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注意注意注意! (しつこい…)
CP注意!忍足→宍戸です。
そして暗いです。
廃退的な雰囲気の話を書いてみたくてチャレンジ。
喫茶(忍→宍)
賑やかな駅前を、繁華街とは逆方向へと歩く。
大きな書店ビルを横目に次の角を左に曲がれば、そこは急に人もまばらとなる。
さらに進んで、細い横道を今度は右に曲がる。
1階に寂れた定食屋が入った建物の向かいの、やはり寂れた雑居ビル。
薄暗い階段を、忍足は制服姿のまま躊躇いもせずに上っていく。
まだ日も高い9月の夕方だというのに、一筋の陽も射しこまない踊り場では、切れかかった蛍光管が不規則に点滅する。
隅にころがる蛾の死骸を何の感慨もなくその目に映して、階段を上がり続ける忍足。
そして、2階で足を止める。
目の前には、殺伐とした冷たい空気を抱えたコンクリート壁にまるで似つかわしくない、重厚な飴色の美しい扉。
看板一つ出ていない扉の、使い込まれた鈍色のノブを慣れた手で回して、ゆっくりと押し開いた。
そこは、甘く澱んだ空気に包まれた、物悲しい雰囲気の喫茶店だ。
カランカランと響く軽やかなカウベルの音に、カウンターの向こうでグラスを拭いていたマスターは視線だけを寄越して薄っすらと微笑んだ。
辛うじて失礼にならない程度の、そんな愛想のない態度にももう慣れたものだ。
むしろ、変に親しげに微笑まれたら、居たたまれなくなって二度と足を踏み入れられないかもしれない。ここへ来た目的を思えば、それは他の客も一緒だろう。
向けられるのが心の通わない仮面のような微笑だからこそ、忍足はこの店に通い続けることができる。
4人掛けのテーブルが3つに、カウンター席が5つ。
20人も座れないにも関わらずそのフロアは無駄に広くて、やたら床の木目が目立つためか店内は酷く寂しげだ。
マスターの後ろに広がる窓ガラスが鈍くくすんで、道向かいのビルの色すら知ることができないのは、それが曇り硝子のせいではない。ただ埃と油とが混ざり合い、長年に亘って堆積していった結果だ。
入り口に一番近いテーブル席には、同じ制服を着た学生が汗をかいたグラスを横にノートを広げシャーペンを滑らせる。宿題でも片付けているのだろう。
(サッカー部の、大館か…)
同じクラスになったことはないが見知った同級生の横顔を確認して、忍足はテーブル一つ空けて壁際のテーブル席に腰掛ける。
「マスター、アイスコーヒー」
メニューが運ばれてくる前に、さっさと注文してしまう。
それはいつもの事だから、マスターも焦った表情も見せず小さく頷いた。
聞こえるのはシャーペンの音と、マスターがアイスコーヒーを作る音だけ。そういえば、いつ来ても音楽が流れていたためしはない。
だからつい、フロアの端にある素っ気無い造りの扉の向こうから、微かな物音でも聞こえてはこないかと耳を澄ませてしまう。
カウンター席に無造作に置かれた誰かの氷帝学園指定鞄をボーっと眺めていたら、マスターがアイスコーヒーを運んでくる。
カラ…と氷の音だけを残し、マスターは何一つ言わずに戻っていく。その顔はやはり、マネキンのように薄い笑みが張り付いているだけだ。
マスターは宍戸の叔父にあたるという。
テニスの時に見せる宍戸の情熱を思えば、到底同じ血が通っているとは思えないテンションの違いだが、それでいて意外と似ているのかもと最近は思い直した。
忍足がこの喫茶店に通い詰めるのは、宍戸に会うことが目的だ。
あと1時間もしないうちに、学園で見るのとは別人のような宍戸を忍足は抱く。
残ったコーヒーが解けた氷で薄まってきた頃、ようやくフロアの奥にあるトイレの扉が開いた。
満足げな表情で出てきた男はやはり氷帝の制服で、見たことのない顔だから同じ学年ではないのかもしれない。
どうやら年下らしい彼は、先輩にあたる忍足に敬意を見せることもなく、むしろ挑戦的な視線を投げて脇を過ぎた。そのままカウンター席の鞄を手に取ると、会計を済ませて店を出て行く。
そして、その扉が閉まりきる前に背中から聞こえたシャーペンの音が止み、大館が立ち上がる音がする。
逸る気持ちを無理に押し留めるような、不自然なまでに遅い足取りで大館はトイレへと向かう。
寂れた喫茶店の奥の薄暗いトイレ。
宍戸はそこで男に抱かれる。
忍足がその事を知ったのは、いわゆる風の噂というやつだった。
