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カテゴリー、「下宿シリーズ」の1話から順にお読み下さい。

キャッスル跡部へようこそ!③(跡宍風味)
~下宿シリーズ3~

今日も相変わらずの朝食を終えて、それぞれが部屋へ戻った。
滝はゆっくり本を読むと言い、忍足は何やらごそごそとダンボールを持って部屋へ入っていった。ジローはきっとまた寝ているだろうし、岳人はまだ終わっていない荷解きをすると言ってた。
(俺は皆より早く入居したから、荷物の整理は終わってるしな…。)
宍戸は自分の部屋の、重厚で古びた見た目の柱に掛けられた、日めくりカレンダーを捲る。
今日で3月も終わり。明日には後輩組が入居する。
「…そうだ。いい加減掃除しねーと」
宍戸がここへ来て、2週間が過ぎようとしている。
当然自分の部屋は自分で掃除するのだが、共有の場所は手付かずだ。いくら新築と言えど、相当の埃が溜まっている。
流石に、跡部家本宅の使用人にここまで掃除させる訳にもいかない。
宍戸は部屋を出て、1階の物置を覗き込む。
するとそこには、まだ真新しい掃除道具が整えられていた。
最新式の掃除機に混ざって、バケツに雑巾。そして懐かしい竹箒や塵取りまであるのが何とも跡部らしい。「掃除道具」と名のつくあらゆる物を集めさせたのだろう。
「さてと。じゃあ、やりますか」
いくら広い作りと言っても、所詮アパートだ。全員でわらわら集まったって邪魔なだけだと、宍戸はハタキを取る。
(後で、掃除当番表作ろう…)
そんな事を考えながら、まずは2階に戻った。

「あれ?掃除?」
パタパタとハタキを掛け始めると、物音に気づいて滝が部屋から顔を出す。
「ああ。いい加減やらねーと。日吉あたりにキレられそうだしな」
「そっか。明日来るんだもんね」
滝は思い出したように手を打った。
「どうせ共有の場所だけだし。今日は俺がやっとくよ」
「そう?」
そう言って申し訳無さそうな顔をする滝に、宍戸は笑ってみせる。
ただでも面倒な料理を任せっきりなのだ。料理の片付けと一緒に、食堂もきれいにしてくれている滝にこれ以上頼ることはできない。
「後でちゃんと当番表作ろうな。食事も、長太郎たちも交えて考え直そう」
宍戸がそう言えば、滝はにっこりと頷いた。
「ところで宍戸。廊下拭くときは気をつけた方がいいよ」
「何が?こんな古びた床…」
滝の言葉に自分の足元を見下ろしても、特段変わったことは見受けられない。山奥の分校でも思わせる、古びた床板。歩けば「きゅっ、きゅっ」と鳴る天然の鴬張りだ。心配と言ったら床が抜ける事くらいしか宍戸には思いつかない。
「ははっ、確かにボロボロに見えるけどね。これ、床暖房入ってるから」
そう言って、滝はスリッパのつま先で床をトンと蹴る。
「マジ!?」
「俺には分からないけど、きっと木材だって、上質なものをわざわざこうして古びて見せてるんだろうね」
「…バカじゃねーのあいつ」
あいつとは、もちろん跡部の事だ。
「それに、鴬張りもどきの音だって、わざとだよ」
「…じゃあ、本物の鴬張りじゃねーか」
「んー。まあ、本物は高級に作ったための副産物みたいらしいけどね。わざわざ鳴らすには、それなりの技術がいるんだろうね」
「…バカだな」
宍戸は呆れたように、廊下の端から端までを見渡す。
「どんな敵を恐れてこんなモノ作ったんだか?」
滝は、意味深な微笑みでクスクスと笑った。

