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間に合わなかったー!!(泣)
2日遅れで、不二誕生日おめでとうSSです。

女体以外の塚不二は超久々。

モネからのプレゼント(塚×不二)

「手塚帰ってきてるって!知ってた!?」
相変わらずの元気な声は、興奮のあまり名乗るのも忘れて、留守電にはその一言だけが残されていた。
「変わらないなァ、英二は」
社会人になって、気づけば連絡が途絶えてからもう随分になる。けれど、そんな時の流れなど忘れてしまうくらい、英二の声はあの頃のままだった。

同級生のうち、高校を卒業してからも本格的にテニスを続けたのは手塚だけで、不二自身も、その他のメンバーも、テニスは趣味に留まった。後輩でも続けたのは越前と海堂だけで、現在第一線で活躍しているのは越前一人だ。手塚も海堂も、怪我に苦しみ引退を余儀なくされた。その後海堂は越前のサポート一切合財を受け持ち、一緒に海外を飛び回っている。結局最後まで左肘に悩まされた手塚は、恩師に請われてコーチとしてアメリカに残った。
「手塚、か」
少し埃の積もったデスクの端を撫でる。
学生時代に別れそれぞれの道に進んでからも、暫くその場所にあった手塚の写真は、もう無い。
あの最後の別れから、もう10年になる。

***

振り返れば、本当に追いかけてばかりの関係だった。
迷いもせず己の信じる道を進む手塚を、不二は年頃の不安定さの中必至に追いかけ続けていた。
だから、手塚が高校卒業を待たずプロに転身し海外へ飛び立つ直前、お祝いのパーティのさ中、不二は皆と喜びつつも、本音では酷くうろたえていた。
今思えば、全員揃ったのは最後になった懐かしの河村寿司を出て、不二は帰宅途中の公園で手塚の袖を引いた。
仲間がそれぞれの方向へ別れ、手塚ともこの公園を過ぎたらさよならすることになってしまう、そんなギリギリまで聞くことが出来ずにいた一言を、不二は口にした。
「手塚。手塚はアメリカ行くでしょう?僕はこっちで大学通うし。これから僕たちは…?」
小さく消える語尾に、手塚はとても不思議そうな表情で振り向いた。
「どういう事だ?」
「どういうって…。僕たちの関係さ」
「関係…?」
少し上気したような手塚の頬は、特別のお許しで口にしたアルコールのせいばかりでは無かっただろう。大きな夢に向かって第一歩を踏み出す、そしてそれを仲間全員が祝ってくれた、そんな喜びと興奮のためでもあっただろう。
「僕たちは、もうこうやって会えない?電話はしても平気?」
「…」
約束が欲しかった。
大好きで、いつでも追いかけていた手塚と、もうこうして会えなくなる。もちろん帰国したときはまたこうして皆で集まるだろう。けれどそれは仲間の一人としてだ。
不二は、恋人としての約束が欲しかった。
「手塚?」
何も言わず、ただまっすぐ見つめる手塚に、不二は一歩近づく。
その両手で縋るように手塚の腕を掴めば、手塚はほんの少し、いつもより感情的な声で言った。
「不二は、俺がプロになるのを喜んでくれないのか?」
「そんな」
違う、と首を振る。
「不二が一番喜んで、送り出してくれると思っていたのだが」
「喜んでるよ!」
「それなら、良かった」
気まずい雰囲気に言葉が無くなる。
手塚は不二の意図が読めず、不二は手塚の気持ちが悲しくなる程良く分かった。
だから、無理に微笑んだ。
「手塚。月並みな言葉だけど、頑張って。僕たちの自慢の部長なんだから、世界のトップだって夢じゃないよ」
「ああ、勿論。やるからには目指すさ、頂点をな」
そう頷いた手塚の目は、今まで見た中で一番輝いていた気がする。
だから、不二もいつものように微笑んだ。
「応援してる」
それは、仲間としての言葉だった。

あれから、何度思い返しただろうか。
たった一度だけ強請った、触れるだけのキスや、そっと繋いだ掌の温かさを。

手塚の旅立ちの日、不二は見送りに行かなかった。

***

Prrrr…。
不意に、目の前の電話が不二を現実へと引き戻す。
肩に掛けたままだった仕事道具を下ろすと、ディスプレイを確認した。
「母さんか」
過保護な母は、3日に1回は電話を寄こす。
大学を出て独り暮らしを初めてから欠かすことのないその連絡に、今では自然と感謝することができる。煩いな…などと、愚痴る年齢すらもう通り過ぎたのだ。
それでも、今日ばかりはごめんなさいと心の中で頭を下げる。
ようやく「いい思い出」と思えるようになった手塚の存在が、英二の電話を切っ掛けに、自分の心を占めようとしているのだ。いつも通りに会話をできる自信がなかった。
心配症な母の事だ。少しでも様子がおかしいとなれば、飛んでくるかもしれない。
何度目かの呼び出し音の後、留守電のアナウンスが流れ、母親の声が続く。
「周助まだ帰ってないの?毎日忙しそうね。ちゃんと食べなさいよ?あ、そう言えば手塚くんから手紙が届いてたわよ。顔見せがてら取りにいらっしゃいよ」

