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 3/9アップ済み「誘惑レッスン」の続きです。

 


翻弄ベイブ (跡×宍)

跡部に連れられて校門に向かったら、そこにはもう黒塗りのバカでっかい車が迎えに来ていた。
「宍戸。俺ん家行くけど、いいよな?」
「あ、ああ…」
腰に回した腕に力が込められたら、さっきの自分の言葉を意識してしまう。「抱いて」なんて言っちまったんだ…。今更ながらに緊張してきた。
広い車内に隣同士くっついて座れば、俺のドキドキが伝わってしまいそうで何だか照れくさい。いくら「抱いて」って言ったからって、跡部はすぐそんな事するつもりないかもしれないのに、俺1人が意識してるみたいで恥ずかしい。
でも、握った跡部の手も少し汗ばんでるから、やっぱり同じように緊張してるのか?
「なあ宍戸。何であんな事になったんだ?」
沈黙に耐えられなくなったのか、跡部が思い出したように尋ねる。
うーん、何でか…?
「俺がジローに相談したから、かな?」
「相談って何をだ?」
う…。そこまで突っ込まれるとは思わなかったぜ。内容が内容だし、言おうか一瞬躊躇ったけど、二人きりの車内で逃げられる訳でもなく俺は小さな声で打ち明ける。
「…跡部が手出してこないから、俺に魅力がないのかなーってさ。ジローに聞いてみたんだよ。そしたら、跡部を誘う練習してみるか?ってジローが言うから…」
あんなことに…。
「…なるほどな」
そう言って跡部は呆れたように笑うけど、俺にとっては重大な問題だったんだからな。
ちょっと面白くなくて頬を膨らませたら、跡部は宥めるように俺の手を強く握った。
「別に馬鹿にして笑ったんじゃない。…可愛いことするなって、思っただけだ」
「…バカ」
コイツって本当にタラシだよな。いちいち言うことがクサイんだって!ま、それがサマになっててカッコイイんだけどな。…跡部には秘密だけど。

跡部の部屋に通されると、跡部はいつもの様にシャワーを浴びに行ってしまった。
これはもう癖なんだってさ。いくら部活で浴びて帰ってきても、家に着いたら取りあえず浴びずにはいられないらしい。俺はもう何度も家に遊びに来ててそのことを知っているから、跡部がいなくなっても全然気にならない。
勝手知ったる部屋だから、ベッドに腰掛けるとナイトテーブルに置かれたテニス雑誌をぺらぺら捲ったりして時間をやり過ごす。
でも、全然記事の内容なんて頭に入らなくて…。
「うー。どうしよう」
意識しすぎて緊張する。
跡部が目の前にいなくたってこんななのに、跡部がシャワーから帰ってきたらどれだけ緊張するんだよ?
跡部が仕掛けてくるの待って、動揺を隠して会話するなんて器用な事俺できねーぞ?きっと目だって真っ直ぐ見られねーし、すげえ挙動不審になりそう。
初めてキスした時は、俺自身まだそういう事について全く考えてなかったから、意識しないで自然に奪われた感じだったけど…。
「うー…」
参ったな。一度意識しちゃうとダメだよな。
緊張した手を意味も無く握ったり開いたりしていたら、ふと自分のシャツの胸元に気づく。
ジローに押し倒された後そのまま車に乗り込んでしまったから、ボタンが外れたままだった。
「…あ、そうか」
待ってるのが緊張するなら、自分から仕掛ければいいんだ。
跡部が俺の事嫌いじゃないって分かったんだ。俺からねだれば、まさか嫌だなんて言わないよな?
今度こそジローの教え(?)が役に立つかも。

