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R-18です。苦手な方はご注意を。


欲望Cafe (跡×宍)

「さあ捕まえた!もう逃げられないよ~」
滝の満開の笑顔はもういっそ怖いくらいだ。
「さすがに当日に逃げられるわけないでしょ」
はいどうぞと岳人に押し付けられたのは、ピンクのミニスカタイプのチャイナドレス。そして宍戸には紅のロングチャイナドレス。
「さっさと着替えて開店の準備する!」

今日は氷帝学園の文化祭。
男子テニス部はCafeをすると決まったのだが、いざウェイトレスが多数決で決められた途端岳人と宍戸は逃げ出した。
ウェイターは跡部、忍足、日吉、鳳の4人。
ウェイトレスは宍戸、岳人、滝、ジローの4人。
その他はキッチン担当だ。
数週間前に決定事項がホワイトボードに張り出されてから、二人は打ち合わせを逃げまくっていた。
「逃げたって当日登校したら意味無いじゃん」
楽しそうにケラケラ笑うジローはすでにメイドファッションに身を包んでいる。黒の上品なベロア生地のスカートから純白のレースがのぞき、歩く度にふわっと揺れる裾は大変チャーミングだが、残念ながらジローのそれからはトランクスの縦縞までのぞいている。
「…ジローお前的にそのトランクスはありな訳?」
岳人が呆れたように尋ねるが、ジローはちっとも気にしてる様子はない。
「思ったよりスカートが短かったんだよね~。でもノーパンよりはいいっしょ?」
そりゃーそうだ。歩き回るたびにあらぬところがブラブラ揺れてたんじゃ周りも落ち着かない。
「滝は平気なのか?」
宍戸がちらりと滝の脚に目を向けると、滝はふふんと笑いくるりと回ってみせる。
「やるからには完璧だよ」
「すげー」
一体どこから入手してきたのか、大げさに回って翻った裾からは懐かしの「スコート」がのぞく。
一見楽しんでいるように見える滝だけど、実はそうとうヤケクソなのかもしれなかった…。
「さ、人の心配してないで二人はまずこれ履いて」
そう言って手渡される小さな布切れ。
「すみません、これは何ですか…?」
恐る恐る聞く岳人。
「紐?ん…女性用の下着!?」
派手な布切れをくるくる回し見ていた宍戸は、思い当たると思わずそれを放ってしまう。
「宍戸惜しい!これは歴とした男性用下着だよ」
「マジかよ!紐とちっちゃな布しかねーぞ!?」
男性用と聞いて一先ず安心した宍戸は、改めてそれを広げてみる。
それは所謂Tバックと言われる作りで、サイドも紐で出来ているから紐パンとも言えるのかもしれない。そして驚くべきは前を隠す布の小ささだ。
「いやぁー、これは隠す気ねーだろ…?」
岳人も呆れたようにつぶやく。
「ふふ、岳人なら大丈夫だよ」
くすっと笑う滝。
「しっ失礼なヤツだな!俺だってさすがにこの大きさじゃ、隠れねーと、思う…」
最初はいきり立って怒った岳人だが、自分の股間と見比べるうちに滝の言う通り大丈夫じゃないかと思えてくる。情けない話だが。
「てめーのブツの大きさなんてどうでもいい。問題は俺たちが何でこれを履かなきゃならねーんだって話だ!」
「そ、そうだ!」
岳人も現実に戻ってきてようやく話が進む。
「それくらいの履かなきゃ、ジローみたいになるよ?試しにチャイナ着てみれば?」
「……」
顔を見合わせた二人は仕方なく制服を脱ぎ始める。
同じ立場の滝とジローが覚悟を決めてメイド服を着ているのだ。自分たちが逃げることはもう出来ない。と言ってもジローばかりは楽しんでいる風ではあるが…。

「なるほどな…」
「こりゃダメだ」
二人はお互いの姿を見て口々にため息をつく。
お互いのドレスのスリット上部からは、実に男らしくボクサーパンツがのぞいて見えた。
「でもー!二人ともとってもお似合いだよ♪」
ジローは嬉しそうに手を叩く。確かに思っていた程の違和感は無い。
「岳人は髪長いし身体小さいから似合うけどなぁー、俺はキモイだろ?」
この教室には鏡がなく、自分の姿が見えない宍戸は不安そうな声を出す。
「えーそうでもないぜ?髪もだいぶ伸びてきてるし、ボーイッシュな女の子って感じ」
似合うと言われて満更でもないのか、岳人は宍戸の前髪を横に分けてあげながらニコニコ笑ってそう言う。
「そうだよ宍戸。クールビューティーって感じ!前髪こうしてさぁ」
滝とジローも混ざって本格的な準備に入る。といっても髪をセットし髪飾りをつけるのと、ナチュラルメイクをするくらいなのだが。

