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宍戸が好きなのに、素直になれなかった跡部。
ジローの宍戸略奪宣言に焦って…。

シリアス風味。もちろんハッピーエンドですv


夢より優しい 前編 (跡×宍)

「行かないで!」
真っ暗な中、手を伸ばす。
「け…ご。景吾!どこいくの…」
泣いて取り縋る手を、景吾は冷たい瞳で一瞥し、何の感情もなく背を向ける。
「いやっ…!おいてかないで…!」
小さくなる背中に、まだ幼い手を伸ばす。

                        ***

「け…ご。景、吾…」
背を向けて置かれたソファーの向こう側から、すすり泣くような小さな声が聞こえる。
ユニフォームに着替え終えた忍足は、歩み寄るとソファーを覗き込む。
「なんや、宍戸来てたんか」
横たわりうたた寝する姿はソファーの背にすっかり隠れてしまっていた。
「うん。亮ちゃん5限さぼって寝てたみたい」
自分の方がよっぽど眠たそうな声で答えるジロー。
「俺が来た時にはもう寝てたC-」
モゾモゾと着替え終えると、ジローも並んで覗き込む。
「…けい、ご」
二人の視線で目覚めるでもなく、宍戸はまたすすり泣くような声を洩らす。
「…ジロたん。『ケイゴ』って跡部の事なん?」
今度こそはっきりと聞き取れた言葉に思わず忍足は尋ねる。
「んー。多分そう」
いつもほわんとしたジローの表情。
「またあの夢見てるのかなー」
それが今は少し大人びて見える。
「あの夢って何なん?」
ジローと宍戸、そして跡部は幼稚舎からの幼馴染みである。
色々な意味で人々から距離を置かれがちの二人のことを誰より知っているのはジローなのだ。
「6年の頃かなぁ。景ちゃんが亮ちゃんのこと急に名前で呼ばなくなって…。その時もこんな寝言いってた…」
幼馴染みとは言っても、幼いころから変わらず『仲良しこよし』というわけではない。
おそらく持ち上がり組の生徒でなければ信じられない程、跡部と宍戸の仲は険悪だった。
間にジローが入ることによって何とかケンカにならない、というくらい常に言い合いが絶えないのだ。
もちろん編入組の忍足は二人が幼馴染みなどとは最初は信じられなかったクチである。
「起こしたった方がええかなー」
どう見ても夢見は良くなさそうなその姿に、忍足は一瞬迷う。
「でもなぁ、泣き顔見られてもうたって知ったら、宍戸嫌やろな…」
人の気持ちに敏い忍足は、やはり見なかったことにしようかと伸ばしかけた手を引く。
「ジロたんが起こしたり。俺は先に行っとるし」
ここは昔馴染みのジローに任せようと声を掛けると、同時に部室の扉が開く音がする。
「…ナイスタイミングだねぇー。ここは当事者にまかせよーか忍足」
入り口を振り返りながら言うジローの落ち着いた声に、いつもと違う雰囲気を感じる。
いつもニコニコと話す姿とはまるで別人だ。
「アーン?」
二人の視線を浴び、部室にやってきたばかりの跡部が何事かと近づいてくる。
「何してんだ二人して?」
揃って立ち尽くす二人の間を縫ってソファーを覗き込むと、そこには涙で頬を濡らす宍戸の姿が。
「…!?」
いつもケンカ腰で突っかかってくる宍戸の、想像すらしたことがないその涙に跡部は驚き息をのむが、その焦りに気付いたのはジローだけであった。
「…なあ?跡部。宍戸が寝言で跡部の名前呼びながら泣くんよ。ジローがここは跡部に任せた方がええ言うんやけど…」
重苦しい沈黙に戸惑い説明する忍足の言葉に、跡部はジローを見遣る。
いつも穏やかな幼馴染みはそこにはいない。
その表情は凍ったように動かず、常とは違うその空気にようやく忍足は気付く。
(ジロたん何か、怒ってる…?)
初めて見るその姿に戸惑うのは忍足だけで、跡部にとってはそう珍しいものではないのかもしれない。さして動揺するでもなく、よっぽど意外だったらしい宍戸の涙の跡に釘付けだ。
「景ちゃん。わかってるでしょ?この意味」
ようやく口を開いたジローから発せられた言葉は、今まで聞いた中で一番凄みを帯びていたかもしれない。
日頃穏やかな人間がこのような声をだすと、その効果は抜群だ。
ただ驚いてその表情を見つめる忍足と、その言葉の意味を正確に理解した上で言葉に詰まる跡部。
「亮ちゃんを泣かせたら許さないって言ったよね?…今日ちゃんと話さないようなら…」
やっぱり宍戸は跡部が原因で泣いているのか?眠りながらもこんなに悲しそうに…。
一人事態が飲み込めない忍足は、二人の表情を交互に窺うだけである。
そして、一度言葉を切ったジローは最後通牒とばかりに言い切る。
「いつまでもこんななら、亮ちゃんは俺がもらうから」
(…えっ!?)
ジローの台詞に忍足は漏れそうになる言葉を飲み込むので精一杯だ。
きっと過去にも、二人の間でこのような会話がなされただろうことは、その落ち着き具合から察せられる。
居合わせたのが空気の読める忍足だからこそ、ジローはこの話を切り出したのであろう。
跡部は感情が読めない無表情で軽く舌打ちする。
「…じゃ、忍足行こっか!」
「…!?」
一瞬でいつものほわんとした姿に戻ったジローは、手元のラケットをくるくると弄びながら、忍足に微笑みかける。
(二重人格!?)
驚きを隠しつつ、忍足はジローの後を追い扉に向かう。
言う事を言ってスッキリしたようなジローと、苦い表情ながらも何かを覚悟したような跡部。
自分が口出しすべきことではないと察した忍足は、その背中に声をかけず外へ出た。
そして今日は部活に顔を出さないだろう跡部の代わりに、咄嗟に頭の中で練習メニューをプランニングする。
きっと今自分にできるのはこれ位だろうと、忍足は足早にコートへ向かった。

