忍者ブログ
★初めてお越しの方は、お手数ですが「はじめに」を必ずお読みください。★
[172]  [171]  [170]  [169]  [168]  [167]  [166]  [165]  [164]  [163]  [162
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ようやく猫宍シリーズ。
立海と絡めてみました。

いまさらバレンタインで済みません。


トラブル・バレンタイン(跡×宍)
~猫宍シリーズ23~

「あ…」
「あ」
某デパートの催事場で、俺たちは呆然と見つめあって足を止めた。
「宍戸さん」
「…越前」
お互い少し気まずい表情なのは場所が場所だからだ。
今日は2月2週目の金曜日。活気溢れるこの場所は、バレンタインのチョコレート売り場だ。
「宍戸さん、跡部さんに?」
「まーな。越前は海堂にか?」
「そうっす」
越前が手にした籠の中には、チョコレート作りの材料が入っている。板状のチョコレート、小袋に入ったナッツやグラニュー糖。そして俺の持っている籠の中身も似たようなものだ。
今日は、跡部家の長男として何処ぞの屋敷に招待されている跡部に内緒で、少し遠出をし、バレンタインデーの買い出しにきたんだ。
できるだけ中性的な服装で、女性の中にいても変に浮かないように気を使って、さっさと買い物を済ませようと予定してたんだけど、いざ売り場に来てみるとやっぱり手作りがいいのかなァなんて。知識もないくせに、それなりに何とかなりそうな材料を籠に放り込んでいるところだった。
越前も、いつも以上に可愛らしく見える服装にニット帽をかぶり、大きな目を少し伏せて居心地悪そうに立ち尽くす。
相手が越前でなけりゃ、こんなところで買い物している言い訳をとっさに考えるところなんだけど、越前とはクリスマスイブにこの姿で一緒にテニスをし、なにより跡部との仲を知られている相手だ。何も焦る必要は無い。ただ、少し照れくさいくらいで。
越前もきっと同じなんだろう。視線を外して恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻くけれど、すぐに俺の表情を窺うようにして小首を傾げる。
「ねえ、宍戸さん。よかったら一緒に作らないスか?実は俺、作ったことなくって」
そりゃ、奇遇だ。
「俺も同じ事言おうと思ってた。作り方知らないし、一人じゃ心許なかったんだ。一緒にやるか」
買ったチョコレートじゃ何だか手抜きのような気がして手作りにしようと決めたけれど、急な思い付きだから先行きが不安だったのが、一気に解決された気分だ。
「じゃあ、買い物してウチに来ないスか?宍戸さんの所じゃ跡部さんがいるでしょ?」
そう。家で内緒で作ろうったって、跡部とは同じ屋根の下で暮らしているのだ。途中で帰って来られたら台無しだ。とは言え、口うるさい母親のいる実家で作るのは憂鬱だったから、場所の問題も同時に片付いて嬉しくなってしまう。
「すっげー助かる。正直場所がなくて困ってたんだ」
そう言って笑えば、越前も楽しそうに頷いた。
「じゃ、早速買い物済ませちゃいますか」
そして二人して、殺気立つ女性の群れを掻き分けて菓子作りの道具をゲットしようと覚悟を決める。
大きく息を吸い、第一歩を踏み出し…。
と、その時、誰かに肩を叩かれる。
おいおいおい何だよ。俺はやる気を削がれ、小さくため息をついて振り返る。
越前も同時に振り返っていた。
「何も道具まで買い揃える必要はない。俺の家に来れば全て揃っている」
「!?」
振り仰いだ長身に、俺は驚いて声も出ない。
「あ、あんた…柳、さん」
越前もぽかんと口を開けて、俺らを呼びとめた相手を見上げる。
「へえ、まさかと思ったけど、よくよく見れば確かに宍戸さんっすね」
「…切原」
そこには、立海大付属の柳と切原が立っていた。

