい足大して汚くもならねえだろ」
「まーな。人それぞれやろうけど…。じゃあ何、帰ってくると入口の前で待ってるんか？」
「そ。猫の入り口前にちいさなマット敷いてやって、そこでちょこんと座ってるの」
なー、景吾？と頭を撫でれば、景吾は薄らと眼を開きごろごろと喉を鳴らした。そしてその手のひらに頭を擦り寄せる。
「そんな頭ええ猫なら、靴とか履きそうやな」
「靴…？」
「そうや。小さな靴4つ作って履かせたらカワエエやろな？」
「靴かァ、考えたこと無かったな。でもこいつなら澄まして履いてそう」
「そうやろ？作ったったらええんじゃ…」
言いかけた忍足はそこで息を呑む。青く鋭い瞳が自分を見据えていたのだ。
『余計な事言うんじゃねえよ』
そんな声が聞こえる気がする。
抱きかかえる宍戸からは見えないラインで鋭く威嚇する猫は、飼い猫というにはあまりに可愛げがない。忍足は肩を竦めた。
「ま、靴は冗談にしても…。ここまで頭イイと、ペットって気はせえへんね」
「そ？結構甘えん坊で可愛いんだぜ？」
「甘えん坊ねえ」
チラリと視線を向ければ、宍戸にすり寄る合間にしっかり睨んで寄こす横顔。
足を拭かせる行為さえ、甘えの表現だというのならば。
「あー、怖っ」
本性を隠し甘えてみせて、相当に嫉妬深い。
人間顔負けの独占欲に、忍足は苦笑いする。