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好き合っているはずなのにすれ違う。そんな2人の独白です。
好き (塚×不二)
-Side・T-
「不二…」
二人きりの部室。
その細い肩を抱き寄せ名前を呼ぶと、それまでの笑顔を曇らせ視線を逸らす。
そんな表情を見せるのは、決まって俺が「好きだ」と囁こうとする瞬間だけ。
夕暮れの帰り道にそっと指を絡ませたり、人気の無い廊下でそっと唇を重ねたり…。
いつだって嬉しそうに微笑む不二は「好きだ」という言葉だけは受け取ってくれない。
まだ肌寒さが残っていた4月。
不二から告白されて恋人同士として付き合うようになってからも、これと言ってそれらしい、いわゆるデートなどはしたことがなかった。
学校に来れば嫌でも顔を合わせるし、毎日部活で共に過ごしているのだから特別時間を作らなくても満足していた。
なにより不二は「手塚大好き!」と言っては、時間が許す限り俺の隣にいたから。
いつのまにか俺たちの関係は部内に知れ渡ることとなり、暖かく見守られる中、それでも俺は皆の前で「好きだよ」と言われると、照れくささもあってぶっきらぼうに「うるさい」と返しただけだった。
俺の性格など分かりきった不二は、怒った顔をするでもなく「冷たいな~手塚は」などと微笑んでいたから。
俺は甘えすぎてしまっていたのだ。
あの日、俺は本格的に引き継いだ部長としての雑務や生徒会の仕事に追われていた。
慌しく校舎内を移動するあいだ、後ろを付いて歩く不二が少し煩わしく感じていたのも事実だった。
「手塚、好きだよ」
その言葉がいつも以上に耳につく。
「手塚、ねえこっち向いてよ」
「早く部活行こうよ」
「そんなに一人で何もかもやらなくたって」
「他の生徒会の人にお願いすれば?」
許容量を超えた仕事を抱えた俺を心配してくれたのだろうと今なら分かる。
しかし、その時は不二が自分の邪魔をしているようにしか感じられなかったのだ。
いくつかの台詞の後。
「ねえ、手塚が大好きだよ」
そう言った不二に。俺は、
「しつこいヤツは嫌いだ」
と言ったような気がする。
その時の不二の表情は、今でもはっきりと覚えている。
廊下の窓から差し込む夕陽を背中から浴び、逆光のため影になったその表情はまるで凍ったかのように固まっていた。
微笑んだまま固まった口許と、瞬きを忘れた瞳。
次第に溢れる涙の雫がその頬を転がり落ちるのを見る前に、不二は背を向け今来た廊下を戻っていった。
感情的に走り去ったり、俺を責めてくれたらどんなに良かったか。
何も無かったかのような足取りは、俺に謝る機会さえ与えはしなかった。
翌日。
昨日の事を詫びようと、朝練前の校門で不二を待った。
いつもの笑顔で走り寄ってくる不二は、昨日のことなど気にもしてなさそうな笑顔だ。
けれど、あの涙が瞼の裏からはなれない。
あんな泣き方をさせたことを、どうしても一言謝りたかった。
だから思い切って「昨日はすまない…」と言った。
不二はいつもの笑顔で「何の事?」と言った。
思わず息をのんだ。
無かった事に、されてしまった。
謝らせてくれない不二に、初めて自分から「好きだ」と告げた。
昨日の言葉はつい苛立って口を出てしまったけれど、本心ではないのだと…。
しかし、不安気に視線を逸らした不二の口から零れた言葉は、
「うそつき」
その一言だった。
木々の葉が、紅に黄色に色づく季節。
変わりなく隣にいてくれる不二だが、決して俺からの「好きだ」という言葉は受け取ってくれない。
穏やかな笑顔が「好きだ」の一言で曇ってしまう。
あの頃俺に「好きだよ」と言い続けた不二は、どれだけの不安を抱えていたのだろう。
「俺もだ」とたった一言でも返してやれば良かった。
今の俺の苦しみは、きっと不二の不安の足元にも及ばない。
「不二…」
二人きりの部室。
細い肩を抱き寄せ名前を呼ぶと、笑顔を曇らせ視線を逸らす。
それでも俺は毎日言い続ける。
「不二、好きだ…」
何度も、何度も。
-Side・F-
「好き」の反対は「嫌い」
「嫌い」の反対は「好き」
「好き」には「嫌い」がついてまわり
「嫌い」には「好き」がついてまわる
いつも不安を押し隠して手塚の後をついて回っていた僕は、手塚の一言でもう一歩も動けなくなってしまった。
本当は誰より臆病な僕。
あの一言で、僕の全ては『臆病』で埋め尽くされた。
手塚に嫌われるのが、怖い。
今度「嫌い」と言われたら、僕は僕がどうなってしまうのか想像もつかないくらい、怖い。
だから「好き」も、怖い。
「好き」には「嫌い」がついてまわる。
今日も手塚は「好きだ」と囁く。
あの日の贖罪のように。
何度も、何度も。
またいつか、笑顔で「手塚が好き」と言える日が来るのだろうか。
「好き」の言葉に指先まで凍えてしまう僕。
きっといつか、笑顔で「手塚が好き」と言える日が来る事を信じたいから。
だから。
今はただ、強く抱きしめて。
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