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ジロー誕生日おめでとう!

ってことで、ジロ宍でも書こうと思ったんですがネタが浮かばず(去年も言ってたな、私…)
跡宍慈のほのぼのにしてみました。

ゴールデンウィークの出来事(跡宍慈)

「ぼくー?お名前は何て言うのかな?」
「ジロー!」
「そっか。じゃあ、何歳かな?」
「4歳だよ!もうひらがなだって読めるよ!」
「そっか、すごいね!」
某有名動物園の迷子センター。ゴールデンウィークともなれば日に50人前後の迷子がこのセンターのお世話になるという。
もう夏を感じさせる日差しを遮るテントの下、係員に抱っこされた子供たちは一様に不安そうな表情で涙を浮かべている。
そんな中、用意されたパイプ椅子にどっかと腰掛けるジロー少年は、まるでそんな様子はない。ちょうどいい休憩所があったとばかりに寛ぎ、小さなからだに掛けられたポシェットからポッキーの箱を取り出す。
「あーあ。チョコとけちゃった」
ぐんぐん上がる気温にこの人出だ。ジローが取り出した菓子は熱にさらされドロドロに蕩けている。
「ジローくん!お迎えが来るまで、おねえちゃんとお菓子食べようか!」
泣き出されてしまっては聞き出すことも聞き出せなくなる。係員は慌てて常備されている菓子で機嫌を取り始めた。
「おねーちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
まるで天使のような微笑みに、係員の頬が緩む。
金茶の巻き髪に、くりくりの瞳。にっこりと笑う口角はくいっと上がり、まるでアヒルのような愛らしさを見せる。
「むちゃくちゃ可愛いっすね」
つい先ほど、嵐のように泣き続けた女の子を、親許に返したばかりの男性アルバイトが、思わずジローの横で足を止める。
「そうでしょ!?天使みたいって、こういう子を言うのねェ」
ジローが出されたお菓子に齧り付く横で、係員が興奮したように言う。
「親御さんとはぐれちゃって不安でしょうに、お菓子のお礼をちゃんと言えるの!きっと素晴らしい教育をなさってるのね、ご両親は」
「そうですよね。不安とパニックで自分の名前を言えない子も多いのに、しっかりしてますよね。ところで、放送は?」
「あ、しまった!肝心の親御さんの名前聞いてないのよ!」
「…先輩~」
呆れるアルバイトに、「つい見とれちゃったのよ!」と言い訳しながら、係員はもう一度ジローと目線を合わせた。
「ジローくん?そろそろみんな心配してると思うから、お迎え来てもらおうね?お父さんかお母さんのお名前分かるかな?」
係員の問いかけにきょとんとした眼をしながら、ジローは首を傾げる。
「お父さんは『ひろし』でお母さんは『きょうこ』だよ。でもね、お父さんとお母さんは今日も仕事なの。だからお迎えこないの。うちね、クリーニング屋やってるの」
今度首を傾げるのは係員だ。
「そっか。じゃあ、今日はおじいちゃんと一緒かな?それともおばあちゃん!」
「おじいちゃんとおばあちゃんは遠くに住んでるの。夏休みに遊びに行くんだ!」
そんなジローの返事に、係員とアルバイトは顔を見合わせる。
では、だれに連れてきてもらったのだろうか?
「そっか。じゃあ、きょうはお兄ちゃんかお姉ちゃんと一緒かな?」
「お兄ちゃんは友達とプールなの。お姉ちゃんはいないよ。でもね、俺お兄ちゃんよりお姉ちゃんが欲しかったよ!お菓子いっぱいくれると思うから!」
おやおやおや?
いよいよ分からなくなってくる。
「そうなんだー。じゃあ、ジロー君は今日は誰と遊びに来たのかな?」
もう一度係員が尋ねると、ジローはとろんとした瞳で係員に答える。
「あのね、今日は、けーごとりょうちゃんと一緒なの。でもね、さっききりんさん見てた、らね…」
話途中のジローはゆっくりと瞼を閉じ、そのままごつんと長机に突っ伏した。
「え!?わわっ!」
「凄い音したっすよ!」
慌てて手を伸ばすが、泣き出すかと思われたジローは、すよすよと寝息を立てて眠りについている。
明らかに額を強打しているのに、物ともしない。
「…何か、タダ者じゃない感じっすね」
「そうね。器の違いを感じるわ」
周りでは、親から逸れて不安に涙する子供の泣き声が響いていた。