跡部は部屋に戻ってくると、いつものように備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し煽るようにして飲む。
この部屋って車と同じでバカみたいに広いから、跡部はまだ気づいてないみたいだ。俺の覚悟に。
半分くらいに減った水を手にしたままベッドに腰掛ける俺に近づいてきた跡部は、ボトルのキャップを閉めて視線を上げた時、ようやく俺の変化に気づいたみたいだ。
「…宍戸?」
「跡部…」
俺は、さっきジローに言われたみたいに結び直してあった髪をもう一度解き、片側へ垂らしている。ボタンが外れたままだったシャツの前を大きく開いたら、やっぱり左の肩だけ落ちてしまったけれど、敢えて直さなかった。
本当は腰掛ける跡部の胸に縋る予定だったけど、驚きに立ち尽くす跡部は全然腰掛ける雰囲気じゃなくて。
しかたなく俺は、自分から立ち尽くす跡部に歩み寄る。
「…跡部」
無造作に羽織っただけのシャツの胸に手のひらを寄せれば、まだ熱いくらいの体温。その熱に乗って石鹸の香りが漂う。
あ、今更だけど俺シャワー浴びてない。あんまりに緊張して、そこまで気が回らなかった。
でも、もう後には引けねーよな。
俺は、胸に置いた手をゆっくりと背中に回し、その肩口に頬を寄せる。
俺の手も相当震えてるけど、跡部の胸の鼓動もすごく速かった。
「…跡部、抱いて?」
小さく呟いてきつく目を閉じたら、ペットボトルが落ちるのと同時に、強く強く抱きしめられた。

広いベッドに押し倒されてしまえば、俺はもう何も知らないただの子供で。
跡部の手で翻弄されるだけだった。
ジローのヤツ嘘吐きだ。だって、やっぱり(当然だが)跡部は枯れてなんていなかった。
今までどうやって平気な顔をしていられたんだってくらい、よく言えば情熱的で、悪く言えばしつこくて…。
俺は初めての経験なのに、跡部はちっとも俺に合わせてなんてくれなかった。
嫌だって言ってるのに何度も入れられて、恥ずかしい格好させられて…。自分で慰めてる姿を見せろとか…!
おかげでもう朝だし。
朝練とかあり得ねーし。
「大丈夫か?宍戸」
跡部は腕枕をしてくれたまま、俺の頬にキスをする。
まだ寝起きのかすれた声で、それすらもカッコ良くって。
「…大丈夫なわけあるか」
ドキドキしてるのを必死で隠して文句を言うけど、跡部はクツクツと楽しそうに小さく笑う。
…全部お見通しな訳ね。
強がるのもバカバカしくなって、俺も跡部の方を向き少し乾いた唇に口付ける。
跡部って、寝起きのほうが数倍男らしい。無造作に髪をかき上げる仕草も、俺を抱き寄せる腕の荒々しさも…。
長い付き合いなのに何だか新しい発見って感じだ。
「朝練は中止だな…」
跡部は手を伸ばして携帯を取ると、手早く誰かにメールを送る。きっと忍足あたりだと思うんだけど、うちの部長もいい加減だよな。こんな理由で勝手に朝練中止にしちゃうんだから。
「…学校休んじまっても、いいかなぁ…」
跡部は送信し終えた携帯をポイと放り投げ、もっと近くへと俺を抱き寄せる。
このやる気の無さは、本気で学校休む気だぜ、こいつ。
「ま、俺はどっちにしろ休みだな」
さっき試しに立ち上がろうとしたら、どうにも腰に力が入らないんだ。脚もガクガクだし。テニスどころじゃねーよ。
そう俺が愚痴れば、跡部は嬉しそうに瞳を細める。
「お前があんまり可愛く誘うもんだから、手加減が出来なかったんだぜ?」
本当かどうだか知らないけど。もしそれが本当なら、ジローにムースポッキー奢ってやってる場合じゃねーな。俺が奢って欲しいくらいだ。
「今日は二人でゆっくりしてようぜ?風呂にも抱いて入れてやるからな」
「…!」
恥ずかしい!
でもきっとそうなるだろうと思うから、ここは素直にお願いしておこう。
「…よろしくお願いします」

後日、俺がジローにムースポッキーを奢ってやらなかった代わりに、跡部がダンボールごとプレゼントしてやったと聞いたのは、その1週間後だった。


 愛様からリクエスト頂いた「誘惑レッスン」の続きでしたが、いかがでしたでしょうか。カッコイイ跡部にしたかったのであえてHシーンは無しで。どうも私は、Hシーンを書くと攻めがヘタレてしまう(笑)

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