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リョーマ誕生日おめでとう!!
滑り込みセーフ。何とか間に合いました。
リョ不二完結です。

明日はおまけのリョ不二SSSをUPします。

ある日の「かわむらすし」5  リョ不二

「こんばんは!」
ガラガラと引き戸を引く音と共に、元気な声で顔を覗かせたのは菊丸だ。
「ちーっス」
そして桃城。
その後ろからは、少し困り顔の大石と、明らかに不機嫌そうな海堂。そして怪しく眼鏡を煌めかせる乾。
「あれ?みんなお揃いだね!今日は何かあったの?」
河村の質問も余所に、菊丸と桃城はきょろきょろとあたりを見回す。
「タカさん!不二とおちびは?」
「おっかしいなァ。あいつきょうはタカさんの所行くみたいな事言ってたのに」
今日は24日。クリスマスイブ。
桃城の言葉に漸く状況が呑みこめた河村は、同情の眼差しで皆を見回した。
揃いも揃って、後輩に上手く踊らされてしまったという事か。
「多分今日は二人とも来ないと思うよ。そうやってみんなで面白がるから、越前に一杯食わされちゃったんだよ」
「えー!?」
河村の言葉に酷くがっかりしたのは菊丸と桃城だけだ。
乾は納得顔だし、大石と海堂はほっとしたように息を吐いた。
「ほら、英二。余計な口出しはしないで、二人のしたいようにさせたらいいんだよ。俺たちはタカさんの鮨をご馳走になることにしよう」
「えー!超楽しみにしてたのに、がっかり!もう、大石の奢りだからね」
「何でだよ…」
ぷいっと頬を膨らませた菊丸の八つ当たりの矛先は大石に向かってしまう。
そして、菊丸同様つまらなそうな顔をした桃城の頭を、後ろから叩いたのは海堂だ。
「バカが、余計な事しようとすんな」
「痛っ!何すんだよ、マムシ!!」
「マムシって言うな!!」

騒々しい一同に、乾はぽつりと呟く。
「ここに手塚がいれば、一喝で静かになるんだがな」
その言葉に河村も頷く。
「そうだよね」
そして河村は、今日も変わらず眼鏡の奥の感情が読めない乾に、確信を持って尋ねる。
「でもさ、今回の噂の出所って、乾だろ?」
その言葉に乾は「ん?」と眉を上げるが、それだけで何も言おうとしない。
ただ、小さく笑う口元が、誰よりもこの状況を愉しんでいることは見て取れる。
「…まったく、みんな相変わらずだよ」
そう零してから河村はカウンターに入り、いつものように鮨を握り始める。
こんな騒々しいメンバーでも客は客。決して手抜きはしない。
ただほんの一瞬、不二と越前はどうしているかな…と、人影の無い引き戸の向こうを河村は見つめた。

そして、その頃の二人と言えば。
「越前遅い」
「すンません」
駅前の時計を確認すれは、約束の時間からもう15分過ぎている。
「あのね、越前。約束の時間っていうのは家を出る時間とは違うんだからね。自分で決めたくせに。まったく君は昔から…」
まだ何か言いたそうな不二の顔を、越前はただ愉しそうに伺う。
そして徐に質問を投げた。
「ねえ不二先輩?いつ気づいた?」
自分の言う事を全く聞いていない越前に呆れながらも、不二は諦めたように答える。
「…あの日だよ。家に帰ってアドレス帳に書きこむ時にね」
「へえ?じゃあ本当に帰るまで気づかなかったんスね。で?それなのに一度も電話寄こさなかったじゃないスか?」
「君が聞くとは思えないし。約束したからね」
「先輩のメンツ?」
「…そう言う事。でもまァ、とりあえずは」
そう言って、不二が後ろに組んでいた手を振り上げると、越前は反射的に目を瞑った。
そんな越前の頭を、不二はグイっと引き寄せる。
「な!?」
そして、驚いた越前が恐る恐る目を開ければ、不二はもう背を向け駅の階段に向っている。

「誕生日おめでとう。良く似合っているよ」

「え…?」
乱暴に押しつけられたのは、久しく被っていない帽子だ。
黒のレザー仕立てのキャップは、打たれたスタッズがハードなデザインで、今日の越前のスタイルに良く合っている。
「かっこいいじゃん…」
越前はまじまじと眺めてから改めてキャップを被り直し、そして不二を追いかける。
階段に差し掛かる直前に追いつけば、越前は不二のダッフルの袖を軽く引いた。
そしてターコイズのダウンの背を丸め、不二の背中から耳元に囁く。

「Thank you. …And, it loves」

「…は!?」
「あれ、日本語がいい?」
「違くて!」
声を荒らげて振り返る不二を追い抜きながら、越前はもう一度囁いた。

「先輩、愛してる」

「ちょっ…!?」
不二が慌てて見回すも、周りの人はそれぞれの目的に追われて、誰も二人を気に掛けている様子が無い。

家路に急ぐ人。
腕を組み見つめ合うカップル。
声を上げてケーキを売るサンタクロース。

「ほら、行くよ先輩」
笑って手を差し出すから、全く納得いかないまま不二はその手を取る。
拒否すれば抱き寄せるくらいの事はしそうな後輩だから、不二は逆らわない。
こういう時、越前は外国暮らしが長い事を思い出す。
不二としては、これ以上目立つのは御免被りたいのだが。

「…で?どこに行くの?」
「え?そりゃ『かわむらすし』へ」
「結局?」
「そ、予定変更。先輩たちが集まってるってさ。俺達が来るのを楽しみにしてるらしいっスよ」
「楽しみって…」
「俺も楽しみ。だって、もう良いでしょ『俺達付き合ってます』って報告しても」
当たり前のように言いきる越前に、不二は食ってかかる。
「何時!?何で!?僕返事した!?」
「え?まさか振るの?俺を?」
振られるなんてまるで疑ってもいない、いや許さないというような、その生意気な越前の笑み。
プレゼントしたキャップを目深に被り、覗きこむ視線はあの頃のようで、でも、もっと情熱的で。
長めの前髪が影を作り、何だか色っぽい。
不二は、照れくさくなって視線を逸らした。
「もう、分かったよ…」
諦めて項垂れれば、越前は満足そうに不二の肩を抱き寄せる。
「ま、夜は長いから」
「…何だか、悪役みたいな台詞だね」

本当に、長い夜になりそうだ。
取りあえずは、仲間たちの攻撃をどうかわそうかと、不二は天を仰いだ。

 

 

 

 

― ところでさ、越前。あの試合の続きは本当にするの?
― ああ、あれッスか?あれはただの口実。今回の帰国で、どうしても不二先輩を堕としたくってさ
― …。
― それに、今の俺が負けるわけ無いじゃん?
― …次の休み、試合するよ、越前
― え?
― 僕に勝つのは、まだ早いよ。
                なんてね

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