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4/1~4/10UP済み「猫宍奇想曲」の続編です。

 


猫宍夜想曲①  (宍+日)
~猫宍シリーズ10~


スタンド席のような階段状の座席から見下ろすように部活を見学すれば、案の定後輩たちがちらちらとこちらを意識するのが分かる。
「…やっぱ、やめときゃ良かったか?」
跡部の生徒会会議が終わるまで、時間つぶしにと思って久しぶりに顔を出したけど、すっかり邪魔になっちまったみたいだ。
俺たちだって、急に引退した先輩が見学に来たら、何言われるんだろうって戦々恐々だったもんな。
ましてや、こんな猫耳に尻尾を揺らした俺みたいのが来たら、ほかの奴が来るよりも気になるのは仕方ない…。
これ以上邪魔になるのが嫌で早々に腰を上げたら、コートから日吉が上がって来るのが見える。
「宍戸さんっ!」
慌てたように呼び止めるから、つい足を止めてしまう。
あーあ。部長の日吉にまで気使わせちまったな…。
階段を駆け上がってきた日吉は、少しだけ息を乱して俺の前までやってくる。
「…日吉悪かったな」
「もう少しゆっくりしていって下さい」
俺が謝ったから気を使ってくれたみたいだ。でも、この身体じゃ大した指導もしてやれないから、俺は小さく首を振る。
「ちょっと様子見に来ただけだったのに、邪魔しちまってごめんな?」
以前は一番近い目線で会話できたはずの日吉を、俺は仰ぎ見るようにして言う。
「何言ってるんですか。皆が意識してるのは嬉しいからですよ?もう少し見てやってください」
励みになります、と微笑んだ日吉の表情は、俺がこんな姿になってから初めて知った顔だった。それまでは「下克上」を口癖に突っかかってくるか、徹底して無視するかだったからな。
心を開いてくれたような日吉の笑顔が嬉しくもあるんだけど、俺は少し複雑でもあった。
だって以前の俺には、こんな笑顔見せてくれなかったもんな。
今の俺だって俺ではあるけれど、本当の俺には心を許してくれていない気がして、少しだけ引っかかる。
今この瞬間に俺がどんな顔をしているのか自分では分からないけれど、もしかしたら少し情けない顔をしたのかもしれない。耳が尻尾が、みんなには分かるような動きで、心の戸惑いを伝えたのかもしれない。
日吉はゆっくり手を伸ばすと、俺の頭を軽く撫でた。
日吉も前とは随分変わったけど、俺も負けないくらい変わったなって思う。まあ、見た目は勿論だけど、気持ちがな。
年下の日吉にこんな風にされても、不思議に感じない。後輩のくせにふざけるななんて、ちっとも思わない。
「…宍戸さん。実は俺が一番見ていて欲しいんです」
「日吉…」
照れくさそうに微笑む日吉につられて、俺の頬も緩む。
「何だか宍戸さんがこの姿になってから、今まで我慢できたことが我慢できなくなりました」
「…我慢?」
日吉は何をそんなに我慢してたのだろう?
俺が首を傾げたら、日吉はますます照れくさそうに頬を染めた。
「ずっと、鳳みたいに宍戸さんに甘えてみたかったんです。でも、いつも限界まで自分に厳しい宍戸さんに、そんな恥ずかしい事はできないって思ってました」
…そんなに、俺は自分に厳しいか?まあ、口は悪いから後輩に怖がられてるとは思ってたけどな。長太郎は…まあ珍しいタイプだよな。
「でも、最近皆さんが宍戸さんに甘えてるのを見たら、俺だけ我慢してるのが馬鹿馬鹿しくて」
日吉の言葉に俺はまた不思議に思う。
「…みんなが俺を甘やかすだけで、俺は別に甘えられてないぞ?」
だって、食事の世話をしたり俺の手を引いて歩くのは、俺を心配しての事だろ?
俺の戸惑いに、日吉は困ったみたいに眉尻を下げた。
「皆さんこの状況にかこつけて、宍戸さんに甘えているだけですよ?今までは触れられる理由がなかったから近づけなかっただけで」
…そうなのか?俺がそんなに慕われてるとは思えないけどな。
日吉の思い違いだろう?
「宍戸さんが分からなくても別に構わないんです。俺はもう切っ掛けをもらえましたから」
日吉はそう言うと、俺にもう一歩近づいて優しく抱きしめる。
「…日吉」
跡部が強く抱きしめるような、そういう類の抱擁じゃないのはすぐに分かる。感覚としては親しい者同士のハグって感じ。
自分より大きな身体をした日吉が甘えてくる姿に、俺は素直に可愛いなって思う。
「仕方ねーな。もう少し見ていってやるよ」
そういってクスクス笑ったら、日吉は「嬉しいです」と甘えた声で言った。
こいつのこんな声を知ることになるなんて、思いもしなかったな。
猫耳に尻尾のふざけた姿も悪い事ばかりじゃないなって、少しだけ気分が楽になる。

「ああー!日吉何やってるんだよ!」
穏やかな空気に浸っていたら、切羽詰ったような大きな声が響き渡る。
ジョギングチームだった長太郎が帰ってきたみたいだ。スタンドの一番上に俺たちの姿を見つけて指差している。
まあ、こんな目立つ所で抱き合ってたら見つかって当然だ。
「あーあ。一番五月蝿いのが帰って来ましたよ」
苦虫を潰したような日吉の顔に、俺は思わず笑いが漏れてしまう。
だって、こんな子供らしい表情見たことなかったから。
物分りの良い長男が、甘えん坊な弟の出現に渋々お母さんの胸を譲る感じ、とでも言えばいいだろうか?
だから俺は、面白くなさそうな顔をする日吉の頭を撫でて言ってやった。
「お前も長太郎も同じだけ可愛い後輩だぜ?どんどん甘えろよ」
すると日吉は、それなら…と言って俺の手を繋ぐ。
「鳳が乗り込んでくるまでの間こうしてて下さい」
息を切らして階段を駆け上ってくる長太郎を見下ろして、日吉は悪戯な瞳でそう耳打ちした。



3打記念「猫宍シリーズ・続編]の始まりです。
「猫宍奇想曲」の次が「猫宍夜想曲」…。センスが無い上に、分かり辛くて面目ない。
  
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