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小学生跡宍。林間学校でドキドキ!?なお話です。
今日からの二人(跡×宍)
オレ、宍戸亮12歳。氷帝学園に通ってる。
今日から2泊3日で林間学校。
那須って所に行くんだ。山とか高原とかたくさんあるらしい。
せっかくなんだし海外に行けっつーのな。
でも、それなりに楽しみだぜ。
朝7:30に学校に集合して1クラス1台のバスで行く。オレの隣の席は友達のジロー。でもこいつ乗ったとたん寝ちまって超つまんねー。
「ジロー!起きろよ」
肩をつかんで揺するけどちっとも起きやしねー。
「ジロー!」
しつこく呼びかけてたら、通路を挟んで隣に座る跡部がこちらを振り向く。
「うるさいぞ宍戸。朝早かったんだ寝かせてやれ」
「ちっ…」
こいつは跡部景吾。どこのお坊ちゃまだか知らねーけど、ちょっとお金持ちで、ちょっと頭よくて、ちょっと顔がいいからっていつも威張ってて超ムカツク。
しかも同じテニス部で、ちょっとオレよりテニスが上手いからって、いっつもオレに指図する。
まだこっちを見ている跡部をわざとシカトして、オレは窓の外を見る。こんなことだったら窓側の席ジローに譲るんじゃなかったな…。
ジローが起きたのは結局那須に着いてからだった。
バスの中ではクラスメートがおしゃべりしたり歌うたったり、トランプしたりして楽しそうだったのに、オレは右隣が寝たまんまのジロー、通路挟んで左隣がマジメな顔して本読んでる跡部だったから、結局何にも遊ばずに到着しちまった。兄ちゃんからMP3プレーヤー借りといて良かったよ。
今日の予定は班ごとに分かれてのオリエンテーリングってやつ。地図持ってチェックポイントを回って、クイズやったりするんだ。それでどの班が1番にゴールするかを競うってやつ。
「よーし!たくさん寝て充電完了!がんばろうね亮ちゃん!」
そう言って、やっと目覚めたジローがガッツポーズする。
「おう。1番になろうな!」
オレたちは握った拳をコツンとぶつける。
「気合十分は結構だが、まずは作戦会議といくか」
横槍を入れるような冷静な声。
そう、ムカツク事に跡部も同じ班なのだ。せっかくの雰囲気が台無しだぜ。
嫌な予感は的中して、オレとジローは意気込んだワリに出番がなかった。
「これだけの班が一斉に出発するんだ。同じ順番で回ったらタイムロスだからな。あえて逆からまわろう」
他の班がダッシュでスタートするのを横目に跡部はそう言った。
「さすがだね跡部くん」
同じ班のメンバーが関心したように賛成し、いつのまにか跡部が班長みたいになってしまう。ちなみに班長オレなんですけど。
面白くなくてムッとしてたら、跡部が嫌味ったらしく鼻で笑って地図を寄越す。
「少しは班長らしいことしてみろよ」
マジむかつく。
オレはひったくるように地図を受け取ると、最初のチェックポイントまでの最短距離を探す。
「…ん?」
全然知らない土地だから、地図をどう合わせて見たらいいのか良く分からない。
「亮ちゃん!こんな時こそ方位磁石だよ!」
そうだ、昨日持っていこうってジローと約束した方位磁石があったんだ。
ゴソゴソとリュックを漁っていると、後ろからハァーとため息が聞こえる。
…跡部のヤローだ。
「お前らはどこの砂漠やジャングルを歩く気だよ。傍に駅、建物、山があるんだから十分だろ?」
そう言って、俺たちがくるくる回していた地図をさっと奪い取る。
「こっちだ。行こう」
他のメンバーを連れてさっさと歩き出す跡部。
ム・カ・ツ・クー!!
オレが握りこぶしを震わせて怒ってるのに、ジローのヤツはへらへら笑って跡部に付いていく。
「さっすが跡部♪」
…ジロー。こいつってオレと跡部のどっちの味方なんだよ!?