「おお、可愛い!」
滝は最後に口紅を引くと二人の姿に惚れ惚れとする。
紅のチャイナドレスの宍戸は、前髪を横に流して固め右耳の上に大輪の花飾りをつけられた。全体的に落ち着いた配色で統一したそのメイクのポイントはアイメイクだ。切れ長の瞳を強調させる黒のアイライナーを引き、瞼の縁のダークカラーは物憂げな視線を演出する。瞳を強調させた分唇は色味を抑えた。
対してピンクのチャイナドレスの岳人は、いつもは真っ直ぐ下ろされた前髪を何束か摘まんで捩じり上げ飾りピンで留めた。動きが出て軽やかに見えるのと、日ごろは隠れている額が全開になったとので、いつにも増して幼さが強調される。そして極めつけはやはり滝が施したメイクだ。もともと瞳が大きくぱっちりとした目元にはドレスに合ったパステルカラーのアイシャドウを乗せるだけに留まり、唇に重点を置いた。艶やかでいてプリンと、ベビーピンクに輝く唇。
「わーん!宍戸は超お姉さまで甘えたいし、岳人の唇は食べちゃいたい!」
メイド服のジローが抱きつくと、もうそこはコスプレCafeの出来上がりだ。倒錯的な世界に、宍戸も岳人もだんだん気分が乗ってくる。
「宍戸、超綺麗だよ…」
「岳人は抱きしめたいくらい可愛いなぁ」
お互い褒めあう姿は相当変な二人だが、もうすっかり麻痺してしまっている。
「これならあの下着を履いて完璧にしなきゃな!」
さっきまで散々文句を言っていた姿は何処へやら。いそいそと自分の下着を脱ぎ捨てた二人はそれぞれ用意された下着を見につける。
これまたドレスに合わせた色で、絹のような質感は角度によって艶かしく輝いた。しかし布と呼べる部分は前の部分なのだから、ほかの人間がその輝きを確認できるような事態になってはマズイのであるが…。

「えらい遅くなってもうたなぁ」
「あと5分か。急ぐぞ忍足」
部室でギャルソンの衣装に着替えた二人は、急いでCafeにあてがわれている教室へ向かう。生徒会長の跡部に実行委員の忍足は、その業務の分Cafeの仕事を半日免除されていたのだ。
忙しかった二人は結局宍戸と岳人の説得に当たれなかったので、かなり不安を抱えている。
この件を任せたのが滝だから、何とか二人を説得してくれてるとは期待しているが…。
逃走する二人、客に喧嘩を売る二人、暴れてモノを壊す二人…。嫌な想像ばかりが頭を過ぎる。
「無事に営業できとるんかなぁ」
「…全くだ」
取りあえず今は急ごうと、二人は全速力で走った。

その頃のCafeは大騒ぎだった。けれど跡部たちが心配したような種類の騒ぎではない。ある意味二人にとってはもっと大変な騒ぎになっていた。
「滝先輩!客が行列になって捌けないですよ」
「あー、階段に沿って1階まで列伸ばしちゃって!」
「はい」
滝の指示に2年の部員が階下へ駆けて行く。するとすぐ、ほかの部員が半泣きで駆け寄ってくる。
「滝先輩~。あっちの席の野球部の先輩が宍戸さんはまだかって怒ってますぅ」
「そんな事言ったって、みんな順番なんだから待ってもらって!」
「はいィ…」
滝はメイド服で息を切らし、部屋をグルリと見回す。もうそこは只のCafeではなかった。明らかに風俗店に片足突っ込んでいる観がある。
「宍戸!岳人!過剰サービスはしないっ!」
滝がどんなに叱ったって、今の二人には効果は無かった。
ノリノリの二人は、ある意味そうして弾けでもしなきゃ人前には出られなかったのか、飲み物を運んでは男子生徒に抱き寄せられる、尻を撫でられるの大騒ぎだ。
しかもあえてそれに喜んで見せるから、客は調子づき噂を聞きつけて行列はできる。
「大丈夫だって!心配すんなよ滝」
笑って手を振る宍戸は、年下のサッカー部エースの膝に横座りしアイスコーヒーを飲ませてあげている。
「はい、どーぞ?」
小首を傾げてグラスを持ち上げると、そのエース君は顔を真っ赤に染める。
「い、いただきます!」
宍戸は礼儀正しい後輩が大好きだ。ストローを支えてあげ甲斐甲斐しく世話を焼いてあげる。エース君は年上のお姉さま(正しくはお兄様)にメロメロの様子だ。
岳人は岳人で大変な事になっている。小さいモノ好きで有名なバレーボール部ナンバー1アタッカーの膝にやっぱり座っている。しかもこちらは大股開きで跨っているのだ。
「ほら、あーんして。クッキー食べさせてやる」
ギリギリまで裾が上がったドレスからのぞく白い太もも。クッキーを食べさせてもらいながらもナンバーワンアタッカーの視線はガッツリそこに集中している。そして傍のテーブルで二人が来るのを順番待ちしている生徒たちも、食い入るようにそんな二人の姿を見つめているのだ。こんなんじゃいつ襲われたって文句なんて言えやしない。
せめてジローくらい正気でいてくれたらと、滝はすっかり声の聞こえなくなったジローを探す。聞こえてくる笑い声はだいたい宍戸と岳人のもので、ジローの姿が見当たらない。
ただ寝ているだけならいいが、今日のこのテンションであの格好だ。間違いが起こらないなんて言い切れない。急に心配になって、部屋の外まで探しに出ようとトレーを置いたところで背中から声がかかる。
「ジロー先輩ならあそこですよ…」
振り向くと、客を捌くのに既に疲労困憊の鳳の姿が。宍戸が心配でならないのもその要因だろうが…。
その鳳が指差す先を目で追うと。
「ジロー!?」
なんてことだ。
ジローは確かに眠っていた。逞しいアメフト部員の腕の中で。
周りで幸せそうな表情で見守るのもアメフト部の仲間らしく、逞しい肉に囲まれてジローはぽかぽか温かそうだ。
…ジローはあーゆーのに人気がある訳ね。
せめてジローくらいはと思っていた滝はあてを失ってがっくり首をたれる。やはり自分一人でここを捌かなければならないらしい。
すでに鳳と日吉も限界だ。
「待たせたな、滝!」
その時教室に飛び込んできた跡部と忍足。その声を聞いた途端、滝は本気で涙を零していた。
「跡部!忍足!助けてー」

