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アンハッピーです。苦手な方はご注意を。

 


さよならの音 (跡×宍)

「寝言は寝て言え」
これが、愛を告白した俺に投げつけられた振られ文句。
愛の告白をしたのは俺、宍戸亮。
完膚なきまでに俺を振ったのは、跡部景吾。
「あ~、やっぱりな」
俺を慰める忍足は、そう言って苦笑した。

そんな高校の卒業式だったから、1年後のレギュラー同窓会に出席しなくても、まあ分かってくれよと言ってやりたい。
尊大な態度で腕を組み、アパートの扉を塞ぐ跡部景吾に。
「何で、同窓会に来やがらねぇ」
見下したモノ言いは相変わらず。
てゆーか、身長も伸びたらしく事実見下ろされている。
何だろ。
天は二物も三物も与えちゃったっていうイイ例?
頭脳・容姿・家柄と全てが揃った、すれ違う人間みんなが振り返るイイ男。
そんな男が。
「…何しにきたんだ?」
振った相手のアパートまで押しかける理由ってものを聞かせてもらおうか?

狭いコンクリートのたたきに、えらい高級そうな革靴を脱ぐと、恐る恐る部屋に上がる跡部。
そりゃーそうだろ。
跡部邸の玄関の広さにも満たない、1Kの学生用アパート。
きっとこの顔は、あまりの狭さにこれが家なのかと訝しんでる表情。
玄関をあけた途端に部屋全てが見渡せるどころか、窓から向かいの雑木林まで望めてしまう。
でも大学生の一人暮らしなんてこんなもんだろ?
八畳にキッチン、それにおまけのようなロフト。
一人にしちゃあ贅沢かななんて俺は思ってる。
何せ、家賃5万の大学まで徒歩2分ときた。
「座布団なんて贅沢なものねーから、適当に座ってくれ」
もちろん、出す茶もない。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を注ぐと、小さなテーブルに二人分置く。
唯一揃いのペアグラス。
忍足とふざけて買った、キャラクターもの。
それに目を落とすと、そのアイスブルーの瞳がすっと眇められる。
…やっぱり。
俺はすんでの所で溜め息を堪える。
跡部は恐らく、これが忍足と買ったものだと気付いた。
この部屋に、何度となくアイツが泊まっていることも知っているのだろう。
きっとネタの出所は同窓会で、岳人あたりが近況報告を吹いてまわったってとこだろうか。
俺らの事までペラペラと。
大体想像はつくぜ?
いくら自分が振った相手とはいえ、他の奴と、ましてやかつての部活仲間とくっついちまったのが面白くねぇんだろ?
しかも、振ってからまだ1年も経たないうちに。
まあ実際は、振られた翌日には忍足に…抱かれてたけどな。

「…何か、用があって来たんじゃねーの?」
今更何の用だよ、なんて昔のように突っかかったりはもうしない。
跡部の薄い反応に、食って掛かるのをやめたのは高校に上がってからだったかな。
だいたい俺もその時に気付けば良かったんだよな、全然脈がないことを。
そうしたら、あんな気まずい別れをしなくても済んだのに。
「何で、同窓会に来なかった」
押し殺したような声が、さっきの台詞をもう一度呟く。
「…」
そうかよ。何としてでも俺に惨めな告白をさせたいわけね。
昔から聞きにくい事を平気で聞くヤツだったよ。
しょーがねーな。
「分かってくれよ。振られた相手にのこのこ会いに行くみたいで、虚しいじゃねーか…」
これで満足か?
忍足と寝てても、心は自分にあるって分かって。
何だって手にできるお前が、こんな些細な優越感に浸るとも考え難いけどな。
今日は忍足に上手い事、俺が跡部に振られたことを昔のメンバーに打ち明けてもらって、次の同窓会からは参加するつもりだったぜ?
さすがに皆の前で、平然と跡部と顔を合わせる覚悟はまだなかったんだ。
皆に知っててもらえば、気のイイあいつらの事だ。
次の会で俺が固まったって、上手くスルーしてくれるだろうし。

「何であの後、追ってこなかった」
西陽が射す部屋で、跡部の声は酷く焦ったように響く。
「…あの後?」
その声音とは反対に、俺は随分間抜けな声で聞き返してしまう。
だってよ、意味がよくわからねえ。
「卒業式の後だ…」
「ああ?」
卒業式の後って…。振られた後ってことか?
何を言ってるんだ、跡部は。
普通振られたら終わりだろ、それで。
しつこく追い縋るなんて、男のする事じゃねーよ。
違うのか?
「お前は、あの後一度も連絡を寄越さなかった」
「当たり前だろ?どの面下げて、お前に連絡するんだよ。あれだけきっぱり振られといて、もう一度考えてくれって、そう言えば良かったのか!?」
あまりの無神経さに、腹が立つ。
面倒な関係にはなりたくないが、自分に注目してもらえないのは嫌だってか?
震える指に気付かれたくなくて、意識的に拳を握った。

黙り込む跡部の横顔が、オレンジの光りに包まれる。
最近陽が伸びてきた。
同窓会の二次会に行ったほかのメンバーは、カラオケでもしてるだろうか?
それともファミレスでダベッてるだろうか。
何にしても、アルコールの類にまだ手を出せない年だから、夜の早いうちに解散するつもりなんだろう。
…そして、忍足がこの部屋へやってくる。

