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キャッスル跡部へようこそ!④(跡宍風味)
~下宿シリーズ4~
「『キャッスル跡部』…。センス最悪」
引越し業者に全てを委ねた日吉は、鞄一つも持たずアパートの前で立ち尽くし小さく呟く。
「確かにね。俺だって、宍戸さんがいなかったらこんな所絶対住まないよ」
鳳は、小さめの旅行鞄をもう一度しっかり握り直し、今にも落ちそうな木製看板を横目に扉へと近づく。
入り口の鍵は掛かっていないから、勝手に入って来いと言われている。
荷を積んだトラックもまだ到着していないので静かなものだ。
「…さあ、戦いの火蓋は切って落とされるってか?」
愛する宍戸を手に入れるため、鳳は何の不自由もない自分の家を出て、こんなボロアパートまでやってきたのだ。そして、おそらく行く手を阻むであろうは、天敵跡部景吾。
鳳は、親愛なる宍戸の前では決して見せることの無い、暗く嘲るような笑みを浮かべてノブをゆっくりと回す。
そんな鳳に、日吉はチラリと視線を投げて鼻で笑った。
「ふん。精精頑張れよ。全く脈はなさそうだけどな」
「日吉こそ。気づかれてないと思ったら大間違いだからな?」
鳳の切り替えしに、それとは分からないくらい微かに息を呑む日吉。
「……」
樺地は無言で、仲が良いのか悪いのか図りかねる、そんな二人のやり取りを見守っていた。
ガタつく扉を開けば、真っ直ぐ伸びた廊下に人影はない。
けれど、すぐ傍の食堂と書かれた扉の奥からは食器を洗う音が、2階からはパタパタとスリッパの音が聞こえてくる。
「こんにちはー。鳳です。到着しました」
遠慮がちに声を上げれば、水道の音が止まり、一番近くの食堂の扉が最初に開いた。
「待ってたよ。いらっしゃい」
滝はタオルで手を拭いながら3人を出迎える。
「お世話になります」
そう言って日吉が頭を下げれば、倣うようにして二人も会釈する。
「何、改まってるんだか。跡部ー!宍戸ー?」
滝は緊張したような後輩にクスクスと笑ってから、2階へと向かって大きく声を掛ける。
「あの二人が、ここの家主と寮長ってとこかな?」
滝が楽しそうに説明するのも終わる前に、勢い良く扉が開く音がする。続くバタバタと慌しい足音。
「おー!良く来たな」
宍戸は満面の笑顔で階段を駆け下りてくる。
「宍戸さん!!」
途端に鳳の顔はだらしなく緩み、荷物を放り出した腕は宍戸に抱きつこうとする。
それを止めたのは、案の定跡部の手だ。
「よう、待ってたぜ?」
とっても言葉通りには思えない、挑戦的な視線で鳳を捕らえた跡部は、宍戸の肩を抱き自分の方へと引き寄せる。
(俺様の宍戸に気安く触るんじゃねえ!)
(いつそんな事決まったんですか!?)
