忍者ブログ
★初めてお越しの方は、お手数ですが「はじめに」を必ずお読みください。★
[31]  [30]  [29]  [28]  [27]  [26]  [25]  [24]  [23]  [22]  [21
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

前日アップ済み「夢より優しい 前編」の続きとなっております。


夢より優しい 後編 (跡×宍)

「亮…」
頭の上から、優しい声が聞こえる。
さっき暗闇の中で、遠くへ行ってしまった景吾。
手を伸ばしても届かなかったあの姿。
景吾が戻ってきた…?
景吾がまた、俺のことを優しく呼んでくれている?
うっすら明るさを取り戻した視界の向こうに、自分を覗き込む影を感じる。
景吾なのか?
「亮。お前が好きなんだ…」
なんて都合のいい夢。
景吾が自分を好きだなんて言ってくれるはずがないのに。
もう少し眠っていられたら、この甘い夢の続きを見られるのだろうか。
せっかく幸せな気分なのに…。
現実に引き戻される…。

「亮。目が覚めたか?」
目覚めると、何も変わらない現実にがっかりするのが俺の日常なのに。
「亮」
景吾がいる。そして俺を呼んでる。
しかも名前で。
「…な、んで?」
「大丈夫か?お前うたた寝しながら泣いてたぞ」
こんな優しく微笑む景吾は知らない。
3年前のあの時から、景吾はいつも怒ったように俺を見ていた。
こんな景吾は、知らない。
「夢…?」
そうとしか思えない。景吾が俺に微笑むなんて。
あの日校庭で腕を払われた時から、俺に微笑む景吾なんて見たことないのだから。
「夢じゃねーよ」
笑って俺の頬をタオルで拭ってくれる景吾。
そんなの知らない。
こんな事ありえない。
だって。ずっと…。ずっと…!
「俺のこと嫌いなんだろ!?こんなことするな!!」
なんて悲しい。何て虚しい。
どこまでが夢だろう。
「亮…」
今度は優しく髪を梳いてくれる。
いつも夢の中の景吾は優しかったけど、目覚めた後で悲しくなる。
はやく目覚めなきゃ。
嬉しければ嬉しいほど、目覚めた後の悲しみは大きい。
「こんなの夢なんだよ!景吾が俺の事好きだなんて言うはずないんだ!早く目覚ませよ!!」
優しい腕を払うように手を振り上げる。
きっと儚い幻想は霧のように散ってしまうから。
「え…!?」
それなのに、手首が強い力で掴まれる。
「亮、俺の眼を見ろ!夢じゃない。分かるか?」
片手で軽々と俺の両手首を掴むと、横になったままの俺にゆっくりと覆い被さってくる。
「景、吾?」
額に触れる温かさ。
瞼に触れる温かさ。
夢じゃ…ない。
だって、毎晩夢に見た優しいキスは、いつだって温度がなかったから。

                    ***

呆然と俺を見上げる亮に、俺は何から話せばいいのだろう。
俺が名を呼ぶのを夢だと言って聞かなかった亮。
俺が自分のことなど好きなはずはないと言って、悲しそうに顔を歪める亮。
こんなにも溢れる俺への想い。
今更「俺の事好きか?」なんて聞くまでもなく。
とりあえず、何より伝えなければならないことは…。
「あの時は酷いこと言って悪かった。お前が好きなんだ。許してくれないか?」
3年もかかってしまった。

                    ***

「景吾…。景吾!景吾っ!」
俺は景吾の名前をたくさん呼んで、その頭を抱きしめた。
あの時から、口にすることを禁じられてしまった名前。
どれだけ一人ぼっちの部屋で泣きながら呼んだ事だろう。
「…景吾、寂しかった」
もう、あんな風に手を払われることは無いんだな。
「悪かった」
抱き寄せる腕がいつの間にか逞しくなってる。
あの頃は俺の方が少し背が高かったのに。
いつの間にか追い越されたな。
「景吾…」
「亮…」
「長かったよ…。バカ」
「…悪かったな、亮」
景吾が両手で挟むように、ゆっくり頬を撫でてくれる。
「相変わらず小さな顔だ」
「そうか?」
今度はそっと瞼に触れる。
「相変わらす大きな瞳だ」
「…でも目つきは悪いんだろ?」
最近の口喧嘩で景吾によく言われてた台詞だ。
景吾がクッと喉の奥で笑う。
「ケンカなのに、大きくて綺麗な瞳だ、なんて言えねーだろ?」
「…そりゃそーだ」
景吾の言葉一つ一つに体中が幸せで満ち溢れる。
夢で見たよりずっと。
景吾は優しい。カッコいい。そして…イヤラシイ。
だって何の前置きもなく、俺は唇を奪われた。

「ジローと忍足に礼を言わなきゃな」
ソファーの隣に腰掛けて、俺の髪を弄びながら景吾が呟く。
ジローはきっと全てに気付いて見守っていてくれたから、ちゃんと報告しなければとは思っていた。
でも、なぜ忍足?
「今、部室を立ち入り禁止にしてくれているのも、練習の指示を出してくれているのも、多分忍足だからな」
「忍足がなんで?」
「居合わせたからさ。お前がここで泣いていたところにな」
「……」
まさか部室で居眠りしている時まで、景吾の夢を見るなんて思わなかったから油断した。
しまった、と口を閉ざす俺に景吾は事も無げに言った。
「構わないだろう。明日には全部員に公表するつもりだし」
「…公表?」
いまいち話が掴めない俺は景吾の表情を窺う。
すると、楽しそうに微笑んで俺の耳元に顔を寄せる。
「お前は俺のものだって、公表するからな」
「!?馬鹿なっ」
「ジローをはじめ、お前を狙ってるヤツは多いからな。釘をさすいい機会だ」
「!?」
その不敵な笑みに、俺は文句を言おうと開いた口を噤んだ。
こういう時の景吾は、絶対に人の意見を聞かない。
長年見つめてきたからよく分かる。
それに。
やっと手に入れた幸せを、ちょっと見せびらかすのも良いかな、なんて。

PR
この記事にコメントする
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
はじめに
ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
■当サイト文書の無断転載はご遠慮ください。
■当サイトはリンク・アンリンクフリーです。管理人PC音痴の為バナーのご用意はございませんので、貴方様に全てを委ねます(面目ない…)。        
   
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
通販申込
現在、通販は行っておりません。申し訳ございません

・その頬は桜色に染まる(跡宍)400円
・社会科準備室(跡宍)500円


※詳しい内容は「カテゴリー」の「発行物」からご確認ください。

◆通販フォームはこちら◆
拍手ボタン
カウンター
お世話様です!サーチ様
ブログ内検索
プロフィール
HN:
戸坂名きゆ実
性別:
女性
自己紹介:
私、戸坂名は大のパソコン音痴でございます。こ洒落た事が出来ない代わりに、ひたすら作品数を増やそうと精進する日々です。宜しくお付き合いください。
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.