猫宍奇想曲③～猫宍シリーズ3～ （跡×宍） 2007/04/03 (Tue)

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猫宍奇想曲③　（跡×宍）
～猫宍シリーズ3～


「ああ、待っていたよ。跡部君、宍戸君！」
学校に着き中等部長の部屋に通されると、すぐに応接用ソファを勧められる。自分たちは生徒で相手はいわゆる校長先生にあたるわけだから、俺たちは丁重に断ったが、最高潮に機嫌の良い中等部長は俺たちの手を取って無理やりに座らせる。そして、何処からとも無くお茶とお菓子まで運ばれてきた。
「早速だが、宍戸君。ちょっとその帽子を取ってみてくれるかね？」
「あ、はい。すみません」
部屋の中で帽子を被ったままだったのに気づいて失礼を詫びる宍戸だが、この機嫌の良さから言って、中等部長の台詞がそんな理由からくるのではなく、ただただ好奇心故の言葉ではないかと俺は思う。
宍戸は一瞬躊躇うような表情をしながらも、この姿を見てもらうためにやってきたのだからと、覚悟を決めたようにフードを下ろす。
すると、勢いよくピンっと立ち上がる艶やかな黒の猫耳。
「…おお！」
中等部長の上げた声は、どう聞いても驚愕からくる悲鳴のような類ではない。
感動に胸振るわせる…と言った方がぴったりとくるような気がする。
…もしかしてこの人は？
「…中等部長。もしや、相当の猫好きでは…？」
「分かるかね跡部君！いや～。実に愛らしいねェ宍戸君は」
やっぱり…。
「…中等部長」
宍戸はそう言ったきり言葉を無くした。

「あー、いやいや。つい興奮してしまった。申し訳ない」
散々宍戸の耳と尻尾を愛でまくり、ようやく中等部長が満足いったらしい頃には、宍戸は疲労困憊という感じである。
俺にいたっては、もう少しあの状態が続いたらこのオヤジを…いや中等部長を殴りつけてしまうんじゃねーかってくらい頭にきていた。
俺の宍戸にベタベタ触るなんて…！
しかし、これから今後の学校生活について相談しようっていう大事な時に、俺たちがそんな態度に出られるわけも無く…。
「で、相談って何だったかな？」
「……」
このオッサンは…！
アポ取った時に話した大部分を聞いていなかったらしい。恐らく宍戸に耳と尻尾が生えたってのを聞いた所で相当舞い上がっちまった事は想像できるが…。
「この状態の宍戸を、今まで通り学園に通わせることはできないかというご相談なのですが」
俺が先日の電話の内容を繰り返せば、中等部長は「おお！」と手を打つ。
「そうだった、そうだった」
「……」
本当に分かってるんだろうかっていう返事に、俺と宍戸は顔を見合わせる。今まで式典や朝礼の挨拶でしか声を聞いたことがなかったから、こんな暢気な人だとは想像もつかなかった。
「うん。問題ないんじゃないか？」
「…本当ですか！？」
あっさりと出された結論に、宍戸は思わず腰を上げて詰め寄る。
そりゃそーだろ。普通なら速攻病院送りになるこの状況で、こんなにあっさり返事されては疑いたくもなるってものだ。
けれど中等部長は驚きにピンっと立った宍戸の耳と尻尾に益々相好を崩すと、よしよしとその耳を撫でながら微笑みかける。
「大丈夫、問題はない。氷帝は生徒の自主性を重んじる学校だ。見た目で判断するなんて心の狭い人間を育てているつもりはないよ？」
「はあ…」
立派な事を言っているようで、全くもって都合のいい解釈を広げるオヤジに、宍戸はもう何も言おうとはしなかった。
まあ、都合は良い。
中等部長の賛成と俺の力を持ってすれば問題はないだろう。
「良かったな？」
隣で呆れたようにソファに身を沈める宍戸に言うと、釈然としない顔ではあるが小さく頷いてみせた。