泣き縋ってきた滝の姿に、二人は慌てて教室を見遣る。
やはりあの二人が大暴れをしたか!?と見回した教室は、ある意味大騒ぎだった。
「宍戸ー!何してやがるっ!!」
跡部の視線の先では、艶かしいチャイナドレス姿で知らない生徒の膝に座る恋人の姿が。
「はい、あーんして?」
口にポッキーを運んであげている宍戸のドレスのスリットからは、男子生徒の手が忍び込み、明らかに尻を揉んでいる手つきだ。
「てめー!宍戸から離れやがれ!」
跡部は血相を変えて殴り込みに行く。
「あれ?跡部お帰りー」
事態を全く把握していない宍戸は、腹が立つほどあどけない笑顔だ。

片や忍足の顔も真っ青に血の気が引いていた。
「何しとんねん、がっくん!?」
いかにも陰気臭い男に請われるまま、グラビアアイドルさながらの撮影大会が始まっていた。四つん這いに膝を突いて上目遣いに微笑む岳人の姿に、写真を撮るヤツだけではなく回りの生徒からも歓声が上がっている。
「え?次はこう?」
ポーズの指示でもされたのか、ためらいながらも正座が崩れたようにぺったりと床に座り込む。少し開かれた脚の間からは今にも下着が覗けそうで、スリットからは恋人である自分一人のものと信じて疑わなかった太ももが大胆に見えていた。
「アホかお前はー!!」
激怒した忍足は人波を掻き分けると、可愛らしく座り込む岳人を抱き上げる。
「あれ?侑士おつかれー」
「!!」
そんなのんきな言葉に、忍足はあきれ果てて声も出なかった。

滝一人ではどうやっても終結できなかった騒ぎが、怒りの頂点に達した跡部と忍足の怒号で一気に静まる。慌しく逃げるように生徒が去ると、そこには残されたのはテーブルと食器や料理。そしてウェイター、ウェイトレスの姿だけだった。
「やっと終わった…」
力尽きて膝を折る滝。鳳と日吉もそれが合図のように床にぺたりと尻をついた。
「どうなるかと思いました…」
髪を乱した日吉は、ため息とともにそう呟く。
ただ騒ぎの張本人たちだけは、きょとんとした表情でそんな3人を眺める。
「どうしたんだよ、お前ら?」
「大盛況だったから疲れたか?おれたち頑張った甲斐があったな宍戸!」
「そうだな岳人!」
なーっと仲良く頷きあう二人。何にも気づいていない二人の言葉に部員はいっせいに溜息をついた。
客の獣じみた視線も、すでに身体に伸びていた手も、二人はどれもこれも祭りでのバカ騒ぎって事で納得しているらしい。
「…あのね、宍戸に岳人。君たちはすっごく貞操の危機だったんだよ?分かってる?」
疲れきった滝の言葉にも、二人は不思議そうに首を傾げるだけだ。
「え?でもあんだけ客きたんだから成功だろ?」
「そうだよ、俺たちずっと逃げ回ってたのを反省して、すっごく頑張ったぜ?」
「…頑張った、ね…」
やっぱり何も分かっていない二人に、滝はもう説明することすら諦めた。そして、まだ怒り覚めやらぬ跡部と忍足を振り返る。
「もうどうせCafeは早仕舞いでしょ?この二人に説教くれてやれば?」
いつもなら宥めに入る滝が、今回ばかりは自ら提案する。別に腹いせとかそんなのじゃなく、周りからどういう目で見られているのか全く気づいていない二人の今後が心配なのだ。
「…そうだな、このバカは身体に分からせてやらないと理解できねーみたいだ」
跡部の地を這うような言葉に、宍戸はぶるりと身体を震わせる。
「そうやな。がっくんは特に非力さを知ってもらわんと、自分で身を守れんからな」
珍しく本気で怒る忍足の姿に、岳人は無言で肩を竦めた。
「それじゃ後は俺たちで片付けておくから、二人のことはよろしくね。跡部、忍足」
「わかった」
滝の言葉に跡部と忍足はそれぞれの手を取ると教室を出る。宍戸と岳人は只ならぬ空気に反論できず、引かれるまま付いて行くだけだった。

