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宍戸視点。
嵐のような 2 (跡×宍)
「奪うぜ、お前を」
跡部の言葉に俺は呆けて振り返った。
「知ってるぜ。誰かに攫われてしまいたいって、嵐のように奪ってくれたらって思ってたんだよな?」
俺は思わず息を呑んだ。「何で」と聞き返しながらも、本当はそれをずっと待ってたから。跡部に奪って欲しいとかそんな事は少しも考えた事は無かったけれど、正直誰でも良い、何でも良いからこの状況を消し去ってくれって、ずっと思ってた。
男なのに、もういい大人なのに、自分の事すら決められない自分に吐き気すら覚えた。それでも、大して長くもない付き合いだったあの人との縁を切る事が出来なかったのは何でだろう。
上っ面だけの優しさに騙されて、どれだけ手を上げられたことか。不誠実な彼にもう何度も泣かされていた。きっと彼は、俺でなくたって良かったんだろう。ただ自分がいなければ俺はダメなんだって思いこむことで、自尊心を保っていたような男。
いくつもの嫌な出来事に今度こそ別れようと思えば、思い出したように優しく抱きよせる。そんな気まぐれに喜んで、いくつもの「嫌」を帳消しにしていた。無理に帳消しにしていたんだ。
なんでそこまであの男に拘る必要があったのか、今となっては分からない。
ただあの頃は彼だけが自分の運命の人のように感じて、彼を手放してしまったらもう誰も自分の事なんて愛してくれないんじゃないかって思いこんでた。彼が、本当に俺の事を愛してくれてたことなんか一度だって無かっただろうに、俺は本当に大馬鹿だ。
でも、それくらい特別だった。初めて素肌を晒した彼は、あの頃の俺の世界の中心だったんだ。
「宍戸?おい、聞いてるのか?」
「…あ、何?」
「お前なァ」
跡部が俺の頭を軽く叩く。
「冬休み!どうするのって話だよ」
ジローがテーブルに肘をついてぐっと顔を寄せる。ふくれっ面の頬がつるつるしてて、つい指で突いてしまう。
「宍戸!も~」
怒ったように身を引きながらも、ジローはちっとも怒っていない。
隣に座る跡部も岳人も、忍足も滝も穏やかに笑ってる。
あの日の騒動から、俺はあの人に一度も会っていない。
きっと跡部の描いたシナリオ通りにあの出来事は彼の耳に入り、プライドの高い彼はきっと激怒しただろう。でも相手は跡部だし、何より、感情をむき出しにする自分を誰かに見せるなんて格好悪いと思う彼の事だ、一度だって連絡を寄こさなかった。
それだけの存在だったんだ、俺は。
「ほんま、今日は何やぼんやりしとるね、宍戸」
「そ、かな?」
「そうだよ。疲れた?今何かバイトとかしてたっけ?」
忍足と滝も、遠慮がちに尋ねてくる。
「んー、別に。しいて言えばテスト勉強疲れ?」
「そう?それなら猶の事、ぱーっと遊んでそんなのふっ飛ばさなきゃ」
滝は安心したように、手にした旅行パンフレットへ視線を戻した。
本当は、俺の心ここにあらずには理由がある。
あの日この場所で跡部に「奪って」貰い、あの堂々巡りの生活から抜け出せた俺は本当にホッとした。自分の不甲斐なさとかそんなのもどうでも良いと思えるくらい、俺は平穏な日々を取り戻して安心した。
不安や嫉妬や恐怖。彼と付き合っていた時の自分を振り返れば、とても恋愛とは思えないような感情に支配されて、何が良くて彼と付き合い始めたのかも、もう思い出せない。
でも恋愛って大体が思い通りに行かなくて、多かれ少なかれそう言った負の感情に振り回されるのだとしたら、今の俺って何なんだろう。今の俺達の関係って何なんだろう。
もう、3か月過ぎた。あの日から、跡部は本当の恋人のように俺に接する。
木曜以外も、予定さえ合えば一緒に過ごすことが多い。会えない日は結構マメにメールし合って、電話で他愛もない会話を交わしたりする。ほんの少し、照れながらも素肌に触れあった。
俺は、こんな穏やかな恋愛を知らない。
というか、これは恋愛なんだろうか?
