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注意!
不二と英二(と海堂)が女体です!
苦手な方はご注意ください。

ウワサの二人(塚×不二)

「あー、気持ち悪い…」
あまりの胸焼けに洗面所で口を漱いでみるけれど、当然気休めにしかならない。
(やっぱりあれは食べすぎだったよね)
不二は大きく溜息をついてポケットからハンカチを取り出し、濡れた唇を押さえる。すると、休み時間の廊下がざわっ…とざわめく。
「…?」
水が飛んだスカートの裾もハンカチで拭い周りを見渡せば、慌てたようにいくつもの視線が逸らされた。
(…何だろ?)
思わず自分の姿を見下ろすけれど、特に変わったことはなさそうだ。いつもの制服に靴下に上履き。セーラーの襟は捲れていないし、大きめのリボンも曲がっていない。スカートが短めなのは最高学年だから多めに見て欲しいところだ。
(じゃあ、顔に何か付いてる?)
でも、目の前の鏡にはいつもどおりの自分の顔。気持ちが悪いから少し顔色が悪いだろうか?
首を傾げたところで、背中をポンっと叩かれた。
「どーしたの?不二」
「あ、英二」
心配そうに声を掛けてきたのは親友の英二だ。
同じクラスで同じ女子テニス部。不二が部長で英二が副部長を勤めている。
「変な顔してるにゃ~」
おぶさるように抱きついてくる英二に潰されそうになりながら、不二は困ったように笑って振り向く。
「そんな飛び跳ねたらスカートの中丸見えだよ?」
誰よりも短いスカートのくせにいつも飛び跳ねるものだから、恋人である男子テニス部の大石は毎度半泣きで大人しくしてくれと頼んでいる。
「大丈夫!大石が煩いから、スパッツを履くことにした!」
「あ、本当だ」
ジャンプをしてふわりと浮いたスカートからは短いスパッツが覗いた。
こうして二人でじゃれ合っていると、廊下を通り過ぎる男子の注目の的だ。男子だけではない。女子の後輩からも大人気の二人は、まるでアイドル扱いなのだ。
だからこそ周りからの視線には慣れている不二だけれど、先ほどのざわめきは少し勝手が違う気がする。
「どしたの?不二?」
「ねえ、英二。僕どこかおかしい?」
「おかしい?」
英二は不思議そうに繰り返し、ぴょんと不二から離れると少し遠めから不二の姿を眺める。上から下まで、じーっと音がするぐらいに真剣に見つめてから英二はニパっと笑った。
「どこもオカシクなんてないにゃ!いつもどおり美人さんだにゃ~」
「わっ、英二ってば!」
あらためて飛びついてきた英二の体を受け止めながら、不二も釣られてクスクスと笑う。
(やっぱ、気のせいかな?)
何となく心に引っかかりながらも、鳴り響いたチャイムの音に不二は慌てて教室へと戻った。
そして自分の席に着きながらも、まだ治まらない気持ち悪さに自分のお腹を何度か撫でてみる。
(うーん…。治らないなぁ)
いつも穏やかに涼しげに微笑む不二が、珍しく気持ちの悪さに顔を顰めるのには理由がある。何てことはない、食べすぎだ。
(それもこれも、全部手塚のせいなんだから…!)
不二は数学の教科書で顔を隠しながら、八つ当たりをするように真っ白なノートに「手塚のバカ!」と書き殴った。
そして昨夜の自分の暴挙を思い出しては、後悔で溜息を零すのだ。

***

「ふーじっ!これから暇なら付き合ってー」
英二が甘えたような声で、着替える不二に擦り寄ってきた。
「ええ?」
不二はユニフォームを脱ぎ捨て汗を拭いながら、抱きつく英二を苦笑いで押し返す。
「だって、一人で待つのつまらないんだもん」
「…もう」
英二はいつものように恋人の大石が部活を終えるのを待っているのだ。
女子テニス部は男子テニス部より1時間ほど早くに部活を終える。それは女子が男子に比べて地区大会止まりだから、部活に対する熱心さが薄いというわけではない。美人揃いで有名な部員を守るために、日が沈みきる前に部員を帰宅させようという学校側の配慮だった。
けれど稀に、英二のように恋人を待って日が沈むまで部室に残る者も居る。
「海堂は?いつも一緒じゃない」
2年の海堂も恋人である越前と一緒に帰るため、いつもなら筋トレをしながら待っているのだが…。
「薫ちゃんは家の用事で先に帰っちゃったんだにゃー」
「仕方ないなぁ」
言い出したら聞かない英二だから、不二は溜息を一つついてから「わかったよ」と苦笑した。
「やりー!ありがと」
英二は派手に飛び跳ねて喜ぶと、不二の頬にちゅっとキスをした。
「英二!?」
上機嫌な英二に、びっくりする不二。
そんな二人を、部活の仲間はクスクスと笑って見守っている。