誰もいない生徒会に忍び込んだのは跡部と宍戸だ。
扉を閉めると、跡部の手でゆっくりと鍵が掛けられる。
「跡部?」
また頭ごなしに延々と叱られるのだと思っていた宍戸は、わざわざ鍵を掛けることが不思議だった。言葉にせずとも「何で?」と言っている表情に、跡部は宍戸の鈍さは相当のものだと実感する。
無人で冷え切った部屋のエアコンを入れると、半袖のチャイナドレス姿の宍戸に自分のジャケットを掛けてやる。
「そこへ座れ」
会議用に置かれたレザーのソファに、宍戸は促されるまま腰掛けその隣に跡部も座る。
座ることによって、ドレスのスリットが割れ滑らかな太ももが覗く。それを横目で確認した跡部は、またよみがえる怒りを必死に抑え極力静かな声で宍戸に話す。
「宍戸、座ったまま自分の太ももを見てみろ」
溜息ながらそう言う跡部。
「は?太もも…?」
言われて視線を落とすと、広がったスリットの間から見える自分の肌。
「!?」
目の当たりにして初めて跡部の溜息の意味に気づく。はっと息を呑んだ宍戸の、スリットの隙間に手を差し込みながら跡部は言う。
「…分かったろ?お前が思ってるより露出が激しいんだこれは」
確かに座ることによって持ち上がったドレスのスリットは思ったより上から裂け、しかも立っている時とは違ってその隙間は大きく広がり、左脚はほぼ全開だった。
しかもなんて容易く跡部の手が滑り込んだことか。これなら、もしかしたらテンションが上がって気づかぬ間に誰かが触っていたかもしれない…。
お祭り騒ぎの空間から出てしまえば、さっきまでの行動は日ごろの自分からは考えられないくらい大胆なものだと気づく。
急にかーっと頬を染める宍戸を引き寄せると、跡部はギュッと抱きしめる。
「いつも俺が触ればぎゃーぎゃー騒ぐくせに、赤の他人に触らせてるんじゃねーよ」
「…ごめん」
もう謝るしかない。いくら頑張るって言ったってやっぱりあれはやり過ぎだった。
「しかも尻なんて揉ませやがって…!」
どこの誰とも知らぬ男がこの円やかな尻を掴んだのかと思うと、あまりの腹立たしさに跡部の手に力がこもる。
「痛っ!」
尻を強く揉みたてる力に、宍戸は思わず声を洩らした。
「…俺、客にそこまでさせた覚えねーぞ…?」
恐る恐る弁解すれば、跡部は強引に左手もスリットから差込み両手で双丘を掴む。
「俺が目撃者だ!」
言い聞かせるように強く揺すりたてるから、宍戸はバランスを崩して跡部の胸に転がり込む。
「宍戸、自分がどれだけ危険な姿を晒していたか分かったか?」
ドレスから手を抜き宍戸の横顔を飾る花を外してやりながら、跡部は囁くように確認する。
「…ああ」
こくんと頷き俯く表情は、滝のメイクのためかいつもより殊勝に見える。
「そうか。それじゃーこれからお仕置だ」
「えっ!?」
今の話でお仕置きは終わりと思っていた宍戸は、自分の頬を撫でる手のひらにビックリしたように身体を離す。
「バーカ。これからが本番だぜ?」
押し返す腕は直ぐに引き寄せられて、とうとうすっぽりとその腕に抱きしめられる。
「たまにはこーゆーのも倒錯的でいいかもな?」
くくっと笑うと、跡部はメイクを施された瞼に口付ける。くすぐったさに震えるまつげはいつもより濃い影をその頬に落とした。
不自然なくらい艶やかな唇を舌で舐め取ってやると、残った紅と自然な色とのコントラストが跡部を酷く凶暴な気持ちにさせる。
「…宍戸、折角色っぽい格好してるんだ。誘って見せろよ?」
「跡部っ!」
一番宍戸が嫌がる事を言ってやる。自分がどれだけ怒っているのか、しっかり分からせてやらなければならない。跡部は青ざめる宍戸に激しく口付けた。