一頻り跡部のバカさ加減を貶して滝が部屋に戻ると、宍戸はもう一度ハタキを構える。
「注意すりゃいいのは、床を水浸しにしない事くらいだもんな…」
後は普通の掃除と一緒だ。
「さ、一気にやっちまうか」
2階の廊下をやって、後輩の部屋も簡単に掃除して…。ついでだから空き部屋もやっちまおう。
そんな事を考えて、素早くハタキを掛けて歩く宍戸。
部屋が汚くても気にならない方ではあるが、やるからには徹底的にやりたいというのが宍戸の性格だ。
持ち前の集中力でもって、小気味良く手を動かす。
そして、ジローと滝のドアの間に位置する消火器のボックスをハタキで触れた時、事件が起こった。
消火器の泡が吹き出したとか、そんな事なら宍戸は驚いただけで済んだかもしれない。けれど、宍戸にとって泡以上に最悪なモノが襲ってきたのだ。
ボックスの上にこっそりと置かれた小箱。壁際に寄せられたそれは、宍戸が気づいた時にはもうハタキの先が攫っていた。
そして、その中から勢い良く飛び出したモノ…。
「!?‘*#$‘@!!!?!っ」
自分の顔目がけて飛んできたモノに、宍戸は声にならない叫びを上げて、ドシンっ!とひっくり返る。
「宍戸!?」
響いた振動に真っ先に滝が顔を出す。
「何や!?」
忍足も勢い良くドアを開ける。
「何っ?」
ジローと岳人も、目を丸くして廊下に飛び出した。
「ご、ご、ご…」
宍戸は腰を抜かしたまま、壊れたおもちゃのようにその言葉を繰り返す。
「宍戸?」
「ゴ○ブリーー!!!」
「ぎゃーっ!!」
宍戸の叫び声で、廊下に顔を出した面々はバタン、バタンと一斉に自分の部屋の扉を閉め切った。
「酷でェっ!!」
腰の抜けた宍戸を誰も助けてはくれず、廊下には宍戸の悲痛な叫びが響き亘った。

「なーに騒いでる!」
尻で廊下を後ずさる宍戸に声を掛けたのは、1階から上がってきた跡部だ。
「下誰もいねーのに開きっぱなしだぜ?敷地内のセキュリティは完璧でも一応鍵くらいはかけろ」
ブツブツと小言を言いながら階段を上りきった跡部は、足元にひっくり返った宍戸に首を傾げる。
「…何の遊びだ?」
「あ、遊びじゃねえっ!」
「じゃあ、何だ?」
見渡しても、他のメンバーは誰もいない。
一瞬考え込むように動きを止めた跡部は、こっそりと嗤うと宍戸の横に膝を付く。
そして、酷く動揺している宍戸の肩に、そっと手を回した。
「そんな驚いた顔して、どうした?」
ゆっくりとその肩を抱き寄せても、宍戸は不振そうな顔もしない。自分の事に手一杯で跡部の手に注意が回らないのだ。
「泣きそうな顔をして…。俺に言ってみろ」
邪な気持ちに気づかれないよう、慎重に身体を近づける跡部。
なかなか自分の好意に気づいてくれない宍戸に、アピールするいい機会だと、逸る手を必死に理性で留める。
焦ってはいけない、あくまで紳士的に。
脳内で繰り広げられる跡部の葛藤に気づかない宍戸は、やっと落ち着いてその口を開いた。
「跡部、ゴキ○リが…!」
宍戸の言葉に、跡部はその欲望に塗れた手をピタリと止める。
「ほう!」
そして、さも嬉しそうに微笑むとすっくと立ち上がった。
「それは何処だ?」
「…跡部?」
ゴキ○リを駆除してくれるにしては、少々おかしな反応だ。忌み嫌われるゴキ○リを、こんな笑顔で探す人間を宍戸は知らない。
「俺は、ゴキ○リとやらを見たことがなくてな。ウチが出資してるロボット工学研究所の人間に作らせたんだが、出来映えはどうだ?」
「…ん?」
ロボット?研究所?作った?出来映え?
何の事やら、宍戸の頭にクエスチョンマークが飛び散る。
「…成る程な。跡部の言う『庶民』とやらのオプションか?」
薄っすら扉を開けた忍足は、左目だけを覗かせたまま納得する。
「また、そんな無駄なことにお金使って」
滝も呆れたように部屋から顔を出す。
「…どういう事だ?」
低い声で宍戸が尋ねれば、跡部は自慢げに振り返って言った。
「宍戸の言う『庶民』の生活には、ゴ○ブリが必要不可欠と聞いた。どうだ?いい出来だった…」
跡部は、最後まで言えなかった。
宍戸がむくっと立ち上がり、自慢げに話す跡部の、弁慶の泣き所を力一杯蹴飛ばしたのだ。
「っ!?」
宍戸のかわりに、今度は跡部が声もなくしゃがみ込む。
「お前、最低!」
捨て台詞を吐き、ドスドスと足音も荒く自室へと戻る宍戸。
「…宍戸っ」
廊下を這うようにして宍戸を追いかけた跡部の目の前で、そのドアはバタンっ、と閉められた。
「しし、ど…」
苦痛のため、切れ切れの跡部の呼びかけに、宍戸の怒鳴り声が返ってくる。
「そこで正座でもして、反省してろ!!」
そして、それっきりうんともすんとも聞こえなくなった。
「…宍戸」
情け無い声で呟く跡部。
その様を見守っていた面々は、揃って大きな溜息を付く。
「こんなの喜ぶヤツいないって」
ジローは消火器ボックスの下でひっくり返るゴキ○リもどきを、ツンツンとハタキの先で突いた。
何本もの足を宙に向けガシャがシャと蠢く様は、作り物だと分かっていても気味が悪い。
「ほら、跡部」
岳人は恐る恐るその細い足の1本を摘まむと、跡部の方へ投げて寄越した。
「!?!?」
初めて見るゴキ○リ(もどき)に、跡部は驚いて飛び退く。どこをどう見ても、触ろうという気を起こさせない、不気味な黒い物体。
「これのどこが、『庶民』の必需品なんだ!?」
「…そんなん俺らが知りたいわ」
とんちんかんな跡部の問いかけに、忍足は呆れたようにそう言った。

