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4/1アップ済み「猫宍奇想曲①」から順にお読みください。
 
 


猫宍奇想曲⑤ (跡×宍)
~猫宍シリーズ5~


新しい制服に身を包んだ宍戸は、俺の後ろに隠れるようにして出番を待っている。昨夜は結局数時間しか眠れず(眠らせてやれず?)腫れぼったい目に、緊張のあまり強張った頬をしてるのに、俺はそんな宍戸の姿に頬がニヤけてしまうのを抑えるのに必死だ。
だって、この耳に尻尾に小さな身体だぜ?
ぷるぷる震える身体はもう、今にも抱きしめてしまいたい。
特注で作らせたズボンから尻尾を出してるのが、これまた…。
「跡部…」
そんな俺の内心になんて気づかない宍戸は、不安そうに俺の制服の裾を掴む。
今、全生徒の前で中等部長が朝の挨拶を始めた。いつも通りの朝礼の後に宍戸の報告をすることになっている。
もう数分後には、千以上の人が犇めく体育館の壇上へ宍戸は姿を晒すこととなる。
…まあ、俺は何の問題もないと思っているけどな。こいつは疑り深くていけない。

「…では、宍戸君こちらへ」
「…!」
中等部長の声に宍戸がビクンと身体を震わす。
「俺も、一緒に行くから」
その背に手を添えて、舞台の裾から壇上へと向かう。

― 嘘だろ?
― 何言ってんだ?
などなど。
騒然となっていた生徒たちは、宍戸が姿を見せると一斉に静まった。
すでに見知った元テニス部レギュラーの宍戸が、小学生のように小さくなってテクテクと歩いてくる姿。しかもくどい様だが猫耳に尻尾だ。
まるで時期外れの転校生のようにマイクの前に立つと、宍戸はゆっくりと顔をあげる。怯えるようにこっそり上目遣いで見渡すその表情に…。

「「「かわいいー!!!!」」」
響き渡る生徒たちの声。

だから言ったじゃねーか。
俺はきょとん…とする宍戸の横に立って、目の前のマイクを奪った。
急に館内が静まる。
「中等部長から話があったように、今のところ原因不明だが宍戸亮はこの状態だ。本来ならば学校に通い続けるなど無謀なことだが、我が氷帝学園の生徒ならばつまらない常識にとらわれず、彼の学園生活を援助してくれるものと確信している」
一息にそこまで言うと、今の静寂が嘘のように一斉に歓声が上がる。
問題はなさそうだ。
「愚問だが、外部にこの情報を漏らすことは許されない。共に彼を守って見せようじゃないか」
言い終えれば更に高まる歓声。
「な?ウチは祭り好きなんだ」
振り向いて言えば、宍戸は呆れたように口を開いたままだった。

「やったな!宍戸」
興味津々な視線の中宍戸を教室へ送ると、宍戸のクラスメートの向日がはしゃいで駆け寄ってくる。そしてその後ろからは滝が。
「岳人!滝!」
宍戸もさっきより大分落ち着いた表情で、飛びつく岳人を抱きとめる。
「わっ、わわ…!」
身長が20センチ以上縮んでいるのだ。自分よりも大きくなった向日を今までのように受け止めることが出来るわけもなく、俺が宍戸の背後から二人分の体重を支えてやる。
「向日。気をつけろ」
俺が睨みつけると、向日は「そうだった!」と慌てたように飛び退いた。
「宍戸、俺よりもちっちゃくなっちゃたんだもんなー」
心なしか嬉しそうな表情に、宍戸はチェっと舌打ちする。
それでも機嫌が良さそうなのは尻尾を見ていると分かる。リラックスしたようにゆったりと揺れていた。
「向日、滝。後は頼んだぜ?」
さすがにクラスを替えさせるわけにはいかなかったから、俺は授業中まで宍戸を見守ってやることは出来ない。
けれど、同じクラスには向日と滝がいる。
俺の言葉に二人は大きく頷いた。
「任せとけって!」
ドンと胸を叩いて見せる向日。
「毎日宍戸の姿が見られるなんて、学校来るのが楽しみになっちゃうね」
滝はクスクスと微笑んだ。
「宍戸、困ったことがあれば遠慮しないで言うんだ。分かったか?」
「分かった」
小さな頭を撫でてやれば、宍戸は珍しく素直に頷いた。
…かわいい。
そんな宍戸を前に、俺もついついプライベートの顔になってしまう。
向日と滝は、そんな俺たちの会話をニヤニヤと聞いていた。

もう一度その頭を撫でてやろうとしたら、ざわめく教室内に予鈴が響きわたる。
俺は仕方なく自分の教室に戻ろうとしたところで、一つ忘れていたことを思い出した。
「そうだ、向日、滝」
振り返って席に着こうとした二人を呼び止める。
両手を二人に繋がれた宍戸も「どうした?」という顔で俺を見つめる。

「言い忘れてた。正式にはまだだが、昨日宍戸と婚約したんだ。変な虫がつかないようにガードも頼んだ」

「「「ええー!?」」」

言い終わらない内に上がる驚きの声。二人に対して言ったつもりの言葉だったが、当然クラス中の人間にも聞こえていて…。
「ばっ、バカ!こんなとこで何言ってるんだ!」
宍戸があわてて駆け寄り、俺の頭を引っ叩いた。
「痛てーだろうが」
「知るかっ!」
真っ赤になって怒る宍戸。そんな宍戸の態度が、俺の言葉が本当であると証明しているようなものだ。
「…マジでやりやがった」
向日と滝は呆れたようにそう呟いた。

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