「何で、こんな所いるんスか」
「それは何で東京にいるのかという事か、それとも何でチョコレート売り場にいるのかって事か?」
憮然とした越前の質問に柳は飄々と聞き返す。
「どっちもっスよ!」
「俺達は買い物に来ただけだぜ?」
不機嫌な越前に、切原は楽しそうに返事をする。
「わざわざ横浜からか?」
「あのね、宍戸さん。横浜から渋谷って近いっすよ?ちょっと気になる店もあったしね。まあ、まさかこんな楽しい場面に出くわすとは思わなかったスけどね」
「だからって、何もチョコ売場なんて」
俺がそう零せば、柳がフッと小さく笑った。
「越前があまりに挙動不審にチョコ売場に向かうから、少しからかってやろうと後を追ったんだ。まさか、こんな姿の宍戸に出くわすとは思わなかったけどな」
「…何で俺が宍戸だって分かった」
「だって越前が『宍戸さん』って言ってたじゃないっすか。まさかとは思ったけど、じっくり見れば分かりましたよ?」
「しかし、何でそんなに小さくなった?試合会場で見かけた時はもう少し大きかった気がするが?」
柳は別段驚くでもなく、自然に尋ねる。
「…たいがいの奴が俺の姿見ても大して驚かなかったけど、お前らほど平気そうな顔されたのは初めてだ」
「そうか?」
やはり飄々と柳は首を傾げる。

男が4人(俺と越前はどう見られているか分からないが)ぞろぞろとチョコレート売り場を歩くのは相当に異様な光景なのか、俺たちの目指す場所は自然と人が避けていく。
お陰様で買い物はスムーズだ。
「よし。これくらいで十分だろう」
柳は、俺たちから奪い取っていた籠に自分のセレクトで材料を放り込むと、さっさと会計の列に続く。
「初心者にはこれで十分だ。俺の家に移動して早速とりかかろう」
「ええ!?本気だったのか?」
柳の言葉に俺が驚けば、柳は不思議そうに言う。
「道具を買わなくていいってことは、道具のある場所へ行かねばならんだろう?越前の家にあるのか?」
「無いっす…」
「ほら。それに全く知識のないお前らだけじゃ、失敗するのが落ちだぞ」
「そりゃ、そうかもしんねーけど」
でも、柳の家ってきっと横浜だよな?今の時間からお邪魔してチョコ作ってじゃあ、さすがに日帰りは無理だろう。跡部には何も言ってきていないのに…。
「手作りチョコレートで、相手を驚かせたいんだろう?」
留めのセリフ。
確かに。そうなんだよ、偶には跡部を驚かせて、喜ばせてやりたいんだよ。
柳の言葉に俺は覚悟を決める。
横を見れば、越前も小さく頷く。
「分かった。宜しく頼む」
「任せてくれ。ウチには菓子作りの名人もいるしな」
「名人?」
柳が頷けば、切原が「ああっ!」と手を打った。
「丸井先輩っすね!」
「ああ。そうだ」
「じゃ、俺早速電話してみるっス!」
瞳を輝かせて切原はポケットから携帯を取り出し、止めようとする間もなく短縮ボタンを押していた。
「あー…、どうしよう。段々大ごとになってく」
こんな姿なのに、今度は立海にもバレちゃうのか…。
「宍戸さん、俺が言うのも何だけど心配いらないと思うっスよ」
「越前…」
うーん。確かにまあ、俺もそう思わなくもないが。
現に今、俺の肩には切原の腕が回っていて、えらくフレンドリーだ。
「ま、成るように成る、か」
諦めの溜息に、越前が苦笑した。