結局オリエンテーリングは優勝したけれど、巡ったチェックポイントでは跡部が主役だった。
意地悪なクイズだって、並べた缶にボールを当てるゲームだって、ジャンケンだって。全部跡部がクリアした。
ジャンケンなんて先生の先の先の手を読んで勝ちやがったから、先生に褒められてやがった。なのに嬉しそうな顔しないのがカッコつけてて感じ悪いんだよな。
でも、これからはそうはいかないぜ。
お昼ご飯食べてオリエンテーリングの表彰式が終わると、宿舎に荷物を置きに行って、それから夕飯の調理実習でカレーを作る予定だ。
跡部はお坊ちゃまらしいし、きっと料理なんて出来ないぜ。
ちなみにオレは、今日の日のために母さんに作り方教わったから楽勝だ。
「亮ちゃん、オレここに荷物置く!」
調理実習の前にまず部屋に荷物を置きに来ると、真っ先に入ったジローは突き当たりの障子を開け、窓際に並ぶ2脚の椅子のひとつに大きなバックを乗せた。
「じゃあオレはここ」
ジローに習ってオレはもう1脚の椅子に荷物を置く。
後から入ってきた班のメンバーは、揃って畳敷きの和室を見回す。
部屋の真ん中には大きめのテーブル。その周りには班員6人分の座布団が並び温泉旅館みたいだ。
「宍戸、どっかにまとめて置いた方がよくないか?」
「そうだよ、バラバラに置いたら邪魔だし」
後から入ってきたメンバーが口々に言う。
…確かに。椅子の周りにみんなで置いたら、椅子に腰掛けて景色を眺めることも出来ない。
「お前はバカか。空いている押入れがあるんだから、まとめて入れたらいいだろう」
「バカだって!?」
ジローだって同じ事をしてるのに、跡部はオレだけに向かってバカ呼ばわりをする。
「そっかー。そうだよね~」
カチンときているオレをよそに、ジローはニコニコ笑って跡部に従う。
「俺たちが空けている間に、部屋に布団を運び込むって先生が言ってただろ?聞いてなかったのか?宍戸」
「…うるせーな。分かってるよ」
まったく、いちいちムカツク奴だ。
…跡部なんか調理実習で恥でもかけばいいんだ。
エプロンをして三角巾つけて、1学年全員が集まった調理室は大騒ぎだ。
「先生!山下くんが怪我した!」
どこかの班でそう叫ぶ声が聞こえる。
「わっ!こぼすなよ!」
後ろからはボールの水がひっくり返った音がする。
ほとんどの生徒が不慣れな料理に、ちゃんとカレーが出来上がるのか怪しい雰囲気だ。
そんな中オレの班では、当然包丁なんて持ったことがない跡部が、そつ無い手つきで野菜の皮を剥き続ける。
「…お前、料理なんてできるのかよ?」
まったく期待外れだ。オタオタする所をからかってやろうと思ったのに。
オレの言葉に跡部はさらりと言う。
「包丁の使い方と料理の手順を一度聞けば簡単だろう?お前は出来ないのか?」
チラリと窺う目は、完全にオレをバカにしてる。
「出来るに決まってるだろ!?」
オレはもう1本の空いている包丁を手にする。負けてらんねえ!