「お先に失礼いたします」
ぺコンと頭を下げて桜乃が部室を出てしまうと、残ったのは不二と英二の二人きりだ。
「ねえ?英二。英二は大石が送ってくれるからいいけど、僕は真っ暗な中一人で帰ることになるんだけど?」
英二が鞄から取り出したポッキーをつまみながら、不二は面白く無さそうに文句を言う。
「え?何言ってるんだにゃ?手塚がいるじゃん!」
「手塚ねえ…」
まるで当たり前のようにその名を出す英二に、不二は唇を尖らした。
男子テニス部長の手塚と女子テニス部長の不二。見目麗しい二人は美男美女カップルと言われ続けているが…。
「英二は知ってるでしょ?手塚は全然その気がないんだって」
「そうかにゃ~?」
本当のところを言えば、こんな噂が立ったことを否定しながらも不二は嬉しかった。英二にしか教えていないけれど、本当はずっと手塚を想っていたから。
「…だって、全く脈ナシじゃない」
「…うーん。手塚はクールだからにゃ」
「クール!?あれは鈍いって言うんだよ」
もう、散々アプローチしてきた。
お互いが部長になって最初のうちは、先輩たちの目が無くなったこともあって、よく英二と一緒に帰りを待っていた。もう付き合って2年になる英二&大石カップルと一緒に、カラオケでもどう?などと誘ったことだって数限りないのに…。
(『寄り道は感心しないな』だもんなぁ)
堅物手塚。その噂は本当だった。
(大石が焦ったようにフォローを入れてくれたって『大石、お前からも注意しろ』だったもんねぇ)
それ以外だって、相当積極的に声を掛けたり、めげずに誘ったり。けれど、どれもこれも微妙にずれた言葉でかわされてしまうのだ。
(あれは絶対、僕が手塚を好きだって気づいてない!)
可愛さ余って憎さ何とやら…ってやつだ。
不二は面白くない顔をしながら、ポッキーをポリポリと食べ続ける。
「でもさ、さすがに今日は送ってくれるんじゃない?」
いつもなら不二の家まで一緒に帰ってくれた後、英二と大石は英二の家に向かうのだが、今日はなんと大石の家へ行くらしい。中学生の身でありながらお泊りなんかをしてしまうらしい。
「家族が皆留守だなんて滅多にないからにゃー。今日は真っ直ぐ帰るんだ!不二が一人って分かったら絶対送ってくれるって!」
「…そうならいいけど」
そう期待をしたい自分に、不二は心の中で「ダメダメ」と言い聞かす。そうやって何度ガッカリしたことか…。
最後のポッキーをひょいっと咥えると、「ああ、不二ずるい!」と英二が叫ぶ。情け無い顔をする英二を無視して、不二はポリポリと最後の一口を飲み込んだ。

