美しいひと（跡×宍） 2007/12/02 (Sun)

大学生跡宍。R-18。

次回、跡部sideをUP予定です。

美しいひと（跡×宍）

「宍戸…」
薄すぎず厚すぎず。絶妙なバランスで弧を描く唇が、甘い息で囁く。
たった今熱い奔流を弾けさせたばかりなのに、俺の中心はあっという間にその熱を取り戻した。
産まれたままの姿で抱き合う腹と腹の間で、その角度は見なくても感じただろう。跡部は嬉しそうに、その美しい唇から白い歯を覗かせる。
「馬鹿やろう」
跡部が何をした訳でもない。ただ何となく全てを跡部のせいにしたくて文句を言ってみる。
「あーん？俺は何もしてねえだろうが」
「…フン」
確かに。俺の中で弾けた跡部は、俺ほどには固さを取り戻しておらず、ただ微温湯につかるように静かに、俺の中に有り続けるだけだ。
それが俺の胸をぐちゃぐちゃにする。イライラさせる。そして、そう。途方に暮れさせる。
「どうした？変な顔して」
跡部は綺麗に整った眉をほんの少し寄せて、視線を反らした俺の顎を取る。
「…変な顔は生まれつきだ」
「そりゃあそうだ」
俺の軽口に安心したかのように、跡部は表情の強張りを解いてやはり軽口で返してきた。
そして、見下ろしていた顔が近づいて、俺の頬に口付ける。顔の両脇に肘を付いて、俺の頭を抱え込むようにしてキスをする。
何度も何度も。
最初は頬に、次はこめかみに。くすぐったくて瞑った瞼にも優しく唇を寄せた。
跡部の顎から伝った汗が、俺の頬を濡らす。
暖かな雫は、流れ落ちながら急速にその熱を失った。
途轍もない遣る瀬無さに襲われる。

いつからだろう。俺は目にするあらゆる儚さに、自分たちの関係を重ねて見てしまう。
熱を失う汗も、舞い落ちる葉も。
手を離れた風船も、滑り落ちたグラスも。
全てが近い未来の俺と跡部に見えてならない。

「お前、何か詰まらない事考えてるだろ？」
跡部はキスの合間にそう尋ねるけど、俺は「別に」と小さく答えた。
そして、溶け合ったままの跡部を締め付けるように、力を込める。
「…んだよ。珍しいな？」
もう一度、とねだるように口付けを返したら、跡部は艶やかに微笑んで軽く腰を揺らした。

「あっ、」
俺は、悲しいくらい簡単に感じて、身を捩らせる。
甘く走った痺れは一瞬のうちに全身を巡り、もう待ち遠しくて仕方が無い。
早く欲しい。痛いくらいの灼熱で、衝き上げられたい。叩きつけられたい。
「明日１限からだよな？…悪い、行かせてやれねえかも」
物凄い速さで成長した昂ぶりが、俺の中で今か今かと返事を待つ。
「…１限？んなの、いいって」
そう返事をした途端、跡部は大きく腰をグラインドさせた。
フッ、と強く息を吐き、恍惚とした表情で跡部は瞳を細める。
「ああっ！」
揺さぶる強さに、俺の中がキュッと締まったのが自分でも分かる。あまりの気持ちよさに目の前が真っ白に煌いた。
その向こうで跡部が微笑む。真っ直ぐ見つめ、強く俺を穿ちながら、そんな時でも美しい跡部は包み込むような優しさで微笑んだ。
「…宍戸、イイか？」
ああ、何て美しい人なんだろう。
「宍戸？」
「イイっ、イイに決まってるっ」
見逃してはならないと、見開いた俺の瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。
「ばーか。泣くことねえだろ？」
今度は苦笑して、跡部は俺の涙をねっとりと舐め上げた。
「…あとべ」
見逃してはならない、この美しさを。
瞬きすら惜しいくらいだ。

いつか手の届かなくなる美しい人を、この目に焼き付ける。