ただ優しく微笑む跡部に、宍戸は途方に暮れてしまう。いつもこんな意地悪を言う跡部だけど、大体は困ったようにしていれば最後は許してくれるのに。今日だけはどれだけ待ってもお許しの言葉が跡部の口から出ることはなかった。普段は痺れを切らして仕掛けてくる跡部が本当に怒っているのだと思い知らされる。
宍戸は、覚悟を決めて一度ソファから立ち上がると、どっかりと座り込んでいる跡部に跨るように向かい合って座る。そして、自分からその唇に口付けた。
いつも跡部がしてくれるみたいに…そう思って舌先で歯列を分け入るけれど、それからどうしていいか分からずに戸惑ってしまう。いつも自分は気持ち良すぎてこの先の記憶があいまいなのだ。
固まってしまった宍戸の舌先をチュッと吸うと、跡部は唇を離して呆れたように苦笑する。
「おいおい、とんだお子様なキスだな宍戸?」
頬を染めて俯くその頭をポンっと軽く叩くと、跡部は跨った宍戸の両脚に手をかけ思い切り左右に開いた。
「わっ!?」
宍戸が驚いて首に縋りつくと、跡部はニヤッと笑って太ももを撫でながらドレスの裾を捲り上げる。
「自分からは仕掛けられないみたいだな?なんならお題を出してやろうか?」
なんだかとんでもない事を言い出しそうな表情だけど、どうしていいか分からず戸惑っていた宍戸は悩んだ末に頷く。
「ドレス捲って自分で慰めてみろよ?」
「そんなっ」
「あーん?出来ねーのか?それならさっきの続きで俺を誘ってみせてくれてもいいんだぜ?」
「っ…」
悔しそうに唇をかみ締めた宍戸は、諦めたように自分でドレスの裾を捲し上げる。跡部に跨って大きく開いた脚。そしてこのドレスを上まで捲くってしまったらあの下着が見えてしまう。それでも宍戸には選択肢がほかになかった。
するすると上がっていく布地。徐徐に露わになる肌理の細かく真っ白な太もも。
その先に見えたものに、酷いショックを受けたのは宍戸本人よりも跡部だった。
「…ちょっと待て。宍戸」
恥ずかしさに震える宍戸の両手をつかんでドレスから離させると、自分でそのスリットを分け、性急な手つきで最後まで上げる。
「お前!なんて下着履いてるんだ!」
「だって!滝が…」
とうとう見られてしまった恥ずかしい姿に、宍戸は顔を覆って零れる涙を隠す。
申し訳程度にしかない布地は辛うじて必要な部分を隠しているが、触れればすぐ零れ出てしまいそうな危うさに、跡部は本当に急いでCafeへ駆けつけてよかったと胸をなでおろす。
もし一歩遅くて、例の男が尻を揉む手を前に回していたとしたら…。跡部は想像すらしたくなくて大きく頭を振る。
さっき自分で尻を掴んだ時も下着に触れない事を不思議に思ったが、ラインを出さないような下着を履いているのだろうくらいにしか思わなかった。
まさかこんなに際どく、しかも容易く剥ぎ取れるものだったなんて!
「…ごめんっ」
どうして跡部がこんなにショックを受けているのかは分からないが、原因がこの下着だってことは分かる。こんな変態みたいな格好で人前に出てしまったことが今更酷く恥ずかしくなって、宍戸はただ泣きながら謝り続けた。
「別に怒ってる訳じゃねーから泣くな」
「…んっ」
涙の止まらない宍戸の顔を上向かせると、まだしゃくり上げる唇に優しく口付ける。啄ばむような触れるだけのキスを。
あやすように何度か角度を変えて続けると、涙はおさまってきたようだ。
そして、やっと瞳を開いた宍戸。その頬には当然ながら黒い涙の跡が伝っていた。
初めての化粧で、まさかマスカラが涙で落ちてしまうなんて知らない宍戸は、見つめる跡部の視線の意味には気づかない。
「…合格だ宍戸。誘われてやるよ」
そう声を絞り出すように言った跡部は、膝に乗った宍戸の身体をソファに横たえると上から覆いかぶさる。
自分の何が跡部を誘うことになったのか分からない宍戸は、疑問に思いながらもその貪るような口付けを受け入れた。
まさか、嫌らしい下着を履いている姿を見られて、恥ずかしさのあまり化粧が崩れるのも構わず涙する宍戸の姿が、あまりに痛々しく可哀想で…サディスティックな欲望に火をつけられたなんて…。さすがの跡部も教えてやることはできなかった。