トントントン、と。
男子テニス部室の扉を叩けば、大石がひょいっと顔を出した。
「あ、英二。迎えに来てくれたんだ」
いつも以上に穏やかで蕩けそうな笑顔は、今夜を楽しみに待っていた事がうかがえる。
「早く帰ろ!」
英二も蕩けそうな笑顔で、大石の腕に絡みついた。
(明日も学校なのに、親御さんよく許してくれたよなぁ)
ラブラブな二人を見守っていると、英二がクルリと振り返る。
「ふーじ!俺、今日不二の家に泊まる事になってるからヨロシク♪」
「…そういう事ね」
流石に中学生が彼の家にお泊り行って来ますというのを、行ってらっしゃいと送り出す親はいないだろう。
体よくカモフラージュに使われた不二は、幸せそうな英二にチクリと呟く。
「…避妊だけはしっかりね」
途端に真っ赤に頬を染める英二。
「ば、バカっ!」
オープンなくせして、英二はこの手の言葉に弱い。
「あ、安心してくれ不二。その辺は俺がしっかり…!」
クソ真面目に拳を握る大石に、言った不二の方がバカバカしくなる。
「はいはい…」
言わなきゃよかった…と、不二が溜息をついたところで、大石の後ろから手塚が顔を見せる。
「すまん。通してもらえるか?」
「あ、手塚だ!おっつかれ~」
ハイテンションな英二の声に、手塚はいつも通り「ああ」と頷くだけだ。
(何だかなぁ…)
それっきり何も言わない手塚に、不二は小さく溜息をつく。
(僕のこと送っていこうとか、そんな雰囲気じゃないよね)
その視界に不二の姿も映しているはずなのに、手塚はおなじみの無表情で3人を見据えるだけだ。
「女子は早く帰れと何度も言っているだろう」
そして、これまたおなじみのこの一言。
「そうそう、手塚!今日俺と大石、不二のこと送ってあげられないんだにゃ~。手塚が送ってあげてくれない?」
「ちょ、英二っ!」
何の前置きもなく英二はそう口にする。慌てて止めようと不二は手を伸ばすが、間に合わない。
(英二のバカ!そんな空気じゃないなんて分かりそうなもんなのに!)
不二は肩をすくめて恐る恐る手塚を見上げる。20cm以上高い手塚の目は、眼鏡に隠れて表情を窺えない。
(でも、それでも…一人で帰らなければならないと分かれば、送ってくれる?)
優しくなんて言ってくれなくてもいい、いつものようにぶっきら棒でもいいから「送ってやる」って、言ってくれるだろうか?
不二は期待半分、怯え半分の眼差しで手塚を見つめ続ける。
そんな不二を見つめ返して、手塚は眉間に皺を寄せた。
「何で一人きりになると分かってて早く帰らなかった」
「手塚!?」
慌てたような声を上げたのは大石だ。
「…不二」
英二は心配そうに不二の肩に手を置く。
大石も英二も、責任感の強い手塚のことだから呆れたような顔をしながらも「送っていく」と言うと思っていたのだ。
まさか、こんな険しい顔をして不二に言い咎めるとは思ってもいなかった。
「何度も同じことを言わせるな。女子の部活が何のために早く終わるのか分かっているだろう?」
俯く不二に、手塚は畳み掛けるように言い続ける。
「違うよ手塚!俺が頼んで一緒に残ってもらったんだってば!」
手塚に詰め寄って慌てて言い訳する英二を、不二は手を伸ばして止めた。
「…もういいよ、英二」
それだけ言うと、不二は自分のテニスバックを抱えて踵を返す。
「不二っ!」
駆け出した不二を、英二の声が追いかける。けれど不二は振り返らなかった。
そのままの勢いで校門を飛び出す。
(バカバカバカ…!)
全速力で走ると、涙の雫が目尻から後ろへと流れて消える。
(だから期待なんかするなって、ずっと思ってたじゃないか…!)
心のどこかで甘い言葉を期待してしまっていた自分を、殴りたい気分だ。

しゃくり上げながら家への道を駆けていると、後ろから車のクラクションが鳴らされる。
ファンファンっ、と聴きなれた音に不二は足を止めて後ろを振り返った。
涙で潤んだ視界の中、ヘッドライトがいくつにも揺れて見える。
「…姉さん?」
「なーに?泣きながら走るなんて青春ねぇ?」
「…」
からかうような声で、姉の由美子がウィンドウを下ろして顔をのぞかせる。
「良い所、連れて行ってあげようか?」
ニヤッと笑った上機嫌な姉の声に、不二は大きく頷くとその助手席へと乗り込んだ。

***

その末が食べ放題だったのだ。
お一人様5000円のデュッフェ形式のディナーコース。社会人の姉からしてみればちょこっと優雅な夕飯といったところだろうが、中学生にしてみれば随分豪勢な食事だ。
(元を取ろうなんて、ケチなこと考えなきゃよかった…!)
前菜からメインから、全種類を楽しんだだけでは飽き足らず、デザートのケーキは2個ずつ食べてしまったのだ。
食の細い不二は、いつもならこんな無理はしないのだが、昨夜ばかりはヤケクソとばかりに食べつくしたのだ。
(これでも姉さんよりは食べてないのに~)
もうすぐ昼休みだっていうのに、胸焼けはちっとも直らない。
(昼休みに入ったら保健室で胃薬もらおう)
残念だが、母親が作ってくれたお弁当は食べられそうもない。
昨日の今日だから不二を心配しながらも、それでも二人きりの夜を楽しんだと思われる英二にお祝い代わりに食べさせてやろうと、不二は斜め後ろの英二を振り返る。
教科書なんて開きもしないで幸せそうな顔で窓の外を眺める英二は、きっと大石の事を考えているんだろう。
(こっちは、英二に付き合ったせいで失恋が決定的になったっていうのに~!)
大好きな英二だけど、ちょこっと憎らしく思えてくる。
英二は朝一番で真っ先に謝りにきてくれたけれども、もし昨日英二に付き合わなかったら、もう少し希望を持っていられたのかな…などと思わず恨めしく思えてしまう。
(う~、ダメダメ!きっぱり諦めようって昨夜決めたんだから!)
不二は大きく頭を振った。