もうにんじんは剥き終わったみたいだから、少し離れたところにあるじゃがいもに手を伸ばす。
この日のために練習した包丁捌きを見せてやるよ。
「危ないっ、宍戸!」
「え…?」
真剣に皮むきをしていたら、後ろからジローの叫ぶ声が聞こえる。
あわてて振り返ると、鍋を持って通りかかったほかの班のメンバーが、オレの左肩から突っ込んできた。
「わあっ!」
ぶつかったヤツが鍋を落とし、調理室にガンっと大きな音が響きわたる。
「痛って…!」
オレは背中から当たられた拍子に、包丁を右手の親指で強く持ってしまった。そしてそのままの勢いで、跡部の方によろけてしまう。
とっさに跡部がオレを抱きとめてくれた。
ぶつかっってきた奴は慌てて鍋を拾うと、オレを振り向く。
「わりー!宍戸。大丈夫か!?」
「オレこそ悪い。大丈夫だから」
正直刃が当たったところは痛いけれど、皆に注目されるのもかっこ悪いから何てことない顔をする。
包丁を持った右手をそっと隠し、まだ心配そうにするそいつに「大丈夫だからお前も戻れよ」と笑いかけた。
もう一度頭を下げて自分の班に戻るそいつを見送って、オレはようやく自分を支えてくれた跡部を振り返る。いけ好かない奴だけど、助けてもらった礼はしなきゃな。
「ぶつかって悪かった。助かったよ」
オレが素直に謝ると跡部は無言で首を振る。
嫌味でも言われるかと思ったけど、案外イイ所あるじゃねーか。
「…宍戸、血が出てる」
オレよりも血の気が引いたような顔で、跡部は隠していたオレの右手を取る。
「わっ…」
痛みはたいしたこと無いのに、思ったよりダラダラと血が流れ落ちていた。跡部はハンカチを取り出すと急いでオレの手に巻く。
「汚れるからいいって…」
いかにも高級そうなハンカチは、見る見るうちに赤く染まっていく。
「気にするな。早く手当てしてもらおう」
そう言って俺の手を引きながら先生のもとへ行くと、事情を話してオレのことを託す。
「あらあら!結構血が出てるわね。それじゃ救護室で手当てするから跡部くんは戻っていいわよ」
先生の言葉に、跡部は軽く頷いた。
「わりーな跡部。ちょっと抜けるから続き頼むわ」
俺が声をかけると「ああ」と返事をする跡部だが、すぐには戻らず先生と調理室を出るオレを見送っているようだ。
…どうしたんだ跡部のやつ?
いつもの跡部らしくない。顔色も悪いし、ちょっと焦ってたみたいだ。あいつ血が苦手だったのかな?
調理室のドアを閉まる直前、オレはもう一度跡部に目を向ける。
…跡部?
閉まるドアの隙間から見た跡部は、自分の指先に付いたオレの血を、そっと舐めているように見えた。
たいした事ないと思った傷なのに、先生は大げさなくらい包帯を巻きつける。
親指の腹についた傷は、縫うまでではなくても絶対濡らしたらダメらしい。
「今日のお風呂は禁止ね」
先生はそう言ってオレの頭をポンと叩いた。
「えー!?オリエンテーリングですっげー汗かいたのに!気持ち悪くて寝れねーよ」
不満を訴えるオレに、先生はしようがないわね…と苦笑いする。
「じゃあシャワーだけよ。友達に手伝ってもらって絶対濡らさないこと。出来る?」
「…たぶん」
濡らさないってのは難しいけど、ジローに手伝ってもらえば何とかなるだろう。
調理室に戻るともうカレーは出来上がっており、それぞれ皿を持って隣の食堂に移っていた。
こっそり後ろのドアから覗き込むと、近くのテーブルでジローが手招きしてる。
オレの分も運んでくれたみたいだ。良かった、食いっぱぐれなくて。
隣に滑り込むように着席すると、そんなに目立つことはなかった。
「サンキューな。ジロー」
左手だけで礼をするとジローは心配そうにオレの右手を覗き込む。
「大丈夫?すごく痛そう…」
やっぱりこの包帯はやりすぎだと思うわけよ…。
「先生が大げさに巻いただけだよ。全然平気」
「本当?」
「ホント、ホント」
オレはそう笑ってスプーンを取り食べ始めようとする。
「あ…」
そこで初めて気づいた。俺スプーン持てないじゃん。
しまった…と顔をしかめる俺に、向かいに座った跡部がため息をつく。
「こっち向け。食わせてやる」
「はあっ!?」
驚いて振り返るが、跡部はそ知らぬ顔でオレの分の皿とスプーンを取り上げる。
「左手で食えるって!」
「それでボロボロこぼして、服にカレーの染みでも作る気か?」
「う…」
今日着てる服は、林間学校のために母さんにねだって買ってもらったお気に入りだ。確かに汚したくはない…。
「食べさせてもらえば?」
のんきなジローは、自分はさっさと食べ始めながら無責任な事を言う。
ジローが食べさせてくれればいいのにと思うが、ジローにはそんな気は更々無いようだ。友達甲斐のないヤツ!