ぺちゃ、ぺちゃ…と必要以上の音を立てて唇が重なり合う。舌でベロリと唇を舐め上げたり食むようにして下唇を吸い上げたり。跡部は音を立てられるのを宍戸が嫌がるのを分かっていてわざとそうする。
「…ん、ん」
やはりむずがるように身体を捩る宍戸の腕をつかまえ、頭の上で縫い付けるように押さえつけてやれば、さらに紅潮する頬に跡部はニヤっと笑う。
「音立てられるの本当は好きなんだろ?」
気づいていても今までは言わずにいてあげた事。今日はそれをあえて言葉にする。お仕置きなのもある。けれど何より今日の跡部は自分でも不思議なくらい宍戸を苛めて泣かせてみたかった。
「ひど、い…」
意地悪な質問に宍戸の瞳はまた涙に潤んだ。
「本当のことだろ?ほら、こっちだって喜んでるぜ?」
そう言って伸ばした手はドレスの上から勃ち上がりかけた部分を優しく包んでやる。
「あ…ン」
抑えきれない甘ったるい声。
もっともっと喘がせてやりたい。そして半狂乱になるくらい感じる姿が見たい。跡部はその欲望を満たすべく、もう一度激しく唇を吸うと身体を起こした。
そして宍戸の両脚の間に身を割り込ませると、容赦なく大きく脚を開かせる。
「やだ!跡部っ」
涙声は跡部の残酷な部分に火をつけるだけだ。…もっと聞きたい。
跡部はすらりと伸びた宍戸の右脚をソファの背に掛けるように乗せ、左足は胸に付くほど大きく開かせる。そうすると肌蹴たドレスからあの嫌らしい下着が現れる。
サイドの紐が宍戸の動きに合わせて捩れると、それに引っ張られるようにセンターの布も歪む。濃く紅い光沢は窓から差し込むだけの少ない明かりにさえ艶めいて見え、そしてもちろんその艶と影は、宍戸の勃ち上がりかけたモノの姿をはっきりとさせる。
「…見てみろよ宍戸、嫌らしいなぁ。お前の形がはっきり分かるぜ?」
「…言うなぁっ!」
宍戸は両手で顔を覆うと、嫌々をするように首を振って拒む。
「そうか?すげェイイのにな」
愉しそうに笑うと跡部はその部分に顔を埋める。
「…!!」
声も出せず固まってしまう宍戸。
跡部は大きく口を開くと、小さな布越しからその部分を食むようにする。唇で挟むように横向きに銜えれば、ビクビクと震えたそこは少しずつ硬さを増す。
跡部の吐息と宍戸自身が発する熱とで次第に湿っていく下着。
そして、とうとう…。
「…くくっ、イイ光景だ」
顔を上げた跡部の下には、膨らみによってピンと張った布地の端から、宍戸の亀頭が飛び出していた。
「ああっ!」
見なくたってわかる。そうなってしまうと分かっていても宍戸は拒絶できなかった。
「ああ、可哀想に。こっちも泣いてるぜ?」
跡部の指先は口調とは裏腹に強引な手つきで亀頭を撫で回す。溢れた雫を塗り広げれば、そこは下着にも負けない艶やかさで差し込む光を映す。
「いやぁ…」
くっちゃ、くっちゃと粘りを持った音は、宍戸からも理性を奪っていく。
「さあ、宍戸これからどうして欲しい?」
うっそりと微笑み尋ねる跡部。
そんな跡部を、宍戸は自分の股の間に眺めながら、その瞳も恍惚と蕩けていた。
「あ…とべ、しゃぶって?」
「ふん、やりゃー出来るじゃねーの…」
舌っ足らずな誘い文句に、跡部は満足そうに微笑む。