                        ***

「宍戸…」
ソファの傍らに片膝をつき、指先を伸ばすとそっと涙の跡に触れる。
軽く開いた口許は幾分シャープにはなったが、まだあの頃の幼さも残っていた。

小学6年の夏。
宍戸の姿を見ると鼓動が高鳴る自分に気付いた。
半袖シャツから覗く白い腕や、体育着の短パンから伸びるほっそりとした脚。
背中に届くまでに伸びた黒髪が風に吹かれて漂わせる甘いシャンプーの香り。
あらゆるものが今までと違う色で見えてくる。
「けいご!」
放課後の校庭で、弾ける笑顔で腕をつかまれた時、初めて鼓動の意味に気付いた。
はっきりと欲情していた。
自分と同じ年の少年に、しかも大事な大事な幼馴染みに。
熱くなる下半身に、慌てて宍戸の腕を払ったのを覚えている。
「馴れ馴れしく名前を呼ぶな!」
いくら慌てたにしても、もう少し言いようがあっただろうと今なら思う。
けれどあの時は、自分の状態を悟られたくない一心で。
軽蔑されて宍戸に嫌われたくない、ただそれだけで…。
でも結果的には宍戸を泣かせて、自分に向けられていた笑顔を失う事になった。
ショックのあまり血の気が引いて真っ青になった宍戸を、校庭の真ん中でジローはずっと抱きしめていた。
その後3日間寝込んだ宍戸の枕もとからも決して離れようとせず、ずっと見守っていたらしい。
俺といえば自分の感情と体を持て余しながらも、何も無かった顔していつも通りの日常を過ごしていた。
認めてしまうことが怖かったのだ。いままでの関係を壊してしまいそうで。
休みを明け登校した宍戸とは、結局以前のような関係に戻れるわけも無く、今までが嘘のように全く話をする事はなくなった。
「いつも3人いっしょだったのに、何でバラバラになっちゃうの!」
いつまでも険悪な関係にそう言って泣くジローの願いを聞いて、宍戸は最低限の会話だけはしてきたが、結局それも中学に上がると同時になくなってしまった。
それからは寄ればケンカ腰の宍戸の態度。
編入組が、自分たち3人が幼馴染みと聞いて驚くのは当然だ。
でも正直、もしあの時あの感情を隠し通せたとしても、きっとその後何らかの形で宍戸とは距離をおいていただろうと思う。
あの時はまだ自分でも把握しきれずに戸惑っていたけれど、1年後にははっきり自覚していた。
自分は恋愛対象として宍戸が好きで、本当はその体を欲望のままに犯してしまいたいという衝動を。
大切な人にそんなことをしてしまう位なら、手の届かないところへ行ってしまえばいい。
それでもやはり、その姿を見ていたかったから。
触れる事ができないなら、せめて見守るだけでも…。
結局そのまま、中途半端に同じ部活で過ごしてしまった。