電車を乗り継いで辿り着いた柳の家は思ったよりは近かったが、やはり日帰りは無理そうな距離だった。そして何より、柳自身が俺らを泊める気満々なんだ。
想像していたような日本家屋ではなかったが(柳ってすげえ着物とか似合いそうだし…)、それでも立派な家は、表の門から玄関までかなりの距離を歩き、そして玄関先では奇麗な女性が出迎えてくれた。母親とお姉さんだって。
「今日は皆留守にしてしまうから蓮二さんを一人残すのは不安だったのよ」
と、柳とよく似た涼しげな瞳の二人は嬉しそうに俺達の手を取った。
取りあえず、女とは間違えられてないようだ。女だったら、子供だけの家になんて泊めさせないもんな。
「俺はもう子供じゃないですよ。でも、皆が泊まりに来てくれたから俺も寂しい思いをしなくて済みます。ゆっくり楽しんできて下さい」
そう言って、母親と姉を安心させるように微笑む柳を、切原を含め俺達は胡散臭げな視線で見つめる。
「…」
だって、なあ?「寂しい」って柄じゃあ無いだろう?
それでも安心したような家族は、俺達を残して出かけてしまった。

「まあ、そういう訳だ。思う存分チョコレート作りができるぞ」
「…はあ」
なんだか勢いに押されて、俺と越前はコクコクと頷くだけだ。
「参謀なんて呼ばれてクールにデータ解析してそうだけど、意外と周りの空気読まないで突き進む所は乾先輩そっくりっス」
越前が小さく言う。
うーん。乾は本気で空気読めなそうだけど、こいつは分かってて楽しんでる風だけどな。
どこからかエプロンを引っ張り出して吟味する柳の背中は、何だかとても楽しそうだった。

「ういーっす!お待たせ」
先ほど案内された玄関の方から、賑やかな足音と声が近付いてくる。
「あ、丸井先輩が来ましたよ!」
柳と一緒になって俺達に着させるエプロンを選んでいた切原が、勢いよく立ち上がる。
けれど、どうも近づいてくる足音は丸井一人の物にしては少々賑やか過ぎる気がする。
「…越前」
「…まさか」
隣の越前の顔には、すっごく嫌な予感がすると書いてある。きっと、俺も同じような表情してるんだろうな。
「よ!チョコ作るんだって?俺の天才的な技見せちゃうぜ!材料だって持ってきたからな。ジャッカルが」
「お前も少しは持てよ!」
上機嫌の丸井の後から、両手に買い物袋を提げたジャッカルが現れる。
「中々、興味深いメンバーですね」
その後からはトレードマークの眼鏡を光らせた柳生が現れ、
「ふーん。面白そうな顔ぶれじゃ」
最後にはかったるそうな仁王まで顔を覗かせる。
「…うん、まあ予想はしてたけどね」
越前の頬が軽く引き攣っている。
「ま、な。やけに柳が楽しそうだとは思ったんだけどさ、とりあえず…」
…だれか一人くらい、俺の存在に突っ込み入れねえのかよ。
王者立海は、俺一人がデカくなろうが小さくなろうが、些細な問題に過ぎないらしい。

