計画的願望 （塚×不二） 2007/01/24 (Wed)

高校３年の塚不二。
今まで一切我侭を言わなかった手塚の、唯一の願いとは…。

計画的願望　（塚×不二）

そろそろ大学受験に向けて本腰を入れ始める6月の終わり。
ついさっきまで、英二と夏期講習は何処へ通うかなんて話していたところなのに。
志望大学なんてとっくに決めて、担任に提出しているのに。
君はそんな事を、事も無げに言うんだね。
「不二、卒業後は一緒にアメリカに行くぞ」
なんて。

中学2年の春から付き合い始めて4年間。
ケンカして離れたり、仲直りしたりと結構波乱に満ちたお付き合いは、いつだって僕が揉め事の原因だったように思う。
プライドや嫉妬やその時々の感情で僕は手塚を振り回していたけれど、手塚はいつも僕の意見を尊重してくれた。
もちろんお堅く融通の利かない手塚は、間違っていることは間違っているとはっきり言ったけれど、今思えば僕に対しての「願望」は一度も口にしなかったような気がする。

正直、付き合っていくにつれて最初の頃のような新鮮さはなくなって、むしろ面白みのないお堅い手塚と過ごすことが退屈に感じた時期もあった。
距離を置く僕を責めることもなく、ただじっと戻ってくるのを待っていた手塚。
君はそうやって僕への「お願い」を口にしない事を願掛けのように、この日までとっておいたの？

少し遅めのプロ進出を決めた手塚が、卒業と同時にアメリカに発つだろうことは以前から聞いていたことだし、遅いと思ったくらいだった。
「卒業後は一緒にアメリカに行くぞ」
だなんて、まるで僕の卒業を待っていたかのようだ。

「『一緒にアメリカへ行かないか』じゃないの？僕の意思は聞かないの？」
尋ねる僕に、手塚は何も言わずただ眉を上げ、おどけた様に口許だけで微笑んだ。
まるで「今まで一切我が儘を言わなかった俺の、たった一つの願いも聞いてくれないのか？」とでも言いたげだ。気のせいだろうか？

ねえ、手塚。
君は付き合い始めたあんな子供のころから、今日という日のシナリオを描いていたの？
散々君を振り回した僕は、君のたった一つの「お願い」を聞いてあげなければ、まるで人非人じゃないか。

今、僕はどんな表情をしているのだろう？
僕を見つめる手塚は、緊張しつつもどこか確信を持った眼をしている。
断られるなんて思ってなさそうな眼だね。
いいよ、わかった。
乗ってあげる。君の計画的願望に。
「僕アメリカの大学なんて手続き分からないから、責任持ってやってよね」
素直じゃない返事に、手塚はホッとしたように微笑む。
手塚のことだから、断ったってどうにかしたんだろうけどさ…。
いざって時に、梃子でも動かない頑固さは部内一だよね。
「仕方ないなぁ」
長年かけて仕掛けられた甘い罠に、僕は未来を委ねた。