「英二、僕保健室行ってくるからお弁当食べてもらえる?」
「それはいいけど…。不二、大丈夫?」
差し出された弁当の包みを受け取りながらも、英二は心配そうに不二を見つめた。
「大丈夫。食べすぎなだけだって言ったでしょ?ちょっと休んで5時間目には戻るから」
そう言って廊下に出ると、英二もパタパタと後を追ってくる。
「じゃあ、大石のクラスまで一緒に歩こ?」
いつもは不二と一緒に昼食を取る英二だが、今日は保健室に向かう途中にある大石のクラスで昼食を取ることに決めたようだ。
「ごめんね?英二」
「不二が悪いんじゃないよ。俺が悪いんだ。…ううん、違う。手塚が悪いんだ!」
昨日不二が走り去ってから、英二は随分手塚に食って掛かったらしい。その時の怒りを思い出したのか、英二は強く拳を握って空を殴った。
そんな英二をクスクス笑いながら、不二は何気なく後ろを振る。
何だかざわざわと、お昼休みの賑わいとは違った騒然とした空気を感じたのだ。
すると、真っ直ぐ続く廊下の向こうから、人の波が不自然に左右に割れていくのが見える。
「え?」
「…もーぜ?」
つられて振り返った英二も、不思議そうに呟いて首を傾げる。
「…もーぜ?ああ、モーゼの『十戒』ね」
英二がそんな事を知っていた事に思わず感心していると、その波をかき分けて真っ直ぐ進んでくる姿が徐徐に見えてきた。
「…手塚?」
「みたいだにゃ」
いつも忙しい手塚は、廊下を歩くときも脇目を振らず最短ルートを歩くのだが…。
(すっごい、前のめり)
いつも以上のスピードで前傾姿勢で歩く姿は、まさに「突進」といった雰囲気だ。
その勢いに、不二と英二も思わず廊下の端に避ける。
すると、1,2歩前を行き過ぎた手塚は、ぴたっと止まって二人の方をくるりと振り返った。
「な、何だよ」
昨日の怒りが覚めやらないのか、英二は思わずファイティングポーズだ。
けれど手塚は、そんな英二をあっさり無視して不二へとずいっと歩み寄る。
「な、何…?」
その迫力に一歩下がるが、そこはもう冷たい壁だった。
大勢の生徒が不思議顔で見守る中、手塚は不二の手を乱暴に取った。
「不二、妊娠したというのは本当か!?」
「…!?」
とんでもない台詞に、見守る外野が益々騒がしくなる。
「な!?何言ってるんだにゃ!?」
英二も驚きに声がひっくり返った。
誰よりもビックリしたのは不二で、驚きのあまり声も出ない。
けれど、あくまで真剣な顔で見つめる手塚。
そうして見つめ合う二人に、一部の女子からは「やっぱり!」と黄色い声が上がる。
「休み時間に不二先輩気持ち悪そうにトイレに駆け込んだんだもの!絶対『つわり』だと思ったのよ!」
何人かの女子生徒が嬉しそうに早口に言う。その周りからは「誰の子!?」「手塚先輩の子!?」と興味津々な囁きが漏れ始める。
「…どういう事だ?」
手塚はきっとこの噂を聞いてやって来たのだろう。厳しい顔で不二の眼を覗き込む。
「そ、そんな事あるはずないだろ!」
不二は、手塚の手と大勢の視線から逃れるため、勢いよく駆け出した。

