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甘いです。本当に甘いんです。ゲロ甘です(笑)


甘く、甘い誕生日 (跡×神)

「神尾、ほら」
そう言って跡部が差し出すスプーンを、俺はただ口を開けて待つ。
ぱくっと咥えた途端口に広がるのは大好きなストロベリーの香り。
甘酸っぱいアイスクリームを俺はゆっくり味わう。
「あーん」
もっとちょうだいと催促するように口を開くと、跡部は優しく笑ってスプーンを差し出す。
今日は跡部の誕生日。
なのに何で俺が跡部にアイスクリームを食べさせてもらっているかは…俺にも分らない。

誕生日プレゼントは何が欲しい?と聞いたら「1日俺の家で過ごせ」と言われた。きっとただのんびり過ごすだけでは済まされないだろうと、一体どんな無理難題を突きつけられるのかと恐る恐る家に来てみれば、こんな調子だ。
「なあ跡部?これじゃあ俺の誕生日みたいじゃねー?」
アイスクリームを食べ終えた俺は、今度はふかふかの大きなソファに跡部の膝枕で横になる。
何で跡部の誕生日なのに、俺がこんな優雅な時間を過ごしているんだろ?
今日は朝からほんとに至れり尽せりなのだ。
だって午前中はテニスして、お昼は跡部家の庭園で豪華な手作りサンドイッチを食べさせてもらって、午後は跡部専用のシアタールームでDVDの新作を見せてもらって…。
しかも3時のおやつまであって、なんと跡部自ら紅茶を淹れてくれた!
やっぱり何度考えても、これじゃまるで俺の誕生日だよな?
そう聞いても跡部はただ静かに微笑んでるだけ。
いつもと違って何故か「俺様」じゃない跡部。
いつも以上に大人びて感じる。

何度も頭を撫でる優しい手に、俺は段々眠たくなってくる。
「神尾。眠いのか?」
甘く、優しい声音。
「うん、ちょっと…」
もぞもぞと体を動かすと、俺は跡部の腰に抱きついた。
あんまり跡部が優しいから、俺までついつられて甘えモードになってしまう。
自分で言うのもなんだけど、実は俺って甘えたいタイプなんだよね。
寝ぼけた頭の上で、ふっ…と跡部が笑ったのを感じる。
いつもはバカにしたように笑われることが多いから、今日はなんだか不思議な気分。
普段は素直に甘えられないのに、自然とやりたいことが出来てしまう。
跡部は気付いてないかもしれないけど、こんな風に抱きつくなんてきっと始めてだ。
「寝るなら風呂で温まってからにしろよ。用意してくるから。」
跡部は膝に乗った俺の頭をそっとソファに下ろすと、俺の髪をくしゃっと撫でて部屋を出て行ってしまった。
「…あとべ~。ここはおでこにチュウだろー」
もう見えない背中に俺は呟く。
いつもと違っているといえば、今日は一度もキスしてない。
いつもなら所構わず、それこそ街中でだって気が向いたらキスする奴なのに、今日は一度もキスしてない。
「キスしーたーいー」
周りの目を気にしない跡部に俺はいつも文句を言ってるけど、別にキスが嫌いな訳じゃないんだ。むしろ好き。
「こーゆー日にキスしろよな…」
バカ。
足元のクッションを腹立ち紛れに蹴飛ばすと、ポンっと弾んで部屋の片隅に集められた紙袋の山にぶつかる。
誕生日に合わせて郵送されてきた、ファンからのプレゼントだ。
「跡部、開けないのかな…」
それらは手を付けられた様子もなく、ただ雑多に放り込まれてるようだ。
綺麗な包装紙やリボンがあちこちからのぞき、その内いくつかは運ばれてくる間にリボンが緩んでしまったようだ。
「…リボン」
何本かの上品なリボンに目が行く。
臙脂のベロア生地で縁が細かな黒レースのもの。
淡い桃色と白の豪華な総レース生地のもの…。
プレゼントの山に近づくと、それらの解けてしまったリボンを手に取る。
「そうだ…。せっかくの誕生日だし」
ものすごくベタな手だけど。
今日なら素直に出来てしまう気がする。
きっと跡部は、こーゆーの好きだと思うんだよね。

俺は用意を終えると、跡部のベッドに潜りこむ。
頭まですっぽり布団を被れば準備万端。

「神尾?」
ドアの開く音がして、跡部が呼ぶ声が聞こえる。
「お前、風呂入ってから寝ろって言っただろーが」
毛足の長い絨毯のせいで足音は聞こえないけど、声が段々近づいてくる。
「おら、起きろ。神尾?」
すっぽり被っている布団が、勢いよくはがされる。

― ねえ、喜んでくれるかな?

「…神尾!?」
ベッドに丸まる俺の姿を見て、さすがの跡部も驚いたようだ。
いつもは涼しげな眼が見開かれている。
「…プレゼント何もないから。俺…好きにして?」
もっと冗談っぽくするつもりだったのに、思ったより恥ずかしくて。
もの凄く声が掠れて、小さくなっちゃった。

生まれたままの姿に、髪を飾る桃色と白のレースのリボン。
そして、首には臙脂に黒レースのリボン。

頭のてっぺんからつま先まで、跡部の視線が辿っているのを感じる。
…呆れられたかな…?
無言の跡部。
照れくさいというか、居たたまれないというか。
俺は柔らかな羽毛布団を跡部の手から奪い返すと、首元までたくし上げた。
「…もらって、くれないの?」
不安になってきた。
もしここで笑い飛ばされたら、俺恥ずかしくてもう跡部の顔見らんない…!
俺はきつく目を瞑る。

しばらくすると、温かな感触が頬を覆った。
「神尾」
「…あとべ?」
ゆっくり瞳を開くと、すぐ目の前には跡部の整った顔が。
落ちる前髪が、俺の額をさらりと撫でる。
「いいのか?神尾」
頬を包む熱い手のひらに、跡部でも緊張するのかなって嬉しくなった。

キスは大好きだけど。
まだその先は知らなくって。
すごく怖いけど。
跡部が大好きだから。

「俺のこと、抱いて、ください」

こんなプレゼントしかあげられないけど。
俺的にはもの凄い決断だから。
「泣いちゃっても、返品しないでね」
すでに涙声の俺に苦笑しながら、それでも跡部は優しく俺を抱きしめる。
ゆっくり解かれるリボンに、俺の胸のドキドキは心臓が飛び出しそうなくらい大きくなっていった。

                       ***      

「神尾…?」
汗に濡れた前髪をそっと掬っても、その瞳は開かれない。
― 泣いちゃっても返品しないでね、か。
「返品なんてする訳ねーだろ」
一体何ヶ月待ったと思ってるんだ。
ただ愛する人と穏やかな時を過ごしたかった、誕生日。
意地っ張りな自分達は、お互いなかなか甘える事ができないから…。
「一緒に過ごすだけでも十分幸せだったんだぜ?」
まさか、こんなプレゼントをもらえるなんて。
「ありがとう。神尾」
一生お前を大切にするから。
小さく寝息をたてる唇に、そっと口付けた。

 


 

今ごろ跡部誕生日ネタ…。ウチは思いつきで書くので常に季節感ゼロです。
そしてベタですみません。でも一度やってみたかった、あたしをあ・げ・るネタ。

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