「あれから3年、か…」
もうそんなに経ってしまった。
段々綺麗になっていく宍戸の姿を、俺はどんな瞳で見つめていたのだろう。
突っかかってくる宍戸を傍目には邪険に扱いつつも、本当は自分を視界に入れてくれることが嬉しくてたまらなかった。

ジローは、そんな俺の気持ちは全てお見通しのようで、去年の夏合宿の時にはっきり言われた。
「俺は亮ちゃんも好きだし、景ちゃんも好きだから今まで何も言わなかった。あの時景ちゃんがどうして亮ちゃんにあんなこと言ったのかだって、俺わかってるよ?」
俺だって男だから…。そう言ってはにかんだ表情は、いつまでも子供だと思っていたジローではなく「男」の表情だった。
「俺も恋愛感情として亮ちゃんのことが好きだから、はっきり言うね。今度亮ちゃんを泣かせたら許さないから」
そう言って真っ直ぐ眼を見るジローは、何て強いんだろうと思った。
自分の気持ちを隠して、嫌われることを恐れて予防線を張っていた自分とは大違いだ。
大好きな宍戸が傷つかず、幸せである事だけを願うジロー。
「俺だって、本当は亮ちゃんのこと抱きしめてあげたいよ。それで亮ちゃんが笑ってくれるなら…。でも、俺じゃダメなんだよ。亮ちゃんが待ってるのは俺の腕じゃないんだよ…」
悲しそうに微笑むジローは、少し節立って男らしくなった手で俺の腕を掴む。
「亮ちゃんが待ってるのはこの腕だよ?」
一瞬ジローの言葉が理解できずに、耳から耳へと抜けていく。
シシドガ オレノウデヲ マッテイル…?
宍戸が俺を待っているなんて…。
「そんな事はありえない。俺は宍戸を傷つけたんだからな」
あの瞬間の宍戸の表情は一生忘れられないだろう。
これから何十年と生きても、あれだけ酷く人を傷つけることはないだろうと思う。
「頭がいいくせに、バカだなぁ景ちゃんは」
少し背伸びをしてジローは俺の頭を撫でた。
「どうして亮ちゃんがあんなに傷ついたか分からない?自分が好きでもないヤツにあんなこと言われたって、あそこまでは傷つかないよ?」
宍戸も俺を好きだったから、あれだけ傷ついたというのか?
「あの頃は子供だったし、そこまで亮ちゃんが気付いてたか分からないけど。あの後も同じ部活で過ごしているっていうのは、景ちゃんと同じ気持ちだからじゃないかな?」
信じていいんだろうか?あれだけ傷つけたのに、それでも尚自分を想って近くにいてくれているなんて都合のいい考えを…。
「別に景ちゃんが亮ちゃんと恋人同士になりたくないんならそれでいいよ。ううん、むしろ俺としては都合がいいくらい。幼馴染みとして俺の恋路を応援してくれる?」
宍戸とジローが恋人同士?
仲良く手をつないでデートをして、キスをして、それから…。
…ダメだ。
応援なんて、とても出来ない。
「宍戸は、ジローにも渡せないんだ」
今更と思われるかもしれない。でも幼馴染みだからこそ、今度こそ本心を隠さず伝えよう。
俺の言葉にジローは微笑んだ。
「それを早く亮ちゃんに言ってあげて。ずっと待ってるよ」
真っ直ぐ俺を見つめるジロー。
今度こそ言えるだろうか。
いや伝えなければならない。
たとえ振られたとしても、あの時つけた傷だけは俺自身で癒してやらなければ。

―もし、あんまりグズグズしてるようなら、俺が亮ちゃんをもらうから覚悟しといてね!
去年のあの日、最後にそう言って笑ったジローと、さっきのジローの表情がダブる。
あれだけ言われたのに、結局未だにこのままだ。
ジローが痺れを切らして当然だ。
「宍戸」
もう1度涙の跡に触れると、宍戸の頬がピクっと動く。
ジローの言う通り、本当にお前は俺のことを待っていてくれているのだろうか?
眠りながらも俺の名を呼んで涙を流したというのは、想ってくれていると思っていいのだろうか?
いつまでも怖がっている自分が嫌になる。
誰より辛かったのは宍戸なのに。
…宍戸。いや亮。
もうお前を泣かせたくないんだ。
「…亮?」
3年振りに口にするこの名前。
「亮…。亮」
今更、お前は受け入れてくれるだろうか?
「亮。お前が好きなんだ…」
瞳を開いて、微笑んでくれないだろうか。

To be continued…

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