―とある喫茶店で、3年の宍戸が来るもの拒まず抱かれているらしい。―
どこからともなく聞こえてきたそんな言葉。
まさか、そんな事があるはずない。敵を作りやすい性格だから、嫌がらせにある事無い事吹聴されているのだと忍足は思った。
それでも真意を確認したい自分がいて、忍足は酷く戸惑った。
全国大会で青学に敗れた後、燃え尽きたように瞳の力を失ってしまった宍戸。
ついこの前までの熱い宍戸とは別人のような目が、もしかしたら噂は本当なのかもしれないと予感させた。
水っぽいコーヒーの底をさらう耳障りなストローの音に、忍足は顔を顰める。ついぼんやりとしてしまった。腕時計を見れば、大館が入ってから30分が経とうとしている。
(そろそろやな…)
宍戸は、30分以上一人の男に居座られることを嫌がった。それは大館に限ったことではなく、彼よりは親しい仲になるであろう忍足にしたって同じことだ。
そして、親しすぎるからといって抱かれることを拒んだりもしなかった。あくまでその他大勢と同じだ。その事実が、チクリと忍足の胸を刺す。
ガタンっ、と何かぶつかるような音がしてから、トイレの扉が勢いよく開いた。
転がるように出てきた大館は片手を床につき何とか尻餅をつくのをこらえ、中にいる宍戸を振り返った。
「…宍戸っ!」
忍足の席からはよく見えないが、きっと冷めた目をした宍戸に追い出されたのだろう。
「宍戸、俺は本気でっ…!」
必死な声を最後まで聞かず、扉は無常にもバタンと閉められる。
正直、見ていられなかった。それは忍足にも経験のあるやり取りだったからだ。
肩を落とした大館は少しの間放心していたが、ようやく立ち上がって忍足の横を過ぎて行く。
忍足の存在など気にもならないほどに気落ちした彼は、やっぱり薄い笑みを浮かべたままのマスターにコーヒー代を払って、扉の向こうへと消えた。
宍戸は、相手が自分に本気になると、またはそんな素振りを見せると、急にその瞳を凍て付かせる。「本気」と口にしてしまった大館は、もう宍戸を抱きしめることはないかもしれない。
つい10日ほど前、忍足は同じようにトイレから蹴り出された。この店に通い始めて大分経ったあの日、忍足は何も知らずに宍戸を優しく包み込むように抱きしめてしまった。すると、どこか遠くを見るように焦点の合っていなかった宍戸の瞳が、急にその色を取り戻した。コートの中のように力強いその眼。けれどそれは、頑ななまでの拒絶だった。
初めてこの場所を聞きつけやって来たときは、ただ真実を知りたいだけだった。
今にして思えば自分らしくないと思うくらい、知った後の事など考えていなかったのだ。
だれ彼構わず抱かれている宍戸をその目で確認した後、どうしようか?などと少しも考えていなかったのだ。
扉を開けて入ってきた忍足を真っ直ぐに見上げた宍戸は、顔色一つ変えなかった、その頬を引き攣らせることも無く、薄っすらと感情の篭らない微笑を浮かべて、両手を伸ばした。
この前までコートの上で共に戦っていた戦友に、少しの躊躇もなく抱き縋ったのだ。
焦ったのは忍足だった。
ただ真実を知りたいだけだった。その事実を確認して叱り付けようとか自分が更生させてやろうとか、そんな事は思っていなかったが、自分も同じように宍戸を抱こうとも、露程にも思っていなかったのだ。
一言も話さず、ただ薄く笑みを張り付かせたまま忍足のベルトを外していった宍戸。洋式の便座に蓋をして、そこに腰掛けさせられた忍足はただ目を見開いてされるがままだった。
もう何回目なのか、数えるのをやめてしまった。それくらい日を空けず、忍足は宍戸を抱きにきていた。
いつものようにドアを開け中へと入る。
すぐ右手には洗面台があり、端にヒビの入った鏡が張り付いている。
壁から床からタイル張りの、どこか古臭い造りのトイレ。
正面には2つの個室が並び、1番奥は掃除用具入れ。
宍戸は真ん中の扉の奥で、便座に腰掛けている。
「よう」
淡く微笑んでそう声を掛けられると、忍足の全身には甘い麻薬のような悦びが広がる。
「どーも」
忍足は薄く笑って返事を返す。
宍戸は同じ高みを目指す仲間だった。親友だった。
けれどもう、あの頃には戻れない。
流されるようにして初めて宍戸を抱いたあの日から、忍足の身体は少しずつ宍戸に染められていった。
触れた指先から、少しずつ。今では頭のてっぺんからつま先まで、宍戸を求めない瞬間はない。媚薬のような宍戸の甘さを常に欲している。