「ほれ、これを着んしゃい」
「…」
頭突き合わせた円陣の中から振り返った仁王。その手は、2種類のエプロンを掴んでいた。
「これも揃いだぞい!」
丸井も楽しそうに小さな布きれを渡す。
「ねえ、別にそんなちゃんとしなくたって…」
1枚はひらひらレースのエプロンと三角巾。もう一種類は赤と白のギンガムチェックのエプロンと三角巾のセットだ。
「いや。食べ物を扱う者として、最低限の整えはしなければ。大切な人へのプレゼントならば当然だろう?」
「良く言うよ!楽しんでるだけのくせに!」
俺と越前の気持ちを代弁したように切原が言えば、柳は薄ら寒い笑みを浮かべて、無視を決め込む。
「さあ、始めよう」
「…ああ」
もう今更だしな。俺は渡されたレースのエプロンを身につける。紐を背中で結ぼうとすると、後で見守っていた柳生が手を貸してくれた。
「ああ、私が結びましょう。見えないとやり難いでしょう」
「さすが、紳士」
思わず呟いたら、柳生はクスリと笑った。
「女性、子供には優しくするものです」
「…女性でも子供でもないけどな」
「まあまあ、気に為さらず」
気にするよ。こいつと柳は、立海の中でも常識人だと思ってたんだけどな。なかなかやっぱり、立海は侮れない。ウチも、青学も相当だけど。
紐を結わいて貰いながら越前を伺えば、同じようにメンバーに遊ばれている。
「おっ、可愛いんじゃねーの!?」
風船ガムを膨らませながら、丸井が楽しそうに眼を輝かせる。
「ほらよ!三角巾も付けてやるよ!」
「自分でやるって!」
ちゃちゃを入れるように手を伸ばす切原を、越前は鬱陶しそうに押しのけた。
そうだよな。三角巾なんて小学校の家庭科の授業以来じゃねーかな?別に女性のモノだって決まってる訳じゃないけど、何だか照れくさいよな。三角巾なんて。
三角巾…。
三角巾!?
「っやば!」
俺は慌ててかぶったままのニット帽を抑えた。
流石に耳はマズイって!
でも、エプロンを結び終えた柳生は、躊躇もせずに俺の頭に手を伸ばす。
「人のお宅にお邪魔する時は、帽子を脱ぐのが最低限の礼儀ですよ。ほら、三角巾もつけますし」
「いや、待て!ちょっと事情が」
「何を言ってるんです、事情も何もないでしょう?」
「…わっ!」
そりゃあさ、この体格差に体力差じゃ敵わないよ。腕の長さも圧倒的に違うし。
柳生は俺の言葉なんか軽く無視して、あっさりと帽子を奪い取ってしまう。
「おや?」
「…プリっ」
「ほう?」
「おあ!?」
「…マジ?」
「…」
それぞれに言葉を発すると、皆して動きを止めてしまう。
「あーあ」
越前は天を仰いだ。
「いや、これは、あの…」
あー、何て言おう。
いっつもこういうときって跡部がいたから、何となく上手く纏めてくれてたんだよなぁ。
越前も困ったように顔を顰めるだけだ。
「そのー…」
皆の視線が痛くて、顔が上げられない。
「…これは、実に興味深い」
「…はい?」
柳生は、俺の帽子を足もとにパサリと落とした。
「どうして…」
「…柳生?」
そして俺の頭に手を伸ばすと、指先できゅっと耳を摘まんだ。
「痛いですか?」
「あ?いや、別に」
「感覚はあるのですか?」
「まあ、そりゃね。掴まれてるのは分かるぜ?」
「是非、調べたい」
「はいっ!?」
びっくりした!何を言い出すんだか。
そんな俺の顔をみて、柳が微笑む。
「柳生の家は開業医なんだ。原因が知りたいのは家系のせいだろうな」
へェ。まあ、医者を目指してるって感じの風貌だよな。
「ちなみに、俺も大いにその秘密が気になる」
「わ!」
柳生がつまんでいる耳とは反対の耳に、柳が手を伸ばす。
そうだ!こいつは乾と同類のデータ魔だった!
「ちょ、ちょっと!」
痛くはない。でも、二人がかりで触られて、ちょっとくすぐったい。
思わず首を竦める。
「ほれ、二人とも。宍戸が怯えとるじゃろ?」
間を割るように入って来たのは仁王だ。
「女性、子供、そんで動物には優しく。な?」
「俺は猫じゃねえ!!」

