愛のカタチ～氷帝社会人シリーズ４～（跡×宍） 2007/07/13 (Fri)

シリーズとありますが単独で読めます。

跡部は跡継ぎ修行中、宍戸は保育士で、二人は同棲しています。

愛のカタチ（跡宍）
～氷帝社会人シリーズ４～

「何だ、珍しいじゃねーか」
ソファの後ろを通り過ぎようとした跡部は、腰掛けてページをめくる宍戸を覗き込んで言う。
「ああ？そうか？」
宍戸は小首を傾げながらも、そういえば、家で絵本を開くのは初めてかもしれないと気づいた。
「保育園では毎日読んでるんだけどな」
「似合わねーな」
跡部はそう言って笑う。
開いたページには優しいタッチで描かれた小鳥が空を舞い、宍戸は指先でそっと、その鳥たちを撫でた。
「明日、子供たちに読んでやろうと思って、買って来たんだ」
宍戸がとても穏やかに微笑むものだから、絵本なんて子供の頃以来触ることも無かった跡部も、少し興味を持って頭から読んでみる。
それは、ほんの20ページほどの絵本だ。
話は、主人公がある日、小鳥を見つけたところから始まる。

くまの子はある日、巣から落ちた小鳥を見つけます。
親からはぐれたその小鳥を連れて帰り、えさを探して食べさせてやり「僕のペットだ」と大事に大事に育てるのです。
けれど、その小鳥は野生です。いつかは自然に帰してあげなければなりません。おとうさんとおかあさんがそう言っても、くまの子はどうしてもその小鳥を離したくありません。
だって、愛しているから。
くまの子は、愛する小鳥のために一生懸命とりかごを作ります。愛しているから、離したくないから、小鳥をとりかごに入れて地下室で大事に育てます。
そんなある日、くまの子のおじいちゃんが家に遊びにきます。おじいちゃんは、とりかごに入れられた小鳥を見て、くまの子を散歩に連れて行くことを思いつきます。
おじいちゃんが連れて行ってくれたのは、高い高い丘の上。遠くには野原や森、そして空高く飛ぶ鳥たち。
「鳥は空を飛ぶもんなんだ」くまの子は初めて知りました。
家に帰ったくまの子は、とりかごを開けると小鳥を放してあげました。
だって、愛しているから。
翼を広げて自由に飛び回る小鳥を見て、くまの子はあったかい気持ちになりました。

絵本を閉じた跡部を振り返り、宍戸は言う。
「先週、怪我した雀が保育園に迷い込んだんだ。もう怪我も治って、人なれしちゃう前に放したいんだけどな。子供たちが嫌だって泣いちまってさ」
「…なるほどな」
高い丘も広い空も無いこの都会で、何とか「雀にとって一番幸せなこと」を子供たちに教えてあげたいと思う宍戸の、苦肉の策なのだ。
苦笑いする宍戸の隣に腰掛け、跡部はその艶やかな髪を撫でてやる。
「ちゃんと『先生』してるんだな」
「どうだろ？まだまだ新米だから」
おどけて肩を竦める宍戸を、跡部は抱き寄せる。そして、その頬に口付けて言うのだ。
「俺は間違ったって『保育園の先生』にはなれないな」
「何だよ、急に。まあ、全然似合わないのは確かだけど…」
ふてぶてしい態度の「跡部先生」を想像して、宍戸は「本当に似合わない」ともう一度呟く。
可愛くない台詞に今度はその頬をつねってやると、宍戸は「痛てーな」と笑った。
「俺は、愛しているから離してやる、なんて思わないからな」
「跡部？」
「きっと子供相手でも言ってやるよ『愛しているなら、絶対離すな』ってな」
「…」
薄っすら頬を染めて俯く宍戸を、跡部はその両腕でぎゅっと拘束する。
「愛するヤツは、閉じ込めてでも、絶対手離さない」
「…ばか。何の話してんだか」
呆れたように小さく言って、宍戸もその腕を跡部の背に回す。
「宍戸は？どうする？」
跡部は尋ねる。
そんな意地悪な質問に、宍戸は不貞腐れながらも迷う事無く答える。
「俺も、愛する人は何があっても手離せないな。たとえ、跡部が自由を望んでも…」
その答えに満足すると、跡部は宍戸を優しく抱き上げる。
このままベッドに縺れ込もうという魂胆だ。
そして宍戸も、その逞しい胸に身体を預ける。
「…俺、ダメな先生だな」
「俺の前では『先生』じゃないだろ？『恋人』だ」
「そっか、そうだな…」

そうして二人の甘い囁きは、ベッドルームへと消えていった。

---

 

絵本が好きでたまに買うのですが、二人が読んでいた絵本は実在します。主人公はくまさんでなく他の動物でしたが。私の文章が下手で、絵本の素晴らしさをお伝えできないのが残念です☆
そして、絵本を読んでこんな話を思いつく自分の腐女子っぷりにちょっと凹んでみたり…。