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4/1~4/10UP済み「猫宍奇想曲」→前日UP済み「猫宍夜想曲①」→「猫宍夜想曲②」の順にお読み下さい。


猫宍夜想曲② (宍+鳳)
~猫宍シリーズ11~


息を切らした長太郎が俺たちの元へ駆け寄れば、日吉は最後に、見せ付けるように強く握ってから繋いだ手を離した。
「宍戸さん、俺行きますね。鳳の相手お願いします」
そう言って、日吉は頭を下げるとコートに戻って行く。
最後に見せた余裕の微笑みに長太郎は憤りを隠せず、まるで地団駄を踏むようにコンクリートを蹴った。
「日吉ってば、最近宍戸さんに馴れ馴れしいんだよな!」
今まで後輩の中では長太郎を特別扱いしてた所があったから、面白くないのかもしれない。俺なんかの為にこんな風に焼きもちやいてくれる後輩がいるってのは、先輩としては嬉しい限りだ。
今思えば、卒業していった先輩たちもこんな風に俺たちに甘えて欲しかったのかな?跡部を筆頭に生意気な奴ばっかの学年だったから、つまらない思いをさせたのかも…なんて。俺も引退して初めてそんな事を考える余裕ができた。
「宍戸さん!最近先輩方に邪魔されて宍戸さんに近づけなかったんですから、今日はゆっくりしてってくださいよ?」
「…お前、練習しろよ」
まるで個人行動をとる長太郎に一応先輩らしく注意をする。まあ、無駄だと分かってるけどな。
「日吉にだって好きにさせてたじゃないですか!俺だって甘えたいです!」
案の定、長太郎は拗ねてしまった。
愛想が悪いけど自分にだけ懐く猫…みたいな日吉も可愛いけど、ご主人様の帰りを瞳をキラキラさせて待つ犬…みたいな長太郎ももちろん可愛い。
最近ゆっくり話しを聞いてやれる時間も無かったから、跡部の会議が終わるまでは一緒に居てやろうと思う。
「甘えたいって、どうしたいんだ?」
苦笑いで俺が尋ねると、長太郎はただでも大きな瞳を喜びにキラキラとさせて、自分の膝を叩いた。
「宍戸さんを、抱っこさせてください!」
「…だっこ」
さすがに顔が引きつる。
いやさ、別にいいんだよ。こいつに変な気持ちがある訳じゃないって分かってるし?
でもさ。俺の今の姿でそれをやったら、どう見たって俺が甘えてるみたいに見えるんだよ!
どうしたものかと長太郎の表情を窺えば、意志の強そうな眉がキッと上がった。
…何が何でも、俺を逃がさないってワケね。
「しょーがねーな…」
「やった!」
渋々頷けば、俺はあっという間に座席に座った長太郎の膝の上だ。
「あー…。宍戸さんの匂い」
「…オイ」
小さくなった俺の身体を、長太郎は後ろからぎゅっと抱きしめて言う。
ただでも大きかった身長差は今では30センチ以上になり、きっと遠くから見れば俺は小さな子供のように思われるんだろうな。
当然学校の生徒は俺のことを知っているんだし、仲のよい兄弟とは見てくれない訳だけど、そこは長太郎の人柄というか。懐っこい長太郎のこんな行動は変に怪しまれる事は無く、愛情表現がストレートなヤツだな、くらいにしか思われない。
…ただ、元テニス部レギュラー陣は別だけどな。
長太郎が俺の猫耳に触れて、静かに撫でようとしたその時…。
「ししどー!」
背後から興奮したような声で呼ばれる。というか叫ばれる。
振り向けば、俺を必要以上に構いたがるメンバーの1人が、いつもはくるりと愛嬌たっぷりの目を吊り上げて駆け寄ってくる。
「…ジロー先輩」
長太郎は、がっかりしたような声で呟き項垂れる。
3年元レギュラー陣の誰よりも身体は大きい長太郎だが、ハチャメチャなメンバーの1人にだって勝てた試しがない。
特にジローと岳人。この二人の喧しさには振り回されてばかりだ。おおらかなラブラドールが、チワワのような小型犬に噛み付かれて困っている…みたいな図がけっこう可愛らしいんだけど、本人はそれどころじゃないみたいだ。
「…宍戸さん。今日はこれで諦めます。また、遊びに来てくださいね?」
ジローが近くまで来る前に、長太郎は俺を膝から下ろすと、名残惜しそうに俺の頭を撫でてそう言った。
「わりーな、長太郎」
あんまりしょげてて可哀想だから、俺も一生懸命手を伸ばして長太郎の頭を撫でてやる。
「宍戸さんっ!」
「…バカだなぁ」
こんなことで涙ぐむのもコイツらしい。
そっと、広い背中を押し出してやれば、長太郎は頭を下げながらコートへと下りて行く。
そして、入れ違いにやってくるジロー。
「…チッ!ちょうたろー、逃がしたか!」
「…そんなに苛めてやるなよ」
ジローも岳人もそうだけど、長太郎の反応が楽しくてついつい苛めすぎるんだよなぁ。小学生じゃないんだから止めろって、何度も言ってるんだけど。
「ま、いーや。宍戸、一緒に遊ぼ?」
急に天使のように微笑んだジローは、長太郎のことなどすっかり忘れてしまったように俺の手を取る。
「…跡部が戻るまでだぜ?」
「分かってるー」
同じ家に住む跡部やクラスが同じ岳人と滝のようには、ジローと過ごす時間がなかったから、たまには二人でのんびりするのも良いかもしれない。
「じゃあ、教室戻るか」
「うん!」
大きく頷いて、俺の手を引き先を歩くジロー。
…何だか今日は慌しいな。

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