「…おい。跡部って正座できたんだな」
「うん。すっげービックリ」
忍足の部屋から顔を覗かせ、こそこそと囁きあう岳人とジロー。
「お前ら、ええかげん部屋戻れや」
迷惑そうな顔をする忍足を、滝は「まあまあ」と宥めながら、自分もうな垂れる跡部の姿をのぞき見る。
「あの跡部が、叱られた子供みたいに言う事聞くなんて」
長い付き合いの中でも、跡部は自分の非を認めることはまずなかった。悪い事をしたという自覚がなかったのだ。
だからこそ、宍戸の言いつけ通り、宍戸の部屋の前で正座をする跡部の姿は大変レアなのである。
「てめーら部屋に入ってろ!」
自分の背後でこそこそと囁きあう面々に苛立って、跡部は怒鳴りつける。
「わあっ!跡部が怒った!」
けれど、こんな姿では説得力がない。
覗き見組はきゃらきゃらと面白そうに笑う。
そんな時、宍戸の部屋の扉が勢い良く開いた。
「おっ!1時間13分か」
興奮したような声で叫ぶのは忍足だ。
興味無さそうな素振りをしていた忍足だったが、実は誰よりも興味津々で、跡部の罰正座時間を計測していたのだ。
「宍戸っ!」
忍足の愉しそうな声にムッとしつつも、跡部は出てきた宍戸を見上げる。
忍足はいつでも締め上げる事ができるが、宍戸に許してもらうチャンスは今しかないのだ。
跡部なりに誠心誠意の謝罪を込めた眼差しで、目を丸くして見下ろす宍戸を真っ直ぐ見つめる。
「宍戸、俺が悪かった」
慣れない正座でこれ以上無いくらい痺れた脚、そして自分を笑い者にする仲間たちの視線にも耐え、なけなしの謙虚さを掻き集めて謝罪した跡部。
そんな跡部に掛けられた宍戸の言葉、それは。
「お前、こんな所で何やってんの?」
だった。

「ぎゃははっ!最高宍戸!」
「やっべ、超笑える!」
ジローと岳人はのた打ち回るようにして腹を抱え、ゲラゲラと笑う。あまりに笑いすぎて、二人は既に涙目だ。
「…うん。まあ、そんな事じゃないかと思ったよ」
滝は、少々哀れむように苦笑した。
「まあ、確かに予想通りっちゃあ予想通りやな。これぞB型って感じやな」
うんうんと頷く忍足に、すかさず岳人が突っ込む。
「あっ!B型全員がこんな忘れっぽいわけじゃねーぞ!宍戸は特殊だ」
盛り上がる外野に、脚を抱えて廊下に丸まる跡部。
「…え?もしかして跡部、あの言葉本気にして正座してたのか?」
「……」
驚いて見下ろす宍戸に、跡部は何も言えない。
少し動いた事が呼び水になって、脚中の痺れに動けないのだ。脚とかそういった次元ではないかもしれない。下半身全てが痺れているのだ。
「しかもさぁ、扉が内開きで良かったよな!これで外開きだったら、顔面殴打でノックアウトだぜ!」
岳人はそう言って跡部を指差し、まだ笑い続ける。
ジローに至っては、笑いすぎてひきつけをおこしているようだ。
「…てめェ、ら。後で見てろ、よ!」
ようやく口が利ける程に回復した跡部の言葉は、益々笑いを誘うだけだ。
「あ、あとべっ!そんな女の子座りで言われてもっ!…ああ、可笑しいっ」
ジローはそう言って、忍足の机からティッシュを数枚引き抜くと、チーンと鼻をかんだ。
忍足と滝も、声すら出さないが俯いて必死に笑いを堪えている。
宍戸は、何だか良く分からないが、どうやら自分の所為でこんな騒ぎになっている事だけは察知して、足元に座り込む跡部に手を差し伸べた。
そして、未だ立ち上がれない跡部をずるずる自分の部屋に引っ張り込む。
…流石に、可哀想になったのだ。

