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4/1~4/10UP済み「猫宍奇想曲」→4/18~UP済み「猫宍夜想曲」の順にお読み下さい。


猫宍夜想曲③ (宍+ジロー)
~猫宍シリーズ12~


ジローのクラスまで引っ張って来られた俺は、促されるまま席に腰掛ける。前の席に着いたジローは自分のリュックの中をごそごそと漁ったかと思うと、奥の方からムースポッキーの箱を取り出した。
「あれ、ジロー君。これからおやつ?先生に見つからないようにね?」
ジローのクラスメートらしい女子が、お姉さんのような口調で話し掛ける。
「うん。ここで食べてるの内緒だよ?」
こんな会話はいつもの事らしく、ジローはにっこり笑って彼女に言う。
「はいはい、内緒ね。じゃ、ジロー君また明日」
「ばいばーい!」
カバンを手に教室を出ようとする彼女に、ジローは手を振って挨拶する。
「宍戸君も、さよなら」
彼女は将来保母さんとか向いてるかもしれない。そんな優しい笑顔で俺にまで挨拶してくれる。
「…ああ。さよなら」
俺が戸惑いながら返事をすると、彼女は頷いて小さく手を振り教室を後にする。
…ああ。俺ってばすっかりジローと同じカテゴリー扱いな訳ね。
この姿になるまでは女子に気軽に声を掛けられる事なんてなかった。どちらかと言えば怖がられる方で、おずおずと声を掛けられる方が多かったんだ。
「ウチのクラスの女の子って結構落ち着いててしっかりした娘が多いんだ。宍戸が可愛いって、弟にしたいって言ってたよ!」
「…そう」
とても嬉しい報告をするような明るい声でジローはそう言うけれど、俺は素直に喜べない。やっぱりジローと同じ扱いだよ…。硬派な宍戸君のイメージはすっかり消えつつある。ま、仕方ないけどな、この姿じゃ。
「はい!宍戸もどーぞ」
俺ががっかりと肩を落としている間にポッキーを取り出したジローは、その1本を俺の顔の前に押し出す。
「あ、ありがと」
焦点が合わないほど近くに差し出されたそれを、少し仰け反るようにして手にとろうとしたら、ジローにダメ出しされた。
「違うの!俺が食べさせてあげるの!」
「は…?」
要するに、このままパクリと行けと?
戸惑いながら口を開けたら、ジローは満足そうに頷いてポッキーの先を俺の口に差し入れる。
仕方なく、俺はぽりぽりとポッキーの先から齧っていく。
チョコがついていない最後の部分まで食べきると、ジローは嬉しそうに尋ねる。
「おいしい?」
「ああ、おいしかった。ご馳走様」
そんなジローの満面の笑みに、いつも食堂で俺の世話を焼いてくれる滝の真似をしたかったのかな?って思う。食堂での定位置だとジローは斜め向かいの席になるから、こうして構われる事は殆ど無い。何より、誰より気が利く滝が隣にいるから、他の皆が気づく前に何でも滝がしてくれちゃう。
「…俺だって、宍戸に甘えて欲しいもん!」
ジローはそう言うと、自分もパクリとポッキーに食いつく。
さっき日吉が言ってた言葉が、少し分かった気がする。「皆さんこの姿になったことに託けて、ただ甘えてるだけ」って、そう言ってた言葉の意味が。実際ジローは俺に甘えて欲しいと言いながらも、その表情は「甘えたいんだもん!」と言っている。
うーん。確かに前みたいに甘えて背中に飛びついてくるジローを抱きとめてやれなくなったし、うたたねするジローを抱えて連れ帰ったりもしてあげられなくなってしまった。
意外とジローの相手をするのは体力勝負なところがあったから、誰より接触が減ってしまったのはジローかもしれない。
…寂しかったのかな?
俺は、拗ねるような顔して2本目のポッキーを銜えるジローの頭に手を伸ばす。何度か撫でてやったら、ジローはくすぐったそうに首を竦めて微笑んだ。
「もう抱っことかはしてやれないけど、膝枕くらいならしてやれるんだから。遠慮しないで甘えろよ?」
俺の言葉に、ジローは「俺が甘やかしたいのに…」と口を尖らせる。
でも、嬉しそうなのは明らかで、ジローは机の上にうつ伏せて言った。
「…跡部が来るまででいいから。頭撫でてて?」
ジローはそう言って俺の手を一度きゅっと握ると、あっという間の速さで眠りに落ちていく。
「…ああ。撫でててやるよ」
俺の返事は聞こえてないかもしれない。もう気持ちよさそうな寝息が聞こえて来たから。

「ジローの奴、相当我慢しとったよ?」
教室に響く落ち着いた声に振り返れば、そこには帰る所なのか、カバンを手にした忍足が入り口のドアに寄りかかるようにして立っている。
「跡部と滝に宍戸を占領されて、かなりキてたみたいやで?甘えん坊将軍やからな」
困ったような顔で微笑む忍足は、ジローを起こさないように近づいてきて隣の席に腰掛けた。
…まさか。
「お前も俺に甘えたかっただなんて、言い出すなよ?」
日吉の意外な言葉は可愛かったけど、忍足では気持ちが悪いだけだ。断固拒否する。
「アホか。俺のキャラやないわ」
自慢の長い脚を机の下に納めることを諦めた忍足は、そう言って苦笑する。そして、これまた嫌味のように長い腕を伸ばすと、俺の猫耳にそっと触れてゆっくりと2回撫でる。
「…俺は、メチャメチャ甘やかしたい方やで?」
そう瞳を細めて微笑む忍足の声は、普段とは全然違う。
…いつもはオタクくさいくせに、何なんだよこの大人っぽさは。
全くその気が無い俺ですら、少しドキっとさせられる…。

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