本当は壊れものを扱うように、そっと優しく抱きしめてやりたい。けれど、もうあの日の二の舞を踏むわけにはいかないから、忍足は強引に宍戸の手を引き立ち上がらせる。
そして、出来るだけ乱暴に抱きしめた。
「今日も愉しませてな?」
心にも無い一言を言う。胸の奥が軋む様に痛い。けれど、そうしなければもう二度と宍戸には触れられないかもしれないのだ。
便座に腰掛けた忍足の膝に、宍戸は向かい合うようにしてよじ登る。
「宍戸?」
彼にしては珍しい行動だった。
いつもなら、何の前触れも無く忍足のベルトに手を掛けるのに、今日は何故か夏服の首に縋り付いて来た。
さっきの大館とのやり取りの余波だろうか?何か、いつもとは違う感情に囚われているのかもしれない。
額を埋めるように首元の擦り寄るから、宍戸の無防備な背中が見下ろせる。見慣れたシャツの白なのに、何だか無性に物悲しい。
今日宍戸は、自分以外の何人に抱かれたのだろうか…?いつもはあまり気にしないことが頭にひっかかってしまう。アイロンがとれてくたびれた布地が、他の男との情事を想像させた。
「どうしたん?こんなん…」
「別に…。そんな気分なんだよ」
いつもは多くを語らない宍戸だから、耳元から聞こえる返事が、これは現実なんだと教えているみたいだ。存在を確かめるように、その背に腕を回した。
毎回喘ぎ声しか洩らさない宍戸を抱いていると、それが現実なのか分からなくなっていく。霞がかった空間の中、一人きりで悪い夢でも見ているのではないかと感じることもあった。
「宍戸…」
「ああ?」
声が聞こえる。
「なあ、宍戸?」
「だから、何だって?」
どうしてこんな事をしているのか、などと。とても聞けない。口にした途端この関係が終わってしまうのは分かっている。
でも、ただ声が聴きたくて。
「宍戸」
「……」
もう、返事は返ってこない。
小さく溜息を零すと、忍足は視線の端を捉えた宍戸の項に唇を寄せる。その小麦色は戦いの名残だ。
また蹴り出されたりしないように、口付けと言うには激しいくらいの強さで噛み付いてやった。
「…って、」
小さく舌打ちをするが、宍戸は逃げ出したりしない。
加減をしながら、もう少し歯を立てる。びくんと、細い肩が揺れた。
きっと歯型が残るだろう。
噛み付いたまま、舌先は円を描くように滑らせる。きりり…と力を込め微かな血の匂いを感じながら、舌では優しく舐め上げる。
どんなに必死に隠しても、宍戸への愛しさが止まらない。だからせめて、こうやって舌だけでも宍戸に甘く触れていたい。
「…てめえこそ、珍しいな?」
痛みをこらえるような声で、宍戸は苦笑した。
宍戸は身体に跡を残される事を嫌がらない。というよりも隠さなければならない相手もいないから、興味がないのだ。
他の男たちはこぞって跡を付けている。首から、胸元から、腕から、その鬱血が消えることはない。それでも忍足は、跡を付けることはなかった。他のヤツと自分は違うのだと、自分に思い込ませたかった。
だからこそ、宍戸は「珍しい」と笑った。
(結局、俺も同じや…)
宍戸の心を掠めることもない、刷いて捨てるような相手の一人なのだ。
「…跡付けてみたい気分なんや」
もう一度、その血を啜った。
会計を終えて扉を開けば、只でも日が沈んで薄暗い世界の中、その階段は人間の存在を感じない廃墟のように沈黙している。相変わらず点滅している蛍光管が、忍足の心を逆撫でする。何だか、宍戸の脆い心のように見えてならない。
階段を下りれば、さっきは何とも感じなかった蛾の死骸が変に癪にさわる。忍足は小さく舌打ちした。
そして視線を自分の足元に戻したとき、そのつま先を黒い影が切り落とす。
忍足は顔を上げる。
「…日吉」
その影の主は、後輩の日吉だ。
「……」
忍足の呟きに、日吉は何も返さずに横を上がっていく。
彼の態度が不遜なのは相変わらずなことだけれど、いつにも増してその眼は鋭い。
『あんたじゃ、話にならない』
微かに上がった唇に、そう言われたような気さえする。
忍足は今日もまた、幻のような宍戸の温もりが残った拳を強く握り締めるだけだ。
いかにも続きそうな終わりですが、続きません。さすがに救いが無さすぎた(笑)
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
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