そんな二人の無言のバトルに気づかない宍戸は、跡部の腕からするりと抜けて日吉の頭をガシガシと乱暴に撫でる。
「日吉ー!お前の部屋純和風でカッコイイぜ!早く上がれよ」
そう言って、日吉に用意された下駄箱から真新しいスリッパを出してやり、今度は樺地を見上げる。
「樺地!俺部屋隣なんだ。よろしくな!」
「ウス」
樺地は小さく返事をして自分の脱いだ靴を下駄箱に仕舞う。
「こっちだぜ!」
宍戸は先頭に立ち、弾む足取りで階段を駆け上がって行った。
「…」
「…」
そして、取り残される跡部と鳳。
「…君たちも、いつまでも睨み合ってないで部屋見てくれば?」
この先の混乱を予想させるような、まったく噛み合わないトライアングルに、滝は呆れたように溜息を吐いた。
3人の到着後ほど無くしてやって来た引越し業者に指示を出し、ようやく荷物が運び込まれた頃にはもう日が暮れ始めていた。
必要な家具はほとんど跡部が用意しておいから予想以上に早く終わったとはいえ、それでも慣れない作業に疲れた面々は談話室でテーブルを囲み一息つく。
「はーい。麦茶どうぞ」
体力仕事を免除されて、夕飯の準備に取り掛かっていた滝が人数分のグラスを運んでくる。
「おっ、サンキュー」
宍戸は嬉しそうに手を伸ばし、一気に煽る。
当初、嫌々入居したはずの宍戸は、今や誰よりもこの生活を楽しんでいるようで、甲斐甲斐しく後輩の面倒も見ていた。首に掛けたタオルで汗を拭う姿が清清しい。
「頂きます」
鳳はちゃっかり宍戸の隣を陣取り、滝の手からグラスを受け取ると一口飲んでから宍戸に向き直る。
「色々手伝っていただいて有難うございました」
丁寧に頭を下げる鳳に、宍戸は「ん?」と眉を上げて笑い飛ばす。
「別に大した事してねーよ」
鳳の眼差の熱さにも気づかず、宍戸は向かいに座った日吉に声を掛ける。
「日吉、どうだ?部屋気に入ったか?」
すると日吉は、日ごろはあまり見せない笑顔を浮かべると、満足そうに頷いた。
「とても気に入りました。宍戸さんの部屋も落ち着いた感じで良いですよね」
「そうか~?跡部が『庶民』をテーマに作ったらしいぜ、俺の部屋。こいつってピントずれまくりだよなぁ」
最初は本気で文句を言っていた宍戸も、住めば都とはよく言ったもので、今ではすっかり気に入っているから、日吉の言葉にも笑って答える。
「俺様が用意したんだからな。気に入って当然だ」
憮然とした跡部の言葉に宍戸は笑い、今度は鳳に聞く。
「長太郎も、バイオリン弾けていいだろ?」
跡部の事は面白く思っていない鳳でも、正直用意された部屋にはとても満足しているから大きく頷いた。
「宍戸さんも是非演奏聴きに来て下さいね?」
防音設備万全の部屋で宍戸と二人きり…。そんな分かりやすい妄想で頬を緩める鳳に、日吉は大きく溜息を吐き、跡部は何故だか勝ち誇ったような笑みを漏らす。
「言っとくがな、鳳。宍戸がお前の部屋に入ったら、そのことを感知できるように特殊な設備が施してあるから、つまらない気は起こすなよ?」
「ええ!?プライバシーの侵害じゃないですか!?」
憤る鳳。
「てめえのプライベートなんざ興味ないんだ。別に盗聴器や盗撮って類じゃねえよ。宍戸が部屋に入った時だけ危険を知らせるようになっている」
おいおい、どんな設備だよ…と呆れる面々。
「跡部、何で俺が長太郎の部屋に入っちゃいけないんだ?俺、何もしないぜ?」
「…お前は分からなくていい」
全く見当ハズレな事を言う宍戸に、跡部はあっさりと言い返す。
「ちなみに鳳以外の部屋は普通のアパートと同じ作りだ。それなりに音は漏れるから覚えておけ」
宍戸の部屋に夜這いなんてしたら速攻バレるからな、と暗に脅せば、滝もにっこりと笑って追い討ちを掛ける。
「ちなみに鳳、2階の廊下は見事なまでの鴬張りだから。色々と…ちょっと難しいと思うな」
「…はあ」
がっくりと肩を落とす鳳。
宍戸は相変わらず一人何も気づかず、ニコニコと皆を見回す。
「何だ、何だ?俺にも分かるように言えよ」