その言葉で、あっという間に、あの頃の自分に戻ってしまった。

***

その日のうちに受け取りに行った手紙の中には、1枚のチケットが入っていた。
印象派の絵画を一挙に集めた絵画展。
行こう行こうと思いつつも、忙しさにかまけて行き損ねていたものだった。
そしてチケットと一緒に、たった一言「2月29日待っている」とだけ書かれた便箋。
「時間も書かないで、開場からずっと待ってるつもり?しかも平日だし」
そんな事をボヤきつつも、不二は10時の開場に合わせて久し振りの上野駅に降り立った。
そして、思った以上の人出に驚きながらも、チケットに書かれた地図を思い出し歩き始める。
かなり年齢層の高い人波の中、あれだけの長身が歩いていたら目立つことは間違いない。それに、10年経った今でも、あの後姿を見間違えない自信はある。
「結局僕は、追いかけてばかりだ」
あんな無愛想な手紙など、無視したって良かったのだ。
連絡を取らなくなった不二に、何の確認もしようとしなかった手塚。
きっと手塚にとって自分は、その程度の価値だったのだろうと、必死に納得させたあの日々を思い出す。
「今更、何だっていうのさ」
それでも、足は真っ直ぐと美術館を目指す。
「わざわざ僕の誕生日だっていうのだって、分かっててやってるのか…」
ひょっとしたら偶然なのかもしれない。手塚は本当にそういうことに無頓着な人間だった。
「居なかったらすぐ帰ってやる」
期待し過ぎないように、そうやって自分の中に予防線を引く。
そう。不二は期待していた。
あんな一昔前の初恋を引きずって、こんなに胸をときめかせて足を運んでしまう位に。
「手塚から誘うなんて、初めてだしね」
出かける時はいつだって、不二から声を掛けていた。
「手塚、ちょっと迷惑そうだったな」
それでも買い物に付き合ってくれる事が、手塚の気持ちなのだろうと思い込んでいた。
あの頃を思い出し、ほんの少し微笑みながら美術館の敷地に入れば、立てられた看板が目に入る。
「これ…」
急に足を止めた不二を、後から来たカップルが不思議そうに追い越して行く。
「この絵」
宣伝のために張られたポスターに、特別な1枚が含まれていた。
子供の頃家族旅行で行った美術館で見た有名画家の絵。この絵を切っ掛けに、印象派に心奪われたのだ。
「そっか、この絵も日本に来てたんだ」
最近は絵を見ることから遠ざかっていたから、全く知らなかった。
不二が仕事に選んだ風景写真家だって、思えばここが起源なのかもしれない。
手塚はきっと、この絵の前で待っている。そんな予感がした。
そう言えば、一度だけ話したことがあるのだ。アメリカ旅行の話を。
不二は急ぎ足で入口を目指した。

大々的に宣伝をしていたのもあって、美術館はとても混雑している。しかも日本人好みの印象派となればこれぐらいの人出は当然だろう。
チケットと引き換えにもらったしおりを見れば、目指す絵は随分先のようだ。
「折角だし、ちゃんと見よう」
かなり多くの画家の絵が飾られている。折角来たのだから全て鑑賞して帰りたい。
「…」
不二は、努めて平静を保ち1枚ずつ眼で追うが。
(だめだ、全然集中できない)
ゆったりとしたスピードの中、本当に手塚が居るのか居ないのか。どういうつもりで呼び出したのか。
気になって、絵を愉しむどころではない。
(やっぱり先にあの絵に行こう)
不二は人混みから抜け出して、大好きな絵を目指した。

やっとの思いで絵の前に来ると、回りのざわめきが一気に遠ざかる。
その美しさに吸い込まれるように、他の何も耳に入らない。
決して大きくない絵から、光が溢れ出し、包みこまれるような錯覚にとらわれる。
そうだった、旅行先でこの絵を見た自分は、感動のままに手塚に感想を述べたのだ。
珍しく興奮した不二に手塚は驚いたような顔をしながらも、相槌を打ちながら最後まで話を聞いたのだった。