「…跡部、お前勝手だよ。今更あの時の事いわれても困るし…」
正直、もう勘弁してもらいたい。
この1年忍足と浮かれた生活をしてみたけれど、お前と顔を会わせれば何も変わっていない想いに気付く。
「勝手なのはお前だ。仲間だったヤツに急に告白されて、悩まないやつがいるか?」
「…跡部」
「お前は俺に考える間も与えなかったじゃねーか」
でも、あの時確かに俺は振られた。
「…あの台詞は、立派な振られ文句だと思うけど?」
『寝言は寝て言え』
普通、振られたと思うだろう?
「俺も驚いたから、つい…な。だが、次に会った時にはちゃんと伝えようと思ってたぜ?正直な気持ちを…」
「…え?」
部屋に入ってから初めて真っ直ぐ見つめる瞳が、暗くなってきた部屋の中鋭く光る。
「宍戸…」
その呼びかけを遮るように、俺は勢い良く起ち上がる。
「…電気、点けるわ」
じれったそうに俺を見上げる両の眼。
これから告げようとした大事な台詞を邪魔されて、イラっと眉を顰める。
緊張した空気。
俺は鈍くはない方なんだ。決して鋭くもないけれど。
だから、跡部が次に紡ぐ言葉を意図的に邪魔をした。

あの別れの日。
跡部がそんな事を思っていたなんて少しも気付かなかった、決して鋭くない俺。
確かに俺は、一方的で自分勝手だったかもしれない。
でもそれなら、あの場面であんな台詞を言い、その後連絡を寄越さなかった跡部だって…。
多分、二人とも分かってなかった。
いつも振り向けばそこに居てくれる仲間だったから、こんな風に会わなくなるなんて欠片も思ってなかった。
跡部はきっと、すぐに俺と会う機会があるだろうと思ってたんだろう。
でも、始まった大学生生活は思った以上に慌しくて…。
俺だって、そんなつもりは無いのに忍足以外のメンバーとは何ヶ月も会わないなんてザラだった。
まだたったの1年しか経っていないけれど。まだ19歳だけど。
この1年は本当に俺たちを、いや、俺を変えてしまった。

「宍戸」
言いかける跡部に、俺はゆっくり首を振る。
1年前からやり直そう。
きっと跡部はそう言うに違いない。
そうでなければ、わざわざ同窓会を抜け出して俺に会いにくる理由なんてないんだ。
だから、ゆっくり首を振る。
「…もう、あの頃の俺じゃない」
泣き出してしまうかもと思ったけれど、案外淡々と言葉が出る。
「だから何だ」
お前は聡いから、この会話の行く末に気付いている。
「もう、無理だ」
少なくとも、恋人としてはやっていけない。
「…もう、俺のことは好きじゃねぇのか?」
好きじゃないのかって…?
きっと、もう何とも思っていないと言えばそれで話は終わるのだろうけど…。
でも、俺は大きく首を振ってしまう。
声を出したら、余計なことを言ってしまいそうだから。
ただ首を振る。何度も、何度も。
こんな毎日を送る自分の、いい訳をしてしまいそうだから。
「じゃあ何でだ!」
はっきりしない俺に、跡部は焦れたようにテーブルを叩く。

なあ、跡部。
俺、お前に振られた後涙を堪えて走ったんだ。忍足のもとに。
鈍くは無い俺は、忍足の気持ちに気付いてたよ。
辛い時、誰より優しくしてくれるだろう人を俺は分かってた。
あの穏やかな表情を見た途端俺は泣き崩れたけど、そんな中でも、眼鏡の向こうに滲ませる欲情をちゃんと読みとった。
俺は汚いよ。
跡部を忘れられないまま、忍足に優しさをねだる。
激しく俺を抱いてくれるなら、もう誰だって良かったのかもしれない。
大学の先輩にも抱かれたよ。
何だかもう、どうでも良くって。
跡部。
俺はもう、お前に触れることなんて出来ない。
こんな汚れきった心と体に、お前にだけは触れて欲しくない。
迷惑だって言うかもしれないけど、お前は常に俺の憧れで、目標で…。
カッコ良くって、どこか神々しくて。
だから、こんな俗物に成り下がって欲しくない。
こんな汚いモノに触れて欲しくないんだ。
あの時は自分の気持ちを持て余して、お前に告白したけれど。
男でも、女でも、相応しい人間とお前は歩くべきだよ。

何も言わない俺を、お前は悔しそうに見つめる。
やっぱり聡いお前は、俺の気持ちなんてお見通しだろうか?
そんな考えはお前の勝手じゃないかと、きっと思ってるだろう。
でも、跡部は口を開かない。
そしてその眼は、ゆっくり玄関に向けられる。

アパートの階段がカツン、カツンと響く。
そしてその足音が確実に俺の部屋へと向かって近づく。
…ガチャ。
冷たい蛍光灯の下、忍足が鍵を回す音が終わりの合図のように無機質に響く。

途端に襲った、心を締め付けるこの感情。
ああ、1年前に戻れたら…。

 



あえて頭に注意書きをつけました。「すれ違い愛」特集第1弾はアンハッピーものです。すれ違ったまんまです。書いてて自分が悲しくなりました(…バカ)。アンハッピーなんてもう二度と書かない!やっぱりハッピーエンドがいいですよ。
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