恐ろしいまでの鈍感さで、宍戸は最後まで自分が話しの中心であることに気づかなかった。
「たっだいまー」
微妙な空気で会話が途切れたところに、ジローの大きな声が届く。
靴を履き替える音がして、バタバタと慌しい足音が談話室に入ってくる。
「おーっす!久しぶり。引越し無事に終わったか?」
真っ先に飛び込んできた岳人が、後輩たちの頭を順に小突いて挨拶する。
「お久しぶりです。相変わらずですね向日先輩」
喧しいほどの賑やかさに日吉が溜息を吐けば「何を!?」と笑いながら、岳人はその首を絞めるマネをする。
「いやぁ、遅くなってもうたわ。手伝えなくて堪忍な」
そう言いながら最後に入ってきた忍足の手には、大きめなケーキの箱が。
「ご苦労だったな。忍足」
跡部の言葉に、忍足は「まったくだ」と苦笑した。
「がっくんとジローが、あの店見たりこの店見たり寄り道ばっかするから、ケーキ一つ買うのにこの時間や」
「だってー。越してきて初めてだもん。どんな店あるかリサーチしなきゃな?」
そう言うジローに岳人も相槌を打つ。
「そうさ。今まであんまり使ったこと無い駅だからさ、一応チェックだよ」
当然とばかりに頷いた。
「まあ、何にしてもお疲れ様。とりあえず先にお風呂入っちゃえば?歓迎会はそれからだね」
「りょーかーい!」
滝の言葉に、一同が大きく頷いた。
食事の準備をするために、滝と忍足そして樺地が食堂に残り、他の面々は風呂へ向かう。
風呂というより浴場と言った方がしっくりとくるその作りは、小ぶりな銭湯といった感じだ。扉を開けばまずは広めの脱衣場。壁沿いのロッカーには脱衣籠が並び、反対の壁には一面の鏡に洗面台。ドライヤーが何人も同時に使えるように備え付けてある。
そして隅のスペースには、懐かしのぶら下がり健康機…。
「…わあ、昔のドラマの再放送で見たことあります。銭湯ってこういう作りですよね」
鳳は楽しそうに周りを見回す。
「俺も小学生以来だな、銭湯なんて」
日吉も珍しそうに、隅に置かれたマッサージチェアの肘掛に手を置く。100円を投入すると動くタイプのものらしい。
(誰が集金するんだか…)
日吉は呆れて小さく笑った。
そこかしこに置かれた備品…というより小道具は、まさに銭湯そのものの作りだ。
鳳は一度も銭湯に行ったことがないので、きょろきょろと端から見て回る。
「自分で作っておいて何だが、俺も初めてだったぜこんな風呂は」
鳳の気持ちが分かるらしく、跡部はおかしそうに笑った。
「金持ちって、そういう所が可哀想だよなぁ。銭湯はいいぜ?近所のおっちゃんとしゃべって、湯船で泳いでおばちゃんに怒られて、楽しいんだ」
そう言って、宍戸が笑う。
「怒られて楽しいんですか…?」
不思議顔の鳳。
「んでもって、湯上りはビンのコーヒー牛乳だよね!」
早速洋服を脱ぎ捨てながら、ジローが言う。
確かに、入り口のすぐ横にはショーケースタイプの冷蔵庫に懐かしの牛乳瓶が数本並んでいる。
(だから、一体誰が補充するんだ…)
疑問に思うのは日吉だけなのか、他のメンバーは、その辺は全く言及しない。
「イイよな!腰に手を当てて一気飲み!」
言いながら、岳人も慣れた手つきで脱衣籠に脱いだ衣類を放り投げると、一番乗りで浴室へと続くガラス扉を開いた。
日吉と鳳も先輩を見習い脱衣籠に脱いだ衣類を入れると、持参した風呂道具一式を持って湯気の中に入って行く。
入れば、突き当たりが大きな湯船になり、その壁にはタイル張りで立派な富士山が描かれている。
「すごい!富士山だ」
鳳ははしゃいだ声を上げる。
扉を開いた横の壁には立ったまま使えるシャワースペースが2箇所あるが、先に入ったメンバーは、真ん中に仕切るように作りつけられた、腰くらいの高さの壁回りにそれぞれ座っている。
「?」
首を傾げる鳳に、日吉が教えてやる。
「座ったまま使えるシャワーがたくさん作りつけられてるんだ。それぞれが椅子と洗面器もって好きな場所に座って洗う」
「へえ。なるほど」
それぞれが自分のペースで洗っていくのを眺めながら、鳳はハっと気づく。
(そうだ、宍戸さん!)
