青学と一緒 side story （リョ×海）～猫宍シリーズ17～ 2007/05/10 (Thu)

カテゴリー内、「猫宍シリーズ（跡宍）」の1話から順にお読み下さい。

今回は番外でＣＰはリョ海です。こちらを読まなくても本編に影響はございません。

青学と一緒　side story （リョ×海）
～猫宍シリーズ17～

跡部さんが車を用意してくれると言うのを遠慮して、俺と越前はゆっくり歩き出した。
他の先輩たちは車で帰ったり、忍足さんの部屋で飲み直すとか。三々五々に散っていった。
あと30分もしたらイブは終わる。越前の誕生日も終わってしまう。

本当は二人きりで、お祝いを兼ねてテニスを楽しむ予定だった。
「プレゼント何がいい？」って聞いても「何もいらない。一緒にいられればそれでいい」としか言わない越前だったから、それならせめて好きなテニスを命一杯やろうと出かけたストリートコートだった。
まさか部活のメンバーがどこからか聞きつけて集まるなんて、しかも氷帝メンバーにまで出くわすなんて思ってもいなかったから、ただでも色気の無かった誕生日の計画は、もうすっかり賑やかなクリスマスパーティーになってしまった。
「…悪かったな、越前。こんな誕生日になっちまって」
半歩前を歩く越前に、そう声を掛ける。
「何で？俺嬉しかったよ？」
足を止めた越前は、そう言ってクルリと振り向く。
「俺との関係バレても跡部さんにパーティーのお願いしてくれて、俺嬉しかったよ？」
「…越前、起きてたのか？」
眠り込んでいると信じて疑わなかった越前を抱きかかえて、跡部さんにパーティーをお願いした時、確かに俺たちの関係に気づいている風だった跡部さんに、俺は強く否定はしなかった。今までは頑なに否定し続けてた関係を、初めて否定しなかった。
「すごく嬉しかったよ？」
とても穏やかに微笑む越前。
部活のメンバーだって、きっと家族だって知らないだろうこんな穏やかな越前。
俺は年上なのに、いつだって越前に甘やかされている気持ちになる。
だから、せめて。今日くらいはせめて、越前の喜ぶことをしてやりたい。
カタチばかりの恋人で、その実情ただの先輩後輩の関係から進めないでいる俺たちの、最初の一歩を。
「…越前」
俺を見上げて微笑む越前の頬に手を添える。
手袋を外して少し冷たい指先だけど、越前は文句も言わず嬉しそうに瞳を細めた。
「越前が好きだ」
そして、初めての口付け。
やり方なんて知らない。ファーストキスだからな。
唇と唇が触れ合った途端、越前の手が強く俺の腕を掴む。
ただ触れただけの唇は、お返しとばかりに今度は乱暴に奪われた。
「…あ、えちっ、ぜ…」
寒空の下なのに、そこだけ燃えるように熱い唇が、何度も俺の唇を吸い上げる。
「…あ、あ」
力任せに住宅街の塀に押し付けられたら、崩れ落ちる俺に覆いかぶさるようにして、越前は口付けを続ける。
上唇を吸われて、下唇を甘噛みされる。
忍び込んだ舌先が歯列をなぞったら、俺は自然と口腔を許していた。
「…ふ、ンっ。…ああ」
「…海堂先輩っ」
口付けの合間に狂おしく呼ばれて、もう何がなんだか分からなくなる。
上顎を擽られて、舌を啜られて。
行き場を失った唾液が、口の端から伝っていく。
「えち、ぜん…」
好きだけど、それ以上進めなかった俺を、辛抱強く待っていてくれた越前。
いつもは子供っぽく生意気に見える越前が、俺だけに見せる大人びた微笑。
ありがとう。
そして、おめでとう。
こんな事しかしてやれないけど、すごく喜んでくれてるのは分かるから。
「先輩？今日が終わるまでこうしてて？」
触れ合った唇のまま、そう囁く越前。
…ああ、いいぜ。
越前がそれを望むなら。
小さく頷いたら、越前は少しだけ震えて俺を抱きしめた。