「…お願いします」
結局オレは、仲も良くない跡部に頭を下げることとなった。
跡部は器用にカレーをすくってはオレの口に運ぶ。
もちろん跡部自身も食べるから、あっちのスプーンを持ったりこっちのスプーンに持ち替えたりと大変そうだ。
「跡部、1本のスプーンで食えば良くねえ?」
何となく口にした言葉に跡部の動きが止まる。
「あ、イヤ!お前が嫌でなければな…」
しまった。つい兄ちゃんに言うみたいに軽い気持ちで言ってしまった。
普通同じスプーンなんて気持ち悪くて嫌だよな。
やべェ、変なヤツって思われたかな…?
「…俺はかまわないぜ」
いつもみたいに馬鹿にしたような顔で断られると思ったのに、驚きながらも跡部はそう返事をした。お坊ちゃまも意外とそーゆーの平気なんだな?
皆が後片付けをする間、オレはただの邪魔者だ。水は触れないし、皿持ったら包帯で滑って割っちゃいそうだし。
「みんな悪ぃな…」
班長のくせに足引っ張るばっかりで…。オレは申し訳なくてみんなに謝る。
「気にすんなって!」
ジローはニコっと笑って返事をする。
「そうだよ、怪我してるんだから大人しくしてろって」
他のメンバーも笑ってそう言った。イイ奴ばっかりで良かった。
「それよりその手じゃ色々大変だろ?この後風呂だし、先に部屋戻って荷物の準備とかしとくか?」
代表で鍵を預かってた副班長の内田が、ポケットから鍵を出してそう尋ねる。
その言葉に、さっき先生に言われたことを思い出した。
…そうだ。オレ一人じゃ風呂入れないんだ。
「いや、もうホント悪ぃ…」
右手にビニールをぐるぐる巻きにしてシャワーへ向かう。
オレに付き合ってくれたのは、またしても跡部だった。
ジローも手伝ってくれようとしたんだけど、どうにも不器用すぎて助けるどころの問題じゃなかった。かえって邪魔だと跡部に言われたジローは、オレに謝りながらも内田たちと楽しそうに風呂場へ飛び込んで行った。
…意外と薄情だよな、ジローのヤツ!
そんなわけで跡部と二人だ。
「…あっちみたいだな」
大浴場に入ってすぐ左手にシャワーブースがある。
大浴場に来たのにわざわざ立ったまま使うシャワーを好むヤツはいないから、湯気の向こうで、みんな楽しそうに湯船で泳いでいる。
いいな…。そう思ったけど口には出さない。
だって、関係ないのにオレにつき合わされてる跡部の方がかわいそうだから。
まあ、跡部がみんなと一緒にはしゃぐとも思えないけどな。
「先にお前をすませちまうぞ」
跡部はいつもの冷静な声で言う。そしてコックをひねりお湯が適温になるのを待つ。
…跡部って意外と優しいかも。
そう思いながら、跡部に言われるままシャワーの下に立った。
「右手は横に上げとけよ」
「おう」
シャワーヘッドを手にした跡部は、ゆっくりとオレの頭を濡らしていく。
怪我した手を濡らさないように、すごく気を使ってくれてるのが分かる。
「頭下げとけよ」
そう言って今度はシャンプーを泡立て始める。
目を瞑って、ただされるがままオレは大人しくしていた。
適度な強さでオレの頭を洗う指先。
「あー、すげェ気持ちいい」
「…そうか」
美容院でやってもらうみたいな気持ち良さだ。跡部の持ってきた高級そうなシャンプーの香りが、またたまらなくイイんだ。
「流すから、目開けるなよ」
「オッケー」
泡がゆっくりと体を伝って流されていく。
丁寧に進められる作業に、オレはいつの間にか安心しきっていた。
もしジローにまかせたらこうは行かないだろうな。あいつはどこかメチャクチャな所があるから。
いつもオレのことを見下してるような跡部だけど、オレはコイツの事嫌いじゃないかもしれない…。
普通みんなが面倒くさく思うだろうこんな事を、恩きせがましい事を言わずに手伝ってくれる跡部。
