お弁当 （リョ海） 2007/01/23 (Tue)

ラブラブなリョ海です。

お弁当　（リョ海）

あーん、と大きく口を開け首を伸ばす姿は、まるで餌を欲しがる鳥のヒナだ。
そんな越前の姿に呆れつつも、俺は仕方なくお弁当のおかずを口許へ運んでやる。
土曜のレギュラー練習日。
お昼休憩をとるメンバーたちは、コートの周りの木陰に座り込みそれぞれのお弁当を広げている。
「…越前。やっぱりお前の分も作ってもらった方がよかったんじゃねーか？」
「そう？」
自分と越前。一膳の箸で食事をするとなると、かなり忙しなく腕を動かす事になる。
箸を持たない越前は、ただ口を開け待っているだけなので気楽なものだ。
こんな状況に至ったのは、昨日の越前の台詞がきっかけである。

生意気な後輩に押しきられるように『先輩後輩以上恋人未満』な関係を始めて1ヶ月。
部活後自宅へと顔を出すようになった越前は、母さんのお気に入りである。
昨日も居間で母さんお手製のケーキと紅茶で空腹を満たしていると、さっさと食べ終えた越前は、部活では決して見せることのない愛想の良い笑みを浮かべ雑談を始める。
「いつもご馳走様です。穂摘さんはホント料理が上手で海堂先輩が羨ましいっス」
一体お前は誰だーっ！と突っ込みを入れたくなるような台詞を言う越前に、母 穂摘も満更でもなさそうに紅茶のおかわりを淹れている。
「ウチの母さんは料理が全くダメで、お弁当なんて作ってくれないんスよ」
そんな事は無いだろう？と思いつつ、物を食べながら話すなどという行儀の悪いことが出来ない自分は蚊帳の外で話は進んでいく。
「あら、じゃあいつもお昼はどうしているの？」
心配そうな声に、寂しげに笑った越前は伏し眼がちに答える。
「コンビニや購買でパン買ったりっスね」
その演技じみた台詞と表情に、何か嫌なものを覚える。
越前がこんならしくない会話をするには、何か裏がある気がする…。
「あら、育ち盛りにその食事じゃ物足りないわね。もし良かったらリョーマさんのお弁当も作らせてもらおうかしら？一人分も二人分も大して変わらないわ」
そう言って瞳を輝かせる母さんに、越前は「いえ…」と首を振る。
「いつもお邪魔をして迷惑かけてるのに、これ以上は…」
「まあ遠慮なさらないで。でしたら薫さんのお弁当を少し多めに作るから一緒に食べたらどうかしら？」
良い考えが浮かんだというように手を叩いて喜ぶ母さん。
「いいんですか？ありがとうございます」
嬉しそうに礼を言う越前。

そして今に至るのである。
「母さん、料理多めに作ったのに何で箸を一膳しか入れなかったんだ…」
いつもどこか抜けている母さんに、今回ばかりはグチを溢したくなる。
しかし昨日の越前のいい子っぷりは、こうなる事を予想しての演技だというのだろうか？
そうだとしたら末恐ろしい中学生だ。
最近言動が不二先輩に似てきた気がするし…。
恐ろしい考えになって大きく頭を振ると、越前が「早くー」と声を掛ける。
我に返ると、まだ足りないとばかりに口をあけて待つ雛鳥こと越前の姿が。
「…ったく。次からは別に作ってもらうからな」
文句を言いつつタコさんウインナーを差し出すと、ぱくっと頬張り美味しそうに食べる。
「このままでいいっス！」
嬉しそうに笑う越前。
そんな表情を見たら、ついつい甘やかしたくなってしまう。
「ほら、野菜もちゃんと食え！」
プチトマトを挟んで差し出してやる。
「はーい」
良い返事で口をあける越前。

甘えてくる越前に満更でもない表情でお弁当を食べさせる海堂は、間違いなく母親似であろう。
そんな二人を遠巻きに、生温い視線で眺める先輩方。
「ラブラブだな」と乾。
「ラブラブだにゃ」と菊丸。
「ラブラブだねえ…」と不二。
おおらかな先輩たちに見守られ、今日もバカップルは世界をつくり続ける…。