そんなこんなで、チョコレート作りに取り掛かれたのは、もう外が暗くなってからだった。
「ほら、ジャッカル!さっさとチョコレート刻めよ!」
「お前も見てねーでやれよ!」
「俺は総監督だぜ?」
実際地味に体力が必要なチョコレート刻みは、丸井の指示でジャッカルが延々とやらされている。
「悪ィな、ジャッカル」
確か苗字は「桑原」だった気がするが、みんなが呼ぶのに倣ってそう言えば、ジャッカルはその顔をへにゃ~っと緩める。
「気にするなよ宍戸。体力には自信があるんだ」
「あ、ありがと」
「…海堂先輩と同類だ」
会話を聞いていた越前が、面白そうにニヤリと口角を上げた。
猫好きの人って意外と多いのな。でも、人が変ったみたいに猫撫で声になられるのには、まだ慣れないな。
「お湯でチョコレートを溶かすんだろ?」
「そーみたいっすね」
切原は越前の隣でボールを覗き込む。そして、越前と一緒になって、柳が用意したお湯の中にジャッカルが刻んだチョコをざらざらと入れていく。
「わ、馬鹿!」
「え!?」
慌てて止めようとした丸井の手は数センチ間に合わず、ジャッカルの苦労は水の泡と化す。
「何!?何がいけないんスカ?丸井先輩」
「ばっかやろ!チョコは直接湯に入れるんじゃなくて、湯せんで溶かすんだよ!」
「ゆせん?」
「チョコ入れたボールをお湯で温めるんだよ!」
「…げ」
…ああ、それは流石に俺だって知ってたぜ。
切原と越前は、困ったような表情で顔を見合わせる。
「…先行きは長いな」
柳がふむふむって顔で、何やらノートに書き込んだ。
「…ってゆーか、俺の苦労って」
ジャッカルの呟きが、沸騰したやかんの音をバックに悲しく響く。
「もーお前ら、想像以上の料理音痴だな!?」
俺まで一括りかよ。まあ、確かに碌に包丁も握ったことないけどな。
「こんなんじゃ、テンパリングなんて作業到底無理だな」
「てんぱりんぐ…?」
それは俺も知らねーや。
「あーもういいや。じゃあ、なるたけ簡単なので行くぞい」
「よろしくお願いします…」
俺たちは揃って頭を下げた。

で。結局出来上がったのがトリュフってやつ。
ころころ丸めて、最後にココアとか砂糖とか塗しちゃうから、意外と粗が見えないんだ。形は相当バラバラだけどな。
何だか最後はみんなで泥んこ遊びみたいになってた。
大量に作って立海はみんなで食べるんだって、真面目な顔して小さなチョコを丸めてたのが、何だか可笑しな光景だった。こんな不格好なチョコ、真田や幸村が食べてる所は想像つかないけどなぁ。
「ほい、宍戸と越前は残りも丸めちゃえよ」
丸井はそう言って、最後の仕上げを俺たちに任せる。
「好きな人にあげるのでしょう?十分に練習しましたから、綺麗にできるのでは?」
柳生がそう言って俺の肩を叩いた。
「そう言えば、誰にあげるのか聞いてないのう」
…ぎくっ!
体が縮んで、猫耳生えて、あげく相手が跡部となったら。もう、どんだけ驚かせりゃ気が済むんだよ俺!って感じ…。
仁王が興味深げにニヤニヤと笑い俺達の顔を覗きこめば、ジャッカルが庇うように仁王の髪の毛を引っ張った。
「まあそう苛めるなって。子供と動物には優しく、だろ?」
「…プリっ」
俺が子供?と越前が口の中でボヤく。
いいじゃねーか。俺なんか動物だよ!

