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4/1アップ済み「猫宍奇想曲①」から順にお読み下さい。


猫宍奇想曲⑦ (跡×宍)
~猫宍シリーズ7~


宍戸はこの姿での学校生活に慣れてくるのと同時に、この家での生活にも慣れてきたようだ。
最初は嫌がったナイフとフォークでの食事も、最近は面倒がらずに器用にこなしている。広すぎると愚痴ったこの家も、使う場所さえ決まって見慣れてしまえば、自分のお気に入りの場所を見つけて寛ぐことも覚えた。
まずは俺たちの部屋のバルコニー。俺は気分転換に外の空気が吸いたい時に出るくらいだったのだが、宍戸が頻繁に外の景色を眺めに出るようになったら、執事は喜んでガーデンチェアーとテーブルを用意し、庭のあちこちにはベンチが置かれた。庭師は前以上に花の手入れに余念がなく、日課の散歩に付いて歩いては花についてレクチャーをするほどに喜んでいる。それを宍戸がどれだけ理解しているのかは怪しいところだが…。
そして、もう一箇所は俺専用の風呂。どうも俺の雰囲気からして、ライオンの口からお湯がドバーっと出ているような風呂を想像していたらしいが、いい意味でその予想を外し、檜の香り漂う純和風の風呂だったものだから、すっかり気に入って入り浸っている。猫は普通風呂を嫌がるものだが、そこまで猫化はしなかったようだ。
「あー、気持ちよかった」
今も、習慣となった朝の入浴を終え、髪をタオルでガシガシと拭きながら宍戸は部屋に戻ってきたところだ。俺は部屋備え付けのシャワーで済ますことが多いが、宍戸は風呂のためなら部屋から出て少し歩く事も面倒ではないらしい。
「相変わらずの長風呂だな?」
艶々とした頬をピンクに染めた満面の笑顔の宍戸に近づくと、俺はその手からタオルを奪って髪を拭いてやる。コイツの拭き方は乱暴で、髪が荒れてしまうのではないかと気が気じゃないのだ。
まずは猫耳の水気を拭ってやり、それから優しく抑えるように髪の水気を取る。すると、くすぐったそうに猫耳がぷるぷると震えた。
「…髪いじってもらうのって気持ち良いな」
これも慣れてきた事の一つだ。一緒に暮らし始めた時には邪魔くさそうに俺の手を押しのけたくせに、今では当然のことのように瞳を閉じて気持ち良さそうにしている。自然と尻尾もゆったりと振れていく。
洗面所で髪を乾かしてこない宍戸のために部屋にドライヤーを置くようになった俺は、ソファに宍戸を座らせて、後ろから温風をあててやる。
「宍戸、また髪伸ばせよ」
「…跡部、長いの好きだったよな」
付き合う前から、頻繁に指で梳いては宍戸に文句を言われていた。目の前でサラリと揺れられると、どうしても指を伸ばさずにいられなかった。
すっかり短くなった髪は乾くのも早く、あっという間に俺の楽しみは終わってしまう。
ドライヤーを置くと、俺は宍戸を立たせて窓の外を指差す。
「今日は晴れてるから、外で紅茶でも飲むか?」
バルコニーのチェアーが、明るい日差しにちょうど良く温まっているだろう。

紅茶を淹れ、コックのお手製クッキーを持ってきた執事は、宍戸の輝くような笑顔に頬を緩めてバルコニーを後にする。
いつも反応の薄い俺を相手にしていたから、喜びが素直に顔に出る宍戸を相手にするのは、彼にとっても張り合いになるようだ。
「宍戸。こっちだ」
俺が膝を軽く叩いて合図すれば、宍戸は照れくさそうにしながらも、向かいの椅子から俺の方へ歩み寄ってくる。
「お前、前より恥ずかしいヤツになったよな」
「俺は婚約者だぜ?こんなの当然だろ?」
文句を言いながらも、俺の膝の上に腰掛ける宍戸。
宍戸がこのバルコニーで寛ぐのが好きなのと同じに、俺にとってもここで過ごす時間はとても楽しい時間となった。
こうやって宍戸を後ろから抱きしめて、ゆっくりと過ごす休日。
クッキーの粉をぽろぽろと落とす幼い仕草さえ、見逃したくないほど可愛らしく、俺は回した腕に力を入れてしまう。
「跡部、そんなキツクしたら食えないよ」
宍戸は頬張ったままモゴモゴと言い、俺を振り返る。
その唇にはクッキーの小さなかけらが付いたままで…。俺は舌先でそっと舐め取ってやる。
「…バカ」
宍戸は顔を真っ赤にして、俺の腕を軽く叩いた。
それでも小さくなった背中は全てを俺に預け、柔らかな尻尾は俺に寄り添うようにそっと絡まる。
「…宍戸」
最近はすっかり歯止めがきかなくなり、明るい陽の下でも戸惑う細い肩を拘束し、後ろから深く口付けてしまう。
「…あ、ンンっ」
無理な体勢に宍戸は苦しそうな声を上げ、俺の膝の上を横向きに座り直したら、もうお茶を飲むという本来の目的なんてすっかり忘れてしまう。
宍戸もトロリと瞳を細めて、俺の唇に吸い付いてくる。
「…今日は積極的だな?」
甘いバニラの香りを漂わせる、柔らかな唇。
首にしがみ付くように縋ってくる姿が、愛おしい。
吸っては離れ、啄ばんでは熱く奪って。
追いかけっこのように続く口付け。
「あ…ぁ…」
宍戸の唇からは、吐息のような囁きが零れる。
「…宍戸」
宍戸がこんな姿になったのに、こんなに暢気にしてて良いのかと思わないではないのだが、正直感謝したい気分なのだ。
こんな姿になったおかげで、ドサクサに紛れてだが婚約をし、宍戸はすっかりこの生活に慣れつつある。
学校では人目も憚らず宍戸を可愛がっても、この姿のお陰で変に思われる事もなく、ある意味当然のように受け入れられ始めている。
何より宍戸自身が、この姿になったお陰で自然と甘えるようになってきた。
今までは恥ずかしさや体面を気にして、人前で手を握る事すら全力で拒絶していた宍戸が。
だから今のうちに、俺なしではいられないようにしてしまおうと思っている。
いつかあるべき姿に戻っても、俺から離れられないようにと。
心も、身体も。
「ほら、宍戸。ちゃんと向き合ってしっかり抱きついてみろ」
以前なら絶対に聞き入れなかったような言葉にも、宍戸は小さく頷いて俺と向き合うように座り直し、その身体をピタリとつけて抱きついてくる。
「…いい子だ」
さっき乾かしたばかりのさらさらの髪を撫でてやれば、その額をすり…と摺り寄せる。
…愛らしい。
でも、まだまだだ。
もっと可愛がってやろう。片時だって離れられないように。
俺無しでは生きて行けないくらいに。
俺はもう一度深く、宍戸の唇を奪った。

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