慌しく保健室に飛び込めば、そこには人の姿が無い。
「あ、れ?先生…?」
ガランとした部屋を見渡せば、片付けられた机の上には「外出中」の札が。
(ああっ、もう!)
これでは逃げ込んだ意味がない。薬ももらえなければ、冷静さを失った手塚を落ち着かせる事もできない。
(そうだ…!鍵閉めちゃおう!)
思いついて扉に駆け寄り、勢い良くスライドさせて閉めようとするが…。
ガンっ!
もう少しのところで足が挟みこまれて、扉が閉まるのを阻んだ。
そしてゆっくりと開かれていく。
「不二。話を聞かせてもらおうか」
「…手塚」
そう言って一歩ずつ近づく手塚が、口調ほど落ち着いていないことははっきりと分かる。その眼と眉が驚くほどつり上がっている。
「誰の子供だ?最近よく遊びに言っていた氷帝の奴らか?もしかして跡部か?アイツは手が早そうだしな」
「ちょ、何言ってるの?」
確かに練習試合も兼ねてよく氷帝には遊びに行くけど、跡部には宍戸っていう彼女がちゃんといるんだから…!
そう思っても言葉にならない。そんな隙も与えないほど手塚は不二を問い詰め続けるのだ。
「ああ、そうか。忍足か。あいつも碌な噂を聞かない。お前はあんなチャラチャラした男が好きなのか!?」
忍足には向日っていう想い人がちゃんといるし!しかもチャラチャラとかってかなり失礼な事言ってるし…!
不二は心の中で叫び、忍足に同情する。
一歩一歩後ずさりしていた不二は、とうとう備え付けのベッドにぶつかってそれ以上進めなくなる。
「さあ、どういう事か言ってみろ」
「…手塚」
あまりに血相を変えて追いかけられたからつい逃げてしまったが、不二はこの現状の不思議に「あれ?」と首を傾げた。
(何で手塚はこんなに怒っているの?)
目の前の手塚は、絶対に逃がさないとばかりに不二をベッドに押さえ込む。
腰から上をベッドに乗せ、仰向けに横たわる不二の両脇に両手を付き、挟み込むようにして逃げる隙を与えない。
(例えば僕が妊娠したとして、どうして手塚が怒るの?)
無言でまじまじと見つめれば、手塚は今度は昨日のことを持ち出して怒り出す。
「あれだけ毎回早く帰れって言っているのに、昨日もあんな遅くまで残っていたし。追いかけようとすれば菊丸が絡んでくるし…!」
「手塚…」
(追いかけようとしてくれたんだ…)
こんな状況なのに、思わず喜んでしまう。
「お前は、どれだけ心配させれば気が済むんだ…!」
「手塚…」
不二は、荒々しく言い捨てる手塚を見上げる。
「ねえ、手塚?僕の事好き?」
「…!?」
不二の一言に、手塚は急に息を呑んで固まった。ようやく冷静になって、自分の仕出かした事に気づいたらしい。
慌てて離れようとする手塚に、不二は手を伸ばして抱きついた。
「ねえ?僕は手塚が好きだよ?手塚は?」
「…不二」
「ねえ?聞かせて、手塚?」
潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめられて…。手塚は照れたように視線を逸らす。
そして、さっきまでの勢いが嘘のように小さく言葉にした。
「不二が、好きだ」

ベッドに上がり、胡坐をかいて座った手塚は、膝に不二を抱き上げて背中から抱きしめた。
そして、制服の上からそっとお腹を撫でてやる。
「そうか、食べすぎだったのか」
「そうだよ。妊娠なわけないじゃない。僕はずっと手塚が好きだったんだから…」
「そうか…。でも、不二の子供なら可愛かっただろうな」
「何言ってるんだか」
不二は小さく笑って、優しく撫で続ける手塚の手に、自分の手を重ねる。
見た目以上に温かな手塚の体温。
昨日ヤケ食いしたばかりなのに、今こうして抱きしめられているのが嘘みたいだ。
「手塚ってば、あんなにアプローチしてたのに、本当に僕が手塚を好きだってことに気づかなかったの?」
「…それはこっちの台詞だ。あんなにお前の事を心配していたのに、本当に俺がお前を好きだってことに気づかなかったのか?」
「気づかないよ。いっつも難しい顔してさ。好きな人を心配するってより、近所の厳しいおじいさんみたいだったもん」
「…おじいさん、か」
流石の手塚も、その台詞にはがっくりと肩を落とす。
「でも、嬉しい。そんなに心配してくれてたなんて」
「当たり前だ。妊娠したという噂を聞いた時も、相手の男が認知しないのなら、俺が父親になるって思ったくらいだからな」
「そんな極端な…」
手塚の言葉に呆れながらも、不二はその気持ちが嬉しくて甘えるように広い胸に身体を委ねる。
「でも、父親になる前に『恋人』として僕を可愛がってね?」
「そうだな」
手塚は珍しく優しい笑みを浮かべ、目の前で揺れる柔らかな髪に唇を寄せた。

 


以前リクエスト頂いた女体青学バージョンでした。
お読みいただければ分かると思いますが、いつか氷帝バージョンと絡めてやろうと画策中。さらりと彼らの名を出しておきました。
今回の心残りはリョ海を絡められなかった事です。いつになるかは分かりませんが、次の女体はリョ海で行きたいですね。

 

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ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
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