今日1日で、オレのコイツに対する気持ちがだいぶ変わってることに気づいた。
部屋に戻って、敷かれた布団にはしゃぐメンバーたち。
オレだっていつもだったら枕投げとか、好きな女子の話とかして盛り上がるぜ。
でも、シャワーから戻ったオレはちょっと嫌な予感がしている。
先生が風呂は止めとけって言ったのは、こういう訳なのか…。
血行が良くなったせいか、右手を中心にドクンドクンと痛みが復活してきたのだ。
「宍戸はどこで寝る~?」
楽しそうに尋ねるジロー。
折角盛り上がっている夜に、心配かけたくねーよな。
「オレここでいいか?」
一番窓側に近い、端の布団の上に座る。
「何でー?そんな端でいいの?」
不満そうなジローの声。
「ああ、ここがいい」
「そう?」
首を傾げて少し考えるような素振りを見せたが、ジローはすぐに元の表情に戻ると「俺はここ!」と並んだ布団の真ん中あたりに寝そべる。
「あ、ジローずりーぞ!」
他のメンバーも真ん中がいいらしく取り合いが始まる。
「俺はここにするぜ」
そんな中一人淡々と寝る準備をしていた跡部は、オレの隣の布団にさっさと入り込んだ。
いつもなら何でわざわざ隣に来るんだって突っかかるところだけど、正直今日はホッとしてる。
夜中痛みで寝れなくても、今日散々面倒見てくれた跡部が隣にいてくれたら安心できる気がするから。
お決まりの枕投げに好きな子の話で盛り上がった4人は、しばらく楽しそうにしていたが今は嘘のように静かに寝入ってしまったらしい。
珍しく文句を言わず騒ぎを止めなかった跡部は、寝てるのか起きてるのか分からない。
枕元に置いた携帯電話を見るともう3時だ。
…まいったなぁ。全然寝らんねェ。
ズキズキとする痛みは治まるどころか酷くなっている気がする。真っ暗で誰にも言えない事が、より不安をかきたてる。
先生に痛み止め貰うようかな…。
でも、今部屋を出たらみんな目覚ましちゃうよな…。
ぐだぐだ悩んでると、軽く右肩を叩かれる。
「…寝れねーのか」
振り向くと、横になりながら跡部が真っ直ぐこちらを見ていた。
「…わりぃ、起こしたか?」
「…そうじゃねえ」
オレが何度も寝返りを打ったせいで目を覚ましたのかと思ったけど、そうではないらしい。
「ちょっとこっちへ来い」
跡部はそっと布団を抜けると、音を立てず俺の横の障子を開けて窓際の椅子に座る。
「…跡部?」
何だか分からないけど、みんなを起こしたらマズイからそっとオレも跡部に倣う。
障子を閉めてしまうと、そこは4畳弱の一つの部屋のようなスペースになる。大声を出さなければ他のメンバーに聞こえる事もなさそうだ。
大きな窓からは月の明かりが差し込んで、電気を点けなくても跡部の表情ははっきり見えた。
「傷、痛むんだろ?」
跡部は心配そうな表情で尋ねる。
…やっぱり跡部にはバレてたか。
もしかしたら、こうなることが分かってて俺の隣で寝てくれたのかもしれない。
「…ちょっと痛ェ」
これだけ世話になったんだから隠すのもバカバカしくて正直に言うと、跡部は隅に設置されている冷蔵庫の扉を開く。
林間学校は食べ物持込禁止だから電源は入ってないと思い込んでいたけれど、そうではないらしい。
「薬もらっといたから、これで飲め」
そう言って小さなテーブルにペットボトルの水と鎮痛剤を出した。
「え…何で?」
「さっき救護室で貰っておいた。先生は、今夜は救護室のベッドで寝たほうがいいんじゃねーかって言ってたけど、お前嫌だろう?せっかくの林間学校だしな」
「跡部…」
オレの知らない間に、先生を説得してくれたらしい。
「多少の空腹でも平気な薬らしいから、今飲んじまえ。少しは寝ないと明日辛いぞ?」
「ありがとう…」
オレは素直に受け取りペットボトルを呷る。