下着の脇から引きずり出したものを、跡部は根元まで咥えこむ。
脱がされずにまとわり付く下着は何も履いていないよりも淫猥に映り、余計に二人の性欲を煽った。
「あっ、あっ」
一度箍が外れてしまえば、宍戸はどこまでも貪欲だった。
身体を起こし自分のものを咥える跡部の髪に手を伸ばす。激しい水音とともに跡部が吸い上げれば、その頭を掴んで自分の股間に引き寄せる。
「…すっご、イ…イ」
あまりの良さにじっとしていられなくて、忙しなく跡部の髪を撫でたり耳を弄んだり。そんな卑猥な宍戸の指に跡部ものぼせていく。
一度口を離して見上げると宍戸の表情は今までにない乱れ方で、閉じる事を忘れた唇からは唾液が伝い、吐息とも喘ぎともわからない声がもれている。
「あ、あ…あ」
意味をなさない言葉は自分でも無意識に零れているらしく、完全に理性を失った瞳は跡部に続きを要求する。
「いい顔しやがる…」
今まで一度も見せる事がなかったここまでの媚態。こんな宍戸を拝めたのだから、宍戸の尻を撫で回した輩も今回は大目にみてやろうかという気持ちになる。
「あとべ、もっとぉー」
くい…と自分の髪をひっぱる宍戸の手を掴むと、すばやく指先にキスをする。
「もっとイイことしようぜ?」
そして宍戸の身体をひっくり返す。
「こっち、舐めさせろ」
紅いT字の映える双丘を撫で回すと、すぐに意味を理解して腰を持ち上げる宍戸。
丸まって尻を浮かせると、拙い手つきでそこを暴く。
「これで、へーきか?」
「宍戸…」
これまで何度か言ってみたけれど、一度もやってくれなかったこの格好。
宍戸が自分の手で尻を割り開く仕草は、跡部が想像していたよりもずっと扇情的で一気に下腹部が昂ぶるのを感じた。
「良く出来たな、宍戸」
そう言って尻臀に口付けてやれば、宍戸の身体が嬉しそうに震える。
もう自分もそうそう持たない。そう感じると跡部はわななく宍戸の孔に舌を伸ばす。
最初は突くようにして慎重に刺激するけれども、すぐに宍戸が物足りなそうに腰を振る。
「…ったく、とんだ淫乱になったもんだ」
くくっと咽喉から洩れる笑いは、当然その痴態を歓迎している。
「ごめ、なさい…」
けれど怒られたと思った宍戸は、頭を隠すようにしてその身を縮めた。
「バーカ。褒めてるんだよ」
跡部は宍戸を悦ばせるべく、今度は荒々しく入り口に舌を差し込む。
唾液を送り込むようにして尖らせた舌先で抉ると、そこはすぐに綻んでくる。熱く燃えるような内壁。跡部はすぐに舌に替えて指を差し入れる。
「…あっ」
見えない宍戸は少し驚いたような声を上げるが、痛がっていないことは明らかだ。たった1本では足りないとでもいうように飲み込まれていく人差し指。
「…急ぐなって」
一度引き抜くと物寂しそうに付いてくる媚肉。跡部は一気に3本に増やした指を少し乱暴に挿入する。
「ああっ!」
宍戸の口をついて出たのは、やはり嬌声だった。
「慣らすまでもねーな…」
ぷちゅ…と音をたてて指が抜かれると、今度こそと期待に震える宍戸の背中。
「それじゃ、お待ちかねの物をいれてやるよ」
その背を左手で宥めるように撫でてやりながら、右手で自分のペニスを掴む。扱いてやる必要なんてないほどに勃ち上がった自分のものに跡部は苦笑を漏らす。宍戸のあられもない姿に煽られて、もう先走りが滴っていた。
「いくぜ、宍戸」
左手で尻の割れ目を走る紅い紐を掻き分け、手にした勃起をそのヒクつく入り口に添える。
そして、勢いよく貫いた。
「ああああーっ!」
待ちかねた進入に迸る宍戸の声。
そして、散々待たされ涙を流していたモノはその衝撃にビュクっと弾けた。パタパタと音を立ててソファに散る宍戸の精液。
「おいおいっ、トコロテンかよ!?始めて尽くしだな宍戸?」
からかう跡部の声も欲情にまみれて上擦っている。
意地悪なことを言えば余計に感じる宍戸の身体。跡部のからかう言葉にも身体を震わせた。
「まだイけるだろ?宍戸!」
跡部は汗で滑る宍戸の腰を抱え直すと、より強く挿入する。
衝撃に崩れ落ちそうになる宍戸の脚。
「おら、しっかりしろよ!」
跡部はピシャリと、手のひらで震える太ももを叩いた。
「あ、ハァっ!」
その痛みも、宍戸にとっては愛撫にしかならないようだ。
これが全て曝け出した宍戸なのか…。跡部は激しく腰を打ちながら、甘く仄暗い悦びに口角を上げる。
自分にしか見せない姿。自分しか知らないこの媚態。
「最高だぜ…っ!」
角度を変えてひと際強く抉れば、息を呑む宍戸の背中。
「ここ、イイんだろ?」
「いやぁ、ダメ…」
刺激を欲して宍戸の身体は甘く揺らめく。
「天国見せてやるからな」
フィニッシュに向けて跡部は宍戸の尻を引き寄せる。そして、大きく息を吸うと斜め上へと突き上げる。
「アアっ!」
「…っく」
叫びとともにキツク締まる内壁。蠢く粘膜がギュウ…と跡部を絞り上げる。
無理やり身を引き先端だけ残すまでに抜いた所で、また激しく貫く。
ぐちゅっ、と結合部分からは粘液があふれ出る。
「ああっ、もう!」
ガクガクと揺さぶられながら、宍戸が最後をねだる。
「宍戸っ、どうして欲しい。言ってみろっ!」
激しく腰を前後に使いながら、乱れる息で聞く跡部。
「ああ、あぁ…」
さすがに躊躇うような宍戸の態度。いつも言わせようとしても頑固に口を割らなかった宍戸だけれど、今日はもう一押しで言葉にできそうだ。
跡部は宍戸の前に手を伸ばすと、ヒクつく昂ぶりを握り先端の口に爪を立てる。
「言え、宍戸」
耳もとで囁かれる甘い命令。先端から走る狂おしい痺れ。
宍戸は反射的に懇願していた。
「あとべっ!…中にちょうだいっ、中に出してェ!」
「…よく出来た。ほら褒美だ!」
「あああああああァー…」
跡部の先端が最奥を激しく突き上げると、宍戸は全身を引き攣らせ2度目の射精を迎える。そしてその締め上げに、跡部も宍戸の奥に精を放った。

