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女体シリーズ番外編。

跡宍ベースの鳳+日吉です。


その時(鳳+日吉)
~女体シリーズ13~

(あ、宍戸さん)
鳳は待ち合わせの改札で、思わず一歩踏み出しかけた。
改札前に設置された旅行パンフレットの棚の横。鳳は乱雑に突っ込まれたカラフルな宣伝チラシをぼんやりと眺めていたが、ふと視界に入った大好きで大好きでたまらない人の姿に反射的に身体が動いていた。
けれど慌てて、つんのめるように踏み留まる。
鳳の待ち合わせ相手は宍戸ではない。年明けに誕生日を迎える樺地の誕生日プレゼントを買おうと、日吉と待ち合わせているのだ。
日曜日の夕方。慌しい雑踏の中、宍戸の隣には跡部が寄り添っていた。
人々が行き交う中、少々邪魔に思われそうな改札のまん前で、けれども二人の周りは人が避けて通り過ぎる。それはもちろん跡部の風貌の所為だ。
素人目にも高級そうなコートをさらりと着こなし、日本人離れしたその微笑みに、行過ぎる女性は目を奪われる。
鳳自身も相当に日本人離れしていたが、それでもやはり纏う空気は全く違っていた。
宍戸は自動改札に切符を通すと、改札越しに軽く手を上げる跡部を振り返る。
恋人同士の休日にしては早い別れだけれど、多忙な跡部が無理して駅まで見送りに来ていることは容易に想像がつく。相手が宍戸でなければ、お抱え運転手に車で送らせ玄関先で見送るのが精精だろう。
少しでも長く宍戸と過ごしたい。そんな跡部の気持ちの現われのようで、鳳は少し複雑な表情で微笑んだ。
鳳は宍戸が大好きだ。勝気で気性が荒く、ついでに口も悪く、それでも誰より情に厚い宍戸。真っ直ぐな背中まで届く黒髪が美しく、猫のような大きな瞳が意思の強さを感じさせる。凛とした女性だ。そして、たまらなく愛らしい。
鳳が始めて見かけた時から何かと言い合いばかりしていた跡部と宍戸だし、今も相変わらずだから、実際付き合うようになったと知っても所謂「恋人同士です」といった雰囲気を感じることはあまり無く、喧嘩ばかりしていたのが少し仲良くなったような感覚にしか思っていなかった。実感することが無かったのだ。宍戸が本当に跡部のものになったのだと。
だから、初めて見る二人の「恋人同士」の姿に、今更ながら鳳は胸が締め付けられる。
本当に今更だ。
黒のタイトスカートにロングブーツを履いた宍戸は、女性にしては少し大股でホームへ降りる階段へと向かう。一度振り返って手を振った表情は屈託の無い笑顔で、その唇は「また明日」と言ったようだ。駅のアナウンスや人々の声で宍戸の言葉は届かなかっただろうが、跡部は一つ頷いた。
そして宍戸は、今度こそ真っ直ぐに階段を目指す。肩に掛けたバックを持ち直しながら、器用に人並みを縫って行く。
跡部はそんな宍戸を暫らく見つめてから、自分もロータリーへと降りる階段を目指す。
一歩二歩ゆっくりと踏み出して、そして足を止めた。
跡部はもう一度、宍戸の背中を振り返る。
人の列に続いて、もうすぐ下り階段に足を踏み出そうという後ろ姿。宍戸は振り返らない。
跡部はそんな宍戸にがっかりするどころか、安心したようにまた歩き出す。
けれどやはり、二歩ほど歩いて再び止まった。
もう一度、名残惜しそうに振り返る。
宍戸は階段を下り始め、そしてとうとうその姿が見えなくなる。
宍戸が消えた階段をじっと見つめてから、跡部もようやく下り階段を目指す。先ほどまでの穏やかさが嘘のように、忙しなく、その姿は鳳の視界から消えた。

たったそれだけだった。
たった、それだけだ。
別に別れのキスを交わしたわけではない。名残惜しそうに抱き合ったわけでも、指を絡めたわけでもない。
ただ跡部が、帰って行く宍戸を数回振り返っただけだ。姿が見えなくなるまで見送っただけだ。
たったそれだけの事なのに、絶対に叶わない何かを感じる。
どこか願っていたのかもしれない二人の破局が、到底叶わないのだと思い知らされた。
どんな愛の囁きよりも、大きく深い愛情。そんなのを突きつけられた気持ちになる。

「…鳳?」
二人の姿が消えた改札を見つめ続けていると、不意に声を掛けられる。
「あ、日吉」
横から見上げる視線に、ようやく自分が待ち合わせをしていた事を思い出す。
時間に厳しい日吉は、自分が遅れて来た事を謝りもせず、ただ真っ直ぐ鳳を見つめる。
「…鳳、何泣いてるんだ」
「…え?」
言われて鳳は、慌てて自分の頬を手のひらで撫でる。すると言われた通り、涙の通った道が、もうすっかり冷たくなっていた。
「鳳?」
「宍戸さんが、」
「え?」
「宍戸さんが、幸せそうだったんだ」
「…鳳」
何となく気づいたのだろう。日吉は自分とは違って聡いヤツだから。
鳳はそう思うと、もう一筋、暖かな涙が頬を伝った。
「跡部さんも、幸せそうだった」
「…そうか」
日吉はそれだけ言うと、いつもより一回り小さく見える親友の背中をポンと一つ叩いた。

「行くか」
そう声を掛けると、鳳は顔をくしゃくしゃにして微笑みながら頷く。
日吉は、ガラにもなくそんな鳳の頭を撫でてやりたくなったが、あんまりに自分らしくないなと思い留まる。
夏の終わりのプールサイドで思った「その時」がとうとう来てしまったけれども、見上げた鳳の横顔はどこか穏やかだ。
「…プレゼント見つかるといいな」
「そうだね」
気の利いた言葉が見つからない不器用な日吉を安心させるように、鳳は大きく頷いて見せる。

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