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跡部の誕生日を祝して。

社会人跡宍短編。


相変わらずの誕生日(跡宍)

跡部の誕生日。
いつものように跡部の部屋に集まって、いつものようにケーキを食べたりシャンパン飲んだり。そして記念撮影したり。
毎年毎年同じメンバーで、流石に25歳も過ぎたら成長も止まってるってもんで、ここ数年の写真は意識しなければどちらが去年でどちらが一昨年だか分かりゃしない。洋服の流行や誰かが特別変わった髪型してるとか、そんなんで判断する感じだ。
そんなお決まりな記念撮影の端っこに収まりながらちらりと中心を伺えば、跡部は不遜な笑顔を浮かべつつもどこか落ち着かない視線を向けた。
どうして傍に来ない。
そう青い瞳が文句を言う。
何だか可愛いなぁって思う。
バカみたいにテニスに明け暮れてたあの頃、誰よりも大人びていると感じた跡部は、回りのメンバーがそれなりに成長していくにつれて年相応に見えるようになっていった。今となっては、相変わらずの自己中が幼さの証拠のようで、忍足なんかには良いようにからかわれる事も多々。
「宍戸!」
「…へいへい」
とうとう痺れを切らした跡部がイライラしながら俺を呼びつければ、楽しそうに見物していた忍足が跡部の隣を譲ってくれる。
「…おたくの旦那、年々可愛らしくなってんな?」
すれ違いざま俺に耳打ちした忍足の尻を、地獄耳の跡部が蹴り上げる。
「痛いわ!」
「テメエが余計な事言うからだ」
「…本当の事やないか」
またまた余計な事を言った忍足は、もう一発蹴りを頂戴している。
相変わらず足癖の悪いヤツだ。口も悪いし手も早いがな。
「あーとーべ。いい加減にしとけ」
隣に座ってそっと手を取ったら、跡部はようやく満足そうに鼻を鳴らして深く腰掛け直した。

満足する写真が撮れたのか滝がカメラを仕舞うと、メンバーはそれぞれ好きな場所に散っていく。ジローはソファに伸びて、岳人と忍足は皿を片手にそれぞれのテーブルを回る。あれだけ食ってるのに岳人が縦にも横にも成長しなかったのは不思議で仕方が無い。
後輩組は3人揃うのは久しぶりらしく、窓際のソファセットでチェスを挟みながら楽しそうに談笑している。あの頃の「下克上」という口癖が嘘のように、日吉は穏やかに微笑むようになった。多くを学びキャリアと自信を身につけて、余裕が出てきた証拠だろう。
みんな成長していく。変化していく。
俺と跡部の関係もそうだ。
「宍戸」
「何だ?」
「…ししど」
撮影に使った椅子に腰掛けたまま、跡部は俺の腰に手を回した。
もう何だってこんな関係になってしまったのか俺ですら理解しかねるのだが、手っ取り早く言えばその可愛さに絆されたって所か。跡部には言わないが。
俺様なくせに、いや、俺様だからこそ。垣間見える幼さとか寂しげな横顔とか、そんなのが気になって仕方なくなっていった。
中学を卒業して高校へ上がって、途中で1年間跡部が留学して、そのあたりからだったろうか?いっつも顔付き合わせてたときには碌に話もしなかったのに、結局その1年間一番マメに連絡をしていたのは俺だったようだ。だって出かけに「あんまり頻繁に連絡寄越すなよ?俺様は忙しいんだから」なんて、子供みたいな強がり言われたら、なあ?

「おい、まだ聞いてないぞ?」
拗ねたように耳元で囁く跡部。
高校に上がってから大分身長差が開いてしまって、跡部は身を屈めるように話しかける。
あの頃は「美しい」「端整」というイメージが真っ先に浮かんだ跡部も、今ではすっかり男らしく、良い意味で男臭くなった。
力強い腕が子供のように俺を急かすのが愛らしい。
「宍戸!」
駄々を捏ねるように俺の名を呼ぶ跡部を、それぞれ別のことをしながらも皆が聞き耳を立ててクスクス笑っているのに、跡部だけが気づかない。
意外とね、目先のことに夢中になるタイプなんだよ、こいつ。
「おい、宍」
「おめでとう。跡部」
「宍戸…」
「誕生日おめでとう」
「…おう」
散々強請った割には素っ気無い返事だけど、ようやくもらった言葉に跡部は満足そうだ。
調子に乗った腕に引き寄せられて、傾いた身体は頬から跡部の胸に崩れていく。
目の前には光沢の美しいシルクの襟元。
そこから伸びる逞しい首が、シャープな顎が、俺の頭をぐりぐりと撫で回す。
ゆっくりと上下する喉仏は、獲物を前にした獣のように妙に生ナマしい。
俺は自然と瞼を閉じた。
跡部の柔らかな前髪が俺の頬を擽る。
そして、ゆっくりと重なる唇。
小さく開いた俺の唇を優しく包むように吸ってから、今度は熱く濡れた舌先がその隙間を割って入る。
「ん、ぁ」
性急なまでの口付けにくらくらして、俺は広い胸に縋り付いた。
跡部の鼓動が跳ね上がる。
「…宍戸っ」
くちゅ…と音を立て行き場を無くし、顎を伝い落ちる唾液。
たまらなく甘美な跡部の唇。

「よっ!お二人さん!」
賑やかにはやし立てるのは岳人だ。ジローも一緒になって「熱いね!」と声を上げる。
名残惜しそうにもう一度舌を絡めた跡部は、二人の声に振り返り軽く右手を揚げて見せる。
恥ずかしげも無くニヤリと微笑んだその態度に、他のメンバーも俺も、呆れたように笑ってしまった。

あの頃から、変わった事もそうでないことも沢山あるけれど。
本当に、少しも変わることがなかったのは、跡部が俺たちの帝王だって事。

「さあ、存分に俺様を祝いやがれ」

バカバカしいくらいに俺様な跡部が、大好きでたまらない俺たち。
きっと来年も再来年も、同じように集まって同じように記念写真を撮るんだ。

「…愛してるよ。跡部」
「宍戸…」
俺たちが恋人同士になったって変わらない、相変わらずの仲間たち。相変わらずの誕生日。

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