「あー戻ってきた」
跡部と宍戸が部室の扉を開けると、すっかり制服に着替えた岳人が椅子に逆向きに腰掛け、ガッタンガッタンと揺らしはしゃいだ声を上げる。
「がっくん、危ないから遊ばんといて」
忍足は二人の帰りに手を上げて迎えながらも、岳人を抱き上げ椅子から下ろす。
そして膝に岳人を抱えた忍足がソファに腰掛けると、3年メンバーが綺麗に揃った。
忍足、岳人、滝にジロー。4人がニンマリと笑って二人を見遣る。
何をしたらそんなに皴になるのかっていうくらい乱れたドレスに、すっかり落ちてしまった化粧。前髪もセットがくずれていつも通り額を覆っている。
そんな宍戸に岳人は言った。
「宍戸ってば、いいようにお仕置きされちゃったんだ!」
「…お前は?」
いつも通り制服を着込んだ岳人に、宍戸は不思議そうに尋ねる。
「なあ、宍戸考えてもみろよ。俺たち跡部と忍足がCafeやるって言い出したからあんな格好させられたんだぜ?しかも頑張って接客したのに俺たちが怒られるっておかしな話じゃないか?」
「…そういえば、そうだ」
文化祭の出し物を決めたときの様子を思い出す。まったく乗り気でなかった二人を無視してCafeを決行したのは跡部と忍足だった。しかも女がいないと華がなくていけないなんて、男子テニス部なんだからどうしようもない事を言い出したのもこいつらだった…。
宍戸はゆらり、と横の跡部を見上げる。跡部の表情はまるで無表情に見えるけれども、宍戸だけが分かる焦りが見て取れる。
「…そうだ。すっかり忘れてた。お前が俺にウェイトレスやれって言ったんじゃねーか」
じとーっと見つめる視線に、跡部は咳払いする。
「まあ、何だ。過ぎたことをガタガタ言っても仕方ねーよな。なあ忍足?」
話を振られた忍足は、冷たい目で跡部を見据える。
「いーや跡部。お前だけイイ目は見させへんで。俺なんかがっくんに切れられて逆に説教されたんや。お前もちょとは宍戸に怒られた方がええでェ」
「っんだと、てめー!」
つーんと横を向く忍足に跡部が詰め寄ろうとするのを、宍戸の腕が止める。
「なあ跡部。納得いく説明、してくれるよな?」
詰め寄る宍戸。後ずさる跡部。じりじり…と攻防は部室の扉の前まで続いた。
「た、滝!コイツの化粧ちゃんと落としてやってくれ!」
跡部はそう言うと宍戸の背を滝に向けて押し出す。そして自分はドアを開け外へ逃げ出した。
「てめー!待ちやがれ」
体勢を崩した宍戸は、気合で踏ん張るとすぐにその後を追って駆け出す。
そして部室に取り残される4人。
「宍戸、着替えないで出てっちゃったC…」
「俺早く宍戸のメイク落として帰りたいのに…」
「ばかだなァ宍戸。俺が言うまで理不尽さに気づかなかったのかよ…」
「跡部のやつ相当イイ目見たようや…。宍戸にシバかれてまえ…!」
それぞれの呟きが、薄暗い部室に響いては消えた。



「H特集」最後は、王道の文化祭女装ネタでした(笑)。だらだらと長くなり前後編に分けようとも思ったのですが、そうすると後半がただのエロのみになってしまいあんまりなので諦めました。  
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