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何だか病んでる感じの跡部。そりゃ、私か?(笑。

ブルーベリー (跡×宍)

「お前ブルーベリー食ったことないのか?」
跡部が驚いて顔を上げた。
「ブルーベリーって目に良いっていうあれだろ?俺ジャムとかソースとかになってるのしか食ったことない」
「そうか、食ってみるか?」
デザート皿に乗った一粒を指で摘まむと、跡部は宍戸の口もとまで運ぶ。
促されるまま開いた唇に、小さな実が押し入れられる。
唇に触れた跡部の指先に、宍戸が隠しようがないくらい動揺して、跡部もつられたように頬を染めた。

まだ付き合い始めたばかりの頃の話。
あの甘さを、宍戸は今でもはっきりと覚えてる。
あれから何度も口にした味だけど、あの時初めて知った味はまるで自分たちの初々しい関係みたいで、今でも大切な思い出だと大事に胸に秘めていた。
「おいしい」と笑った宍戸のために、それから毎日のようにブルーベリーを用意して待っている跡部。
毎日だなんて極端なヤツって笑ったけれど、本当はそうやって喜ばせようとしてくれることが宍戸はとても嬉しかった。
本当に嬉しかった。

     ***

「許さないって言ったよな?」
跡部は一見冷たい、でも本当は怒りの滾った瞳で宍戸を見据える。
「俺は何もしてない!」
「…あいつらと何話してたんだ?」
『あいつら』が忍足と岳人だってことにはすぐ気付く。
なぜなら学校で会話ができるのは、もうテニス部員しかいないから。
「他の奴と必要以上の口を利くなと言ったよな?」
その言葉に宍戸は息をのむ。
とうとうテニス部の仲間と話すことすら許せなくなってしまったのか?
一歩ずつ近づいてくる跡部の威圧感に、宍戸は尻をついたままフローリングの床を後ずさる。
「…お前は俺のものだろう?他の男に色目使ってるんじゃねえっ!」
プライベートでは滅多に聞かない怒鳴り声に、ひっ…!と小さく悲鳴を上げ肩を竦める。
本気で怯えている宍戸の姿が、跡部の怒気をますます煽る。
跡部は手にしたフルーツ皿を放り、フローリングが鈍い音を上げた。
厚手の硝子皿は割れることはなかったが、一杯に盛られていたブルーベリーの実が床を弾んであたりに飛び散る。

あの日、生まれて初めて跡部の指から食べさせてもらったブルーベリーの実。
宍戸が大好きだと言ったから、それからは部屋に来るたびに用意されているブルーベリーの実。
「おいしい」と微笑む宍戸を、跡部は穏やかな表情で見守っていたのに。

転がる実を踏み潰すことも気にせず真っ直ぐ近づくと、跡部は宍戸の顔に手を伸ばす。
そして左耳を掴むと思い切り引き寄せる。
途端、熱の塊を押し付けられたような衝撃が走った。
「痛っ!」
反射的に手を触れると、その指先が紅く染まる。
「!?」
耳朶の付け根が裂けたのだ。
強く掴んで加減もせず引っ張られたから。
「あ、とべ…?」
宍戸の声が震える。
氷のように冷たい跡部の瞳。
怖い。何でこんなことをするのだろう?
無表情に目の前に屈んだ跡部は、耳朶を掴んだまま息がかかるほど近くで、ゆっくり言い聞かせるように口を開く。
「次言う事を聞かなかったら、部屋に閉じ込めるからな。覚えとけ」
「なっ!?」

どうしてこんな事になったのだろう?
付き合い始めた頃は、口は悪くてもとても優しかった跡部。
幼すぎる宍戸を持て余しつつも幸せそうに微笑んでいたのに。
いつからか、宍戸がクラスメートと遊ぶことに機嫌を悪くするようになった。
他愛のないおしゃべりも許さなくなって…。

呆然と座り込む宍戸の頬をゆっくりと撫で始める跡部。
「痛いか?」
そう言って裂けてしまった傷に舌で触れ、優しく流れる血液を舐め取る。
ついさっき、その傷を作ったのは自分なのに…。
むしろそのことに暗い悦びすら感じるのか、宍戸の体を包み込むように抱くと、ゆっくりと紅い血を啜りつづける。

跡部の肩越しに見えるのは、潰れたブルーベリーの紅。
優しかったはずの想い出は、目の前の紅に塗り潰される。

何でこんなことになってしまったのか、全然分からない。
いつからこんなことになってしまったのか…。
跡部に想われていることは分かるけれど、時々、宍戸は跡部に殺されてしまうのではないかと感じる時がある。
普通じゃない関係に気づいた忍足は、真剣な顔で自分のマンションへ来るか?と言ってくれる。
そうした方がいいかも…という考えが頭を過ぎることもある。
それなのに。
それでも、やっぱり…。

「跡部…。俺はお前が好きだ」
こんな目にあっても、やはりその気持ちからは逃れられない。
こうまでして自分に執着する跡部を、愛しいと思う気持ちに嘘はつけない。
「いいよ俺。跡部と一緒にいられるなら、ずっと閉じ込められても」
そう囁く宍戸の声には、少しの躊躇いもなかった。

抱きしめる跡部の腕に力が篭り、縋るように指先が立てられる。
どこか力無いその指先は、跡部の心の脆さの表われの様で…。

「お前が好きなだけなんだ…!」
血を吐くかのように叫ぶ跡部の背中を、宍戸は優しく撫で続ける。
200人の部員を率いて常に先頭に立つ跡部。
いつも自信に満ち溢れている跡部にも、逃れられない恐怖があった。
― 宍戸を失うこと。
愛すれば愛するほど迫り来る恐怖に、跡部は自分でも感情が抑えられなかった。
「愛してるんだ宍戸。それだけなんだ…。離れないでくれ」
「どこにも行かない。ずっとお前の側にいる」
穏やかな声が跡部の体に染み渡っていく。

いつだって、暴走してしまう跡部を、最後には優しく抱きとめる宍戸。
彼が自分から離れようとしたら、きっと殺してでも側においておくだろうと、跡部は大袈裟でなく思ってしまう。
しかし、そんな狂気に近い愛情すら、宍戸は幼い笑顔で全て受け入れてしまうのだ。

「ずっとお前のそばにいるから。毎日ブルーベリーを食べさせてくれよ?」
大好きなブルーベリーを、大好きな跡部の手で。
「あぁ…」
そんな甘く優しい言葉に、跡部の唇には久しぶりの微笑みがこぼれた。

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