「その…わるかったよ。まさか本気にすると思わなくてよ」
半分に折った座布団を枕にしてやって、跡部を畳の上に横たえながら、宍戸はぼそぼそと謝る。
「でも、お前だって悪いんだぜ?あんなの作って驚かせるから…」
実のところ、そんな事は部屋に篭ってしまった後はすっかり忘れていたのだが、宍戸は一応怒っている振りをする。そうでもしなければ、この後の逆襲が恐ろしいのだ。
「……」
跡部は体を動かしたことで再度襲ってきた痺れを、必死で我慢しているため声を出せない。
「…あー、撫でたって直らないもんなぁ。ってか触ったらダメか…」
沈黙に耐えられなくて、宍戸はブツブツと呟く。
いくら事の発端は跡部の仕出かした事だとしても、自分の言葉が原因で、目の前で人が苦しんでいるのを見守るのは、とっても居心地が悪い。
「なあ、跡部。何かしてやれる事あるか?」
正直、脚の痺れに利く薬やマッサージがあるはずもないし、言っても無駄だろうと思いながらも、人のいい宍戸としては黙ってはいられなかった。
すると、ようやく少し痺れの治まってきた跡部が、視線を寄越しながら宍戸に言う。
「…キス、してくれないか?」
「…はい?」
思わぬ跡部の言葉に、聞き返す宍戸の声が裏返る。
「馬鹿。所謂『キス』ってんじゃねーぞ?頬に軽くだよ」
「や、はあ…。それに何の意味が?」
顔を青くしたり赤くしたりして焦る宍戸に、跡部はごく真面目な顔で言う。
「お前の親やらなかったか?子供の頃。脚が痺れてる時、頬にキスすると早く治るって」
「…初耳」
宍戸の親は、そんな事はしなかった。
「あれか?『痛いの痛いの飛んでいけー』ってお腹撫でたりするのと一緒か?」
それならば良くやってくれた。今ならば迷信というか気休めと分かってはいても、子供心にとても安心したのを覚えている。
「…それは俺は知らないが」
跡部は、そう言って口をつぐんだ。
視線を逸らした横顔が何だか寂しそうで、宍戸はついつい有りもしない母性を刺激される。
「…じゃ、ちょっとだけな?」
宍戸は傍らに手を付き、横になる跡部の顔に近づいていく。
真っ直ぐ見つめるアイスブルーの瞳が恥ずかしくて、宍戸は「俺のせいだしな」と言い訳にもならないことを口走って…。
そして、しみ一つ無いその頬に唇を寄せる。
少し荒れた唇は、ほんの一瞬だけ、肌理の細かい跡部の頬を掠めて離れた。
「もうすぐ治るぜ」
顔を真っ赤にした宍戸は、吐き捨てるように言ってそっぽを向く。
「…ああ」
跡部はとても嬉しそうに微笑んで、珍しく照れたように呟いた。

そして廊下では…。
「奥さん!あーんな迷信ご存知!?」
「いいえー!聞いた事もありませんわあっ!」
ジローと岳人が井戸端会議ごっこをしていた。
「跡部、うまい事しよったなぁ」
忍足は関心したように腕を組む。
「あんな言葉を信じちゃう宍戸って…」
滝としては、騙されやすい宍戸が心配でならない。
「まあ何にしても、跡部の『正座写真』は高く売れるでぇー」
忍足はニシシ…といやらしく嗤った。

そんな賑やかな3月最終日。
穏やかな午後には、跡部に蹴飛ばされながら掃除に励むジローと岳人、そして忍足の姿が。
そしてもちろん、忍足の写真データは見事に破壊されましたとさ。

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ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
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