飲み終えて、濡れた口元を袖でぬぐったオレの姿を見届けると、少し安心したように跡部は笑った。
「どうだ、すぐ寝れそうか?それともしばらくここにいるか?」
「もう少しここにいる」
薬が効き始めなきゃ、また何度も寝返り打っちまいそうだし。みんなを起こしたくないからな。
オレの返事に頷くと、跡部も椅子に深く腰掛け直す。オレに付き合ってくれるようだ。
当たり前のようにそうする跡部に、オレは今日色々してくれた事にちゃんとお礼を言おうと思った。
それと、今までとは違う友達付き合いが出来ないかって…。
このまま東京に帰ったら、きっと今回のことは何もなかったように、又いがみ合う生活に戻ってしまう気がする。
口は悪くてムカツク所はあるけれど、本当はすごく優しい奴だって知ったから、今までのことをちゃんと謝りたい。
オレ、わざと突っかかってたところあったしな…。
「なあ、跡部…」
思ったことを言おうと、俯いていた顔を上げると、今までテーブルを挟んで向かいに座っていた跡部がオレのすぐ脇に立っている。
「跡部…?」
驚いてオレが仰ぎ見ると、跡部は少し笑って「静かに」というように人差し指を立てる。
「俺は宍戸が好きだから」
静かな声でそう言う跡部。
「!?」
驚いて出そうになった声を慌てて抑える。
「俺はお前が好きだから、いつもお前の世話をやいていたいんだ」
「跡部…」
オレがお礼を言わなきゃいけなかったのに、跡部はそう言って先回りする。
「お前も、俺のこと好きだろ?」
静かだけれど、強気な台詞が跡部らしい。
今朝まではあんなにムカついた態度が、何だか今は頼もしく感じる。
「…ああ、好きだよ跡部」
苦笑いでオレが言うと、跡部も同じように笑ってオレを抱きしめた。
今になって分かったけど、いつもいがみ合ってたのはお互い意識していた証拠だよな。
そんな子供っぽかった自分たちの愛情表現に(まあ確かに子供だけど…)、跡部と二人してクスクス笑い合った。
結局寝不足で朝を迎えたオレたちだったけれど、当然気分は最高だ。
特に跡部は、昨日以上に色々と面倒を見てくれる。
お互いいがみ合う必要がなくなったら、何で今まで仲が悪かったのかって不思議なくらい傍にいることが楽しいし嬉しい。
そんなオレたちに班のメンバーは不思議そうだけど、ジローだけは楽しそうに笑って、跡部にバスの座席を譲っていた。
「跡部、亮ちゃんの隣がいいでしょ?」
あんなに仲が悪かったオレたちがこうなることを知っていたような態度に、オレと跡部は顔を見合わせ首を傾げた。
するとジローは、ニコニコと笑って言う。
「宍戸を抱きとめた時、跡部あんなに嬉しそうな顔するんだもん。すぐピンときたよ!手についた宍戸の血を大事そうに舐めたのはちょっと変態チックだったけどね!」
その言葉に跡部が珍しく赤面する。
…そっか、やっぱりあれはオレの見間違いじゃなかったんだな。
バツが悪そうな跡部の手を取ると、オレはギュって握り締めた。
オレ、嬉しかったよって伝えたかったんだけど、気づいてくれたみたいだ。照れたように笑ってくれる。
ずーっと傍にいたのにいがみ合って、今まですごく時間を無駄にした気がする。
だから、これからはずっと仲良くしたいと思う。
たまには喧嘩をしても、もう今までとは違うから。
そう思って楽しい気分になったら、急に眠たくなってきた。今日の目的地の高原までは1時間以上あるし…。
オレは、隣に座る跡部の肩にコトンと寄りかかる。
そしたら跡部は、何にも言わずにオレの体を抱き寄せてくれた。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
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