トリュフ（跡宍） 2012/02/12 (Sun)

跡宍のバレンタイン短文です。

トリュフ（跡宍）

「宍戸？」
「…何だよ」
「んな、顔したってなァ」
素っ気ない声で視線を逸らす宍戸に、跡部は苦笑いで腰を抱き寄せた。
「旨かった。有難う」
「…嘘つけ。笑ったくせに」
「可愛いなって、思っただけだ」
「…うるせ」
目の前には、乱暴に破かれたラッピング。小さな四角形の箱はすっかり空だが、苦戦の証拠なのだろうココアパウダーが一面に残り、跡部の唇に消えたチョコレートが手作りだったのなんて一目瞭然だ。

―　母さんがまとめ買いしたチョコが残ってたから、それだけだ。

まるで、残り物を押しつけるようにして突きつけられたチョコレートが、もし本当にそうだったとしても、それでも跡部は幸せだったろう。
バレンタインデーに宍戸が自分を呼び出し、頬を染めて部室に引っ張って来る、それだけで十分だ。

「本当に、嬉しいんだ」
「…跡部」

左手で宍戸の頬をそっと撫でる。
右手を添えようとして、親指に残るココアパウダーに気付いた。
その指で宍戸に触れるのを躊躇った瞬間、薄く開いた宍戸の唇がそっと跡部の指を含む。
熱い舌が戸惑うように親指の腹を舐め、ちゅ、と小さく吸い上げた。

宍戸の伏せた瞼が、微かに震える。
跡部の躰が一瞬にして火照った。

「…宍戸、宍戸」

そっと指を引き、代わりに唇を寄せる。
不思議な程、添えた手が震えた。
伸ばされた宍戸の腕が、まるで縋るように跡部の背に回される。

「好きだ…」
重なった二つの呟きは、互いの唇に呑みこまれた。