忍者ブログ
★初めてお越しの方は、お手数ですが「はじめに」を必ずお読みください。★
[178]  [177]  [176]  [175]  [174]  [173]  [172]  [171]  [170]  [169]  [168
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

1日早いですが、海堂誕生日おめでとう!
ってことで、シリーズもの以外では久しぶりのリョ海です。


5月(リョ×海)

「いいのか。大事な時期だろう」
「良いも何も、こんな状態で何したって逆効果だし」
そんなの、誰より分かってるくせに。
そう言う様に、越前の瞳が微笑んだ。
「…ああ、そうだな」
右ひじを壊して断念したテニス人生。あの時の無茶を後悔はしていないし、それをしなければ反って、それこそ一生後悔しただろう。けれどやはり、越前に同じ轍を踏ませたくはなかった。
ゴールデンウィークも終わった頃、ふらりと帰国した越前にホッとしている自分がいる。
「この時期が一番良いっすね」
緑を感じるように大きく深呼吸した越前が、気持ちよさそうに言う。
「そうだな」
大して長くもなかった日本の生活で、じっとりとした夏の暑さが実は何より辛かったようだ。初めて一緒に戦ったあの夏には、おくびにも出していなかったが。冬生まれなのもあるのだろうか。

降り注ぐ日差しは、まだ暑いと感じるほどではない。
長袖のシャツ1枚で、通り過ぎる風が気持ち良いと思う程度だ。

「風薫る五月…ってね」
通りすがりに、住宅街の庭先から伸びた薔薇の花を撫る。
越前の指先に揺れた蔓薔薇は、小さなからだをはしゃぐ様に揺らした。
「お前がそんな言葉知ってるとはな」
「あ、先輩俺のこと見くびりすぎっすよ」
「そりゃ、悪かったな」
互いに、自然と頬が緩む。
「だって、あんたの季節だから」
「…あ?」
「あんたの名前。『薫』って、そういう意味でしょ?」
「そうだが…」
振り返った越前が、酷くまぶしいものでも見るように瞳を細めた。
「俺、あんたを迎えに来たんだ」
…何だって?
「そんな、驚いた顔しないでよ。俺はずっとこの日を待ってたんだ」
「越前?」
「あんたが、落ち着くのを待ってたんだ」
「落ち着く?」
「さすがの俺も、身を切るような思いでラケット手放したあんたを、すぐに連れて行くことは出来なかったよ」
断腸の思いでテニスを諦めてから、ようやく1年が過ぎようとしていた。
「でも、もう我慢の限界なんだ。あんたに、そばにいて欲しい」
「な、んで」
喉が張り付いたように、声が上手く出ない。
今まで一度だって、そんな事言ったこと無かったではないか。
結局は昔から、突っかかっていたのは自分の方で、いつだって越前はどこか別の先を追い続けていた。
こんなことを言われるような関係だったことは、一度だってない。
「一緒にアメリカに来て。俺の傍にいて」
「アメリカ?ってことはテニスのサポートか?」
それなら納得もいく。
「そうだね。先輩がラケットを手にしてくれたら、そんなに嬉しい事はないよ。あんたにはその姿が一番似合う」
「それは」
確かに最近、何も頑なに全てを捨てる必要はないと思えるようになってきていた。
プロの選手としてではなくても、テニスに関わる仕事はいくらでもある。
月刊プロテニスの井上さんからも、特別監修として来てくれないかと打診されていた所だ。
「でも俺は、どっちでも良いんだ。あんたがテニスをしようがしまいが」
「何だって?」
それでは、一体?
「傍にいて欲しい。それだけなんだ」
「…」
「意味、分かる?俺、プロポーズしに来たんだ」
「何を、ふざけ…」
「ふざけてない」
掠れる声を、越前は遮った。
「訳がわからねェ」
だって、おかしいじゃないか。
自分たちは、只の先輩後輩の仲だ。
勿論、プロになったのは越前と手塚部長と自分だけだったから、他のメンバーよりは顔を合わす機会が多かったかもしれない。
でも、それだけだ。
「訳なんて考えないでよ。傍に居たい。それだけなんだ」
歩み寄った越前の後から、似つかわしくない薔薇の香りが風に乗って来た。
頬に触れる指先が思ったより冷たくて、もう、あの頃の越前ではないのだと気づかされる。
見つめる瞳は、もしかしたら少し、自分よりも高いかもしれない。
でも、断られるなんて欠片も思っていないだろう生意気な目は、昔から頼りがいのある力強さだった。

何だか、それが俺の行く道なんだろうと、自然と思えた。

諦めでもなければ、自分の夢を越前の未来とダブらせた訳でもない。
ただ。そうか、ここが俺の居場所なのか、と。
ストンと、何かが落ち着いた。

「いいでしょ?」
「ああ」

途端に零れた笑みは、微笑みと言うにはあまりに不遜だったけれど。
喜びを抑えきれず俺の手を取る仕草が、ただ可愛い。

「誕生日おめでとう、先輩。最高の未来を約束するよ」

ああ、今日は自分の誕生日だったか、と。
抱き寄せられた腕の中で、ぼんやりと思う。

過ぎゆく風が、冷やかすように二人の髪を舞い上げた。

PR
はじめに
ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
■連絡事項などがありましたら拍手ボタンからお願い致します。
■当サイト文書の無断転載はご遠慮ください。
■当サイトはリンク・アンリンクフリーです。管理人PC音痴の為バナーのご用意はございませんので、貴方様に全てを委ねます(面目ない…)。        
   
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
通販申込
現在、通販は行っておりません。申し訳ございません

・その頬は桜色に染まる(跡宍)400円
・社会科準備室(跡宍)500円


※詳しい内容は「カテゴリー」の「発行物」からご確認ください。

◆通販フォームはこちら◆
拍手ボタン
カウンター
お世話様です!サーチ様
ブログ内検索
プロフィール
HN:
戸坂名きゆ実
性別:
女性
自己紹介:
私、戸坂名は大のパソコン音痴でございます。こ洒落た事が出来ない代わりに、ひたすら作品数を増やそうと精進する日々です。宜しくお付き合いください。
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.