俺は跡部を…。
「悪い、続きは適当に決めてくれ。先に抜ける」
隣の跡部が、テーブルに広げた手帳を仕舞って腰を上げる。
「跡部?」
俺が袖を引いたら、跡部が苦笑した。
「例のあれだ。この前話した」
「ああ、あれか」
跡部家好例のクリスマスパーティーの打ち合わせとか何とか言ってた気がする。
「ったく、かったるい話だけどな」
軽く舌打ちした跡部。
ふと、その横顔が心なしか疲れて見えるのに気づいた。年々男らしくシャープになっていく頬のラインだけど、今日は少し影が濃い気がする。
「じゃあな。宍戸、帰ったらメールしろよ」
「おう」
跡部は俺の頭を優しく撫でてから、背中を向けた。
俺達は、言葉もなくその背中を見送る。
示し合わせたみたいに無言なのは、みんな跡部の雰囲気がいつもと違うのを感じとったせいかもしれない。
「…何か、跡部疲れてる?」
ジローがぽつりと言った。その言葉に岳人も小さく頷く。
「最近、だんだん疲労が濃くなるっていうか」
「そうやね。何や、ちょっと前の宍戸を見てるみたいや」
「…俺、あんなだった?」
「言われてみればそうだね。宍戸も何だか日に日に影が濃くなる感じで」
滝が苦笑する。
「そうそう。彼氏に会いに行きます~って笑って去る背中が、言葉を裏切ってむっちゃ小さく見えてな」
忍足も、昔話をするみたいに遠い眼をして笑った。
「あっ、」
滝と忍足の言葉に、俺は思わず立ち上がる。勢いで椅子が倒れてしまった。
「え?何?どうしたの宍戸」
ジローが慌てて椅子をおこしてくれたが、俺は礼を言うことすら出来なかった。
分かってしまった。跡部の疲れている意味を。
跡部の背中は可哀そうなくらい小さく見えて、途方に暮れたような足取りは全く前へ進んでいない。彷徨う様な姿に、俺は胸をぐっと押しつぶされそうになる。
みんなが言うあの頃の俺の姿。疲れたように小さくなる背中。
その理由を俺は覚えてる。
あの人との関係に行き詰って、負の感情に囚われてた日々。好きも嫌いももう分からなくなって、ただ彼の機嫌を取ることに執着していた。
だから、跡部の気持ちが手に取るように分かってしまった。
「跡部、ごめん…!」
俺は、走りだす。
「宍戸!?」
岳人が叫ぶけれど、俺は振り返らなかった。
今思えば、あの頃の俺はもう一度彼に「好きだ」と言って欲しかった。ただ、そう言って優しく抱き締めて欲しかったんだ。
なあ、跡部。今度は俺が嵐のように。
「跡部!」
「…宍戸?」
跡部が振り返る。精彩を欠いたその表情に、俺は何度もごめんと言いたくなる。
跡部は、本当はこれから打ち合わせなんて無いんだ。
でも、言い訳を作ってでも俺の傍から離れたかった。離れざるを得なかったんだ。
不安に押しつぶされそうな跡部。
ごめんな、すぐに気づいてやれなくて。
俺は、薄暗い先の見えない世界から救ってもらったのに。人は大げさだと言うかもしれないけど、俺にとっては本当にどうしたら良いのか、どうしたいのか分からない日々で、あの日嵐のように手を引いてくれた跡部に、本当に救われたのに。
振り向いた精気のない瞳に、涙が込み上げる。
俺は、跡部の胸に飛び込んだ。
「おいっ!?」
跡部は慌てて受け止めて、俺の顔を覗き込む。
「どうしたってんだ、宍、」
呆れたような声を打ち切るように、俺は激しく唇を奪った。
息を呑んで、跡部が硬直したのが分かる。
そのまま背中に手を回し、俺は角度を変えつつその唇を舌先で割って行く。
跡部はくぐもった声を漏らして、俺の背中を抱き寄せた。
「好きだよ、跡部」
「…宍戸」
赤くなった唇を、そっと指先で拭ってやる。跡部は少し震えてた。
「ずっと、ちゃんと言わなくてごめんな」
俺のこと好き?って聞くのがどんなに難しいことか、俺、誰よりも知ってたのに。聞けない苦しみを誰より知ってたのに。
「宍戸…」
「跡部、大好きだ。だから何も不安がらなくていいんだよ」
「宍戸」
強く抱きしめられて、俺の肩口に跡部は顔を埋めた。
温かな感触に、俺は手遅れにならなくて本当に良かったと溜息をつく。
振り返ると、あいつ等が指さして笑ってる。
カフェテリアの人々は、驚いたように見ながらも素通りしてった。
見せつけるくらいが丁度いい。
ほら、跡部。
俺はちゃんとお前が好きなんだよ、分かってるか?
俺を見守ってくれて救い出してくれたお前を、こんなにも好きなんだ。ここにいる大勢の人たちが証人だ。
「跡部、大好きだ」
俺は繰り返す。
「…もう、分かった」
跡部は相変わらず顔を隠しながら、鼻声の苦笑交じりでそう言った。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
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