隣に座れば、その裸を盗み見ることが出来る…!
そう気づいた時には、もう遅かった。
さっさと洗い終えた宍戸は、すでにゆったりと湯船の中だ。
出遅れた鳳を尻目に、跡部も湯船へと歩き出す。
「残念だったな、鳳。ちなみに宍戸はカラスの行水だ」
「…!」
悔しそうに唇をかみ締める鳳。そんな姿を見ながら日吉は「カラスの行水とは、宍戸さんらしいな」などと。どうでも良いことを考えていた。
風呂から上がって食堂に集まれば、そこにはもう沢山の料理が出揃っていた。
「わあ、美味しそう!」
真っ先にジローが席について、食欲をそそる香りをクンクンと嗅ぐ。
「メインは跡部が用意してくれたお寿司だよ。あとデザートのフルーツもね」
副菜となるサラダやお吸い物を運びながら、滝が言う。
「えっらい高価なモンらしいで?ちゃんとお礼せなあかんよ?」
滝を手伝いながら忍足が言えば、ジローと岳人はまるで小学生のように揃って頭をさげる。
「「跡部、ありがとう!」」
跡部はそんな二人の頭にポンと手を乗せると、そのまま撫で回す。
「この位なら、いつだって食わせてやるぜ?」
フフンと笑ってみせる跡部。
「すげーな!から揚げに、パスタまで」
宍戸も駆け寄って歓声を上げる。何だかんだと張り切って動いたものだから、豪勢なテーブルを前にお腹がグゥ、と鳴って皆の笑いを誘った。
「まだ、みんなの食の好みが分からないから、和洋中と揃えてみました。これくらいペロリと食べられちゃうでしょ?」
そう言って微笑む滝はすっかり寮母さんのようで、ジローと岳人は丁寧に膝にナプキンをかけてもらっている。
寮母と言うよりは、母…?
鳳と日吉は、そんな先輩たちのやり取りに驚いて視線を交わす。
けれど、他のメンバーにとってそれは見慣れた光景なのか、少しも気にする素振りはない。
それどころか、跡部は一番上座に腰掛けて、鷹揚に滝にグラスを差し出す。
「水をくれないか?」
「はいはい」
「「…」」
益々目を丸くする二人に、宍戸は苦笑する。
「すっかりこの調子で、滝がいないことには何も回らない感じなんだよ。お前らは大丈夫だと思うけど、くれぐれもこうはならないようにな」
「はい…」
一緒に部活動をしていた頃には想像もしなかった先輩たちの私生活に、少しは驚きつつも、二人はそれぞれに込み上げる笑いをかみ締めた。
少なくとも、これから3年間はこのメンバーで生活するのだ。お互いに想い人がいるからこそ住み慣れた家を、離れる必要も無い自宅を出てきた訳だが、最初の不満や不安はもうすっかり消えていた。
このメンバーが一緒で、楽しくないはずがないのだ。
「よーし。では全員揃ったことだし、乾杯しやすか!」
宍戸の掛け声で、それぞれがジュースの入ったグラスを手に取る。
跡部一人が妙にこ洒落たワイングラスなのが気になるところだが…。忍足はくすりと笑っただけで、宍戸の後を継ぐ。
「ほな、これからよろしゅうお願いしますってことで、」
「「かんぱーい!」」
最後はジロー&岳人の元気な声でそれぞれのグラスが掲げられる。そしてカチンと合わされる明るい音。
さあ、いよいよ。
涙(?)と笑い、愛と青春が大爆発な日々の幕開けだ。
短いですがこれにて6万打企画終了です。
物語的にはようやく全員揃っていよいよ幕開けって所なのですが、続きはちっとも書いてません(汗。
張った伏線を忘れないようにしなければ(笑。とりあえず、日吉の想い人は誰にしようかなぁ、なんて。そんな事すら考えてません★
いつもならこの時点で次の企画の準備を進めている所なのですが、今回ばかりは多忙につき手付かずです。
しばらく企画はお休みさせていただくかも…。うーん、時間が欲しい!
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
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