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俺様シリーズ番外編。


俺様!の舞台裏(跡×宍)

「あああああ。何てこった!宍戸が、宍戸が…」
「…皆まで言うな、侑士」
ドア1枚挟んだ向こうからは、あえかな声が漏れ聞こえてくる。

調子に乗る跡部坊ちゃまが面白く、ついつい宍戸のクラスメートと共謀して宍戸を跡部のクラスに放り込んだはいいが。その状況の所為でまさかこんな事になろうとは。

密室に二人きり。そして、跡部はとても手が早かった。

部室から漏れ聞こえる声に、岳人は焦りながら言う。
「…ほ、ほら侑士、気にするなよ。宍戸も満更でもなさそうだぜ?」
しかし、何の慰めにもならない。わざわざ二人きりになる時間を増やしてしまったのはやはり…。
「宍戸、俺の所為なんか…?」
「侑士…」
まあ、確かに。自分の軽はずみな行動の所為で、友達がケツ掘られる切っ掛けになったのだとしたら、後味は悪い。面白がって宍戸を跡部のそばにやったりしなければ、一緒に部活に向かうこともなく、こんな事にはならなかっただろう…。
二人は呆然と立ち尽くす。

「お二人ともどうしたんです?入らないんですか?」
背中から、涼しげな声が掛けられる。
「…日吉?!」
「はい」
返ってきたあまりに素っ頓狂な声に、日吉は首を傾げる。
そしてますます不可思議なのは、部室の入口を塞ぐ様に立った二人が、まるでカニのように両腕を動かし、右往左往し始めたのだ。
「わーわーわー!」
岳人が叫び出す。
「わ、わーわーわー!」
それに続くように、忍足も声を張り上げる。
真夏でもないのにダラダラと汗を流す二人。日吉は嫌な答えに行き当たった。
「…そういうことですか」
まあ、朝の状況と跡部の性格を考えれば、この結果は容易に想像できただろう。
「じゃ、頑張ってください」
部室に入れないことを悟った日吉は、あっさりと来た道を戻ろうとする。入れないのなら、自分の教室ででも着替えるしかない。
正直、跡部と宍戸がどうなろうと知ったことではない。男同士とか、しかも身近な人間がとか、そんな常識はあってないようなもの。氷帝学園とはそういうところだ。最初ばかりは驚きに開いた口が塞がらなかったが、当然のように次々と出来上がる同性カップルに、最早、驚く時間さえ勿体ない。

「…ウス」
そして、今度は。
「…か、樺地?!」
「樺ちゃんまで…!」
「樺地…」

のっそりと現れた樺地の姿に、岳人と忍足はまたしても「わーわー!」と声を上げ始める。加えて例のカニダンス。
「わーわー!」
今度はそこに日吉も加わった。
「日吉…!」
岳人と忍足には、その気持ちが痛いほど分かる。
レギュラー唯一の良心というのか、樺地だけは氷帝色には染まらず、純粋なまま卒業して欲しかった。ましてやこれだけ慕っている跡部がだ。まさか神聖なる部室で、男である宍戸とナニをいたしているなんて!
必至のダンスを、樺地はつぶらな瞳で見つめる。
そして、ゆっくりと首を振った。
「…樺地?」
三人はマヌケな格好で動きを止めた。
「大丈夫…です。跡部さんが幸せなら、それが、一番…です」
「あ、そう…?」
樺地は全て理解していた。そして、それが跡部の幸せと言い切るのだ。
「樺地が一番の跡部フリークってことか…」

そして、無言になった四人の後からは、相も変わらず艶めかしい声と物音が聞こえる。からかうような跡部のバリトンは、もう突っ込むのも嫌になるくらい只のエロ親父だ。
「…ばかばかしくなってきた」
岳人の疲れた声に、「そうやね」と忍足も同意する。ただ着替えるだけなら、自分らの教室で何とかなりそうだ。
日吉と樺地も顔を見合わせるが、これと言った妙案もなく先輩たちに従おうかと頷き合った時だった。

「あ、先輩方に日吉たちも。早いですね~?」
「鳳…」
満面の笑みで駆け寄ってくる鳳。
その姿に、全員の反応は早かった。

「わーわーわー!」
今度は樺地までもが。
音域の違うそれぞれの声は、見事なまでの不協和音だ。
そして四人の奇妙な動きに、鳳はぴたりと足を止めた。
「何してるんですか?」
明らかに不自然だった。まず、メンバーが不可解。忍足&岳人に日吉が加わるあたりに作為的な何かを感じる。
そして樺地。草食動物のような愛らしい瞳は、明らかに戸惑いを見せている。
「部室で、何か?」
そこまで入口を固められては、何かあると白状しているのと同じである。

結果。

「わーわーわー!」
「わ~、宍戸さーん!」
通りかかったバスケ部が、ギョッとした顔で動きを止める。
「…お前ら、何やってんの?」
「わーわーわー!!」
留まってしまった同級生三人に、忍足はなおも声を張り上げる。
「何?また跡部コールの練習させられてんの?」
「ああ、そうや!」
忍足はヤケクソ気味に答える。
「…こいつなんか、泣いてるぜ?」
座り込んで泣き喚く鳳に、バスケ部員は同情の眼差しだ。
「流石、跡部だな。泣くまで応援コールを強制するとは…」
そう言って、なかなか立ち去る気配のないメンバーに、岳人が痺れを切らす。
「俺たちのことは、気にしないでくれ!」
「お、おう」
大きな目を血走らせてカニダンスする岳人に、もう三人は何も聞かなかった。

「…やっと行ってくれましたね」
「ウス…」
だらだらと汗を流す樺地と日吉は、その場に腰を下ろす。極度の緊張に、脂汗が混ざっている気さえする。
「もー、いつまでサカる気だよ!」
扉の奥では、まだまだお盛んだ。
「こいつも、うるさいやっちゃ…」
最初は哀れに思った鳳も、ここまでくるとウザったい。
「泣いたって仕方ねえだろ!お前、朝『宍戸さんが決めた人なら認めます』とか言ってたじゃん?!宍戸だって良さそうだし。そもそもお前には全く気が無かったんだから、諦めろ!」
「わ~!」
「余計に泣かせてどうするんですか」
冷たい日吉の視線に、岳人は舌打つ。

「何にしても、早よう終わらせろや」
「ほんと。これだから『俺様』は…」

宍戸の喘ぎ声は止まることを知らず、鳳の泣き声は天高く響き渡った。

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