「お前があんなに興奮して話した絵がどんなに美しいのかと、向こうでわざわざ見に行ったんだ」
「…手塚」
後にそっと寄り添う気配。そして、低く落ち着いた声が耳に心地よく響く。
久しぶりに聞く、手塚の声だった。
テレビを通してでは無い、生の声。
子供の頃隣で聞いていたものより、大分大人びて感じる。
あんなに落ち着いて感じた手塚だって、所詮は高校生だったのだ。
あの頃、多少無感情に感じられた声が、深みを増して温かさを覚える。
「ただ我武者羅にテニスをして、けれど怪我で思い通りに行かなくて。鬱々としていた時お前の話を思い出した。気づいたら家を飛び出していた」
「手塚…」
振り向こうとする不二の肩を抑えて、手塚は続ける。
「この絵の前に立ったら、あの頃のお前を思い出して、気づいたら泣いていた。あそこはここみたいに混んでいなかったから、随分長い間見入っていたな」
「手塚!」
こんなに雄弁な手塚は見たことがない。急に不安を覚える。もしかしたら手塚じゃないのかもしれないと。
けれど手塚は、そんな不二をやはり振り向かせない。「このまま聞いてくれるか」と苦笑して、背後から一緒に絵を見つめる。
「最後に会った時のお前の言葉とか、連絡が途絶えた事とか、正直そんなに気にはしていなかったんだ。他のメンバーだって同じようなものだったからな。大会で優勝すればメッセージをもらうが、特別会おうとかいう話にはならなかった。本当にテニスだけの日々だった」
「うん」
「でもな、この絵を見たら、あの楽しかった日々が一気に蘇ってきたんだ。何で忘れていたのだろうかと、何で忘れることが出来たのだろうかと自分で自分が不思議でならなかった」
絵の前に立ち止まったままの二人に、回りがざわめき出す。
有名な絵の前に男性が二人。小柄な女性では視界が塞がれて何も見えないだろう。
けれど、ざわめきの理由はそれ以外にある。そろそろ誰かが、手塚の存在に気づいたのかもしれない。
「不二。お前が当たり前のように隣にいた日々を、俺は何で忘れてしまえたのだろうな。もうプロとしてはやっていけないと立ち止まった時、初めて一人の恐怖を感じた」
手塚はそっと、不二の手を取る。
不二の指先が、驚いたように震えた。
「少しでも早くお前の元に帰りたかった。でも情けない事に、俺にはその勇気がなかった」
不二の戸惑いを感じ、その手に力が込められる。
緊張のためか、手塚の手のひらは薄ら汗に濡れていた。
「でもやっと、この絵と一緒に帰って来られたんだ」
そう言うと、手塚はぎこちない動きで背中から抱き締めた。
その温かさに、不二の視界が次第に揺らめく。
「今更だが、俺を受け入れてもらえないだろうか?」
耳元で掠れる声に、不二の瞳からは一粒二粒と涙が転がり落ちる。
期待してここまで来たくせに、信じられなかった。
今まで追いかけるばかりだった手塚が、自分を抱き締めているなんて。
今すぐにでも振り向いて、抱きついてしまいたい。
けれど。
頬の滴をそっと拭ってから、不二は口を開いた。
「…返事は、また後で」
そんな鼻声の言葉に、手塚は焦って強く抱き締める。
「やはり、今更か?」
「違うよ。そうじゃない」
不二はクスっと小さく笑って、その腕の中で無理やり体を返した。

一瞬互いに、10年振りに間近で見る姿に目を奪われる。
手塚は、テレビで見るよりもずっと大きく感じる。
不二は、あの頃には無かった艶っぽさで色気が増した。

見つめあう中、先に我に帰ったのは不二だった。
「今は取りあえず、ここから出ようか?」
回りの人々は、もう気づいてしまっている。ここにいるのが、嘗て世界ランキング1位に上り詰めた、手塚国光だということを。
不二は手塚の手を引いて駈け出した。

美術館を出て公園の敷地へと駆け出すが、途中で気づいた何人かの女性が二人の後を追いかけてくる。
「もう!自分がどれだけ注目されてるか気づいてない所は相変わらずだよね!」
先を走りながら不二が振り返れば、手塚は「すまん」と小さく笑った。
「笑い事じゃない!」
最近運動してないんだよね、と上がる息に不二が零せば、手塚はその手を取り引っ張るようにスピードを上げた。
「ちょ、ちょっと!」
「こっちだ」
焦る不二を無視して、手塚は細い横道に入る。
そして太い幹の後に姿を隠せば、その脇を姦しい女性グループが走り過ぎて行く。

「…あー、疲れた」
ようやく過ぎ去った嵐に、不二は大きく息をつく。
「済まなかったな」
「本当だよ、全く!ちょっとは自覚して変装するとかさ、」
そう言って睨みつけるように見上げれば、穏やかな視線の手塚と目が合う。
逃げるのに必死で、久し振りの再会なんてことは忘れてしまっていた。
昔のように会話する不二に、手塚は嬉しそうに、そして安心したように微笑む。
「逢いたかった」
「…僕だって」
「さっきの返事聞かせてもらえるか?」
「…」
「不二?」
手塚は、不貞腐れたように唇を尖らす不二を強く抱き寄せる。
「…すごく、辛かったのに」
「悪かった」
「やっと忘れられると思ったんだ」
「そうか、忘れられる前に戻って来られてよかった」
「僕のファーストキスだって、無かったことにして、アメリカ行ったくせに」
「本当に悪かった」
「…もう、あんな風に置いていかないで」
「ああ、二度と」
「…っ、」
泣き崩れる体を、手塚は強く抱きとめる。そして、その柔らかい髪に頬を埋めた。
「不二、お前が好きだ。それと、」
誕生日おめでとう。
囁かれる祝福の言葉。
今までで一番、幸せな誕生日だった。

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ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
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