「そう言えば、そろそろお腹が空きませんか?」
「確かに」
柳生が掛け時計に目をやるのに釣られて、俺もそちらを振り仰ぐ。
「やっべ!」
時計の針は、もう夜の9時を示している。
「跡部に電話してねえ!」
「え?なぜ跡部?」
柳生の疑問に答えている暇はない。俺は慌てて自分のカバンを漁った。そう言えばここに来てから一回も着信を確認していなかったんだ。
「…大丈夫っすか?」
越前も不安そうに覗き込む。
「わァ…」
全然大丈夫じゃない。留守電は残ってないけど、着信の数がハンパねえ。
散々電話を寄こした後のメールには、たった一言。
『1時間待つ。連絡来なけりゃ警察に連絡する』
「げげ!」
ひょいと覗き込んだ切原が、驚いたような声を出すから、皆が何事かと寄ってくる。
切原と柳はデパートでの会話を聞いて、きっと誰が相手か察しが着いたのだろう。
普通の人が警察沙汰にするのと、跡部が警察沙汰にするのでは話が別だ。とんでもない騒ぎになりそうなのは予想がつく。
「ふむ。彼に騒がれたんじゃ大ごとだな。我が家が攻撃される前に、俺から連絡を入れよう」
柳はそう言って、俺の手から携帯を取り上げた。
「え、待てよ!」
俺の携帯で柳が電話したら、余計ややこしい話にならねえか?
「まあ、任せろ。お前たちは、そのチョコレートを早く包み終えた方がいいだろう」
「お、おう」
柳の言葉に、俺たちは早速ラッピングに取り掛かる。
だって、跡部だもんよ。どんな方法だろうが、即行で乗り込んでくる気がする。

案の定。
ジャスト30分で跡部がやって来た。
何でだかわからないけど、海堂も一緒だ。
俺は、海堂の顔色が若干悪いのなんて気にしないぞ!バラバラとヘリコプターの音が聞こえてたのなんか、きっと気のせいだ!そう言うことにさせてくれェ…。
「よう、宍戸が世話になったな」
呼び鈴も鳴らさずドカドカと上がりこんできた跡部は、開口一番そう言った。
「いや、なかなか有意義な時間を過ごさせてもらったよ」
そう言って微笑む柳。
二人の間に見えない糸がピーンと張って、火花が散った気がする。
柳が面白がっているのは明白だけど、跡部は本気で喧嘩腰だ。
柳のやつ、何て言って電話したんだよ~。
本当だったら、この緊迫した雰囲気をどうにかする為に、ここへ来た理由を言ってしまいたいんだけど、それじゃあ何の為にここまで来たんだか分らない。
「…宍戸。帰るぞ」
「あ、ああ」
引き寄せた手はいつもより乱暴で、そして首を撫でた体温はとても冷たかった。
きっと、すごく心配してくれたんだろうな。
俺は慌てて自分のカバンを手にし、もう片手に持っていた帽子は跡部に奪われる。
「ほら」
「ん」
跡部が丁寧に帽子をかぶらせてくれて、そのまますぐに玄関を目指す。
「…え、何で跡部?」
静まり返った中、ようやく丸井が声を発する。
跡部はチラリと振り返っただけで何も言わない。
「あ、あの、皆ありがとな」
手を引かれながら慌ててお礼を言えば、柳と切原は楽しそうに嗤って手を振った。
その後で、他のメンバーは何だ何だと囁き合っている。
俺たちの後に越前と海堂も続き、慌ただしく柳の家を後にした。



跡部ほとんど出てません。あんまりなんで、後日続編というか、おまけを書こうと思います。

 

PR
はじめに
ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
■当サイト文書の無断転載はご遠慮ください。
■当サイトはリンク・アンリンクフリーです。管理人PC音痴の為バナーのご用意はございませんので、貴方様に全てを委ねます(面目ない…)。        
   
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
通販申込
現在、通販は行っておりません。申し訳ございません

・その頬は桜色に染まる(跡宍)400円
・社会科準備室(跡宍)500円


※詳しい内容は「カテゴリー」の「発行物」からご確認ください。

◆通販フォームはこちら◆
拍手ボタン
カウンター
お世話様です!サーチ様
ブログ内検索
プロフィール
HN:
戸坂名きゆ実
性別:
女性
自己紹介:
私、戸坂名は大のパソコン音痴でございます。こ洒落た事が出来ない代わりに、ひたすら作品数を増やそうと精進する日々です。宜しくお付き合いください。
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.