交わらない想い（跡×宍） 2007/09/18 (Tue)

すれ違う二人の独白短文。

交わらない想い（跡×宍）

「跡部、４年間ありがとな？」
宍戸は微笑んで、そして俺の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「…聞いてねえぞ」
俺が怒りを隠さずに言えば、宍戸は酷く困ったような顔をして前髪をかき上げる。
「跡部は、俺の進路なんて興味無いと思ってたから…」
その言葉は、赤の他人からすればとても自虐的な言葉に聞こえるかもしれない。
けれど宍戸に限って言えばそんなつもりはなく、もちろん俺に対する嫌味でもない。
心の底からそう思っているのだ。

大阪の大学に進むなどと、一度だって聞いたことが無かった。
しかも、明日出発するなんて。
「俺は認めねえぞ」
そう強い口調で言っても、何で俺がこんなに怒っているのか分からないらしい。
宍戸の視線が宙を彷徨う。

誰か、このバカに教えてやってくれ。
俺が何で怒っているのかを。

４年もの間、人目を忍んで抱き合った仲なのに。
そんなに俺は非道な人間に見えるのか？

いくらお前から請われて始まった関係だとしても。
気に入らないヤツを、そんなに長い間傍に置いたりしねーんだよ。

「もう、俺大丈夫だから」
また見当違いの言葉を、穏やかな笑顔で…。

― 違うんだ宍戸。俺が、大丈夫じゃないんだ。

確かに、中２の終わりに告白された時は本気で驚いたさ。
正直言えば気持ち悪いとさえ思っていた。男の宍戸が俺を好きだなんて。
当然断れば、身体だけの関係でもいいからと縋ってきた宍戸。
俺には何も迷惑はかけないと。ただ後腐れないセフレだと思ってくれていいからと。

躊躇いも無く俺のモノを口に含んだ時、俺は宍戸の顔を見ていられなかった。
オイルで濡らした自分の指で後口を拓く宍戸が不気味で、俺は全身に鳥肌が立ったのを覚えている。
数回抱いてやれば諦めてくれるかと考えて、安易に始めた関係だった。

…確かにそうだったさ。
でもな、宍戸？
俺は抱きたくも無い奴を、４年も抱き続けられる程お人好しじゃねーんだ。

「もう、抱いてくれなんて我侭言わねーし。迷惑かけないから安心してくれ」

ああ…。
誰か、誰か。

俺をこの世で一番信じていないコイツに。
どうか、この想いを。

　　　　　＊＊＊

俺がアパートの鍵を開ければ、そこには揃えられた一足の革靴。
「…跡部」
大阪に来てから毎週末繰り返されるこのやり取り。
「跡部。もういいからって言っただろ？」
俺がスニーカーを脱ぎ捨てながら言えば、目の前までやってきた跡部は強く俺を抱きしめる。
「…あとべ」

無理をして欲しくなかったから、こんなに遠くへ来たのに。
結局跡部の負担を増やしただけで、お荷物でしかない俺。
「もう、前みたいに取り乱したりしねーから」
昔、想いを打ち明けた時、断ろうとする跡部に泣いて喚いて取りすがった俺。
あんな脅しみたいなこと、もうしないから。
「もう、俺との関係は忘れてくれていいんだぜ？」

跡部。
そんなに苦しそうな顔をしないでくれ。
もう自由なんだから、遠いあの日のような高飛車な笑みを見せてくれよ。

「宍戸。俺はお前を手離さない」

…ああ、跡部。
そんな無理はしなくていいんだ。

どうか、早く俺を忘れてくれ。
お前無しでは生きていけないような、こんなお荷物は捨てて。
どうか、どうか。
あの頃のように笑ってくれ。

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シリアス長編の予告的な感じで書き始めたのですが、本編は挫折…。どうしてシリアスが書けないかなぁ、私。