『迷子のご連絡を致します。4歳のジロー君を迷子センターで保護しております。ケイゴ様、リョウ様、迷子センターまでお越し下さい。繰り返します…』

「ジロー!」
園内アナウンスに真っ先に反応したのは宍戸だった。
「…あれだけ手離すなって言ったのに、ジローの奴」
跡部は苦々しい口調でそう言うが、安心したように溜息をついた。
「景吾!迷子センターってどこ!?」
跡部の袖口を掴んで揺さぶる宍戸に、跡部は苦笑する。そして落ち着かせるように背中に腕を回すと、ぽんぽんとあやす様に撫でてやった。
「そんな焦らなくたって平気だ。入口のすぐ隣にあったから行こう」
「おう!」
「あ、亮!手離すな!お前まで逸れてどうする」
「あ、そか」
人ごみを掻き分けもう一度跡部の隣に並んだ宍戸の瞳は、うっすら涙に濡れている。
「バカだな。泣く奴があるかよ」
跡部は思わず噴き出して、その目もとをハンカチで拭ってやった。
「だって!ジローがいなくなって、俺…」
「分かった分かった。今度は逸れないようにしような?」
「ああ」

「すみません。先ほどアナウンスいただいた『景吾』です。ジローを迎えに来ました」
そう言って、迷子センターの受付にやって来た跡部は頭を下げる。
「あ、どうも。って、え!?」
「ご迷惑をおかけしました」
並んだ宍戸もそう言って、ふかぶかと頭を下げる。
「え!?えーと、じゃあ、君が『リョウさん』?」
「はい」
「そ、そうですか。あっ!先輩!ジローくんのお迎え来ました!」
頭を下げる二人の姿に、慌てたようにアルバイトが係員を呼ぶ。
「ほーら、ジローくん良かったねェ?お迎え来ましたよ~」
眠りについたジローを抱きかかえながら係員がテントを抜け出すと。
「!?」
目の前には、蒼い瞳が印象的な少年と、長い黒髪が美しい、やはり少年が並んで立っている。
「こちら、『ケイゴさん』と『リョウさん』だそうです」
「!!」
絶句する係員。
まさか、迷子であるジローと年も変わらなそうな少年が迎えに来るとは思いもしなかったのだ。
驚きのあまり係員が固まっていると、腕の中のジローがもぞもぞと動き出した。
「ジロー!」
我慢できずに、宍戸が駆け寄る。
「…りょうちゃん!」
つい今まで眠たそうに眼を擦っていたジローが、宍戸の声に反応して顔を上げる。そして係員の腕から飛び降りた。
「あ、ジローくん!」
慌てる係員をよそに、ジローは難なく着地すると宍戸の胸に飛び込んだ。
そうは言っても体の大きさは殆ど変わらないので、大きく揺らいだ宍戸はひっくり返りそうになる。
そんな二人の体重をしっかりと支えたのは、やはり同じような体型の跡部だ。
そうなることを予想していたかのように、宍戸の後に回って抱きとめると、火がついたように泣きだしたジローと、釣られて泣き出した宍戸の頭を交互に撫でてやる。
「まったく、あれだけ手を離すなと言っただろ?」
優しい跡部の声に、ジローはぐすぐすとしゃくり上げる。
「ごめんなさい、けーご。ごめんなさい、りょうちゃん」
そう言って、また大きく泣き出したジローを、今度は宍戸が抱きしめて慰める。
「俺こそごめんな。今度はもっとぎゅって手繋ごうな?」
「…うん!」
そんな彼らを呆然と見つめる係員に、跡部はもう一度頭を下げた。
「本当にお世話になりました。これからははぐれないように気をつけます」
丁寧なお辞儀に、係員たちも慌てて頭を下げる。
そして、ようやく涙が止まった二人の背に手を添え、守るように歩きだした跡部に、係員は思わず声をかけた。
「けいごさん!」
「はい?」
振り返る跡部に、係員は真剣な眼で尋ねる。
「変なこと聞く様だけど、君、何歳?」
「4歳です」
「…そ、そうですか」
歩き出した3人を、係員たちは今度こそ静かに見送った。

「ねえ、物凄い子供がいたものね…」
「はい。ますますタダ者じゃないっすね。風格すら感じました」
「そうね…」

ゴールデンウィークのそんな出来事。



今朝のニュースで動物園の迷子センターを特集してたんで、つい(笑)。
これ、手塚でやっても良かったかなァ~なんて思ってもみたり。

 

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